第七十八話 シャドーズ・アー・セキュリティ
前回
嘗ての宿敵、屋渡倫駆郎と対峙した岬守航は全く寄せ付けずに圧勝。
追い詰められた屋渡は人質を取る悪足掻きに出るが、それも通用しない現実を突き付けられて冷静になってしまい、復讐を継続するモチベーションを失ってお縄についた。
しかしその時、不気味な声と共に彼らの調査対象である謎の集団の一人、推城朔馬が航の前に現れた。
時は遡り、七月三日。
時系列としては丁度岬守航達が屋渡倫駆郎の元から脱走した後、神為が一度切れたため一日潜伏していた日のことだ。
その頃遥か北、北界道十四州最北、想谷州にある武装戦隊・狼ノ牙の旧本部で日本国の諜報員、仁志旗蓮はある調べ物をしていた。
根尾弓矢からはすぐに離脱するように言われており自身も速やかに合流すると伝えてあったが、その前にどうしても確かめておきたいことがあった。
仁志旗は武装戦隊・狼ノ牙の成り立ちについて調べていく内に奇妙なことに気が付いた。
選挙に敗れて内乱も鎮圧されたヤシマ政府残党勢力は道成寺八郎と朽縄穂純を残してほぼ壊滅し、最早再起の目は無いというところまで追いつめられていた。
しかし、ある時期を境に武装戦隊・狼ノ牙と名を改めた残党は闇に潜み、勢力を盛り返した。
奇妙なのは、僅かな記録から同じ頃に首領補佐・八社女征一千らしき人物の関与が見られる事だ。
八社女は現首領と参謀役の祖父世代からこの組織に属しているのか。
その首領と参謀は実は祖父の生まれ変わりと言っていい存在だと最高幹部、八卦衆の一員として聞かされた。
だとすれば、八社女もまたそうなのか……。
いや、ひょっとすると……。――仁志旗は更なる調査の必要性を感じた。
武装戦隊・狼ノ牙という組織に於いて、何よりも謎めいた存在であった首領補佐・八社女征一千という男。
どうにか辿り着き、動向を探っている中で遭遇した密会の現場。
気になって調べていくと、『神瀛帯熾天王』と自称する四人組が皇國の皇族、反政府勢力、政治、そして軍隊に潜み何かを企んでいることが判った。
これは思っていた以上にとんでもないものが出てくるのではないか。
そう睨んだ仁志旗は、八社女と言う人物について深追いすることになっていったのだ。
八社女について判っていることは、この叛逆組織に初期の初期から関わっていること。
そこで、この始まりの地に残された物証を調べていたのだ。
仁志旗は一つの部屋の扉を開けた。
訓練場らしき埃塗れの古びた部屋には神皇を模したボロボロのマネキン人形が多数横たわっている。
仁志旗は咳き込みながらその内の一体の前に屈み、状態を隈なく確かめる。
「やはりそうか……。」
仁志旗は確信した。
「記録によると道成寺八郎は生まれながらの神為使いだが、元々は一つの術式しか使えなかった。それは八月革命時や皇國建国時の内乱の様子から見て取れる。そして訓練によって使う術式を増やしたわけではない。何故なら、この訓練場跡には、試行錯誤の痕跡が無い……。」
そのどれもがただ闇雲に物理的な力で傷付けられた物ばかりだった。
即ち、術式を組み上げる為に多種多様な攻撃手段を試した痕跡が無いのだ。
「当時の新聞記事を洗ったが、恐らく道成寺はある時期を境に突然複数の術式を使い始めた。そしてここに残された僅かな古い記録によると、丁度その頃に八社女が加入している。」
仁志旗は埃を被った人形に手を添えた。
「八社女が道成寺に力を与えたのか……。どうやって、何の為に?」
疑問を抱きつつ他の人形も確認しようと顔を上げると、ふと一つだけ妙に新しい色のタイルが目に入った。
気になってそちらに歩いて行くと、そのタイルだけ軽く踏み鳴らした音と感触が異なる。
「これは……下は空洞か?」
仁志旗は発氣神為による怪力でタイルを叩き壊した。
思った通り、隠されていた階段が下へと延びていた。
おそらく、ここを捨てる時に何か隠したのだろう。
道成寺が複数の術式を使えるようになったのがこの訓練場を使わなくなって以降であり、丁度その頃八社女と接触していたとしたら……。
