第八十四話 袋小路
前回
岬守航と麗真魅琴は久々に高校時代の級友である久住双葉と旧交を温めた。
しかしその中で二人が双葉に抱いていた疑念は深まり、そしてそれは正しかった。
双葉は武装戦隊・狼ノ牙の内通者であった椿陽子と今でも密通しており、彼女から助けを求められるも、現場を皇國の新華族令嬢、別府幡黎子と牧辻野愛琉に抑えられてしまう。
東瀛丸を陽子から受け取った双葉はこの危機を乗り越えるべく、再び陽子と共闘する。
黒いスカートを靡かせて、銀髪の少女がふわりと宙を舞う。
牧辻野愛琉――「殺戮人形」と呼ばれた彼女は即座に標的を椿陽子に定めたようだ。
対する陽子は掌を野愛琉へ向け電撃を放つ。
しかし、確かに狙った筈の攻撃は野愛琉に向かって行かず四方八方に飛び散ってしまった。
野愛琉は既に自身の周囲に無数の短剣を展開しており、そちらに電撃が引き寄せられてしまったのだ。
一方で短剣の方も唯では済まなかったようで、悉くが熱で融けて歪な形となったり、千切れてしまったりしていた。
「能力自体の相性は五分、か……。」
「甘く見て貰っては困る。」
野愛琉は空を蹴り、物凄い速度で陽子に接近した。
対する陽子も持ち前の武術で応戦するも、縦横無尽に動き回る野愛琉の前に防戦一方となっていた。
何て速度だ……!――そう、野愛琉は単純に、陽子をもってしても対応し切れないほど動きが疾いのだ。
それに加え、である。
「ぐぁっ‼」
回避行動をとった陽子は宙空に置かれていた短剣に肩を自ら刺されに行ってしまった。
ただでさえ素早く読み辛い動きをする相手に、無数に鏤められた短剣にも注意を払いながら対処するのは至難の業だ。
「がッ⁉ 糞っ‼」
又一発、今度は脇に突き刺さる。
すかさず電撃を返すも、やはり宙空に短剣が置かれた状態では攻撃を散らされてしまい当たらない。
だがそれでも、短剣はどれもこれも使い物にならなくなったので陽子にとってもチャンスが訪れた。
これを逃さずに追撃の雷鳴を放つ陽子。
それまで無表情だった野愛琉は初めて顔に焦りを見せ、左肩を少し焦がしながら寸でのところで攻撃を躱した。
「ちょっと喰らっちゃった……。」
「躱せるのか、あの間で……!」
おそらく野愛琉は目で見て躱したのではなく、牧辻家の訓練によって長年培われた勘の賜物である。
戦闘一族の名は伊達ではなく、一筋縄ではいかないことをその身をもって証明して見せたわけだ。
野愛琉の腕は守護神為によってすぐに修復されていく。
陽子にとっては一撃で致命打を与えなければ意味がない。
一方、久住双葉と向き合う別府幡黎子――「悪魔人形」と呼ばれた女はレイピアの切っ先を双葉に向けたまま不気味なほど動かない。
「久方振りですね。婦人を刻むというのは……。」
黎子は青い眼をサディスティックに輝かせる。
そして軽々空を舞わせた剣捌きは戦闘に関して素人の双葉には明らかに躱せる代物ではない。
なら手は一つしかない。――双葉は速攻で勝負を着ける覚悟を決めた。
木の蔓が球体となって黎子の身体を包み込んだ。
これは嘗て六摂家当主の一角、公殿天子に対して繰り出した攻撃だ。
しかし今回はあっという間に破られてしまった。
それはレイピアの刺突で刻まれたというよりは、一か所から無数の罅が拡がって大破したといった様子だった。
「私のレイピアは術式神為によって作り出された代物。そしてその効果は唯何発も突いて切り刻むだけじゃない。」
得意気に語る黎子だったが、双葉の攻撃はまだ終わっていなかった。
千切れたかに見えた蔓が一斉に黎子の身体を縛り上げたのだ。
「あらあら……。」
「私の術式神為で生んだ蔓は棘を生やせる! この位置からなら心臓も狙えるから! 降参するなら今の内だよ!」
