11.『電話』
読む自己ー
翌週の月曜日、部活に行く前にやって来た島村によってあいつが風邪で休んだことを知った。
そして、金曜日22時を超えるまで帰ってこなかったことも聞いた。
それでも見舞いに行くということはしなかった。
だって終わったことだし、俺とあいつはそもそも友達ではないのだから。
1度家に帰ってボールを持ち公園に行く。
今日も絶好調、1度も外れることはなかった。
つまり、彼女が自分のせいで風邪を引いたであったとしても何も乱れてはいないということだ。
「高橋君っ、どういうこと!」
「おかしなこと言うもんだな島村、お前こそ部活はどうしたんだよ?」
まだ19時どころか17時すら超えていないというのに。
試合に出たくないからサボろうとしているのだろうか。
「唯が風邪を引いた原因はあなたなんだよね、それなのにどうして行ってあげないの」
「じゃあ逆に聞くけどさ、お前は友達でもない病人を見に行くのか?」
「友達じゃないって……え?」
「そういうことは聞いておきながら細かいことは聞いてないんだな。あいつが俺に嫌いって言ったんだ、だから俺も納得してやっただけ、どこに嫌いな人間に見舞いに来てほしいと願う馬鹿がいるんだって話だろ」
余計なこと言うなと重ねてボール放る。
……もう手遅れで先程みたいに綺麗に入ってはくれなかった。
「部活戻れ、お前は試合に出れない人間の上に立っているんだぞ? そんな人間がサボるべきじゃない。今のお前はあいつを心配しているようで馬鹿にしているのと一緒だ」
「……憂、そうだよ、戻りなよ体育館に」
「ゆ、唯っ? だ、駄目じゃん出てきたら!」
俺もついでに帰らせてもらう。
しかし、横を通り抜けようとした際に袖を掴まれてそれ以上歩くことは叶わず。
病人ってせこい、だって無理やり乱暴に振り払ったら倒れてしまうんじゃないかって不安になるから。
心配そうにしていた島村に浅見が「大丈夫」と言ったら彼女は学校方面へ走っていった。
「……離せ」
「……また帰られたら調子悪いのに出てきた意味がなくなる」
「馬鹿かよお前、バスケ頑張ろうとしていたくせに変なことして風邪引いて土日月って無駄にして、そんなんだからレギュラーになれないんじゃないのか」
「……そ、そこまで……言わなく、ても……」
くそっ、泣けばいいと思っている奴も嫌いだ。
俺は決して報われなかろうと泣くことはしなかった。
だって泣いたって仕方ない、何も変わらないしより惨めさが目立つだけだから。
「仕方ねえから送ってはやる、だが2度と近づくな」
過去の俺は関係を切られても惨めに未練たらたらな行動はしなかったぞ。
俺もおかしくなっていたんだ、金曜日だって何を血迷ったかこいつが来るまで待ってしまった。
それがなければこいつだって簡単に諦めて居残り練習に戻れたかもしれない。
……過去はいい、とりあえずこいつを家まで輸送だ。
涙を流しながら動こうとしないこいつに苛ついて抱いて運ぶことにした。
恥とかドキドキとかそういうのはまるでない、面倒くさいからそれで運ぶだけで。
だって体調が悪い時にここに放置して死にでもしたら寝覚めが悪いだろ。
幸い距離が離れてはいないのですぐ浅見家へは着いた。
インターホンで鳴らすと彼女の母が出てくれて……あろうことか俺を責めてくれた。
「病人の娘のことすらまともに見られない親なんて最低ですね」
なんて残してそこから去ろうとしたら頬を叩かれて。
今度もまた娘は泣いて母は怒鳴ってと、面倒くさい空間からとにかく去る。
理不尽だ、とんだとばっちりだ。
寧ろ俺はあんたの馬鹿娘を運んでやったというのに。
家に帰ってソファに寝転ぶ。
すると葉が近くまでやって来て言う。
「片頬赤いけどどうしたの?」
「ボールが跳ね返ってきてダイレクトアタックだよ、空気が冷たいから痛くてさ」