「間違いなく何かある……。」
仁志旗は固唾を飲み、階段を下りて行った。
それは意外と短く、階下の物置へと繋がっているといった様子だった。
「うっ……!」
そこに打ち捨てられていたものを見た仁志旗は絶句した。
白骨化した死体の山。
それも状態から見て、拷問の末に殺害されている。
「明らかに人為的に折られている……! 何という惨いことを……!」
物置に立ち入ろうとした仁志旗の足が何かを踏んだ。
「これは……。名簿か!」
その数枚束ねられた紙には黝ずんだ手形の血痕がこびり付いていた。
これはおそらく、この死体の中の誰かが殺されて遺棄されるまで隠し持っていたもの。
その中には、彼らの罪状まで具に記されていた。
「日本人絶滅反対者及び時空転移研究拒否者の粛清名簿だと……? 何ということだ……!」
仁志旗は頭を抱えた。
彼の中で一つの想像が膨らんでいく。
武装戦隊・狼ノ牙は日本人の絶滅を目論んでいる。
それも、彼らの時空のみならず全ての時空、世界線に於いてだ。
そして、ここに遺棄された彼らはそれに反対した。
ということは、元々の理念にはそんなものは無かったのだ。
曲がりなりにも一時は日本人の国を治めていたのだから当然だ。
おそらく、そのように変節した理由こそが八社女との接触。
更に、八社女は皇國の政治及び貴族に内通者を抱えている。
「まさかこいつら……! 武装戦隊・狼ノ牙は抑も奴らの操る駒に過ぎない! 本命は皇國そのものか‼ 皇國そのものの歴史を弄び、意図的に動かし、あらゆる時空から日本人を……! 」
その時、仁志旗は後ろから何者かに刺し貫かれた。
腹部を貫通していたのは、見覚えのある槍頭だった。
「がはっ‼ や、屋渡っ……‼」
「こんなところで何をしている? この裏切り者、いや鼠が!」
仁志旗の素性と旧本部への侵入を知った八社女は屋渡倫駆郎を刺客として放っていた。
肉の槍が引き抜かれ、仁志旗は白骨死体の中に派手に倒れ伏した。
「ぐっ! 糞ッ!」
仁志旗は必死で藻掻く。
せめて自分が調べ上げた情報を何か一つでも伝えなければ。
どうにかスマートフォンの端末を操作し、一枚の画像を上司である根尾へと送信する。
操作の途中、二撃目の槍が仁志旗を刺し貫いた。
「ぐはッ‼ だ、誰の指示だ……? 八社女か?」
「貴様が知る必要は無い。」
更なる槍の刺突。
仁志旗は震える手でどうにか送信の操作を終えた。
皇國のスマートフォンは国中に満たされた神為によって通信されるので、国内に限り圏外になることはあり得ない。
しかし、次の刺突で愈々仁志旗は指一本動かせなくなった。
「莫迦めっ……! お前……お前も……消されるぞ……‼」
「何を言う、俺はこれからも安泰だ。貴様と脱走者を始末さえすればな。」
「違う‼ ここは……革命組織じゃない……! 想像を絶する邪悪に……加担することになるぞっ……‼」
五度目、これが止めとなった。
「揚……羽っっ……!」
仁志旗が最後に口にしたのは孤児院で共に育った白蘭揚羽の名だった。
その掠れた声を最期に、仁志旗は動かなくなった。
屋渡は事切れた仁志旗を嘲るように鼻を鳴らすと、階段を上がっていった。
そして旧本部は灯油を撒かれ、仁志旗の死体諸共跡形も無く燃やされてしまった。
⦿⦿⦿
話を九月の日本国東京に戻す。
岬守航は突然顕れたその男の名を呼んだ。
「何でお前がここにいる? 推城朔馬‼」
その手には航に折られた槍に代わる新たな長槍が握られていたので、またしても夜の街に喧騒がこだましていた。
「甲邸では世話になったな、岬守航。」
推城は質問に答えない。
だが態々武器を携えているところを見ると、どうやら航にとって良くない理由でこの場に顕れたらしい。
その巨躯も相まって、航は強烈な威圧感を覚えていた。
思い出されるのは甲邸での対決である。
あの時、結果的に偶々武器破壊に至って勝ちを譲ってもらったものの、推城はまだまだ全然本領を発揮していなかった。
槍術のみで航を迎え撃ち、しかも槍が折れなければ航は刺し貫かれて負けていた。