「成程……。」
早くも黎子は絶体絶命のピンチに陥り、双葉の勝ちは確定した、かに見えた。
しかし、黎子は不敵な笑みを浮かべている。
丁度その頃、陽子と野愛琉の攻防では相変わらず野愛琉の動きに翻弄された陽子が短剣による傷を受けていた。
それを見た黎子は口元を歪ませて双葉を嘲り見下ろす。
「では取引と行きましょう。」
黎子がそういった瞬間、陽子の負った傷が異常なほど裂け目を広げ始めた。
「ぐうぅっ‼ これはまさか別府幡の⁉」
「私の術式神為は自他を問わず術式神為によって負わせた傷を何処までも拡げることが出来る! 命に届くまでね! さあ、どうしますか?」
黎子に逆に脅され、双葉は慌てて黎子の縛りを解いた。
すると陽子の傷の広がりもぴたりと止まった。
陽子は双葉と背中合わせに着地した。
「双葉……。私は別に別府幡と相打ちでも良かったのに……。」
「でもそれじゃ、誰が陰斗君を助けるの?」
「それはそうだけど……でも、別府幡が術式を解除するとは限らなかったんだよ?」
対する新華族側も、黎子の隣に野愛琉が着地した。
「何だか失礼なことを言ってる。」
「そうですわね。私たち誇り高き新華族の戦士が約束を違えるとでも?」
野愛琉は短剣をジャグリングの様に弄び、黎子はレイピアを振り回している。
双葉と陽子のコンビ、黎子と野愛琉のコンビ。
両者には確かな実力差があるようだ。
牧辻野愛琉の術式神為は短剣を無数に自在に作り出し、そして操るというものである。
別府幡黎子の術式神為は先程彼女が述べたとおり、術式神為による傷なら彼女自身によるものに限定せず無限に拡げることが出来る。
ここに魅継東風美の探知能力を加え、隠れた敵にも野愛琉の短剣を襲わせ、黎子の能力でそして僅かな傷も致命傷に変える、というのが三羽烏の連携攻撃である。
六摂家にも認められた精鋭軍団に比べ、双葉と陽子は戦闘経験僅か一回の急増に近いコンビだ。
しかし、陽子にはもう一つの武器がある。
「別府幡黎子、中々騎士道精神に拘るらしいね。いや、レーコ=ボーマンと言った方がいいのかな?」
陽子の言葉に黎子の眉尻が上がった。
相変わらず口元には余裕の笑みを湛えているが、碧眼は微熱に揺れている。
そして金髪が秋風に舞った。
「よく……調べられているようですね……。」
黎子はレイピアを止め、同時に初めて口元からも完全に薄笑いが消えた。
両の眼は陽子を真っ直ぐに見据えている。
陽子が言い当てたのは別府幡家の成り立ちについての話である。
というのも、別府幡家の開祖は皇國臣民でもなければ 抑も日本人でもない。
別府幡黎子の高祖父、即ち父系の四代前はArnold Michael Liam Beaumannというアイルランドにルーツを持つドイツ系アメリカ人であり、第一次八月革命によってヤシマ人民民主主義共和国が成立した際に後の神皇、畔宮大智を匿った資産家であった。
その後、祖国へ帰った大智は見事国を奪い返し、神聖大日本皇國が成立するのだが、期しくもその頃の世界は丁度二つ目の世界大戦が終結を迎え、アメリカを中心とする連合国がドイツを中心とする枢軸国を打ち負かしていた。
黎子の高祖父はどうやらそれに伴い家族ともどもアメリカに留まり続けるのが難しくなったらしく、家族と共に皇國に亡命した。
神皇は彼らに多大な恩があったため、彼らを新華族「別府幡家」として取り立てた。
この時亡命したのは高祖父母以下三代であったので、黎子の祖先は祖父までは全くの欧米人であったのだ。
「アンタも大変だね。三羽烏の残り二人が夷人蔑視を隠さぬ様をどういう思いで見ているんだ?」
陽子はわざと挑発的に黎子に問い掛けた。
これで相手が怒って冷静さを欠けば戦いを優位に運べる。
