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第八十四話 袋小路

前回


 岬守(さきもり)(わたる)麗真(うるま)魅琴(みこと)は久々に高校時代の級友である久住(くずみ)双葉(ふたば)と旧交を温めた。

 しかしその中で二人が双葉(ふたば)に抱いていた疑念は深まり、そしてそれは正しかった。

 双葉(ふたば)武装戦隊(ぶそうせんたい)狼ノ牙(おおかみのきば)の内通者であった椿(つばき)陽子(ようこ)と今でも密通しており、彼女から助けを求められるも、現場を皇國(こうこく)の新華族令嬢、別府幡(びゅうまん)黎子(れいこ)牧辻(ひらつじ)野愛琉(のある)に抑えられてしまう。

 東瀛丸(とうえいがん)陽子(ようこ)から受け取った双葉(ふたば)はこの危機を乗り越えるべく、再び陽子(ようこ)と共闘する。

 黒いスカートを靡かせて、銀髪の少女がふわりと宙を舞う。

 牧辻(ひらつじ)野愛琉(のある)――「殺戮人形(マーダー・ドール)」と呼ばれた彼女は即座に標的を椿(つばき)陽子(ようこ)に定めたようだ。


 対する陽子(ようこ)は掌を野愛琉(のある)へ向け電撃を放つ。

 しかし、確かに狙った筈の攻撃は野愛琉(のある)に向かって行かず四方八方に飛び散ってしまった。

 野愛琉(のある)は既に自身の周囲に無数の短剣を展開しており、そちらに電撃が引き寄せられてしまったのだ。

 一方で短剣の方も唯では済まなかったようで、(ことごと)くが熱で融けて歪な形となったり、千切れてしまったりしていた。


「能力自体の相性は五分、か……。」

「甘く見て貰っては困る。」


 野愛琉(のある)は空を蹴り、物凄い速度で陽子(ようこ)に接近した。

 対する陽子(ようこ)も持ち前の武術で応戦するも、縦横無尽に動き回る野愛琉(のある)の前に防戦一方となっていた。


 何て速度だ……!――そう、野愛琉(のある)は単純に、陽子(ようこ)をもってしても対応し切れないほど動きが(はや)いのだ。

 それに加え、である。


「ぐぁっ‼」


 回避行動をとった陽子(ようこ)は宙空に置かれていた短剣に肩を()()()()()()()()()()()()()

 ただでさえ素早く読み辛い動きをする相手に、無数に(ちりば)められた短剣にも注意を払いながら対処するのは至難の業だ。


「がッ⁉ 糞っ‼」


 又一発、今度は脇に突き刺さる。

 すかさず電撃を返すも、やはり宙空に短剣が置かれた状態では攻撃を散らされてしまい当たらない。

 だがそれでも、短剣はどれもこれも使い物にならなくなったので陽子(ようこ)にとってもチャンスが訪れた。

 これを逃さずに追撃の雷鳴を放つ陽子(ようこ)

 それまで無表情だった野愛琉(のある)は初めて顔に焦りを見せ、左肩を少し焦がしながら寸でのところで攻撃を躱した。


「ちょっと喰らっちゃった……。」

「躱せるのか、あの間で……!」


 おそらく野愛琉(のある)は目で見て躱したのではなく、牧辻(ひらつじ)家の訓練によって長年培われた勘の賜物である。

 戦闘一族の名は伊達ではなく、一筋縄ではいかないことをその身をもって証明して見せたわけだ。


 野愛琉(のある)の腕は守護神為(しんい)によってすぐに修復されていく。

 陽子(ようこ)にとっては一撃で致命打を与えなければ意味がない。


 一方、久住(くずみ)双葉(ふたば)と向き合う別府幡(びゅうまん)黎子(れいこ)――「悪魔人形(デビル・ドール)」と呼ばれた女はレイピアの切っ先を双葉(ふたば)に向けたまま不気味なほど動かない。


