12.『友達』
読む自己ー
「で、出ない……」
登録していない電話番号だしそもそも体調が悪くて寝ている可能性があった。
仮に出たとしても俺だと分かれば拒絶され――
「……もしもし……?」
出てくれたのでオレオレ詐欺と思われないよう名字を呼んでから名前を伝える。
「た……かはし……」
「ああ、悪いな、凛……佐藤に頼んで聞いてもらったんだ」
「うん……」
「明日来れるようだったら昼休み時間がほしい、あ、無理ならいいからさ、じゃあな」
「あ、待ってっ……さっきはお母さんが……ごめんなさい」
「違うだろ、お前を泣かせた俺が悪いだけだ」
最低なことをしてしまったのは確かだ。
そりゃ病人である娘が家から消えれば気になるし、泣いている状態で帰ってきたら怒りたくもなる。
「……切らないのか?」
「……ごめんなさい」
「今はいいからとりあえず元気になってくれ」
「うん……」
何か俺からも切りにくくて無言のまま通話が続いた。
電話越しでも浅見が泣いていることが分かって自分勝手ながらも苦しくなった。
「今日さ、何であのタイミングで来れたんだ?」
「七瀬さんが教えてくれた」
茜もどうしてここまで動いてくれるんだろうか。
そして風邪なのにわざわざ来てくれた彼女には感謝しかない。
そりゃ勿論、島村と同じく出てきたら駄目だと言わなければならないが。
「浅見、また……見させてほしい」
「え……」
「バスケをしている時のお前が綺麗で好きなんだ」
「えっ……」
「あ、告白じゃないからな? 放課後暇だしさ、外でシュート打ってても寒いし寂しいんだよ」
別に病人に精神攻撃仕掛けているわけじゃないしいいよな多分。
しかし間違いだったのは確かなようでまた喋ってくれなくなってしまう。
今回はきちんと『バスケをしている時のお前が』と言ったわけだし、深く考えないでほしいものだ。
「高橋」
「うん?」
「そ、そういうつもりでいるわけじゃない」
「分かってるよ、明日頼むぞ」
「……うん」
今度こそ電話を切ってベットに置いた。
「あー! 何だこの甘酸っぱい感じはっ」
こういうのをやるのはリア充の仕事だろっ。
「バスケをしている時のお前が綺麗で好きなんだ……ふふ、あなたも言えるじゃない」
「……おい凛、煽るとその胸本当に揉むぞ」
「良いわよ? そういう約束でしょう?」
「……しないけどな、とにかくありがとな凛」
「明日また失敗するんじゃないわよ」
するかよっ、せっかく浅見が一応会ってくれるってことになったんだ。
少なくとも少しくらい健全な男でいるためにあいつの胸だって揉んだりはしない。
ただ……どういう感触なんだろうなあの爆乳揉んだら……。
昼休みになった。
一応もう電話番号を知っているわけだし呼び出そうとしたら彼女の方から来てくれた。
屋上の手前まで連れて行ってまずは頭を下げる。
「悪かった! 嫌いって言われたことが辛くて……最悪なことを言ってしまったよな……一生懸命に頑張ってるお前を見ていたのにあんなこと……今日会ってくれただけで……十分だ、それじゃ!」
やっぱり仲直りは虫が良すぎると判断して階段を下りていこうとした俺の袖を掴んで浅見が止める。
「……待ってよ」
「お、おう……」
最上段に座ると俺の袖を掴んだまま彼女も座った。
「離したらまた逃げちゃうから」
「……逃げないから離してくれ、何か恥ずかしいんだよ」
そう言ったら何故か握る力を強める彼女。
「ね、私のシュート綺麗?」
「おう、詳しいことは分からないけどそう思うな」
「……笑顔好き?」
「まあ可愛いんじゃねえか」
「……………………私が綺麗?」
「……あ、あくまで楽しそうにバスケをしている浅見が綺麗に感じるだけだからなっ?」
いちいち聞くなんて意地悪な女の子だ。
とはいえ、全て自分が言ってきたことだし本当に思っているのは変わらないので逃げはしなかった。
こんな拘束くらい男の俺なら簡単に逃れられるのに……しないというのはまあそういうことだろう。
「でもね、やっぱりまだ信用できない」
「あ、そう……」
上げて落とす作戦ってきつい。
今の流れだったらこう良い流れに繋がりそうなものだが。
あれか、言ってはいけない最低なことを言ってしまったから向こうもしようということなのかな。
彼女は「……だから」と言ってからかなりの力で袖を握りしめる。
「……べ、べつに減るものじゃないし見てくれても良いよ?」
「あ、そう」
