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第二十四話 カム・クラリティ

前回


 帰国まであと一歩のところまで来た岬守(さきもり)(わたる)達一行は最後の敵、屋渡(やわたり)倫駆郎(りんくろう)を迎え撃つ。

 術式に覚醒した久住(くずみ)双葉(ふたば)虎駕(こが)憲進(けんしん)虻球磨(あぶくま)新兒(しんじ)の三人に半覚醒の(わたる)、新たに覚醒した三日月(みかづき)由奈(ゆな)を加えて応戦するものの、その最中で(わたる)屋渡(やわたり)の攻撃に斃れてしまう。

 両陣営の死力を尽くした総力戦は続く。

 守護神為(しんい)によって守られた者の命を脅かす可能性は次の2パターンである。


 まず、単純に受けたダメージが本人の神為(しんい)量に比して大きすぎる場合、守護神為(しんい)をもってしても損傷を修復し切れずに、死ぬ。

 初日、崩落によって命を失った二井原(にいはら)雛火(ひなび)がこのパターンの典型である。


 戦闘においては強大な力による攻撃を受けると、術式神為(しんい)によるものでなくとも修復に時間を要する場合や、中には修復できないダメージも存在する。

 岬守(さきもり)(わたる)が訓練中に屋渡(やわたり)倫駆郎(りんくろう)から受けた発氣(ほっけ)神為(しんい)による攻撃で毎度それなりの時間悶絶していたのは、内臓が潰れたりしてこれの修復に時間を要したためである。

 虎駕(こが)憲進(けんしん)土生(はぶ)十司暁(としあき)の手首を切断したような身体欠損は守護神為(しんい)をもってしても修復できないため、その欠損が通常絶命に到る場合は守護神為(しんい)をもってしても結果は同じである。


 受けたダメージそのものは守護神為(しんい)ですぐに回復できる程度のものでも、回復自体が阻害されてしまうのが術式神為(しんい)によるダメージの場合である。

 この場合、回復し切れないというわけではないのだが、通常よりもかなり時間がかかってしまう。

 そのため、通常ならば守護神為(しんい)で問題なく復活できるダメージでも術式で受けた場合は致命傷になってしまうことがある。


 いずれにせよ、生死を分かつのは本人の神為(しんい)量と生命力である。


 今、岬守(さきもり)(わたる)はただでさえ修復に時間がかかるほどのダメージを術式によって受けてしまっている。

 加えて、(わたる)は元々神為(しんい)量が人よりも少ない。


 屋渡(やわたり)の術式によって肉で作られた槍に左肩と右脇腹を貫かれた(わたる)は、生きるために必死で神為(しんい)と生命力を振り絞っている。


 現状、彼は戦闘どころではない。


⦿


 岬守(さきもり)(わたる)の戦闘不能により三日月(みかづき)由奈(ゆな)に差し向けられる屋渡(やわたり)の槍は四本から五本に増え、次第に三日月(みかづき)は押され始めていた。


「お(まえ)の攻撃に(おれ)の蛇腹を貫くほどの威力が無くて助かっているぞ。既にこちらの攻撃も届き始めている。限界までそう時間は掛からなさそうだ!」

「くっ……!」


 三日月(みかづき)由奈(ゆな)の術式、(ほむら)の翼による浮遊と灼熱の結晶の発射は強力なものであるが、この状況を生んでいる一つの問題点があった。

 狙いの精度が上げられないことである。

 彼女の攻撃がもっと顔面に集中していれば、屋渡(やわたり)は対応し切れずに勝負は決まっていただろう。


 久住(くずみ)双葉(ふたば)虻球磨(あぶくま)新兒(しんじ)虎駕(こが)憲進(けんしん)に差し向けている槍はそれぞれ一本ずつであり、今の三人に対しては牽制にしかなっていない。