「久方振りですね。婦人を刻むというのは……。」


 黎子(れいこ)は青い眼をサディスティックに輝かせる。

 そして軽々空を舞わせた剣捌きは戦闘に関して素人の双葉(ふたば)には明らかに躱せる代物ではない。


 なら手は一つしかない。――双葉(ふたば)は速攻で勝負を着ける覚悟を決めた。


 木の蔓が球体となって黎子(れいこ)の身体を包み込んだ。

 これは(かつ)て六摂家当主の一角、公殿(くでん)天子(あまこ)に対して繰り出した攻撃だ。


 しかし今回はあっという間に破られてしまった。

 それはレイピアの刺突で刻まれたというよりは、一か所から無数の(ひび)が拡がって大破したといった様子だった。


(わたくし)のレイピアは術式神為(しんい)によって作り出された代物。そしてその効果は唯何発も突いて切り刻むだけじゃない。」


 得意気に語る黎子(れいこ)だったが、双葉(ふたば)の攻撃はまだ終わっていなかった。

 千切れたかに見えた蔓が一斉に黎子(れいこ)の身体を縛り上げたのだ。


「あらあら……。」

(わたし)の術式神為(しんい)で生んだ蔓は棘を生やせる! この位置からなら心臓も狙えるから! 降参するなら今の内だよ!」

「成程……。」


 早くも黎子(れいこ)は絶体絶命のピンチに陥り、双葉(ふたば)の勝ちは確定した、かに見えた。

 しかし、黎子(れいこ)は不敵な笑みを浮かべている。


 丁度その頃、陽子(ようこ)野愛琉(のある)の攻防では相変わらず野愛琉(のある)の動きに翻弄された陽子(ようこ)が短剣による傷を受けていた。

 それを見た黎子(れいこ)は口元を歪ませて双葉(ふたば)を嘲り見下ろす。


「では取引と行きましょう。」


 黎子(れいこ)がそういった瞬間、陽子(ようこ)の負った傷が異常なほど裂け目を広げ始めた。


「ぐうぅっ‼ これはまさか別府幡(びゅうまん)の⁉」

(わたくし)の術式神為(しんい)は自他を問わず術式神為(しんい)によって負わせた傷を何処までも拡げることが出来る! 命に届くまでね! さあ、どうしますか?」


 黎子(れいこ)に逆に脅され、双葉(ふたば)は慌てて黎子(れいこ)の縛りを解いた。

 すると陽子(ようこ)の傷の広がりもぴたりと止まった。

 陽子(ようこ)双葉(ふたば)と背中合わせに着地した。


双葉(ふたば)……。(わたし)は別に別府幡(びゅうまん)と相打ちでも良かったのに……。」

「でもそれじゃ、誰が陰斗(かげと)君を助けるの?」

「それはそうだけど……でも、別府幡(びゅうまん)が術式を解除するとは限らなかったんだよ?」


 対する新華族側も、黎子(れいこ)の隣に野愛琉(のある)が着地した。


「何だか失礼なことを言ってる。」

「そうですわね。(わたくし)たち誇り高き新華族の戦士が約束を(たが)えるとでも?」


 野愛琉(のある)は短剣をジャグリングの様に弄び、黎子(れいこ)はレイピアを振り回している。


 双葉(ふたば)陽子(ようこ)のコンビ、黎子(れいこ)野愛琉(のある)のコンビ。

 両者には確かな実力差があるようだ。


 牧辻(ひらつじ)野愛琉(のある)の術式神為(しんい)は短剣を無数に自在に作り出し、そして操るというものである。

 別府幡(びゅうまん)黎子(れいこ)の術式神為(しんい)は先程彼女が述べたとおり、術式神為(しんい)による傷なら彼女自身によるものに限定せず無限に拡げることが出来る。

 ここに魅継(みつぎ)東風美(あゆみ)の探知能力を加え、隠れた敵にも野愛琉(のある)の短剣を襲わせ、黎子(れいこ)の能力でそして僅かな傷も致命傷に変える、というのが三羽烏の連携攻撃である。


