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003  作者: Nora_
19/27

19.『後悔』

読む自己ー

 何とかやってしまった感を抱えつつも朝まで寝て彼女が起きる前にベットから下りた。

 だって仕方ない、同居人が寝れてないということなら少しでも良い環境を提供するのが普通だろう。

 のび○君並に早く寝てくれた彼女には「寝れるんじゃねえかよ」と突っ込みたくなったものだが。


「凛、起きろ」

「……げん……くん……」


 俺はいけないものを見たような気がして視線を逸らしつつも起こすことはやめなかった。

 何か卑怯だよな、こうして少し寝ぼけているだけでも魅力的に見えるんだから。

 彼女は静かに体を起こして目をゴシゴシと擦っている。


「あ……」

「寝れたか?」

「……ええ……」


 それならそれでいい。

 洗面所に行って顔を洗うことにする。


「おにいふぁんおふぁよっ」

「あーおう、とりあえずゆすげ」


 歯ブラシに歯磨き粉を乗っけて歯を磨く。


「……んっと、お兄ちゃん、昨日凛お姉ちゃんと寝たでしょ?」


 ……吹き出したのは言うまでもない。

 ごほごほと咳き込みつつ俺は葉を眺める。

 見に来たわけじゃないのにどうして分かるんだろうか。


「あんまり淫らなことはしないでよ?」


 こくりと頷いて鏡を見つめた。

 こんな普通もしくは以下の人間にそういう意味で近づいて来るわけがないだろうに。

 昨日のは……まあ勉強を教えたから寝床を提供しろということだろう。

 俺は変な勘違いをしない、自惚れもしない、いつだって自己評価は高くなくていい。

 終わらせて元の場所に戻し出ようとした時――


「あっ……」


 彼女と遭遇して一瞬だけ2人とも固まる。

 それでも何とか「……いちいち意味ありげなリアクションするな……普通でいてくれよ凛」と頭をぽんと叩いてから洗面所を後にした。

 そこからは普通で葉が作ってくれたご飯を食べて準備を済まし学校に向かう。

 教室に着いてから俺は気づいた……唯を起こしてくるの忘れてしまったことに。


「……言君」

「どうした?」

「あなたのおかげで……久しぶりによく寝れたわ」

「そうかい、お前にだって元気でいてもらわないと困るんだ、あれくらいならいつで……いや、やっぱりあれはあんまりだけどな」


 気軽にしていい行為ではない。

 だが、次もどうしようもなくなったのなら……。


「ちょっと言!」

「あ、おはよー唯」

「……高橋君の所に行くんでしょ?」

「あ、そういえばそうか……先に行っててくれ」

「うん、分かった!」


 何故一緒に行かなかったは彼女が袖を掴んできてたからだ。


「……甘えん坊か?」

「…………行かないで」

「約束なんだ、また後で構ってやるから」


 彼女の腕を優しく掴んで無理やり離す。

 教室ですると変な噂が出るかもしれないから今回は「また後でな」とだけ言って教室を後にした。


「遅いぞ言っ、浅見さんだけ来たじゃないか!」


 廊下で集まっていたらしく走って近づいてお礼とよろしくを言う。


「悪いっ、というわけで唯のこと頼むよ」

「ああ、と言っても今日が終わったら部活できないけどな」

「唯、だから沢山打っておけよ?」

「う、うん……」


 そうだ、蓮に興味を持った女の子を連れて行くと基本的にこんなもの。

 あのバスケ大好き少女である唯でもこうなるのかと考えたら、やはり彼は凄いなとしか思えない。


「げ、言……」

「ん?」

「言も来てくれるよね?」

「唯が望むなら行くぞ? 俺も蓮に教えてもらおうと思っていたからな」


 それでシュート力だけは彼女に勝ちたかった。

 そうすれば多少は俺でも少しくらいのアドバイスはできるようになるだろう。


「おいおい、どうしていちいち俺に頼むんだ?」

「は? お前が上手いからに決まっているだろ?」

「まあ良いけど……教室戻るわ、浅見さんまた放課後に!」

「う、うんっ、よろしくお願いします!」


 彼女とも別れて教室に戻ろうとしたら動く気配を感じず意識をそちらに向ける。


「戻らないのか?」

「昨日……凛さんと寝たの?」

「あ……ああ」


 ……同じ部屋で寝る予定の相手が帰って来なかったら誰だって気になるか。


「さっきだって袖掴んでた……」

「ああ……」

「特別な感情――」

「そういうのはない、寝れないって言ってたから寝かしただけだ。戻る、唯も戻れよ」


 風邪を引いた時みたいに会うだけでドキドキはしなくなった。

 でもそのかわり彼女の近くにいると心地良さを感じるようになったのは事実だ。

 しかし、そこ止まり、俺にも彼女にもそんなつもりはない。

 教室に戻ると俺の席に彼女が突っ伏していた。

 彼女を遠巻きに眺めつつひそひそと囁く周りを無視しつつ、腕を掴んで彼女を立ち上がらせる。

 まだ寝るのは早いと伝え席まで運んだ。

 別に俺が何を言われるのは構わない、……言われ慣れてるし今更傷ついたりもしない。

 だが、彼女は違うからできる限り学校では普通に過ごすべきだろう。

 前みたいな少女の対象が彼女に向いたら困るしな。

 少しして担任が来てHRが始まる。

 いつも通り特になく今日も1日頑張れという内容だった。

 席に座ってぼけっとしていたら横に彼女が――


「言……君」


 周りの奴らに見せたくないので慌てて廊下へと連れ出す。