 新兒(しんじ)に至っては槍を抑えられ、攻撃を加えられずにいる。


 だがそれでも十分に拙い状況である。

 三日月(みかづき)に攻撃が通り始め、それによって彼女の攻撃の手数が次第に減っているからだ。

 このままでは彼女が()たなくなるのは時間の問題である。


 状況を打開すべく動いたのは新兒(しんじ)だった。

 両腕を駆使して何とか一本の槍を抑えていた彼だが、ここへ来て一つの賭けに出た。


 一瞬、彼は右腕を離す。

 当然左腕だけでは抑えられないが、暴れる槍が離れる前にこれを左腕ごと凍結させた。

 彼の氷の硬度はダイヤモンドに匹敵し、これを破るのはいかに屋渡(やわたり)といえど骨が折れる。

 欲したのはそのタイムラグであった。


 新兒(しんじ)は一気に双葉(ふたば)へと駆け寄ると、彼女へと差し向けられた槍を右腕で掴み、これも凍結させる。


久住(くずみ)ちゃん今だ! 屋渡(やわたり)を縛れ!」


 双葉(ふたば)の蔓が屋渡(やわたり)を拘束する。

 三日月(みかづき)はこの機を逃すまいと一気に畳みかけた。

 何発もの結晶が屋渡(やわたり)の頭部に炸裂する。


「くっ、このっ……!」


 藻掻く屋渡(やわたり)は力を振り絞っている。

 凄まじい力が双葉(ふたば)新兒(しんじ)のかけたそれぞれの拘束を破ってしまう。


「いい加減にしろ貴様(きさま)らぁっ! 反抗ばかりしやがって! 親が死ねと言ったら大人しく死ねぇっ!」

「わけわかんねえこと言ってんじゃねえよ!」


 新兒(しんじ)は再び屋渡(やわたり)の攻撃を止め、槍を凍結させる。


「お(まえ)(おれ)達の親じゃねえ! それに例え家族でも、互いの幸せの為に行く道を決めつける権利はねえ! 離れ離れになっても互いを想い幸せを願うもんだ! 少なくとも本物の(おれ)の家族はそうしてくれたぜ!」


 再度双葉(ふたば)に差し向けられた槍を掴んで凍結させ、同じ連携を繰り返す。


「行けるぞみんな! 気張れ‼」


 一つの機転で形勢を逆転させた新兒(しんじ)が気勢を上げる。

 全員がそれに呼応し、最後の力を振り絞って屋渡(やわたり)の暴に必死に抗う。


岬守(さきもり)、死ぬな‼ ここさえ乗り切れば生きて帰れるぞ! 生きろォッ‼」


 虎駕(こが)(わたる)に呼びかける。

 屋渡(やわたり)が束縛された隙にそれぞれを防護する鏡の障壁を何重にも重ねながら。


 (わたる)は必死で闘う仲間達の声を朦朧とした意識の中で聞いていた。




⦿⦿⦿




 みんなが声を張り上げて戦っている。

 こんな時に何をしているんだろう。

 結局(ぼく)だけが役立たずだ。


貴方(あなた)莫迦(ばか)じゃないの?』


 ああ、また来たのか魅琴(みこと)

 また叩き起こしに来ると思っていたよ。


 わかってるさ、寝てる場合じゃない。

 (ぼく)にできる事なんてたかが知れてるけど、それでも起きて戦わなきゃ駄目だよな。


『ふふ、何故来るかわかる?』


 随分久々に(きみ)のその意地悪な笑顔を見た気がするな。

 そりゃ(ぼく)が駄目な奴だからだろう?

 (きみ)に尻を叩かれないと一念発起できないヘタレだからね(ぼく)は。

 みんなとは大違いだよ。


『そうね。そしてそれを、貴方(あなた)が望んでいるからよ。貴方(あなた)(わたし)に叱られたいと思っている手の掛かる男だからこうして夢に出てきてあげるのよ。』


 ははは、なるほど。

 いつも世話になって悪いなあ。


『あのね、(わたし)は今でも生きていて幽霊でも何でもないんだから(わたし)自身が夢枕に立つわけないでしょう。まだわからないの?』


 え? どういうこと?


『呆れた。自分の願望で作った妄想の幼馴染にいくら問い掛けても自問自答でしかないわよ。いい加減気付きなさい。』


 そうか、なるほどそう言うことか。

 それは残念だ。

 (ぼく)は都合の良い妄想が大好きだから、(きみ)自身が会いに来てくれているとばかり思っていたよ。


『残念でもないでしょう。貴方(あなた)が夢で(わたし)に尻を叩かれるのは結局貴方(あなた)自身の意思だってことなんだから。貴方(あなた)はそう自分自身を卑下するような人じゃないってこと。もっと自信を持ちなさい。』


 ……それも(ぼく)がそう思いたいっていう願望だろう?


