24.『特別』
読む自己。
目を開けると部屋は真っ暗だった。
横の彼女はすーすーと気持ち良さそうにまだ寝ているようだ。
「凛、起きろ」
彼女はんんと唸りつつも目を擦りつつ体を起こした。部屋を見回して最後に俺を見て数回瞬きをする。
「……あ……もう19時超えているのね……寝すぎてしまったわ」
どうして葉か唯が起こしに来なかったのかが気になってスマホを確認すると、今日は浅見家に泊まってくるというメッセージが送られてきていた。
つまり、明日になるまでこいつと2人きり……。
「凛、葉達は向こうに泊まってくるってさ、飯食いに行くか?」
「……確かにお腹空いたわね……ハンバーグが食べたいわ」
「そりゃ腹減るだろうお前は、行くぞ」
温かい格好をさせて夜道を歩いて行く。
ファミレスだって遠いわけじゃないのですぐに着いた。
案内された席に座ってメニューを見ようとしたら彼女がこちらを見ていることに気づき意識を向ける。
「そっちにもメニューあるだろ?」
「……お腹も空いてる……けれど、眠たくて」
「あれだけ寝たのにか?」
仕方ないので正面から横に移動し頼む物を決めてもらってから「来るまで体重預けて寝てろ」と言って店員さんを呼び俺も同じのを頼んでおいた。
それにしても俺に寄りかかってすぐに寝始めた彼女をどうしてくれようか。来たら起きるのか? という疑問が食べ物が運ばれてくるまで消えなかった。
一応、いい匂いに食事をしなければならないと脳が判断したのか頭をフラフラさせながらも食べ始めてくれたので安心……はできなくて。
「馬鹿、ソース付いてるぞ」
紙製ナプキンで口元を拭いてやる。だらしねえし無防備だしアホだし……それなのにどうしてそこが可愛いなんて思っているんだろうな。
まあそれより問題だったのは引っ込めようとした手の指に奴が寝ぼけてかぶりついたこと。
「おい、それ俺の指だぞ」
「ふぇ……美味しい」
俺の指美味しいのか? なんて真剣に考えたりなんかしない。
むしゃむしゃとしゃぶりつつ最後に歯を立てようとする前に引っこ抜いためなんとか噛みちぎられることはなく俺の指はそこにあった。
「ほら、俺が食わせてやるからフォークかせ」
詰まらないよう小さく切り分けさしては彼女の口へ、……俺はさながら親鳥だった。
「……おいちい……」
「そうかい」
そんなこんなで全部食わせて俺も自分のを食べ始めた頃には冷めていて少し寂しさが込み上げた。
食べ終わり忘れ物がないよう確認してから彼女を背負って会計を済まし寒い外に出る。
「……げーん……」
「なんですかー?」
「きすしてー」
「駄目だー」
「じゃあきょうはいっしょにおふろー」
「仕方ねえから洗面所にはいてやるよ、そうしないとお前沈みそうだからな」
というわけで家に着いたら洗面所に直行しそこに彼女を下ろす。
「じゃ、浴室入る前に声かけろよ?」
「……いればいい」
「……さっさと脱げじゃあ」
抱きつかれてちゃいつまで経っても俺が風呂に入れなくてしまう。
ちなみに、基本的に19時に風呂予約はしてあるので帰ってきたら入れるわけだ。
目の前で全部脱いでふらふらしつつも扉を開けて入ってくれて安心した。
「なにやってんだろ俺」
そもそも同級生の裸見てなにも興奮しないってやばくないだろうか。
きちんと彼女がぼけっとしないでくれていることに感謝をしつつ洗面所の壁に背を預けて座る。
「げーん」
「はーい」
「はいってきてー」
「はー……できませーん」
「はぁ……乗りなさいよ」
「やっぱりな、乗れるわけないだろ」
ただ、少し甘えた感じも悪くはないかなと思えたし今日のそれが全て問題があるとは言うつもりはない。
「2人……よね?」
「そうだな、寂しいか?」
「ええ、唯さんと一緒にいると賑やかだから」
「ちなみに寝不足の原因は?」
「……あなたに勝ちたかったから」
俺のせいってことかと呟く。
「だから……あなたのベットで」
「いいのか? って、お前が聞いてきてるのか……そうだなー俺のせいなら仕方ないなー」
「でるわ、あなたも早く入って」
「おう、って、待て待て、いったんでるから服着たら教えてくれ」
とは言っても朝から着てたものかと思い出し俺の服を持ってくることに。
