22.『責任』
読む自己。
「ゆ、唯様が来たのだっ」
「キャラおかしいぞー」
ネットサーフィンをやめ面倒くさい少女を眺める。
俺の視線にいたたまれなくなったのか、彼女は変なポーズを取ることはやめた。
それでも戻ることはせず俺の隣にゆっくりと座って言う。
「ね、実は先週にね、男子バスケ部の先輩から告白されたんだ」
「へえ、それでどう答えたんだ?」
「ごめんなさいってすぐに断った」
「勿体ないな、あまり良くない感じだったのか?」
俺の問いに彼女はゆっくりと首を振って「格好良かったよ、高橋君くらい!」と笑って言った。
「どうして――」
「言う必要はないでしょ? ……だって、私はここにいるんだから」
俺の右手をぎゅっと握ってこちらを見つめる彼女。
どう反応すればいいんだよとは思いつつ、「そうか」とだけ答えておいた。
「いつか1方的ではなく握り返してくれれ……」
「……別にお前が特別じゃないけど、これくらいならしてやるよ」
選ばなかった時により傷つけると分かっていても、ちらりと確認した彼女の顔が凄い寂しそうだったから仕方ないのだ。
何回も確認した、後悔しないならしていいと、そして彼女はこうしてしているわけで、ただそこに俺が握るという要素が加わっただけだ。
「手柔らかいな、こんなんでよくスリーポイントとか打てるなお前」
「……うん」
「お前がバスケをしているところを早く見たいかな。最後は微妙だったし蓮にも謝らないとな」
「あっ、そういえばそうだぁ!?」
彼女は手を離してうぅと頭を抱える。
「あいつは良い奴だ、どうせ話せば分かってくれる」
「言、付き合って?」
「ああ、それくらいならお安い御用だ」
それから1時間くらい彼女はゆっくりして「テスト勉強頑張ってくる!」と言い出ていった。
「言、正座」
「はいはい」
問題だったのは俺の部屋に隠れていた彼女の存在だろう。
「なんで最近は全然構ってくれないの?」
「いや、色々あるんだよ俺らにもさ」
「私の方がずっと言のこと好きだった」
「それはないだろ、幼稚園の頃なんて俺のこと怖がってたぞ?」
蓮の後ろに隠れるように生活していたため疑う奴も結構いた。
それでも蓮は「きにしなくていいよ、あかねちゃん」と笑っていたし、茜だってやめようとはしなかった上に「れんくんがすき」とか言っていたので、俺以外にも妬いてた人間が実は結構いたのだ。
こいつは小さい頃から可愛いだったから求められることも多く、俺以外の人間にもよく怖がっていたなと思い出す。
「「れんくんが好き」って言ってたろ?」
「そんな古い時代のことは知らないよ」
「古いって……まあそうだけどさ」
「言、抱きしめて?」
こいつの場合は後ろからになるので何か余計にアブノーマル感がありあまりいい感じではないのだが。
そういや……こいつには自分から抱きしめてたじゃないかっ! と思い出した時にはもう遅い。
「最近も告白されているのか?」
「うん、全部断ったけど」
「あれ、格好良い人のは保留だったんじゃ?」
「うん、だって言からのだもん」
「待てっ、俺は告白してないぞ!」
「お前がいてくれて良かったって言ってた!」
言っただろうか……お前がいてくれたからあの時に踏み止まれた、とは言ったが。
「凛と唯と茜、誰が好きなの?」
「誰も特別な意味で好きじゃない」
「でも自分の意思で抱きしめているのは私だけ、そうでしょ?」
「よ、よく知っているじゃないか……」
これも盗聴器パワーかもしれない。
凛からのあれは本当の意味で好きかどうかは知らないが、人気者2人と可憐なバスケ少女に求められていることが今でも信じられなかった。
いつまで経っても興味すら抱かれなくて人が離れていくばかりだった人生が唐突な変化を見せている。
そして、俺が陽キャのように選べる立場にあるということがたまらないほど違和感を感じて、良い立場になったらなったでまたこのもやもや感、気持ち悪さを抱くことになるのかと内心で溜め息をついた。