『なるほど、重症ね。まあいいわ。どうせ(わたし)が来たからにはやるべきことをやっちゃうんでしょ? だから、ここからは潜在意識から貴方(あなた)に気付きを促す助言だと思って耳の穴をかっぽじってよく聴きなさい。』


 気付き? 助言?


『ヒントその1。貴方(あなた)は今まで色々な物を術式で作り出して使ってきたけど、それらは全て過去に使用したことがある道具で、さらに見方によっては武器になるものだって気付いてた?』


 ああ、やっぱり色々作って来たのは術式神為(しんい)だったのか。


 んー、包丁、点火棒、金串は(きみ)の家事手伝いで使った記憶があるな。

 釣り竿は……あったような気もするけど、はっきりとは思い出せないな。

 モップはまあ公転館(こうてんかん)の雑務手伝いだね。


 まあ確かに、どれも使おうと思えば武器に出来る……のか?

 包丁、点火棒、金串はわかるけど……。

 釣り竿とモップ……?


『漫画やアニメの影響じゃないの? 貴方(あなた)(わたし)久住(くずみ)さんの話に着いて行けなかった時に助け舟を出せた程度には詳しいでしょう?』


 ああ、それで武器として使うイメージがあればいいってこと?

 なら作品も記憶にはあるし、わかるかな……。


 ん?

 ちょっと待ってくれよ。

 流石に日本刀は実物を見たことも触ったことも無いよ?


『その日本刀、光っていたでしょう。日本刀のような形をして光る武装、記憶に無いかしら?』


 日本刀のような形……。

 光るというのが(きも)なのか?

 ちょっと待ってなんかわかりかけてきたような……。


『ふふふ、じゃあヒントその2。貴方(あなた)、ここまでどうやって来たんだっけ? そもそもどうして脱出に時間がかかったんだっけ?』


 あ……。

 あああっ⁉


 そうか! そういうことだったのか!

 それも今まで使ったことのある武器としてカウントされているのか!


 でも、そのものじゃないんだ!

 だから気付かなかったんだ!


『そのものじゃないのは、それ自体は〝武器〟だと看做(みな)されていなかったのね。でも、それの〝武装〟は武器としてカウントされていた。』


 なるほど!

 そうか、だとすると……!


『流石に気が付いたようね。そう、それが今の貴方(あなた)の可能性よ。』


 ありがとう魅琴(みこと)、頭がすっきりしたよ。

 これでみんなの役に立てそうだ。


『だから(わたし)の助言は全部貴方(あなた)自身の気付きだと言っているでしょう。まあいいわ。さ、そろそろ起きなさい。傷も少しは癒えて、どうにか戦いに参加できるようにはなっているから。』


 ああ、必ず生きて帰るよ!




