僕は平民
僕は平民。
王や貴族が治めるこの国の下から2番目の身分だ。1番下は奴隷と言うのも居る。
平民とは言え、裕福な家、貧乏な家、そして家すらない人だって居る。僕はその中では恵まれた方だっただろう。
堅実な"間引き"、魔引きとも呼ばれる魔物討伐で金を得る職業、の家に産まれ、少なくとも貧乏な思いをせずに生きてきた。
毎回が命懸けな魔引きは大金が手に入る。命を落とさずコツコツとやって来た両親のお陰で僕の今がある。まあ、僕の成人前にちょっと無理をしたらしく、死んでしまったけれど。
25になった年、両親の教えを継いで才能も有ったのだろう、ソロで結構実力のある魔引きになった僕にもその噂が届いた。
「ニセ聖女騒動?」
「ああ、有名だぞ?あのフェリカ様が聖女じゃなかったとかで、新しくアーリア様真の聖女だとか?」
「聖女って、あれだろ?魔力溜まりを簡単に散らせるってやつ」
魔力溜まりはその名の通り、魔力が溜まる現象で魔物はそこから発生するとか、魔物が住む魔界に繋がるとか言われている。まぁ、普通に繁殖する魔物も多いが、特に強い魔物が魔力溜まりから発生しやすいのだ。
因みに、腕の良い魔法使いなら現場で魔力を散らす事も出来る。聖女は正確には国規模で魔力溜まりが出来にくくなるんだったか。
「聖女にニセとかって有るのか?」
「さあ?実はそんな力無かったとかじゃねぇか?」
「それ、真の聖女が現れたら俺達の商売あがったりってか?」
「え~、ナニソレ困る」
なんて、馬鹿話で盛り上がってこの時は雑談の一つとして終わった。
聖女なんて雲の上の存在だからな。
「ぎゃーっ」
「アヅイアヅイ!」
「どけよぉ~」
「うわぁ!」
ニセ聖女が追放されたと聞いて、数日後。
「エー、ナニソレコマル」
王都は大騒ぎになっていた。ドラゴンの出現である。
まあ、明らかに魔力溜まりから発生したっぽい奴である。
「チクショウッ、真の聖女とやらが偽物なんじゃねぇかッ!」
と、叫んだ奴が五月蝿いとばかりに燃やされた。
そして更にパニック。火は燃え移り、モノを人を家を燃やして灰に変えていく。
ドラゴンは、強いがそこまで大きい訳でもなく一思いに王都ごと燃やされなかったのが幸いか。いや、炙りだして人を食べる為か。とにかく僕は見知った人を、いつも通う店も、全てを無視して気配を消して駆けた。
そして、王都を見捨てた。
「まて!王都ならドラゴンに襲われて火の海だ!」
途中道で、商人らしき集団に出会う。
「何!?だが、店が……」
「……」
「君、詳しく教えてくれないか?」
かかった。
「食料なんかは有るか?」
「あ、ああ。情報量として渡そう。一度、引き返す。道中でも良いかな?」
足と食料を手に入れた。
……。
「追放されたと言う聖女様なら心当たりがある。魔物の情報からしても帝国の都心付近には居る筈だ。どちらにしても王国はダメだな」
「帝国が本拠地なのか?」
「ああ。王国にもいくつか支店が有ったのだが。……ドラゴンから逃げ切れるだけでも君は優秀だろう。私の店で雇われないかい?」
「……いや、遠慮しておこう。僕も命が大事とは言え大勢見捨てた。自身の心の安寧の為にも帝国の国境付近で魔引きとして活動する事にするさ。帝国とは言え端のほうじゃ聖女様の力も届かないだろうしな」
聖女サマは図太いなぁ。やっぱり、貴族だからしもじもの者はどうなっても気にしないのか。
「そうか……。まあ、帝国内の大きめの街なら私の支店も有るだろう。是非とも御贔屓に」
「ははっ、商人さんの方が結構な大物じゃないか。じゃあ、そっちからも結構な貰い物したし、お返し」
聖女サマの情報とか、伝とかね。
「こ、これっ」
「どさくさ紛れに拾ってきた。そのうちどっかの英雄が倒すだろうけど?」
「ドラゴンの鱗……いや、確かに。この段階でのコレの価値は大きい。商人は信用第一、君の信頼には答えよう」
何だかんだ、強力な商人との伝を手に入れて第二の人生は比較的余裕を持って始まった。
「う"っ……」
それでも、夢に見るのは真っ赤な光景。血か、火か、それとも次は僕だと追いかけてくるドラゴンの紅い眼か。
ゴメンナサイ。
その日を必死に生きる僕に選択肢なんて初めから用意されてない。
僕は平民。
皆、必死なんですよ!
どーして神サマは個人に変な力を与えるのか。