 六摂家にも認められた精鋭軍団に比べ、双葉(ふたば)陽子(ようこ)は戦闘経験僅か一回の急増に近いコンビだ。


 しかし、陽子(ようこ)にはもう一つの武器がある。


別府幡(びゅうまん)黎子(れいこ)、中々騎士道精神に拘るらしいね。いや、レーコ=ボーマンと言った方がいいのかな?」


 陽子(ようこ)の言葉に黎子(れいこ)の眉尻が上がった。

 相変わらず口元には余裕の笑みを湛えているが、碧眼は微熱に揺れている。

 そして金髪が秋風に舞った。


「よく……調べられているようですね……。」


 黎子(れいこ)はレイピアを止め、同時に初めて口元からも完全に薄笑いが消えた。

 両の眼は陽子(ようこ)を真っ直ぐに見据えている。


 陽子(ようこ)が言い当てたのは別府幡(びゅうまん)家の成り立ちについての話である。

 というのも、別府幡(びゅうまん)家の開祖は皇國(こうこく)臣民でもなければ (そもそ)も日本人でもない。


 別府幡(びゅうまん)黎子(れいこ)の高祖父、即ち父系の四代前はArnold(アーノルド) Michael(マイケル) Liam(リアム) Beaumann(ボーマン)というアイルランドにルーツを持つドイツ系アメリカ人であり、第一次八月革命によってヤシマ人民民主主義共和国が成立した際に後の神皇(じんのう)畔宮(ほとりのみや)大智(ひろとも)を匿った資産家であった。

 その後、祖国へ帰った大智(ひろとも)は見事国を奪い返し、神聖(しんせい)大日本(だいにっぽん)皇國(こうこく)が成立するのだが、期しくもその頃の世界は丁度二つ目の世界大戦が終結を迎え、アメリカを中心とする連合国がドイツを中心とする枢軸国を打ち負かしていた。

 黎子(れいこ)の高祖父はどうやらそれに伴い()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしく、家族と共に皇國(こうこく)()()()()

 神皇(じんのう)は彼らに多大な恩があったため、彼らを新華族「別府幡(びゅうまん)家」として取り立てた。

 この時亡命したのは高祖父母以下三代であったので、黎子(れいこ)の祖先は祖父までは全くの欧米人であったのだ。


「アンタも大変だね。三羽烏の残り二人が夷人(いじん)蔑視を隠さぬ様をどういう思いで見ているんだ?」


 陽子(ようこ)はわざと挑発的に黎子(れいこ)に問い掛けた。

 これで相手が怒って冷静さを欠けば戦いを優位に運べる。

 現に公殿(くでん)天子(あまこ)戦ではこの作戦が功を奏した部分もある。


 しかし、黎子(れいこ)はこれを一笑に付した。


「安い挑発だこと。それに、的外れですわねえ。 (そもそ)皇國(こうこく)に於いて夷人(いじん)とは、皇民の他を指すのであって人種の問題ではないのです。」


 ひゅん、とレイピアが空を切り翻る。


「まあ()()()()()()が全く無かったかと言われればそうではありませんがね。でも、好きなだけ恐れれば良いのではないですか? 『悪魔人形(デビル・ドール)』とね!」