⦿⦿⦿




 三度(みたび)同じ連携で嵌められた屋渡(やわたり)は追い詰められていた。

 槍二本を凍結され、体を蔓に縛られながら焦りを募らせる。


「おのれ貴様(きさま)らぁ……!」


 結晶を被弾し、黒い(すす)と血に塗れた顔を歪ませて怒りをあらわにする。

 辛うじて束縛を破ったものの、段々と拘束時間が長くなってきた。

 この余計な一手間と、被弾による火傷と裂傷を同時に修復しなければならないことに神為(しんい)を消耗しているのだ。


「まさか、この(おれ)が……!」


 最早槍を差し向けず肩で息をしている。

 あと一息といった様相だ。


 この瞬間にすべきことは双葉(ふたば)の蔓による拘束である。

 だが、彼女もまた限界に近い。

 双葉(ふたば)は最後の力を振り絞る。


 何度目かの呪縛。

 もしかしたらこれで打ち止めかもしれない。

 三日月(みかづき)もまた、全身全霊で神為(しんい)を振り絞りありったけの結晶を発射する。


「おのれ……この(おれ)がぁっ‼」


 屋渡(やわたり)の咆哮。

 それは苦し紛れの怒号に思えた。


 だが、そうではない。

 それが別の意味を持っていたという事はすぐにわかった。


「こんな欠陥技に頼るとはなぁっ‼」


 その瞬間、屋渡(やわたり)に引き千切られた双葉(ふたば)の蔓はかつてないほどズタズタになっていた。

 同時に鞭のように振るわれた槍は明らかに遅かった。

 だが、想定外の動きだったので双葉(ふたば)新兒(しんじ)虎駕(こが)は三人とも食らってしまった。


 双葉(ふたば)は背中、新兒(しんじ)虎駕(こが)は胸にそれぞれ抉られたような傷を付けられ、その場に倒れ伏した。


「はぁ……はぁ……これは欠陥技なんだよ。攻撃は遅くなるし神為(しんい)は消耗してしまうし、できれば使いたくなかったんだよ……!」


 屋渡(やわたり)が悪態を吐く技の正体は、回転である。

 全ての槍が先端から30(センチ)ほどドリルの様に回転し、嫌な音を立てている。


「うう……。」

「畜生……!」

「グうぅ……。」


 三人は傷を修復できないでいる。

 もう限界なのだ。


 そしてこの状況はまずい。

 全ての槍が三日月(みかづき)に向けられ、回転したまま襲い掛かる。


「くっ!」


 結晶を発射して応戦する三日月(みかづき)

 だが、回転が加わった槍は止まらない。

 速度は遅いものの結晶を砕きながら突き進んでくる。


 危険なのは、三日月(みかづき)の術式は現状空中で自在に動けるようにはなっていないということだ。

 彼女には回避の手段が無い。

 このままでは心臓を貫かれ、致命傷を負う。


 しかし、そうはならなかった。

 突如、一筋の白色光が閃き一点集中していた屋渡(やわたり)の槍を全て千切り落としてしまったのだ。


「ぐああっ‼」


 これは屋渡(やわたり)が自らの肉で作ったものなので、堪らずダメージに声が上がる。

 彼は何が起きたか理解できていない。


 誰だ? 虎駕(こが)の術式で切られたのか?

 いや違う。(おれ)の術式で硬化した肉は壱級(いっきゅう)為動機神体(いどうきしんたい)の武装にも耐えるんだ。奴の刃にそれほどの切断力は無い。

 誰だ、何をされた?――屋渡(やわたり)は困惑しながら周囲を見渡す。


 そして彼はその両目に一人の男が起き上がっている姿を映した。


「はぁ……はぁ……。みんな、ごめん。また(ぼく)も戦う。やっと戦える。だから休んで傷を治してくれ。絶対に死なないでくれ。」

岬守(さきもり)いぃぃっ‼」


 屋渡(やわたり)は眉間ばかりか顔中を力ませ、これ以上なく怒りに満ちた表情で復帰した(わたる)を睨みつけ、千切られた槍を向ける。


 通常、部位欠損は守護神為(しんい)をもってしても修復できない。

 だが、それがそこまで含めた術式神為(しんい)であった場合、話は別だ。

 屋渡(やわたり)の槍は八本全て元通りに生やされた。

 それが彼の術式だからだ。


 再生まで備えている術式は珍しく、そして機能低下が期待できないという意味で脅威である。

 屋渡(やわたり)倫駆郎(りんくろう)が他の素質に依らずただ純粋な暴力によって八卦衆(はっけしゅう)に選ばれた真の理由はここにあった。


 そんな彼が驚愕したのは(わたる)が右腕に備えた一つの武器、否、兵器であった。


貴様(きさま)、その右腕はまさか……!」


 アンバランスなほどの装甲で固められた右腕の手首辺りから少し飛び出た銃口。

 屋渡(やわたり)はこの腕の形に見覚えがあった。


「ああ、お(まえ)の想像通りだよ屋渡(やわたり)。そして(ぼく)に才能が無いという見立て通り、それを理解するのにここまで時間をかけてしまった。」


 自嘲気味に語る言葉とは裏腹に、(わたる)の瞳には闘志が漲っている。


 屋渡(やわたり)は焦り、苛立つ。

 この男がここへ来て発揮した本領が、余りにもとんでもない脅威だったからだ。


 まさか超級(ちょうきゅう)為動機神体(いどうきしんたい)『ミロクサーヌ・改』の武装を対人格闘戦に持ち出すとは。


 冗談じゃないぞ!――その恐ろしさが奥歯を噛み締める屋渡(やわたり)の脳を駆け巡る。


 (おれ)の術式は壱級(いっきゅう)までなら耐えられるが、超級(ちょうきゅう)の武装には耐えられないんだよ!