「自分が責任取らなくて済むように抱きしめさせてるよね言は」
「ど、どこまで知ってるんだよ……」
「これ以上もやもやを抱えさせるのは可哀想、私を含めて」
「お前もかよ……」
「だから早く誰かを選んで」
私だけ見ていればいいとは言わないのか。
そうだな……凛に感じているのは優しさとか柔らかさ綺麗さ外面の要素が強いが、唯に感じているのは内面の綺麗さのような気がする。
クールな美人が照れても少し臆病なひたむき娘が照れても魅力的だ。
「無理だ、今のところはやっぱり駄目だな」
「振られたんだよねいま」
「は?」
「だって言は凛と唯のことしか考えなかった」
俺はぎくりとしてつい腕に力を込めてしまう。
「……冗談だったんだけどな」
「あ……悪い」
「帰る、またね」
「き、気をつけろよな」
茜が出て行って10分くらい経った後彼女がやってきた。
「来ないんじゃなかったのか?」
来訪者である彼女は複雑そうな顔でこちらを見るだけだ。
ここに訪れたということ=寂しいというアピールになってしまうからだろう。
「唯さんか私、2人だけに絞られたということよね」
急に話したかと思えばそんなこと……。
「聞いてたのかよ」
「違うわよ、七瀬さんが言いに来てくれたの」
「じゃあ俺のところには最低って言いに来たのか」
俺はベットに寝転んだ。
だって仕方ないじゃないか、茜とは中学時代全くと言っていいほど関わりがなくなっていたんだから。
好きとか言われても説得力を感じないし、そもそも俺が彼女のことをやはり見られなかったから。
葉の暴れが直ってからも結局変わらなかった、俺とあいつは幼馴染、ただそれだけのことで。
「それも違うわ」
起きるように促されて起きると抱きついてくる。
「あなたのことを好きな人間が少なければ少ないほど楽になるのよ」
「分からないな、お前はどこを好きになったんだ?」
「あら、私があなたを好きだと言ったかしら? 自惚れではないの?」
「あーそうかい、そうだよな、俺を好きになる人間なんていないよな」
そんなことは分かっていることだ。
ましてや相手が綺麗だったり可愛いだったら美人局ではないかと警戒をするのも当たり前のこと。
「不貞腐れないでよ、冗談に決まっているじゃない。そうね、意外と響きにくそうで響くところかしら」
「それじゃあお前が嫌いな人間と一緒なんじゃないのか?」
「ふふ、今だって抱きしめてくれているじゃない、そういうところよ」
あ……何をやっているんだ俺は。
慌てて離そうとしたら「駄目よ」と真面目な声で言われ離すこと叶わず。
「どう? 抱きしめた感じは」
「どうって既に1度はしてたからな、柔らかいとしか」
「それはどういう意味で柔らかいの? 雰囲気が? それとも体やむ・ね・が?」
「わざわざ強調する辺りが変態だなお前は、胸って言ったらどうするんだよ」
いや、嫌でも意識してしまうくらいの攻撃性を伴っているが……。
「別にいいじゃない」
「なら言うけどさ、胸揉みたいくらい柔らかいわ」
「そう……なら仕方ないわね」
俺が腕を離すと彼女も離して距離を作った。
それで俺の手を取って自分のに――
「するか馬鹿、そういうのはいいんだよ」
触れる直前で寧ろ俺が彼女を引っ張ってやった。
俺はベットに寝転んでその上に彼女が乗る形になる。
い、痛えし重え……というのが正直なところだ。
「ちょ……こ、こういうことするつもりじゃあ……」
「分かってるよ、下手をすれば犯されるって言っただろ? だからやめとけ」
「え、ええ……」
「下りてくれ、そろそろ寝るわ」
彼女は大人しく俺の上及びベットから下りて部屋を出る前にこちらを向く。
「おやすみなさい」
「おう、おやすみ凛」
「今日は……積極的だったわね」
「ふっ、今日のは俺じゃないな、明日からまたチキンに戻るから安心しろ」
彼女はくすりと笑って出ていった。
俺はすぐにベットに顔面を押し付けて――
「何やっでんだぁ……」
と、言った。
抱きしめたらそりゃ柔らかさに意識するだろうね。