 鋭い刺突が陽子(ようこ)を襲う。

 鍛えられた陽子(ようこ)の目にも留まらぬ連続攻撃である。

 しかもこの突き、掠り傷一つ付けば黎子(れいこ)の術式でそこから傷が拡がり致命的なダメージになる可能性も高い。


 一方で「殺戮人形(マーダー・ドール)」こと牧辻(ひらつじ)野愛琉(のある)双葉(ふたば)に向けて短剣を雨(あられ)の様に飛ばす。

 必死に躱す双葉(ふたば)だったが、二の腕と太腿に傷を負ってしまった。


 そしてその瞬間をもう一人の敵は逃さない。


「そこっ!」


 野愛琉(のある)の短剣で付けられた双葉(ふたば)の傷が拡がり始める。

 双葉(ふたば)は両手で傷を抑える。


「無駄無駄‼ そんなことで止まりは……何⁉」


 双葉(ふたば)の行動を嘲笑った黎子(れいこ)だったが、すぐに彼女の異変に気が付いた。

 双葉(ふたば)は糸のように細い繊維で傷を縫って塞いでいたのだ。


 通常、術式神為(しんい)で突けられた傷は回復が遅い。

 しかし、それでも守護神為(しんい)の回復力は有効であり、また自然治癒しないわけでもない。

 何が言いたいかというと、治癒を助ける術式神為(しんい)の外科的な措置は非常に有効であり、傷の治りを早める。

 そして、治ってしまった傷を拡げることは流石の黎子(れいこ)にもできない。


 更にこの時、黎子(れいこ)双葉(ふたば)に長く気を取られ過ぎていた。


黎子(れいこ)!」


 野愛琉(のある)の声で意を陽子(ようこ)に戻した時にはもう遅かった。

 黎子(れいこ)陽子(ようこ)にレイピアの先端を掴まれてしまっていた。

 そして、放電。


「がアッッ⁉」


 陽子(ようこ)の術式神為(しんい)による通電は常人なら一瞬で昇天するものだが、そこは新華族の精鋭、即死には至らなかった。

 野愛琉(のある)が咄嗟に黎子(れいこ)を蹴り飛ばしたうえで自らの短剣を(ちりば)め、放電を散らせたのも功を奏した。


「はぁ……はぁ……助かりましたわ野愛琉(のある)さん……。」

椿(つばき)陽子(ようこ)の放電、翳められた感触から二・三秒も食らい続ければ意識を保てない。絶命まで十秒と掛からない筈。」

「要注意……ですね。でも(わたくし)、今ので暫くは戦えそうにありません。」

「大丈夫。回復に専念。その間は(わたし)が保つ。」


 一転、新華族令嬢側から双葉(ふたば)陽子(ようこ)側に優位が移った。

 野愛琉(のある)の戦術は初めと同じだが、置きの短剣で陽子(ようこ)に与えるダメージは黎子(れいこ)無しでは決定打とならず、更に素早い動きで翻弄しようにも時折双葉(ふたば)の蔓に捕まってしまい、思うように舞えない。


「鬱陶しい……。」


 表情の乏しい野愛琉(のある)であるが、流石に焦りが隠し切れない。

 一応、注意しなければならない陽子(ようこ)の放電は(ちりば)められた無数の短剣で散らすことが出来ているので、追い詰められているというほどではない。


 だが、野愛琉(のある)はほんの少し違和感を覚え始めていた。

 思うように戦えない、動けないのは、時々蔓で縛られるのが鬱陶しいからだけの理由なのか。


 否、そこには双葉(ふたば)の罠があった。

 目に見える蔓が縛り付けて来るなら、それさえ引き千切れば拘束は解けるという思考の罠である。


「これは……繊維……?」


 そう、双葉(ふたば)は少しずつ、野愛琉(のある)の周囲に目に見えない極めて細い繊維を張り巡らせ、彼女の体を徐々に絡めとっていたのだ。

 気付いた時にはもう、野愛琉(のある)の速度は双葉(ふたば)の目に見える蔓に易々と首から下を丸々縛られてしまうほどに劣化していた。


 野愛琉(のある)は焦って藻掻く。

 今、陽子(ようこ)に電流を流されたら逃れる術は無い、即ち死ぬ。

 黎子(れいこ)が気力を振り絞って野愛琉(のある)の方へ走るも、おそらく間に合わない。

 先程の様に黎子(れいこ)野愛琉(のある)を蹴り飛ばしても、陽子(ようこ)の放電は標的をある程度狙えるのだ。

 それを散らす手段は野愛琉(のある)の方が持っている。


「アアアアアアッッ‼」


 ここへ来て野愛琉(のある)は初めて大声で吼えた。

 彼女の全身が光を放ち、鮮血と共に無数の短剣が蔓と繊維の拘束を突き破って飛び出した。

 野愛琉(のある)は自傷覚悟で自身と繊維・蔓の隙間とも呼べない僅かな隙間に短剣を形成したのだ。


「はぁーっ……! はぁーっ……!」


 黎子(れいこ)に続き野愛琉(のある)も大幅に消耗した。

 しかし、黎子(れいこ)もある程度動けるようになって令嬢組は最大の危機を脱した。


 脱したかに見えた。

 だが、実は脱したどころか二人はこの瞬間、詰んだ。

 長く使用していなかったが、久住(くずみ)双葉(ふたば)にはもう一つの能力があるのだ。


 双葉(ふたば)の術式神為(しんい)は平たく言えば植物を操る能力である。

 そしてその植物の中には、様々な性質を持つものがある。


 例えばその芳香を嗅げば、意識を現から遠ざけ昏倒させてしまうもの、等だ。

 この能力は一度だけ、雲野(くもの)研究所で雲野(くもの)幽鷹(ゆたか)によって神為(しんい)を借りた際に使用して彼女を捕らえていた研究員たちを酩酊させて眠らせた。


