23.『多分』
読む自己。
2月5日――昨日実力テストを無事に突破し今日は休みだった。
そしてあと30分くらいしたら凛と出かけるということが決まっている。
商業施設とか水族館とかそういうのではなく、ただそこそこ近くの喫茶店に行きたいらしい。
お金は沢山あると説明しても「別にいいわ」と言われて本人が希望するならと俺も了承した。
「言君、そろそろ行きましょう」
「あ、まだ早いけどいいか」
一応それなりの金額を持って俺らは早くに家を出た。
……にしたって9時に出るのは早い気がするが、どういう計画を立てているのだろうか。
早くやっていることはしっているので向かって店内に入る。
喫茶店だから静かかと思えば、この店は何故か賑やかなんだよなと内心で苦笑した。
案内された席に座ってメニューを開く。
「パフェでも食べるかなー」
「あら、意外な趣味ね」
「そうか? 甘いの好きだぞ俺」
いちご牛乳を選んだのだって俺がいちごを好んでいるからだ、まあ本物のいちごといちご牛乳では全然味が違うけどな。
俺はストロベリーパフェにして彼女が選び終わるのを待つ。
「私はココアかしら」
「そうかい」
呼んで来てくれた店員さんに伝えて俺は窓の外に視線を向けた。
「凛、今日はこの後どうするんだ?」
「どうもしないわよ? 今日はここが終点でございます」
「は? ……特殊だなあ」
まだ時間は9時を少し過ぎたくらいなのにここが終点て……あまり乗り気ではなかったのだろうか。
少ししてココアがきてストローをさし少しだけ飲む彼女を何となく眺めた。
「なに?」
「いや、別に何でもない」
彼女は「おかしい人ね」と笑ったが、ココアだけというのも微妙だろう。
だから俺はやってきたストロベリーパフェのメイン部分をスプーンですくいやることにする。
「ほら食べろ」
「えっ? あ……んんっ」
奴が口開けたのを好機と見据え突っ込んでおいた。
何というか遠慮されるとむかつく、それだけでしかない。
「……ん……ちょっと危ないじゃないっ」
「美味かったか?」
恥ずかしそうにこくりと頷いたことに笑い俺も自分のを食べることにした。
「あ~甘いのって落ち着くな~」
昨日までテスト勉強を頑張っていたから体にしみるっ。
ネックなのは小さいのに1000円吹き飛ぶことだろう。
「それ……」
「は? まだいるのか、ほら」
「……そうじゃなくて間接キス……」
「俺らはもう体験した仲だろ? 抱きしめもしてるってのに今更恥ずかしがるなよ」
あの時からこちらも抱きしめるのが当たり前となってしまっていた。
問題なのは、これをしているのは目の前で顔を赤くしている彼女だけ、ということ。
俺の中での気持ちが固まったのかと問われれば、それでも自信を持ってそうだとは言えなくて。
「ほら食っとけ」
「……ん……美味しい」
こちらから口を見えないよう覆いつつももぐもぐ食べているのは丸わかりだったが、嬉しそうだし別にいいだろうと割り切って俺も残りを食べ終える。
「早えな、これで1000円札を食ったのと一緒だ」
スプーンをグラスに入れるとカランと少し高い音を立てた。
「おい、暇だぞ」
「……出る?」
「一応持ってきてるし出てもいいぞ」
「そうね、せっかくのお休みなんだし色々歩いてみましょうか」
彼女の分も払って外に出ると冷たい空気が俺達を包む。
それでもすぐに帰りたいとならないのは、こいつが横にいて心地良さを感じているからだろうか。
結局商業施設の方へ向かうことに決めた俺らは歩いていた。
冬ということもあって全然通行人とすれ違うことはない。
だから休日にデートまがいのことをしていたとしても見咎められることもない。
途中から繋いでいた手を商業施設に入ってからも離すことはせず、俺は適当に見て回る。
「言君っ」
「ど、どうした?」
「私ここに初めてきたわ」
「は? え、まじ?」
友達いない俺だって昔はよく母親と行っていたもんだが……。
なんか人が多すぎるとかそういう理由ですぐにソファで休むことになってしまう。
「ねえ……いつもこんな多いの?」
「そうだな、今日は土曜だから仕方ないな」
平日だって正直いつも多いと説明しておいた。
そのときあまり興味を抱いていない俺でもクラスメイトが向こうからやってきたことに来づいて、正面に立ち彼女の左横に自分の頭を移動させた、ちなみに、少し移動させればキスできてしまう距離ではある。
横目でちらりと眺めてこんなところでいちゃつきやがってという視線をもらいつつも今度は右側に移動させ絶対に見せないようにする、俺の顔なんか覚えている奴はいないので俺だからこそできる芸当だった。