この男は強い、未だに底を見せていない。――航の全身に警戒と緊張が奔る。
航は摺り足で構え、再び右腕に光線銃ユニットを形成した。
再び臨戦態勢である。
そんな航に対し、推城はゆっくりと槍を持っていない左手を挙げる。
そして顔の前に持って来た指で輪を作り、左目で屋渡を覗いて言った。
「屋渡よ、今までご苦労だった。八卦衆として我ら熾天王の為に良く働いてくれた。」
次の瞬間、屋渡は血を吐いて倒れた。
「なっ⁉ 屋渡⁉」
「ぐはっ……! ぐはっ……‼」
「だが最早生かしておく理由は無い。使えない道具は始末するまで。」
推城はなおも苦しそうに何度も吐血しながら藻掻いている屋渡を見下ろし冷酷に告げる。
航は困惑しながら屋渡に呼びかける。
「屋渡‼ 大丈夫か⁉ しっかりしろ‼」
「岬……守……。」
屋渡は虚ろな目で航の呼び掛けに応える。
そして吐血、原因はわからないがこのままでは命が無いことは明らかだ。
「推城……いったい何をした?」
航は推城を睨み、問い質す。
別に屋渡の為に怒ってやる義理などは無い。
だが命を使い捨てるその不条理に平然としては居られなかった。
そんな航に、推城は悪びれもせず槍を構える。
「教える必要は無いな。だが、お前の事はあの様に殺すつもりなど無いから安心しろ。岬守航、お前は甲邸での借りを返す意味でもこの私自ら始末する。」
推城が猛スピードで突撃して来た。
槍の切っ先が小刻みに振るわれ、航の腕を打ち据える。
「ぐっ!」
嫌な戦い方だった。
航に切り札を使わせないことを主眼に置いている。
そしてその打棍は何度も受けていれば今度はこちらが武器破壊される、その十分な威力があった。
槍の間合いを生かして遠くから攻撃。
それも突くのではなく叩く動きを多用し、殺傷力よりもとにかく手を出させない。
まずこちらの攻撃手段を封じ、奪う。
刺突はあくまで止めに使う気だ。
やっぱり甲邸じゃ全然本気じゃなかったってことか!――航は防戦一方になりながらも推城の隙を窺う。
そう、今や航の攻撃手段は光線銃だけではない。
ならばここは敢えて敵の意表を突く。
航は光線銃ユニットを自ら消した。
戸惑いに推城の攻撃が鈍ったそのほんの一瞬を航は見逃さなかった。
足元からアスファルトを突き破って伸びた蔓が推城の体を縛り上げた。
「何⁉」
推城の動きが完全に止まる。
勿論、容易く破られるのは航も織り込み済みだ。
欲しかったのは再び光線銃を形成し、撃ち抜くだけの僅かな隙だった。
航は推城の懐に潜り込んだ。
背丈のある推城の鳩尾を下から上に狙う。
最大出力で撃っても街を破壊しないために必要な方策だ。
閃光に貫かれた推城の体は上空に吹き飛び、そしてアスファルトに激しく叩き付けられた。
良し……!――航は肩で息をしていた。
手応えはあった。
航は既にどの程度のダメージを与えれば相手が戦闘不能になるか経験から熟知している。
寧ろ航の胸に不安が点滅去来しているのは、倒れた推城の体からなおも異様な気配が消えていないことだった。
そして、その推城は急所を貫かれたにもかかわらず平然と素早く起き上がった。
「なっ……⁉ 莫迦な‼ 嘘だろう⁉」
推城は驚愕する航を睨み、そして笑った。
「意識の虚を突く駆け引き、刹那の隙を逃さぬ勝負勘、迷い無く撃つ覚悟、見事だ……。私が只人ならば戦闘の継続は不可能であっただろう。」
そう、鳩尾と言えば急所だ。
いくら守護神為があると言っても元気良く立ち上がれるわけがない。
嘗て金的を吹き飛ばした鷹番夜朗がまさにそうだった。
なのにこの男は平然と立ち上がって辺りを見渡している。
「推城朔馬……。お前は一体何者なんだ……?」
「ふむ、そうだな。」
推城の手から槍が消えた。
何かに気が付いたのか、戦いを止めるつもりらしい。
そしてほぼ同時に、一人の女が航の前に降り立った。
「魅琴……。」
「ごめんなさい。やっぱり来てしまったわ。さっきの男もこの男も問題はなさそうに見えたけど、あれで倒れない異様さを見せられると、介入しないわけにはいかない。」