 今、双葉(ふたば)がその力を使う為に雲野(くもの)兄妹から神為(しんい)を借りる必要は無い。

 そして、たとえ相手が強豪でも消耗した状態であれば十分に有効である。


「何……これ……?」

(ねむ)……。」


 別府幡(びゅうまん)黎子(れいこ)牧辻(ひらつじ)野愛琉(のある)双葉(ふたば)が工房の隙に咲かせていた花々の芳香で意識を失った。

 二対二の戦いは久住(くずみ)双葉(ふたば)椿(つばき)陽子(ようこ)組に軍配が上がったのだ。


陽子(ようこ)さん、大丈夫?」


 双葉(ふたば)はすぐさま陽子(ようこ)の元へ駆け寄った。

 陽子(ようこ)もまた芳香にやられたのか、膝を突いていた。


「はは、双葉(ふたば)。随分厄介な術式になったもんだ。味方につけておいて本当によかったよ……。」


 陽子(ようこ)は力なく笑いながら親指を立てた。

 事態を無事切り抜けたことが判って、双葉(ふたば)は心から安堵した。

 この場で皇國(こうこく)から来た強敵達に二人纏めて殺されずに済んでよかったと、心の底からそう思った。


「そして、ありがとう双葉(ふたば)。手間が省けたよ。」


 陽子(ようこ)は立ち上がりざまに双葉(ふたば)に礼を言い、伸びて寝そべっている黎子(れいこ)野愛琉(のある)に目を遣った。

 その視線と言葉の意味は少し間をおいて双葉(ふたば)も理解した。


陽子(ようこ)さん、それは!」


 思わず止めようとした双葉(ふたば)だったが、瞬間、閃光が奔る。

 陽子(ようこ)の電撃が双葉(ふたば)を気絶させたのだ。


「二人もいれば親父も文句は無いだろう。苟且(かりそめ)にもアンタを奴に差し出さなくて済む。また連絡するから、その時は助けて頂戴……。」


 陽子(ようこ)はそう言い残し、別府幡(びゅうまん)黎子(れいこ)牧辻(ひらつじ)野愛琉(のある)の体を担いで夜の街へと消えていった。

 四人の神為(しんい)使いが暴れただけあって、双葉(ふたば)はほどなく駆け付けた人間によって救急車を呼ばれ病院へ運ばれた。




⦿⦿⦿




 四人の戦闘とほぼ時を同じくして、何処かの闇の中で一人の美女が水晶に浮かぶ像を覗いていた。

 そこへ一人の少年の様な出で立ちの男が声を掛ける。


「相変わらずの覗き趣味かい、御媛様(おひめさま)?」

征一千(せいいち)君……。」


 貴龍院(きりゅういん)皓雪(しらゆき)八社女(やおとめ)征一千(せいいち)神瀛帯(しんえいたい)熾天王(してんのう)の中の二人である。

 貴龍院(きりゅういん)は感心した様に水晶の像に見惚(みと)れていた。


道成寺(どうじょうじ)……まさか彼にこれ程まで穢詛(えそ)禁呪(きんじゅ)の適性があったとはね……。これは思わぬ掘り出し物ではないかしら?」

(ぼく)自身驚いているよ。ま、それでも革命の結果は変わらなかったと思うけど、(ぼく)達の今の用を足すにはお釣りがくる。」


 水晶に浮かんでいるのは八社女(やおとめ)穢詛(えそ)禁呪(きんじゅ)を与えられて新たな力を得た首領(しゅりょう)Д(デー)道成寺(どうじょうじ)(ふとし)の姿である。

 彼の放つ禍々しいどす黒いオーラはおそらく彼の地から遠く離れているであろう水晶の外側まで漏れ出さんが程の勢いだった。


「やはり民に見捨てられて支配していた国を失った男だから憎悪の器が違うのかもしれないね。」

「嬉しい誤算だわ。で、彼をぶつけるんでしょう?」


 貴龍院(きりゅういん)は邪悪に微笑んで問い掛け、八社女(やおとめ)もまた同じ表情を返す。


(ぼく)達の計画はもう貴女(あなた)持国天(じこくてん)が最後の仕上げを首尾良く事を運べばいいだけだからね。(ぼく)推城(つきしろ)は精々邪魔になりそうな勢力を積極的に排除していくよ。例えば奈落(タルタロス)禽獣(きんじゅう)最後の生き残りを使ったり、八咫烏(やたがらす)の遣いを一人でも多く潰したりなんかして……。」