現に公殿天子戦ではこの作戦が功を奏した部分もある。
しかし、黎子はこれを一笑に付した。
「安い挑発だこと。それに、的外れですわねえ。 抑も皇國に於いて夷人とは、皇民の他を指すのであって人種の問題ではないのです。」
ひゅん、とレイピアが空を切り翻る。
「まあ不快な出来事が全く無かったかと言われればそうではありませんがね。でも、好きなだけ恐れれば良いのではないですか? 『悪魔人形』とね!」
鋭い刺突が陽子を襲う。
鍛えられた陽子の目にも留まらぬ連続攻撃である。
しかもこの突き、掠り傷一つ付けば黎子の術式でそこから傷が拡がり致命的なダメージになる可能性も高い。
一方で「殺戮人形」こと牧辻野愛琉が双葉に向けて短剣を雨霰の様に飛ばす。
必死に躱す双葉だったが、二の腕と太腿に傷を負ってしまった。
そしてその瞬間をもう一人の敵は逃さない。
「そこっ!」
野愛琉の短剣で付けられた双葉の傷が拡がり始める。
双葉は両手で傷を抑える。
「無駄無駄‼ そんなことで止まりは……何⁉」
双葉の行動を嘲笑った黎子だったが、すぐに彼女の異変に気が付いた。
双葉は糸のように細い繊維で傷を縫って塞いでいたのだ。
通常、術式神為で突けられた傷は回復が遅い。
しかし、それでも守護神為の回復力は有効であり、また自然治癒しないわけでもない。
何が言いたいかというと、治癒を助ける術式神為の外科的な措置は非常に有効であり、傷の治りを早める。
そして、治ってしまった傷を拡げることは流石の黎子にもできない。
更にこの時、黎子は双葉に長く気を取られ過ぎていた。
「黎子!」
野愛琉の声で意を陽子に戻した時にはもう遅かった。
黎子は陽子にレイピアの先端を掴まれてしまっていた。
そして、放電。
「がアッッ⁉」
陽子の術式神為による通電は常人なら一瞬で昇天するものだが、そこは新華族の精鋭、即死には至らなかった。
野愛琉が咄嗟に黎子を蹴り飛ばしたうえで自らの短剣を鏤め、放電を散らせたのも功を奏した。
「はぁ……はぁ……助かりましたわ野愛琉さん……。」
「椿陽子の放電、翳められた感触から二・三秒も食らい続ければ意識を保てない。絶命まで十秒と掛からない筈。」
「要注意……ですね。でも私、今ので暫くは戦えそうにありません。」
「大丈夫。回復に専念。その間は私が保つ。」
一転、新華族令嬢側から双葉・陽子側に優位が移った。
野愛琉の戦術は初めと同じだが、置きの短剣で陽子に与えるダメージは黎子無しでは決定打とならず、更に素早い動きで翻弄しようにも時折双葉の蔓に捕まってしまい、思うように舞えない。
「鬱陶しい……。」
表情の乏しい野愛琉であるが、流石に焦りが隠し切れない。
一応、注意しなければならない陽子の放電は鏤められた無数の短剣で散らすことが出来ているので、追い詰められているというほどではない。
だが、野愛琉はほんの少し違和感を覚え始めていた。
思うように戦えない、動けないのは、時々蔓で縛られるのが鬱陶しいからだけの理由なのか。
否、そこには双葉の罠があった。
目に見える蔓が縛り付けて来るなら、それさえ引き千切れば拘束は解けるという思考の罠である。
「これは……繊維……?」
そう、双葉は少しずつ、野愛琉の周囲に目に見えない極めて細い繊維を張り巡らせ、彼女の体を徐々に絡めとっていたのだ。
気付いた時にはもう、野愛琉の速度は双葉の目に見える蔓に易々と首から下を丸々縛られてしまうほどに劣化していた。
野愛琉は焦って藻掻く。
今、陽子に電流を流されたら逃れる術は無い、即ち死ぬ。
黎子が気力を振り絞って野愛琉の方へ走るも、おそらく間に合わない。
先程の様に黎子が野愛琉を蹴り飛ばしても、陽子の放電は標的をある程度狙えるのだ。
それを散らす手段は野愛琉の方が持っている。