「ほら、これ着ろよ」
少しだけ扉を開けて中に放る。結構でかいものにしたので困ることはないだろう。
数分後彼女が開けてくれたので中に入る。
「し、下着……」
「わざわざ言わなくていい、いったん部屋に行ってつけてくればいいだろ?」
「そうね、ありがとう」
でていったのを確認して脱いで浴室へ。
温かい湯を頭からかぶりどうせあとは俺しか入らないので湯船につかった。
「はぁ……今日もいろいろあったなあ……」
パフェ食わしたり、施設に行ってクラスメイトから隠したり、ゲームセンター行ってプリクラ撮ると思ったら抱きしめられてキスとか言われたり、帰って昼寝して飲食店に行ったら彼女が寝ぼけてたりと、まあ陰キャらしからぬ1日を過ごしたのは確かだと言えた。
昼から夜まで寝たくせに俺もうとうとしはじめてすぐにでることにした。
タオルで拭いて服を着て歯もきちんと磨いてから部屋に帰る。
「あぁ……」
ベットに寝転ぶとすぐに眠気がやってきたが、彼女がくる前に寝るわけにはいかない。
「言君、眠たいの?」
「ああ……多分お前のが移った……」
「そう、それじゃあもう寝ましょうか」
元々電気はつけていなかったので扉が閉められたことにより真っ暗な部屋となる。
布団に入ってすぐに彼女も入ってきて、でもどうでもよくて俺は目を閉じた。
「言君」
「……あ?」
なんでなにも言わないのかと疑問に思っていたら耳元に口を近づけてきて「好きよ」と言ってきた。
「……ああ」
「あら、すぐに俺は違うって言わないの?」
「ふぅ……やれやれ、お前のせいでどっかいっちまったよ。そうだな、俺も好きだぞお前のこと」
「友達として、だけどな、なんて言うのでしょう?」
「よく分からないんだ、俺はお前を特別視しているのかどうかも」
あのときと違って抱きしめられてもドキドキはしなくなって逆に心地良さを感じるようなった。
あの暴力的と感じる柔らかさに触れていたとしてもずっとそれで、問題なのは唯にも似たような感情を抱いているということだろう。
友達としての意味ならともかくとして、特別な意味で好きになるってどうすればいいんだろうか。
「なあ、どうすれば特別な意味で相手を好きになれる?」
「意識して好きになるようなことではないでしょう?」
「それだと俺らの関係はずっと曖昧なままだぞ」
「だからってキスなんてしてくれないでしょう?」
「…………するか、するぞキス」
曖昧な関係を続けてより大きなダメージを与えるくらいならここで決める。
「は……いいの? 唯さんがいない状況でするのは卑怯じゃないかしら」
「もしこれで意識が変わらなければ悪いがお前とは終わりだ、きちんと唯に言って同じように時間を過ごしてまあ似たような流れになったらそのときもする。彼女としても変わらなかったらもう恋というのをしようとは思わないだろうな」
そもそも他の女と気軽にキスしたやつとしてくれるとは思えないが。
「で、どうする、今回も同じだ、お前が後悔しないと言うなら受け入れてくれればいい。無理なら拒んでくれてもいい」
「いいの?」
「だから俺が聞いてるんだって」
「……しましょう」
こくりと頷いて体を起こして似たようにした彼女と向き合う。
両肩を優しく掴みそのまま顔を近づけ彼女の唇に自分のをあて……れなかった。
「やっぱりこれで確認は駄目だ、だってこれをしてもあいつとの差は分からないだろ?」
先に彼女としているならともかくとして、比較対象がないこれをしたところで無意味に終わるだけだ。
「……ひ、ひどいじゃない……」
「悪かったっ! 本当にどうかしてた!」
頭を下げる。
悪いのは全面的に俺、だからなにを言われようと言い訳をするつもりはない。体育倉庫に閉じ込められたときと一緒で謝るだけ。
「頼む……泣かないでくれ」
頭を上げると声もださずに彼女が泣いていた。
涙を指でぬぐって何度も泣いてほしくないと気持ちを伝える。
「ね、寝ようぜ?」
「……自分の部屋で寝るわ」
「あ、そうか……いや本当に悪かった!」
引き止める資格はないので見送り俺は寝転んだ。
なにをやっているんだ、なんて言う資格もないから大人しく目を閉じて流れに身を任せたのだった。
本当はキスさせるつもりだったんだけどね。