「ふぅ……まさか出くわすとはな、悪かったな凛」
「……少しトイレに行ってきてもいい?」
「ああ、待ってるから行ってこい」
というか、俺が通行人のフリをすれば良かったとのか。
やっちまったかなあ……でも俺が嫌われようともこれで勘ぐられることもないわけで。
ぼけっと人を流れで目を追っていたら一応彼女は戻ってきてくれた。
「ねえ、ゲームセンターに行きましょう」
「お、知ってるのか? じゃあ行くか」
雑貨屋を見るという趣味もないのでその提案がありがたい。
3階に移動してすぐ正面の所にゲームセンターはあった。
UFOキャッチャー、コイン台、パチンコ&スロット台、レースゲームやリズムゲーム筐体などがあるしそのほとんどが最新で見ているだけで楽しくはある。
「おい、大丈夫なのか?」
人が多すぎてすぐ休んだくらいなのに騒音も激しいここで大丈夫なのだろうか。
「えっと……クラスの子が言っていたプリクラってあれよね?」
「おう、写真撮りたいのか? 行くか」
彼女とそこまで行って彼女だけ中に入らせる。
するとすぐに彼女が顔を出して「入りなさい!」と怒ってきた。
男でプリクラとか……とは思いつつも中に入ることに。
「俺は使い方分からないぞ?」
「私だって分からないし、そもそもこれに用はないもの」
じゃあ何でと聞く前に抱きしめられてしまう。
「あなたと2人きりになりたかったの」
「帰ってからでいいだろ?」
最近は拒んでいるわけでもないし抱きしめられれば抱き返してやるくらいなのにまだ足りないというのかこの変態少女は。
「駄目よ、だってこれだけで終わろうとは思っていないもの」
「これだけで終わらないって何をするんだ?」
「キス、唯さんに決められる前に私が決める」
キス、リア充がよくSNSとかで気軽にあげるあれか。
「それは無理だな」
「なっ、んでよ?」
何でそんな驚いたような声出すんだ、驚きたいのはこっちだというのに。
簡単に自分を曲げた俺が言うのはおかしいが、それはいささか度が過ぎているのではないだろうか。
「帰る」
「ま、待ってよっ、わ、分かったから……」
こいつだけに抱きしめ返しているのは特別じゃない。
自分より逼迫されておりテスト勉強をしなければならないということで単純に抱きついてくることが失くなっていたというだけだった。
つまり、求められれば俺は多分唯にだってやるわけだ。俺がこいつと決めたのならともかく、何も決められていない今ではキスなどできるわけがない。
「……唯さんなの?」
「違う、流石にこの先はもっと真剣にならなくちゃいけないってことだ。俺が好きでお前が俺を好きじゃなければしてはいけないと思ってる。これまでのように後々後悔してもお前がしたければすればいいなんて言えないんだよ」
「そうよね……ごめんなさい」
「いや、俺も正直思わせぶりな行動をしているわけだしな、しかも、保険をかけているようなもんだから謝るなら俺の方だ、悪い」
用もないのに占領するのは迷惑なので出て俺らは帰ることにした。
求めてきたから手を繋いで歩いて外に、そして道を歩いて家へと向かう。
そして家に着いたらリビングに行ってソファへと寝転んだ。
「はぁ……悪いな、楽しませてやれなかった」
「いえ、パフェ美味しかったし」
「そういやお前、あげた物以外は食ってなかったか……」
だからって何かを作って提供することもできないが。
葉と唯もどこかへ出かけているので2人きりの空間で。
俺はソファに寝転び、彼女はただ側面に突っ立っているだけ。
どちらも話さない、それなのに気まずさはそこになかった。
「まだお昼前ね、どうしましょうか」
「そうだな、言い方はあれだけど暇だな」
俺はそれでも良いが立っている彼女が疲れてしまうので、自室に行くことにした。
ベットに寝転んで彼女は適当に端へと座らせる。
「俺はこのまま沈黙でもいいけどな」
「そう? 私は……少し物足りないけれど」
「そうは言ってもこの家で昼寝意外にやれることなんて勉強かネットサーフィンくらいだぞ」
「じゃあお昼寝しましょうか、お家デートってことで」
「せっかくテストでお前が勝ったなのに大したことしてやれなかったからな、良いぞ」
布団に入って目を閉じる。
「おやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
キスなんかに比べたら寝るくらいなんてことはないだろ、多分。
うーん、事前に気軽に抱きしめさせたりすると書きにくいね。