「アアアアアアッッ‼」
ここへ来て野愛琉は初めて大声で吼えた。
彼女の全身が光を放ち、鮮血と共に無数の短剣が蔓と繊維の拘束を突き破って飛び出した。
野愛琉は自傷覚悟で自身と繊維・蔓の隙間とも呼べない僅かな隙間に短剣を形成したのだ。
「はぁーっ……! はぁーっ……!」
黎子に続き野愛琉も大幅に消耗した。
しかし、黎子もある程度動けるようになって令嬢組は最大の危機を脱した。
脱したかに見えた。
だが、実は脱したどころか二人はこの瞬間、詰んだ。
長く使用していなかったが、久住双葉にはもう一つの能力があるのだ。
双葉の術式神為は平たく言えば植物を操る能力である。
そしてその植物の中には、様々な性質を持つものがある。
例えばその芳香を嗅げば、意識を現から遠ざけ昏倒させてしまうもの、等だ。
この能力は一度だけ、雲野研究所で雲野幽鷹によって神為を借りた際に使用して彼女を捕らえていた研究員たちを酩酊させて眠らせた。
今、双葉がその力を使う為に雲野兄妹から神為を借りる必要は無い。
そして、たとえ相手が強豪でも消耗した状態であれば十分に有効である。
「何……これ……?」
「眠……。」
別府幡黎子と牧辻野愛琉は双葉が工房の隙に咲かせていた花々の芳香で意識を失った。
二対二の戦いは久住双葉・椿陽子組に軍配が上がったのだ。
「陽子さん、大丈夫?」
双葉はすぐさま陽子の元へ駆け寄った。
陽子もまた芳香にやられたのか、膝を突いていた。
「はは、双葉。随分厄介な術式になったもんだ。味方につけておいて本当によかったよ……。」
陽子は力なく笑いながら親指を立てた。
事態を無事切り抜けたことが判って、双葉は心から安堵した。
この場で皇國から来た強敵達に二人纏めて殺されずに済んでよかったと、心の底からそう思った。
「そして、ありがとう双葉。手間が省けたよ。」
陽子は立ち上がりざまに双葉に礼を言い、伸びて寝そべっている黎子と野愛琉に目を遣った。
その視線と言葉の意味は少し間をおいて双葉も理解した。
「陽子さん、それは!」
思わず止めようとした双葉だったが、瞬間、閃光が奔る。
陽子の電撃が双葉を気絶させたのだ。
「二人もいれば親父も文句は無いだろう。苟且にもアンタを奴に差し出さなくて済む。また連絡するから、その時は助けて頂戴……。」
陽子はそう言い残し、別府幡黎子と牧辻野愛琉の体を担いで夜の街へと消えていった。
四人の神為使いが暴れただけあって、双葉はほどなく駆け付けた人間によって救急車を呼ばれ病院へ運ばれた。
⦿⦿⦿
四人の戦闘とほぼ時を同じくして、何処かの闇の中で一人の美女が水晶に浮かぶ像を覗いていた。
そこへ一人の少年の様な出で立ちの男が声を掛ける。
「相変わらずの覗き趣味かい、御媛様?」
「征一千君……。」
貴龍院皓雪と八社女征一千、神瀛帯熾天王の中の二人である。
貴龍院は感心した様に水晶の像に見惚れていた。
「道成寺……まさか彼にこれ程まで穢詛禁呪の適性があったとはね……。これは思わぬ掘り出し物ではないかしら?」
「僕自身驚いているよ。ま、それでも革命の結果は変わらなかったと思うけど、僕達の今の用を足すにはお釣りがくる。」
水晶に浮かんでいるのは八社女に穢詛禁呪を与えられて新たな力を得た首領Д ・道成寺太の姿である。
彼の放つ禍々しいどす黒いオーラはおそらく彼の地から遠く離れているであろう水晶の外側まで漏れ出さんが程の勢いだった。
「やはり民に見捨てられて支配していた国を失った男だから憎悪の器が違うのかもしれないね。」
「嬉しい誤算だわ。で、彼をぶつけるんでしょう?」
貴龍院は邪悪に微笑んで問い掛け、八社女もまた同じ表情を返す。