麗真魅琴は推城から航を守るように、立ち塞がるように長い髪を靡かせて至っていた。
そんな状況に、推城は小さく笑う。
「麗真魅射の孫娘、やはりお前だったか。八社女から超級を素手で解体する程のとんでもない怪力だと聞いている。流石にこれでは分が悪い。この場は退散させてもらうとしよう。」
「私とお爺様を知っているのね。どういうことかしら? まあいいわ。とっ捕まえて吐かせれば済むこと。」
魅琴は構える。
対する推城は意に介さず、彼女に背を向けた。
「私が只人として生きた時代は後亀山帝の頃。当時の名は津田左馬権助正新。調べたとて出て来はしない。事績は我が息子正信や当時の盟友達と混同されて伝わっていると聞いている。八社女が嘗てそうしたように、私も二度退けられたことに敬意を表し己のことをそれだけは教えてやろう。」
推城の体が透けていく。
「さらばだ。」
「待て!」
航が呼び止める声も空しく、推城の体はそのまま消えていった。
結局、二人は敵をまんまと逃がしてしまった。
しかし、気がかりなことがある。
「魅琴、後亀山帝って……。」
「ええ。南北朝時代、南朝最後の天皇よ。」
「八社女も和気広虫がどうのと言っていたな。いったい何なんだ? あいつら……。」
通常ならば到底信じられるような話では無い。
だが彼らの異様な耐久力、回復力が有り得ないような話に説得力を持たせている。
そしてなにより、抑も五年前に皇國が顕れてからという者荒唐無稽なことはこの世界に起こり過ぎている。
と、その時また横たわっていた屋渡が血を吐いた。
「あっ! 屋渡⁉ 大丈夫か?」
航が駆け寄った時には屋渡の顔は酷く青褪めており、息も絶え絶えだった。
「魅琴、救急車を呼んでくれ! おい、屋渡! すぐに助けがくるからな!」
「いや……。」
屋渡は弱々しい声で航の呼び掛けを否定した。
「俺には……わかる……。俺はもう……助からんのだ……。何か……死が……死ぬという因果そのものが……体に埋め込まれたような……ぐはっ……!」
「屋渡、喋るな。」
屋渡は何かを伝えたがっている。
その眼には無限の悔恨が滲んでいるように見えた。
「俺は……つくづく愚かだ……。岬守よ、お前の術式を見て、よく分かった……。お前の術式は……武器の形成などではないのだ……。」
「ああ、そうだ。そんなことはもう解っているから大人しくしているんだ。」
屋渡の推測は正しかった。
航は麒乃神聖花が駆る絶級為動機神体・カムムスビとの戦いで完全覚醒し、その詳細を既に自覚していた。
「僕の術式神為は、ある条件を満たした他人の術式を使わせてもらうことなんだ。条件は三つ。まず、本来の使い手が術式神為を使えない状態になったことがあること。例えば死んでいたり、東瀛丸の効果が切れてしまったりした場合、その相手の術式神為を会得できる。」
航が虎駕憲進の術式神為である鏡の形成を使えるのは前者の理由、久住双葉の術式神為である植物の発生を使えるのは後者の理由による。
そして勿論、条件は他にもある。
死んだ相手ならば、或いは東瀛丸の効果が切れた相手ならば誰からでも術式を拝借できるというわけではない。
「もう一つは、名告だ。それも、僕が神為を身に付ける前に自己紹介を受けていること。そして最後に、僕の目の前で術式神為が使われている必要がある。」
「そう……そうだ……。」
屋渡は力なく、だが悔しそうにも嬉しそうにも見える笑みを浮かべた。
「あの時の自己紹介だ……。俺たちが拉致した……八人の自己紹介……。あれがお前に……英雄の力を与えた……。そうだろう……?」
「そうさ、その通りさ。」
航の目に涙が滲む。
勿論、想う相手は死にゆく屋渡ではない。
もっと別の、実はずっと共に戦ってきた、心強い仲間を偲んでいるのだ。
「僕はずっと助けられていたんだ。」
「お前が……久住双葉の術式を使うのを見て……俺にも解った……。いや、俺だから解った……。聞いたことがある……。この世には通常とは異なる……術式の覚醒があると……。忘れていた……。」
再び、屋渡は吐血した。
