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003  作者: Nora_
14/27

14.『無理』

読む自己ー

「あぁぁ……」


 翌日、俺はベットの上でゾンビみたいに唸っていた。

 彼女の心配をしていた自分が風邪を引いてどうするのだろうかと頭を抱える。

 昨日彼女と別れて葉のご飯をいち早く食べるべく急いでいた時に、幅の狭い川を飛び越えようとして失敗して落下、真冬の寒い夜空の下びしょ濡れで帰ることになってしまった。

 帰宅してからはためてくれてあった風呂にすぐに入ったものの少しだけ間に合わなかったようで、現在に至るという形になっている。


「お兄ちゃん……本当に1人で大丈夫?」

「おう、大丈夫だから気をつけて行ってこい」

「うん……終わったらすぐに帰ってくるから!」


 すっかり可愛い妹になってしまっていた葉はこちらを何度も見つつも部屋から出ていった。

 入れ替わるようにして凛がやって来て何かを手渡してくれたので確認すると……パンツのようだ。


「私のパンツよ、それで体調の悪さを何とかしなさい」

「難しいオーダーだなあーわー嬉しいー」

「行ってくるわ」

「おう、気をつけろよ」


 彼女が部屋から出ていったのを確認して床に彼女のパンツを叩きつけた。


「誰得だよっ、つかこれでどうやって紛らわせるんだよ!」


 一応洗ってあるやつだからまだいいものの、先程まで着用してたやつだったら……。

 ま、まあ、それはいいとして、唯のやつに連絡しておかなければならない。

 練習に付き合うのと送るって言ったのに翌日にこの様とは大変申し訳なかった。


「唯悪い、風邪引いたわ」

「えっ……こ、来れないの?」

「そこまで体調悪いわけじゃないんだ、8度くらいしかないんだ」

「寝ろっ、ばかっ!」


 馬鹿とは酷い女の子である。

 微熱が1番ダルい気がするので吹っ切れた今は楽だったんだがな。

 とはいえ大人しくベットに転んで寝ることに。

 寝ると流石に体調が悪化してきてどうしようもなくダルいし喉乾くし吐き気するしで最悪になってしまって、朝イキるんじゃなかったと後悔した。

 それでも何とか寝続けて寝続けた結果、16時20分、学校終了時間はやってきてくれた。

 昨日までなら体育館の舞台に座り込み女子バスケ部の頑張りを見始める時間だが、生憎と今の俺のいる場所は家、部屋、ベットの上だ。

 何故か凄く寂しい気持ちになって男だと言うのに涙が出そうになってしまう。

 それを誤魔化すべく寝て起きたら19時10分だった。

 そういえば妹はと疑問に思い体を起こすと、真っ暗な中でもベットに突っ伏して寝ている葉を発見、慌てて毛布をかけることに。


「…………ん……あ……お兄、ちゃん?」

「風邪引くだろ、寝るなら自分の部屋にしろよ」

「あっ、ご飯!」

「凛も腹減ってるだろうし作ってやってきてくれ」

「う、うん、行ってきます!」


 やれやれと苦笑しスマホを確認すると唯から電話がかかってきていたようで掛け直す。


「悪かったな、今日は行けなくて」

「だ、大丈夫なのっ?」

「ああ、お前こそ居残り練習はどうしたんだ?」

「……今日はやめた、1人で帰るの怖いし」


 俺は少し安心しつつ「それがいいよ、明日からまた付き合ってやるから」と言った。


「待って……高橋の家に行っていい?」

「は? 怖いんだろ? 今日はやめとけ、お前に風邪を移したくない」

「……じゃあ明日行く、良いよね?」

「おう、じゃあな」


 電話を切って次は凛の対応。


「私のパンツはどう使ったの?」

「朝に投げ捨てたら元気になったぞ」

「あら……酷いわね、ちょっとこっちに来なさい」


 ベットから下りて彼女の方に歩こうとしたらもつれてしまい彼女に抱きつく形になってしまう。


「わ、悪い……」

「無理しないの」

「……優しいじゃねえか」

「ふふ、あなたこそすぐに離れようとしないじゃない」

「……何かお前に触れてると涙が出そうになるわ……」


 いつの間にかこいつも家にいてくれなきゃ寂しい人間の1人になったんだなって俺は感じていた。

 彼女も今日はどこか優しくてこちらを片腕で抱きしめもう片手で頭を撫でてくれた。


「やめろって……」

「いつものお礼よ、たまには素直に受け取りなさい」


 同級生に抱きついて甘えることがどれくらい恥ずかしいのか分かっていないんだ彼女は。

 しかも今感じているのはこいつとは思えない柔らかさと心地良さときている。

 あまり甘えると日常に戻った時に脅しに使われるかもしれないから離れないといけないのに――


「……もう少し、いいか?」


 俺はそんなことを言っていた。

 

「ええ、葉ちゃんがご飯を作り終えるまでやってあげるわ」


 ……こちらの血迷った発言も馬鹿にせず、彼女も素直に認めてしまう。

 廊下の明かりにだけ照らされた自分の部屋で。

 いつもより綺麗で優しく感じる彼女に抱きついている。

 やばい……恋愛対象に見られないとか言っていたくせに、今あるのは心地良さではなく抱きしめられてドキドキ……。


「や、やっぱり離れてくれ……」

「何でよ?」

「い、いや……お前に抱きしめられてると……やばいんだって」


 全面に感じる暴力的なまでの柔らかさとか、少し妖艶に感じる微笑みとか、とにかくやばかった。


「あら……もしかして、理性が、や・ば・い?」

「わ、分かってるなら……」

「離さないわ、あなたから求めてきたのよ?」


 優しいなんて嘘だ!