「結構な事ね。千年を超える悲願の成就ですもの、打てる手は打っておかないとね。」

「いや、ここまで来てみれば、たったこれだけのことに随分回り道をしたものだ。」

「最も重要なモノを生み出すことと、扱うことにそれだけ手間暇が掛かったのよ。」


 二人が談笑していると、そこへ残りの二人も互い向かいから現れた。


媛様(ひめさま)増長天(ぞうじょうてん)様、楽しそうですな。」

八社女(やおとめ)八咫烏(やたがらす)の遣いの連中だが、やってしまうのならば(わたし)が潰してしまっても構わんのだろう?」


 老翁、閏間(うるま)三入(みいる)と大男、推城(つきしろ)朔馬(さくま)

 共に神瀛帯(しんえいたい)熾天王(してんのう)を構成する残りの二名である。


征一千(せいいち)君、貴方(あなた)道成寺(どうじょうじ)を使って邪魔になりそうな連中を始末しなさい。朔馬(さくま)君も征一千(せいいち)君を手伝ってあげて。三入(みいる)君、貴方(あなた)が一番重要なのだけど、そちらの首尾はどうかしら?」


 貴龍院(きりゅういん)八社女(やおとめ)推城(つきしろ)に指示を出した後で閏間(うるま)に尋ねた。

 閏間(うるま)は顔に刻まれた(しわ)をさらに深くして、難しげな表情を浮かべている。


「正直に申しますと手古摺(てこず)っております。何分、あの御方の頭脳が相手で御座います故……。」

「何も勝てとは言っていないのよ? 隙をついて、(わたくし)達の目的に沿わせてくれればいいの。」


 貴龍院(きりゅういん)は進捗報告に不平を述べた。

 だが、閏間(うるま)の様子を見るにそう簡単にいくものでもないらしい。


「このままでは間違いなく、即位には間に合わんでしょう。媛様(ひめさま)の方で何か理由を付けて遅延させて頂ければありがたいのですが……。」

「具体的にどれくらいまで進んでいて、どれくらい遅らせればいいの?」

「それを割り出す時間があれば他に出来ることは沢山ある状態ですな。」


 貴龍院(きりゅういん)は溜息を吐いた。

 そんな彼女の憂いに容赦することなく、閏間(うるま)はさらに続ける。


魅継(みつぎ)家の件は如何(いかが)いたしますかな? そちらは手早く済むゆえ先に終わらせてしまいたいのですが……。」

「そんなものはさっさと片付けてしまいなさい。例の件に専念できるようにね。」

「畏まりました。直ちに。」


 閏間(うるま)貴龍院(きりゅういん)に一礼すると、闇の中に姿を晦ました。


「全く……。」

「いやしかしだよ、御媛様(おひめさま)。」


 八社女(やおとめ)が頭を抱える貴龍院(きりゅういん)に意見を述べる。


「あの件は彼にしかできないんだ。助けられないことそれは(ぼく)達の力不足でもある。」

「うむ、奴がいて初めてこの計画は具体的な絵を描けたことを忘れてはならんな。」


 推城(つきしろ)も珍しく八社女(やおとめ)に同意した。

 貴龍院(きりゅういん)は再び溜息を重ねた。


「わかっているわ。千年を超える時を待ったのだもの、今更何月何年の遅れなど気にすることではない。ただ、あの御方を如何(いか)にしてお導きするかが問題なのよ。」


 八社女(やおとめ)推城(つきしろ)は「成程。」といった面持ちで顔を見合わせた。


「まあその件は御媛様(おひめさま)にしかできないことだからね。」

「うむ、これも我々の力不足だ。」

「では、(ぼく)らは(ごみ)掃除に精を出すことにするよ。」

「そうだな。大掃除の前の小さな整理だ。」


 そう言い残すと八社女(やおとめ)推城(つきしろ)も闇に消え、その場には貴龍院(きりゅういん)だけが一人佇んでいた。


狼ノ牙(おおかみのきば)だけではなく(わたし)達の夢も袋小路に陥ってはいないでしょうね……。」


 貴龍院(きりゅういん)が手を翳すと、水晶玉もまた闇に消えた。

 ただゴシック調の衣装に身を包んだ妖艶な女が一人、闇黒の虚空を見詰めている。


永遊(ながあそ)び、暁闇(あかつきやみ)の、悩ましき。白河夜船(しらかわよふね)の、夢の(まにま)に……。」


 今、光も闇も双方皆が大掃除の必要に迫られていることだけは確かなようだ。

別府幡(びゅうまん) 黎子(れいこ)

皇紀2666年(西暦2006年) 3月19日生

身長 174(センチ)

三位寸法 胸92胴57腰90

血液型 A


次回更新は、10月27日㈬

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