21.『勇気』
読む自己。
今回は本気で凛に勝つべく休み時間に犠牲にしてテスト勉強に励むことにした。
どうせ勝負をするなら努力をして負けたい、違う、勝つつもりでやれば万が一ということはある。
しかし……やろうとすればするほど、やればやるほど意味はあるのかと考えてしまうのだ。
別にいちいちテストで凛が俺に勝たなくても出かけるくらいはしてやるし、がむしゃらにやるよりかは夜に1時間彼女に教えてもらって集中するほうが良いのではないかと思ってしまった。
だから昼休みが始まったら適当にぼけっと席に座って時間が経過するのを待ついつもの俺がそこにいて。
「ご飯食べないの?」
凛がやってきて呆れた表情を浮かべている。
ということは今の俺の顔や雰囲気がアホっぽいんだろうなこれは。
「今日はいいわ」
あれから毎日1000円貰うようになってお金は沢山あるが動く気にはなれない。
テストの件は適度に頑張って敗北し出かけれればいいと考えているのだろう。
「これあげるわ」
「牛乳のパック? いつ買ったんだよこれ」
「今朝ね、飲み損ねたの」
ぬるい牛乳とかどんな拷問とは思いつつ中身を一気に飲み干す。
「あ……全部飲むんじゃないわよ」
「え? あ、悪いっ、今から買ってくるわ!」
あげる、は全部を飲んでいいというわけではないようだと学べた。
買ってすぐに戻ってきて彼女に手渡す。
「いちご牛乳の方が美味いぞ」
「牛乳じゃない」
「そうだけどさ、女の子っていちご好きなんだろ?」
「万人に当てはまるということではないわ、でも、ありがと」
空のパックからわざわざストローを引き抜いていちご牛乳のパックにぶすりとさす。
それをちゅうちゅうすいながらも顔を赤くしてやがる彼女に「おい」と言っておいた。
「……わざわざ新しいの使ったら勿体ないでしょう?」
「だったらいちいち顔赤くするな馬鹿」
俺が陽キャか格好良いだったら別に良いんだけどな。
とはいえ、これまた人気者の茜と関わっていても周りは何もしてこなかった。
だから俺が必要以上に恐れているだけなのかもしれない。
それともあれか、こいつが佐藤に選ばれるわけない、ということだろうか。
「凛、もうあの勝負はお前の勝ちが決まってるし明日にでも行くか」
「ぶふぅっ!?」
「き、汚い……」
「ご、ごめんなさい!」
いつもの癖で持ってきてしまっていたタオルで顔を拭く。
「だってどうせお前の勝ちだろ?」
「そ、そんな簡単に受け入れられても……少し勇気を出したつもりなのよ?」
「ただだか同じクラスの男誘うくらいで勇気って……」
しかも彼女の方が人気で片方はマイナス思考の陰キャだぞ。
普通「行ってあげるわ、光栄に思いなさい」くらい言うべきではないだろうか。
それか俺が土下座して「一緒に行ってください!」と頼むべきだろうか。
仕方ねえ、あくまでクラスメイトからすれば困っている人を放っておけないだけ、というイメージを作っておこう。
「凛さん、一緒に出かけてください!!」
床に土下座して彼女にお願いする。
教室はざわめいたが俺は聞き逃さない、今「やっぱりな」という声が聞こえてきたことを。
周りも本気で俺と彼女が対等だとは思っていなかったんだろう。
土下座をしなければ一緒に出かけてもらえない劣等の存在を笑ってもらおうじゃないか。
「ちょ、あ、あなた、やめなさい!」
こいつ空気と流れ読めねー……。
返事は今日中にくれと残して教室を後にする。
一応顔を洗いたかった、凛が吹き出したから汚いというよりも牛乳だから気になっていたのだ。
1部の人間にとってはご褒美なんだろうなーなんて考えつつ洗って、戻ろうとするととことこと彼女がやってきた。
「ごめんなさい……」
「気にするな、美味かったか?」
「いえそれが……ほとんど味が分からなかったわ」
「まあほとんど吹き出しただろうしな」
「そうじゃなくて……か、間接キス……だったから」
「……勿体ねえな、せっかく買ったのによ」
自分用の飲み物を買うということはあまりしない俺にとって、それは結構レアなことだ。