「今日はどうしたんだよ」

「……寂しいの」

「俺はいるし関わりをやめたわけじゃないだろ?」

「……屋上、行きましょう」


 あまり時間に余裕はないが1番上まで上がって出ようとしたのだが、どうやら雨が降っているようだ。


「凛、外は無理…………」


 ……元からこれがしたかっただけなのかかもしれない……。


「大丈夫だ、俺はいるから」

「……ええ」

「だから教室で泣いたりとかするな、帰ってからなら幾らでも付き合ってやるよ」

「でも今日は……」

「ああ、まあ21時くらいからな」


 考えただけならともかく言ったことくらいは守りたいと考えている。

 唯のそれも彼女のこれも、優しくしてくれていることへの返しだと捉えてほしい。


「凛、離れてくれ」

「嫌……」

「抱きしめはできないが頭くらいなら撫でてやるからさ」

「……教室でも?」

「それは無理だな、廊下とかで周りに人がいなかったら」

 

 彼女は俺から離れてこちらを不安そうに見つめていた。

 「戻ろうぜ」と言いつつ頭を撫でてやったら、その手をギュッと握りしめられてしまう。


「下りるまで握ってる」

「ああ、いいから戻るぞ」


 クラスメイトが言っていた情報では綺麗でも冷たくて微妙という評価の女の子、ということだったが、しかし、俺の手を握って嬉しそうにしている彼女を、とてもじゃないが微妙とは思えなかった。




 19時まで蓮と体育館1階で時間潰しをしてから2階へ。

 既に誰の姿もなく俺らは勝手にボールを拝借し練習を始めていた。


「蓮、ちょっと見てくれ」

「おう」


 シュートを放るとリングがボールを無事に通過し、蓮が「鈍ってないな」と笑う。


「浅見さんはどうなんだ?」

「あいつのは綺麗だな、あ、ほら、来たぞ」


 島村の奴は今日いないらしく彼女1人だった。

 改めて彼女は蓮に「よろしくお願いします」と言って律儀に体操をしてからボールを手にとった。

 放る、蓮はすぐに「おお!」と声をあげた。


「あれならいちいち俺が来た意味ないな」

「いや、あれはお気に入りのボールだからだ、唯、ほら」

「うん」


 勿論、他のボールでも動いてなければもう外すことはしないが……やはり完全に綺麗とは言えない。


「なるほどなーというか動かずに打っても仕方ないだろ? ディフェンスするわ!」


 それでもお気に入りのボールであれば唯ならほとんど外さないはずなのに今日はボロボロだった。

 相手が蓮だからだろうか? ……それにしたって酷い気がする。

 そして急に足を止めて蓮が言った。


「やめよう、浅見さん全然集中できてないし危ないから」

「あ……ごめんなさい」


 彼女も言い返さず謝って俯くのみ。


「言、彼女を送ってやってくれ、じゃあな」


 しかもそのまま体育館から去ろうとするなんて実に奴らしくないが……。

 俺は彼女に近づいてさっき買っておいたスポーツ飲料を手渡す。


「どうした、明日から部活できないんだぞ? ……せっかくあいつだって来てくれたんだからさ」

「……なんで凛さんを抱きしめてたの」

「……見てたのかよ……」


 踊り場まで登ってきて盗み聞き及び盗み見されていたということだろうか。


「今日のあいつは寂しがり屋でな、HR終わってすぐ来たと思ったら泣いてたんだよ。盗み聞きしていたなら俺からしたことではないと分かったよな? ……頭を撫でたのは俺だけどさ」

「……幾らでも付き合ってやるって」

「ああ」

「21時からなにをするの?」

「知らないなあ……あいつの考えてることも唯が考えていることも分からないわ」


 ボールを放るとガコンと音を立て外れてしまった。

 気の持ちようというのは確かで、不安定の時はやはり入ってはくれないようだと気づく。


「どうするんだ? 俺は付き合ってやるけど?」

「……シュートはもういい……でも、凛さんと2人きりにならないで?」


 身から出た錆……好き勝手やってきたのが一気にきているということか。

 難しいっ、難しすぎてそろそろおかしくなりそうだ。

 どちらからも相手といてほしくないと言われてでもできなくて。

 突き放すこともできないからできる範囲で甘やかして。


「頼む、難しいこと言わないでくれ。凛にも言われた、唯といないでくれって。それでも俺はこうしているし、帰ったら凛にも付き合うつもりだ。我慢してくれ」

「分かった……着替えてくるから待ってて?」

「おう、ゆっくりでいいからな」


 外で彼女が口をつけなかったボトルの中身をちょびちょびと飲みつつ待っていたら彼女がやってきた。

 家へと帰るべく歩きだすとまた彼女が手を握ってくる。


「なあ、もし仮に俺がお前を選ばなくても後悔しないならしていいけど、後悔しそうならやめろ」


 一瞬離しかけた彼女だったが、改めてギュッと握って「だ、大丈夫!」と笑ってみせてくれた。


「ま、唯がいいなら、帰るか」

「うん……」


 今日も冷たいまま、か。

 それが俺には冬だからというだけではない気がした。

次から蓮の喋りかたを一人称僕タイプに変える。


うーん、最初は凛にするつもりだったんだけど

悩むな……バスケ少女である唯が俺の中でここまであがってくるとは思わなかった。

何も決めてないから全然違う結果になるんだよなあ。

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