「1人で練習するのも帰るの怖いし付き合ってくれるなら……いてあげる」
「上から目線だなぁ……でもまあ、ありがとな」
「あ……」
「あ……悪い、茜にするので癖になっててな」
頭撫でるとかしたら余計信用してもらえなくなってしまうというのについ癖でしてしまった。
茜が楽過ぎるのが悪いんだ、だって撫でてればすぐに落ち着いてくれるから。
彼女は少し厳しい表情を浮かべてこちらを睨んでいる。
それでもまだ袖を掴むのを止めないのはどうしてだろう。
「やっぱりしてるんだ」
「は? あ、まあ、これくらないって」
「軽薄な男の子なんだ」
「……言い訳をするつもりはありません」
ついでに2回だけ茜を抱きしめたことも説明しておく。
「……やっぱりやめる!」
「……なら仕方ないか、本人がそう言うなら仕方ない」
あくまでバスケしている時に見られればいい。
友達じゃなくても知り合いのままでいいだろう。
拒絶されていないのならそれだけで十分というもの。
「んーっと! よし、時間くれてありがとな、バスケしている時だけ関わるから」
「あ……ばかっ、なんで毎回あっさり諦めるのっ」
「そんな怒った顔をするなよ、前回も今回も浅見の希望通りにしているだけだろ? それに諦めてないけど本人が嫌なら仕方ないだろ」
幾ら好きになれないとは言っても島村とだって微妙なままで終わってしまっている……。
波風立てないとは何だったんだろうか。
「……分かった、友達になろ?」
「いいのか? お前がいいならいいけど」
「でも条件がありますっ、1つ目は19時から付き合うこと! 2つ目は送ること! 3つ目は……」
彼女は顔を赤くしたまま黙ってしまう。
この流れで考えると1日1回頭を撫でてくれ、だろうか。
あ、つい考え方が凛のそれになってしまっている。
警戒心の高い浅見が希望してくるとは思えないし、とりあえずまあ黙って待っていた。
……予鈴が鳴った、そして彼女は俺の袖を握ったまま固まったままだ。
そろそろ戻らないと午後の授業に遅れてしまう。
仕方ないので固まったままの浅見をお姫様抱っこして階段を下りた。
確か茜と同じクラスだったと思うので教室の前で彼女を下ろす。
「ほら、早く戻れよー」
「あ、あ……な、なにやってるのっ!!」
反応が遅すぎである。
頭を撫で黙らせて俺も教室に戻った。
外でぼけっと待つのも退屈なので女子バスケ部顧問に許可を貰って体育館で見させて貰うことにした。
舞台に座ってぼけっと眺めていると確かに厳しい部活だということがすぐに分かる。
俺が見ていいか聞いた時は優しかったというのに檄を飛ばして一生懸命だった。
選手も同じで一生懸命にやって、しかし、休憩時には監督も含めて楽しそうにしていた。
「ねえ」
「あ、はい」
俺と同じくらいの女の人が話しかけてくる。
「誰かの彼氏さん?」
「いえ、浅見の友達として見させてもらっているだけです」
居残り特訓のことはわざわざ言う必要はないので隠して説明すた。
「それにしても休憩時は監督さんも楽しそうにしているんですね」
「あーまあね、土日とかたまに皆をご飯食べに連れてってくれたりするんだよ?」
「え、そうなんですか? 太っ腹ですね」
30人くらいいるのに全員連れてったら何円かかるんだよと内心で驚いていた。
「唯ー」
「は、はい……」
先程もそうだったが浅見はどこかぎこちなくて綺麗とは程遠いというのが正直な感想、今だって何かタジタジだし遠慮とかしてるんじゃねえよと言いたくなる。
「せっかく見に来てくれているんだから頑張らないとね?」
「が、頑張ります!」
恐らく先輩は「あと15分くらい休憩だから楽しみなねー」と言って輪に戻っていく。
「……なんで部活中に来たのっ」
「だって19時まで暇だろ? その点、ここに来れば寒くないしな」
一生懸命頑張る少女を見られるし、声は出さないものの友達を応援できるのだから。
「は、恥ずかしい……」
「おい! お前はもっと堂々としろ! あの先輩達に背格好で勝てないなら、誰よりも楽しくバスケをしてやれ! ぎこちないし遠慮なんか必要ないだろっ、あの人達は仲間なんだから!」
「こ、声でかいっ……み、みんな見てる……」
「別におかしなことは言ってないだろ……」
変なこと言ったみたいじゃねえかよ……。
しかし皆の視線が突き刺さって俺も彼女も黙ることになったのは言うまでもない。
実際に部活の見学ってさせてもらえるのかな?
気が散るからとかそういうので断られそうだけど。