 というか、せいぜい対人格闘で想定するのは通常弐級(にきゅう)までなんだ。

 壱級(いっきゅう)でも過剰な想定なのに、この世のどこに超級(ちょうきゅう)を生身の単騎で相手にすることを考えられる奴がいるんだ。


 そんなものさえ持ち出せる術式など、理不尽にもほどがある。

 剣と魔法でちまちま戦っていたところにいきなり近代兵器を持ち込むようなものだぞ。


 いや、違うそうじゃない。

 察するにこいつの術式は単に「今まで使用した経験のある武器を用途に応じて何時でも作り出して使用できる。」というものなんだ。

 偶々(たまたま)そこに「超級(ちょうきゅう)為動機神体(いどうきしんたい)『ミロクサーヌ・改』に搭乗して使用した武装」が含まれただけだ。

 本来こんな使い方をする術式じゃない。


 見ろ、岬守(さきもり)の様子を。

 明らかにたった一回の消耗じゃない。

 機構の複雑さと出力の巨大さ故に神為(しんい)の消費量が多過ぎるんだ。

 奴の乏しい神為(しんい)では二・三発が限界といったところだろう。


 なるほど。

 思えばこいつの術式は公転館(こうてんかん)のモップの吸引機能という複雑な機構まで再現していた。

 おそらくはあの程度ならば問題は無いのだろう。


 そしてもう一つの日本刀、あれもミロクサーヌ・改の武装にあった近接格闘用のものだな?

 あれは本来光線砲より更に破壊力のある代物だが、そのあまりの出力ゆえに奴の神為(しんい)では再現し切れなかった。

 だからすぐ折れる(なまくら)程度しか作れなかったんだ。


 伏線は十分与えられていたのに潜在的脅威度をまるで認識していなかった自分に腹が立つ。

 その能力、今になってあまりに惜しい。

 革命戦士として育っていれば新皇軍(しんこうぐん)と戦う上での切り札にもなり得た。


 だが、貴様(きさま)は我々と敵対した。

 ならばここで何としても殺さねばならん。


 三日月(みかづき)を除く他の奴らを行動不能にしておいて助かった。

 さっきまであれほど集中した三日月(みかづき)の術式すら、この際どうでもいい。


 今これより、岬守(さきもり)(わたる)が打ち止めになるまでは奴に全力を集中させる。

 こいつの術式は絶対に食らってはならない。

 そして光線という特性上、見てからではなく撃つ前に予測して上手く(かわ)さなければ絶対に食らってしまう。


 顔面だけではなく蛇腹で守られた胴部にすら受けられん。

 腕の槍ですらさっきの様に千切れてダメージを受ける。

 その脅威は他の連中の比じゃない。


 だから、短期に全身全霊を(もっ)て殺す!――屋渡(やわたり)倫駆郎(りんくろう)は事ここに至って漸く岬守(さきもり)(わたる)を侮るのを止めた。


岬守(さきもり)(わたる)、お(まえ)(おれ)の宿敵と認めよう。」


 対峙する二人の間に灼熱の緊迫した空気が流れる。


⦿


 三日月(みかづき)由奈(ゆな)は力無く着地して膝から崩れ落ちた。

 意識ははっきりしているものの、術式を維持する為の神為(しんい)はとうに限界を迎えていたのだ。

 彼女がここまで戦えたのは、偏に自分が主力であるという責任感故だった。


 他の三人、双葉(ふたば)新兒(しんじ)虎駕(こが)は大きな傷を負って回復まで動けない。

 彼らもまた、この傷を動ける程度まで修復すると神為(しんい)は底を突き戦線には復帰できないだろう。


 そして言うまでも無く、雲野(くもの)兄妹は最初から戦力にならない。


 すなわち、彼らの命運は(わたる)屋渡(やわたり)の一騎打ちに委ねられた。


 しかし、その(わたる)も圧倒的に分が悪い。

 肩はともかく脇腹の傷は依然回復し切っておらず、足を引っ張られることになるだろう。

 一方、屋渡(やわたり)の凄まじい強さは神為(しんい)を明らかに消耗してなお健在である。


 頼みの綱は決まれば一発で勝負を付けられる右腕の光線銃だ。

 だが、屋渡(やわたり)の見立ては正しく(わたる)がこれを射撃できるのは三発が限界である。

 もうすでに一発撃ってしまったので、残りは二発しかない。


 二人が動かないのは、それぞれ勝ち筋を考えているからだ。

 二発の一撃必殺の内、何れかを()てられれば勝ちの(わたる)