「僕達の計画はもう貴女と持国天が最後の仕上げを首尾良く事を運べばいいだけだからね。僕と推城は精々邪魔になりそうな勢力を積極的に排除していくよ。例えば奈落の禽獣最後の生き残りを使ったり、八咫烏の遣いを一人でも多く潰したりなんかして……。」
「結構な事ね。千年を超える悲願の成就ですもの、打てる手は打っておかないとね。」
「いや、ここまで来てみれば、たったこれだけのことに随分回り道をしたものだ。」
「最も重要なモノを生み出すことと、扱うことにそれだけ手間暇が掛かったのよ。」
二人が談笑していると、そこへ残りの二人も互い向かいから現れた。
「媛様、増長天様、楽しそうですな。」
「八社女、八咫烏の遣いの連中だが、やってしまうのならば私が潰してしまっても構わんのだろう?」
老翁、閏間三入と大男、推城朔馬。
共に神瀛帯熾天王を構成する残りの二名である。
「征一千君、貴方は道成寺を使って邪魔になりそうな連中を始末しなさい。朔馬君も征一千君を手伝ってあげて。三入君、貴方が一番重要なのだけど、そちらの首尾はどうかしら?」
貴龍院は八社女と推城に指示を出した後で閏間に尋ねた。
閏間は顔に刻まれた皺をさらに深くして、難しげな表情を浮かべている。
「正直に申しますと手古摺っております。何分、あの御方の頭脳が相手で御座います故……。」
「何も勝てとは言っていないのよ? 隙をついて、私達の目的に沿わせてくれればいいの。」
貴龍院は進捗報告に不平を述べた。
だが、閏間の様子を見るにそう簡単にいくものでもないらしい。
「このままでは間違いなく、即位には間に合わんでしょう。媛様の方で何か理由を付けて遅延させて頂ければありがたいのですが……。」
「具体的にどれくらいまで進んでいて、どれくらい遅らせればいいの?」
「それを割り出す時間があれば他に出来ることは沢山ある状態ですな。」
貴龍院は溜息を吐いた。
そんな彼女の憂いに容赦することなく、閏間はさらに続ける。
「魅継家の件は如何いたしますかな? そちらは手早く済むゆえ先に終わらせてしまいたいのですが……。」
「そんなものはさっさと片付けてしまいなさい。例の件に専念できるようにね。」
「畏まりました。直ちに。」
閏間は貴龍院に一礼すると、闇の中に姿を晦ました。
「全く……。」
「いやしかしだよ、御媛様。」
八社女が頭を抱える貴龍院に意見を述べる。
「あの件は彼にしかできないんだ。助けられないことそれは僕達の力不足でもある。」
「うむ、奴がいて初めてこの計画は具体的な絵を描けたことを忘れてはならんな。」
推城も珍しく八社女に同意した。
貴龍院は再び溜息を重ねた。
「わかっているわ。千年を超える時を待ったのだもの、今更何月何年の遅れなど気にすることではない。ただ、あの御方を如何にしてお導きするかが問題なのよ。」
八社女と推城は「成程。」といった面持ちで顔を見合わせた。
「まあその件は御媛様にしかできないことだからね。」
「うむ、これも我々の力不足だ。」
「では、僕らは塵掃除に精を出すことにするよ。」
「そうだな。大掃除の前の小さな整理だ。」
そう言い残すと八社女と推城も闇に消え、その場には貴龍院だけが一人佇んでいた。
「狼ノ牙だけではなく私達の夢も袋小路に陥ってはいないでしょうね……。」
貴龍院が手を翳すと、水晶玉もまた闇に消えた。
ただゴシック調の衣装に身を包んだ妖艶な女が一人、闇黒の虚空を見詰めている。
「永遊び、暁闇の、悩ましき。白河夜船の、夢の随に……。」
今、光も闇も双方皆が大掃除の必要に迫られていることだけは確かなようだ。
・別府幡 黎子
皇紀2666年(西暦2006年) 3月19日生
身長 174糎
三位寸法 胸92胴57腰90
血液型 A
次回更新は、10月27日㈬