彼女にプレゼントしたというのに全然味わってもらえなかったのは少し寂しい。
「ねえ……」
「……ここじゃ無理だぞ」
「屋上……」
面倒くさいことにならないよう確認すると今日は雨が降っていないようだ。
階段を登って屋上へ、冬で寒いということもあって人は誰もいなかった。
俺は一応しっかりと前後左右を確認してから腕を広げる、すると彼女はガバリと抱きついてくた。
「……やっぱり落ち着く」
「そうかい」
その時人の気配を感じて横の壁に彼女を押し付けた。
驚きによって彼女が腕を離したので少し距離を作る。
「……私だよ」
「唯か」
「またしてたんでしょ?」
「こいつが寂しがり屋だからな」
「ねえ、私もいい?」
俺は凛が言っていたことを思い出し「お前が後悔しないなら」と答えた。
するとゆっくりとおずおずと彼女は抱きしめてくる。
「凛さん、これは見せつけるためじゃないから、だってフェアじゃないよね?」
「ええ、分かっているわ」
唯に抱きしめられて分かったことだが、自分が不安を感じていることに気づく。
こいつに信用されていないのではないのか、ということ。
彼女が回している手に触れてみるとやはり冷たくて。
「唯、信用できないなら無理するなよ」
「え? 信用してるよ?」
「は? だっていつも手冷たいぞお前」
「あ~冷え性なんだ私、結構酷くて困ってるんだよね」
「あ、そうなのか?」
腕に力が入ったとかではないし嘘を言っている感じはしなかった。
「うーん、凛さんが言ってた気持ち分かるかも! なんか落ち着くなって」
「そりゃどうも」
「でも……抱きしめてくれないのはもやもやするし……やっぱり……ドキドキする」
「抱きしめないのは我慢してくれ」
短時間の間に2人から抱きしめられるとかどんなチャラ男だよ。
不安がなくなった今としては、彼女は背が低いし何か凄いふにゃふにゃしているのが気になる。
バスケをしているくせにこんな柔らかくて良いのかよと、……前は固いなと、まあ言わないが。
「唯さん」
「うん、5分だよね」
いつの間にかそんな取り決めが2人の間でされていたらしい。
「……テスト勉強頑張れそう」
「ま、抱きつくだけならご自由にどうぞ」
「あなた、もうドキドキはしないの?」
「そうだな、俺も1歩陽キャに近づいたのかもしれない」
陽キャ=こういう行為を簡単にするという偏見があるのは否めない。
中には軽そうでも本当に大切にじっくりと関係を深めてやる奴だっているだろう。
それを陰キャである俺は部分部分をスキップしてこんなことをしてしまっている。
まだかろうじて抱きしめはしないし手を握り返したりしないのが救いだろうか。
2人で出かけたりして可愛い部分を見てしまったらギュッと……まあ別に良いけどなそれでも。
「つまらないわねー」
「そう言ってくれるな、俺の理性が簡単にやられたらお前らは今頃ここに倒れてるぞ、全裸で、な」
「ふふ、怖いわね、こんな寒い空気の中服を剥ごうとするなんて」
普通に返されても困るが……。
「お出かけの話だけれど、約束通りテストが終わってからでいいわ」
「そうか、ならそうしよう」
「唯さん」
「あ……言、私もお出かけしたい」
「別の日だろ? テスト明けたら付き合ってやるよ」
彼女は胸の前で手を握って嬉しそうに笑った。
何だこいつ、バスケしてなくても魅力的じゃねえかと思うのは単純だろうか。
階段を下りて唯と別れる。
教室に入る前に凛が言う。
「交代交代だから夜は行かないから寂しがらないでね」
「お前こそ、寂しがって泣くなよ?」
「どうかしら?」
凛はそこで微笑んだ。
やっぱりこいつは綺麗だなと思わされるくらいには魅力的な笑みだった。
ここを敬語で書いてる人いっぱいだけど
それが当たり前なのかね?
読んでくれてありがとうと伝えたいにしては
必死に☆欲しいとかブクマしてくれとかそういうのだけど。
人気はちょっとしたことで何でも叩かれてしまう、ということか。