「屋渡、もういい、止めろ。」
「いや……全部言わせろ……。俺の愚かさを……全部吐かせてくれ……。俺はあの時、一人だけ守護神為が不十分だったから崩落で死んだと思った……。それは正確ではない……。あの時、一人だけ逆順で覚醒した者がいた……。お前が使ってきた武器形成の術式は、そいつがその時無意味に発動させてしまったものだ。ただ、何も起こらなかったがな……。よっぽど平穏無事に生きて来たんだろう……。」
「ああ。そうだよ、屋渡。」
航の目から涙が零れ落ちた。
彼女と触れ合ったのはほんのわずかな時間だった。
だが航はずっと、その彼女によって生かされていたのだ。
あの時無残にも無垢な夢を絶たれた彼女によって。
「僕がずっと頼って来たのは、二井原雛火の術式神為だ。」
涙が止め処無く航の頬を伝う。
十五歳で理不尽に消えた命の灯火が航の蝋燭を、そして巡り巡って日章旗の赤き日輪を守ったのだ。
航の泣き顔を見上げ、屋渡は穏やかに微笑んだ。
「泣くな、最も才無き英雄……、尊敬すべき……我が宿敵よ。良くぞ……あらゆる障害をねじ伏せ……故郷へ帰った……。祖国を救った……。」
その言葉を最後に、屋渡は目を閉じて沈黙した。
そして程なくして彼は息絶えた。
「屋渡……!」
航は涙を拭き、ゆっくりと立ち上がった。
そして空を見上げ、この三カ月で起きたことを思い返す。
屋渡倫駆郎、この男がいなければ運命が回り始めることは無かった。
六月初旬に航を拉致して以来、一カ月後の脱出までの間恐るべき支配者として彼らに君臨し、そして航達や水徒端早辺子のことを執拗に嬲った。
それが切欠で航達は日本と皇國の戦いに巻き込まれ、今なお戦後処理に追われている。
そしてその後は一月半の沈黙の後、武装戦隊・狼ノ牙の革命に失敗して日本に逃亡、更に半月後の今、航と再び相見えこの結末を迎えた。
航はこの男に同情、憐憫など何一つ抱いていない。
だが、それでも岬守航という人間の人生と運命を語る上で、屋渡倫駆郎という男のことは必要不可欠であった。
その男の、愚かな過ちに満ちた生涯が今幕を閉じた。
宿敵と定めた自らの理想像である男に見守られながら……。
⦿⦿⦿
京都府内のビジネスホテルにて、根尾弓矢は岬守航からの連絡を受け取った。
「そうか……。いや、ご苦労だった。情報が得られなかったことはいい。まだ時間切れには少なくとも三週間ある。俺はこっちでもう少し色々調べてみる。それと、さっき皇大臣から連絡があった。明日、皇國から使者がくるそうだ。白蘭にも話してあるから一緒に迎えておいてくれ。ああ、ああそうだ。すまんな。失礼する。」
電話を切ると、根尾は窓から外の景色を見渡し溜息を吐いた。
気掛かりなのは、やはり航から聞いた推城の素性である。
「南北朝時代、津田正新という武将か……。」
とりあえず手持ちのスマホで検索を掛けてみる。
口頭で伝え聞いたため漢字ははっきりしないが、それっぽい字を当てて「津田正…」までを入力したところで手が止まった。
「津田正信……。確か、岬守君はそんな名前を聞いたとも言っていたな。此方から当たってみるか……。」
根尾は推城が口にした息子だという武将の名前を調べ始めた。
そして暫く後に、一つの情報に行き当たった。
「成程……。津田正信、楠木氏の系譜に連なるとされているが、出生がはっきりしない……。もしこれらが推城の正体である正新の事績が混ざったものであるなら……。そして、楠木正成に所縁があるということは……。貴船山と宇佐以外にも行く場所が増えたな。」
武装戦隊・狼ノ牙に潜入していた仁志旗蓮の齎した情報。
それこそが、この不穏な繋がりを彼らに報せた。
そしてそれが原因で、ほぼ間違いなく仁志旗は命を絶たれたのだ。
「明日は兵庫、その後で宮崎に移動だな。やれやれ、これが単なる観光なら最高の休暇なのだがな……。」
根尾はスマホをUSBに繋ぐと、枕元へ放り投げた。
そして消灯すると、明日へ備えてひと眠りすべく布団に入るのだった。
第四章開始連続更新中
次回更新は、10月2日㈯