「冷やす?」
「いや、大丈夫だ、それより葉が作ってくれるご飯を楽しみにしているぜ」
体を起こして凛の部屋に行くことにし、部屋の扉を2回ノックする。
「入っていいわよ」
「おう」
何回も入っているために今更何かを感じたりしない彼女の部屋。
俺は適当に床へと座って椅子に座る彼女を見上げた。
「なあ凛、お前の力で浅見が来ないようにできないか?」
「あら、まだ近づいて来ようとしているの? よく分からないわね」
「そうだな、で、どうだ?」
「無理ね、そもそもそれを私がやるメリットは?」
「……ないか、悪い、忘れてくれ」
出ていこうとする俺を「待ちなさい」と彼女が呼び止める。
「浅見さんから近づいて来てくれているということなら、仲直りすればいいじゃない」
「でももう終わったことだしめちゃくちゃだせえこと言ったんだ、今更仲直りって恥ずかしいだろ」
「そうね、だって女の子を泣かせてしまうような男の子だものね。しかも、善意でやったことなのに彼女の母親から頬を叩かれた、そうでしょう?」
「何で知ってる」
「七瀬さんから聞いたわ、尾行してもらっていたの」
だとしたらめちゃくちゃ恥ずかしいじゃん……茜に叩かれたところ見られてたとか……。
「本当は浅見の母親を消したかった」
「うわっ!? ……消すな消すな」
しかもすぐに現れてくれる神仕様!
風邪を引かれても嫌なので頭を撫でつつ「もう無茶するなよ」と言っておいた。
「ふみゅぅ……い、いま凛が言っていたことを叶えるのは難しいと思う、だって言が自分から「2度と近づくな」って言ってたからね」
「小さい男の子ね、たかだが嫌いと言われたくらいで」
「いや、凄くキツいからな?」
「あら、私なんて1日で10人くらいから嫌いと言われたことあるわよ? この気持ちはあなたじゃ分からないでしょうけど!」
「ぐっ……い、言い返せねえ!」
そうだよな、彼女達に悩みがないわけじゃない。
寧ろ自分のことを棚に上げた連中から勝手に妬まれて悪口言われるとか、どうやって耐えているのだろうか。
メンタルの弱い俺にはとてもじゃないが真似できそうにないし、体験できる世界でもないだろう。
「嫌いって言われたとしても歩み寄ってくれているじゃない、しっかりと向き合ってあげなさい」
「だけど泣かせたからな……」
1番言われたくないであろうことも言って泣かせてしまった。
そんな屑の所に来るとは思えないし、俺から動こうともとてもじゃないが思えない。
「仕方ないわね、なら機会を用意してあげるわよ。マッサージのお礼、これなら受け取ってくれるわね?」
「いや、これ以上浅見を傷つけたくない、だからやっぱりい――」
茜の手に口を押さえられ続きを言うことはできなかった。
にしても柔らかくて温かいし小さい手だな……。
「離れようとするほうが傷つくと思う、だからちゃんと向き合ってあげて?」
「……茜にまで言われたんじゃ仕方ないな」
ただ、このままでは一方通行のまま終わるだけだろう。
より惨めな気持ちに陥ることになるのではないかと不安が出始める。
「あ、もしもし? 浅見さんの連絡先を教えてくれるかしら、ええ、ちょっと待って……いいわよ、ええ、ええええ、分かった、ありがとう! またね」
どこかに電話をかけたかと思ったらすぐに切って紙を渡してきた。
「浅見さんの電話番号、今日かけなさい」
「いや、あいつ体調悪いし……」
「もし頑張ったら胸を触らせてあげるし葉ちゃんに頼んであなたのおかずだけ増やしてもらうわ」
「お前の胸はいらないが葉のご飯は必要だな、しゃあない! ……かけるか」
聞かれても恥ずかしいので自室でかけることにした。
間違いがないように丁寧に打ち込んで最後にきちんと確認し発信する。
さあ、果たして出てくれるだろうか。
素直になった方がいい。