 放たれた一撃必殺を悉く外し、撃ち止めとなれば勝ちの屋渡(やわたり)

 相手の及びも付かない思考の隙を突く(すべ)を互いに考える。


岬守(さきもり)よ、宿敵と認めた上で決着の前にこれだけは言っておこう。今ではお(まえ)が同志にならなかったこと、親と子の絆を踏み躙ったことが許せないよりも残念だ。その力、鍛えれば皇國(こうこく)すら脅かすモノになったろうに、その可能性はここで潰える。裏切り者を殺すことに何も変わりは無いからな。一切の心変わり、慈悲は期待するなと言っておこう。」

「同志も何も無理矢理攫われただけだからな。親と子もお(まえ)が勝手に言っているだけだし、それ以前に元々(ぼく)は親の思い通りにならず見放された子なんだよ。だから期待通りに殺されてやるつもりも勿論無い。」

「そうか。」

「ああ。」


 相容れない二人は未だ動かない。

 だが、間も無くそれぞれの戦略が交錯する。


 先に動いたのは(わたる)だった。

 銃口が屋渡(やわたり)に向けられる。


「チィッ‼」


 発射の気配がなくとも、これだけで屋渡(やわたり)もまた動かざるを得ない。

 光線銃は撃たれてからでは絶対に回避できないからだ。


 なので、屋渡(やわたり)は銃口を注視しながら絶えず動き続ける。

 さらに僅かな(わたる)の表情、筋肉の強張りにも気を配る。


 (わたる)は走った。

 距離を詰めれば、狙いを外す為には大きな動きが必要になる。

 だが屋渡(やわたり)も当然それは織り込み済みで、彼は彼で距離を取って戦おうとする。

 このままでは埒が明かない。


 なら、賭けに出るしかない!――(わたる)は右の半身を前に出し、その銃口から必殺の光線を発射した。

 原理はミロクサーヌ・改のものと同じで、凄まじい力を誇る破壊の光だ。


 屋渡(やわたり)がこれを回避できたのは(ひとえ)に戦いの中で培った経験と勘の賜物、一流の戦士であるが故だった。


 だが、彼は全霊を回避行動に向けていたため、(わたる)の次の動きへの対応が遅れてしまった。

 加えて、光線銃によって一瞬視界が奪われたというのも大きい。

 まさにこれこそ(わたる)の狙い、一発を敢えて囮にして捨てた彼の賭けであった。


 急接近、間合いの内側。

 (わたる)は右の半身を乗り出し、屋渡(やわたり)に腕の銃口を向ける。

 至近距離、外しようが無い。


 しかし屋渡(やわたり)は不敵に歯を剥き出して笑い、己が右腕の凶槍(きょうそう)(うね)らせた。


「そう来ると思った‼」


 槍の切っ先は一瞬の内に(わたる)の右腕、正に虎の子の武装、光線銃のユニットを貫いてしまった。

 盲点、これを破壊されてしまっては残りの弾数も何も無い。

 そして同時に(わたる)屋渡(やわたり)と繋がれてしまったので、止めの槍を回避する術は無い。


 まさに一巻の終わり。――その場にいる誰もがそう思った。


 だが、(わたる)は左拳を屋渡(やわたり)の腹に当てた。


「何ィッ⁉」


 そこには右腕と同じユニット、光線銃が備わっていた。

 ミロクサーヌ・改の光線砲は()()()()である。

 まさに、致命的な見落とし、視点漏れ。


 間合いを詰めた時、(わたる)は既にこれを形成していた。

 互いの盲点を突く戦略のぶつかり合いは岬守(さきもり)(わたる)に軍配が上がったのだ。


 一筋の光が屋渡(やわたり)の腹部を貫き、夜空の彼方へと走り抜けた。

第一章最終局面連続更新中

次回更新は、11月20日㈮

なお、第一章終了後は書き溜めの為更新に時間が空きます。

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