 今はもう嗜虐的な笑みを浮かべ舌なめずりをしていた。

 やっと獲物が罠にかかったぞ、と雰囲気が物語っている。

 さて、どうすれば俺は間違いを犯さずにこの状況から逃れられるだろうか。

 ……こいつを照れさせれば逃れられるのではないだろうか。


「凛、まじで頼むよ、俺とお前のためだ」


 変なことは考えず真剣に頼んだ。

 優しくしてくれた彼女に変なことはしたくない。


「……仕方ないわね」


 彼女は残念そうな表情を浮かべつつも、大人しく腕と体を離してくれた。


「ま、優しくしてくれてありがとな」


 まじでもっと触れていたい魅力があったし、抱きついた途端に心地良さを感じたのは確かだったから。

 1階に下りてリビングのソファに座る。


「はぁ、あいつはこうだから困るよな」

「ねえお兄ちゃん、なにをしていたの?」

「ああ……俺の理性がやばくなりそうだったからあいつにちょっとやめてもらったんだ」

「ふぅん、抱きついたんだ?」

「えと……包丁持ってどうするんだい?」

「べつに~?」


 俺の大事な場所に先端をロックオンして包丁を――


「ころんだ時に抱きついちゃって何か凄く落ち着けたから延長頼んだんだけど……理性が吹き飛びそうになってな、やめてくれって言ったら解放してくれたけどさ」


 一応去勢する気はなくなったようで机に包丁を置いて横に座る葉。


「私に抱きついてくれればいいのに」

「さっきのだって不可抗力だから」

「体調悪いの?」

「どうだろうな、体温計あるか?」


 というわけで計ってみると6度台まで下がってくれていて安心した。


「腹減ったしご飯食べたい!」

「あ、すぐできるからね!」


 それから10分くらいして出来上がった妹のご飯を味わって食べた。

 美味いし最高で今度こそ涙が溢したら「大げさだよ!」と彼女に言われてしまう。

 熱も下がったので風呂に直行。


「ふぅ……」


 やはり風呂は格別だ。

 葉が暴れていた時は唯一この場所が安置だったから。

 ぼけっと湯船に浸かって何も考えずにいると、扉の向こうに凛が来たことに気づいた。


「さっきは悪かったな」

「いえ……それより後で部屋に来てちょうだい」

「おう、あとありがとな」


 あまり待たせてもあれだし長風呂するとぶり返す可能性があるので出て彼女の部屋に向かう。

 2回ノックし中に入ると、彼女はどうやらテスト勉強をしているようだった。


「言君、そこに座ってくれるかしら」

「おう」


 元両親、現彼女のベットに座る。


「良い子ね」

「俺は子どもじゃないぞ」


 頭を撫でられるとは思わなかったから思わずギュッと彼女の手を握って止めた。


「痛いわ」

「悪い、これだけなのか?」

「ええ、寂しがり屋だったようだから」

「風邪の時ってさ何か凄い寂しくなって泣きたくなるんだよな」


 昔は看病してくれた母によく抱きついていたっけかと思い出し苦笑するしかできない。


「そうかしら? 私は学校に行かなくて済むのかと思えば気が楽だけれどね」

「ん? 何かあったのか?」

「いえ、告白をされたり明らかに見た目だけで態度を変えられたりするのが嫌なだけよ」

「贅沢だな、分かるよなんて言えるわけない内容で困ってるんですけどねこっちは」


 彼女達特有の悩みだとしても、やはり贅沢だとしか思えなかった。

 ……ということはどっちにしろ、俺が仮に彼女を好きになったところで届かないことだよなこれは。

 俺だって彼女が美人じゃなかったら、こうして当たり前のように受け入れてなかったかもしれない。

 自分の見た目は中途半端なくせに相手にばかり求める醜い人間が俺だ。


「悪いな、嫌いな奴がこんなすぐ側にいて」

「……ねえ、どうしてそう思うの?」

「は? い、いや、俺だってお前が美人だからマッサージとか受け入れているわけだしな」


 隠してもどうせ本人にバレるわけだし言ってしまった方が楽だろう。


「ねえ、前も言ったけれど……誰にだってあんなことするわけじゃないのよ? 家に住もうとしたのだってあなたが大変な状態だったから葉ちゃんを止めようって思ってここに来たんだから……」

「凛……」

「……また風邪を引かれても嫌だから部屋に帰って寝なさい」

「……分かった、ありがとな凛」


 そうだったのか、なんて今更驚いたりはしない。

 最初だってそうだったし、彼女はずっと優しかったのだ。

 部屋に帰ってベットに寝転ぶ。

 上半身を起こして落ちたままの彼女の下着を見て……慌てて視線を逸らす。

 良い変化なのか、悪い変化なのか、兎にも角にも彼女とこれまで通りに接するのは無理そうだった。

どうしようかなメインヒロイン。

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