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003  作者: Nora_
10/27

10.『何度』

読む自己ー

 その日の放課後、浅見を待つ必要がなくなった俺は急な手持ち無沙汰感に襲われぼけっと下駄箱に向かっていた。

 靴に履き替え校舎から出ると、より寒い空気が俺を包む。

 嫌いと言われたのは初めてだ。

 これまではそもそも興味を抱かれてこなかったから、めちゃくちゃ堪えた。

 何とか冷静を装って普通の対応はできたが……。

 とにかく暇な俺がぼけっとだらだらと歩いていると、頬に痛みを感じて意識をそちらにやる。


「ちょっと、無視するんじゃないわよ」

「あ、凛か、帰ろうぜ」


 1人で帰るくらいならうるさく厳しい凛と帰った方がマシだろう。

 学校から出て道を歩いている途中彼女が聞いてきた。


「お昼休みに来た子は浅見唯さんよね、あの子とどういう関係なの?」

「そうだな、下心ありで近づいて嫌われたって感じかなー」

「……本当に?」


 何でいちいち聞くんだか……凛はいつだって細かい女だと苦笑する。


「ああ、だって浅見が言ってたからな」

「……最近夜遅かったのって浅見さんに付き合っていたのでしょう?」

「そうだな、シュート練習見てたんだ」


 あれは綺麗だったし楽しそうに取り組む浅見を綺麗だと思った。

 言ったことを後悔はしていない、それでも向こうからすれば軽薄に感じたんだろう。

 俺だけにではなく気軽に言える全員が嫌いだったみたいだし、傷つく必要は特にない。


「許せないわね、そのせいでマッサージしてもらえなかったというのに」

「ふざけるな、浅見は何も悪くないから余計なことをしたら家から追い出すぞ」


 一緒に住んでいるからといって何でも擁護すればいいわけじゃない。

 寧ろ怒ってくれた方が良かったというのにこいつ……。

 複雑な気持ちを抱えつつ残り道を歩いて家に帰る。


「言君、今からして」

「はいはい、どうせ暇だからしてやるよ」


 浅見と接して分かったことがあった。

 俺にとって簡単に触れられる人間=恋愛対象としては見られないことを。

 ましてや体にほいほいと触れさせるこいつは信用できない。

 1時間かけてしてやってリビングに戻ると、そのタイミングで買い物袋を持った葉が帰ってきた。

 おかえりと言ってから袋を受け取って冷蔵庫前まで運ぶ。


「お兄ちゃんどうして今日は早いの?」

「振られて失恋中だ」

「え……告白したの?」

「ふっ、そんなわけないだろ。俺は人を特別な意味で好きになれない、そんな簡単にはな」


 ソファに深く腰掛けてぼけっとすることにした。

 まあそもそも大人しく従ってくれたのがおかしかったのかもしれない。

 すぐに断ったら俺が何をするか分からなかったから一旦はやろうとしただけだ。

 俺がもし蓮だったらこうはならなかったんだろうなと考えると、つくづくその差にイライラする。

 格好良ければあんなことを思われなくて済んだんじゃないかってな。


「葉、例えば葉が何かに困っていたとしてそこに格好良い人間が来て「協力してあげるよ」って言ったとする、そしたら協力してもらうか? 逆に、何かあんまり顔もよくなくていい噂も聞かない相手に同じこと言われたらどうする?」

「格好良くても……格好悪い人であったとしても私は協力してもらわない、だって申し訳ないし」

「そういうのはいいから純粋にその時感じるであろう感情を想像しながら言ってくれ」

「……格好良い人が言ってくれたらなんで協力してくれるんだろうって思いながらも嬉しい……かもしれないけど……」

「そうか、ありがとな」


 やはり俺の考えたことは間違っていなかった。

 蓮が巨乳好きじゃなければ今だって彼女も茜もここにはいなかった。

 仕方ない、可愛い女の子が格好良い男子に惹かれるのは当然のことだ。

 そして、凛が言っていたように自分が格好良くないからって妬むのは間違いということ。


「あなた、浅見さんに振られた理由が格好良くないからだと思っているの?」

「ま、事実だしな、格好良くもない人間から綺麗とか言われて気持ち悪かったんだろ」

「あなたは女の子を、浅見さんを侮辱しているわね、誰だって格好良さを求めるわけじゃないのよ?」

「良い見た目のお前には俺の気持ちなんて分からない、この話は終わりだ」


 ソファに寝転んで目を閉じる。

 腹に軽い衝撃を感じてすぐに開けると、俺の腹に優しく凛が拳を当てていた。


「何だよ?」

「ああ言った後でもすぐに寝られるということは、私のことは信用しているということ?」

「ま、もう2週間くらい一緒に過ごしているんだしな」


 言い方を変えれば何も意識していないからこそできる行為だけれども。

 彼女は柔らかい尻を俺の腹に乗っけて座ってきた。


「柔らかくないわね」

「凛の尻は柔らかいけどな」

「でも興味ないのよね」

「分かってたのか」


 綺麗なのは見た目だけだった。

 俺が求めたのはこういう接触とかではなく純粋に俺といて笑ってくれること。

 好き嫌い云々の前に興味すら抱かれなかった俺。

 だからこそ自分から動いて興味を持ってもらいたかったんだが、やり方をミスってしまったせいで簡単に人は離れていってしまった。

 向こうからではなく自分から動いた結果が良い方向に繋がればと信じていたんだけどな。


「自分から作ろうとした関係以外はどうでもいいってことでしょう?」

「ああ、だって向こうから来たところでその気持ちがこっちに向いてる保証はないからな」

「仮に自分から動いて関係を作ったとしても、特別な意味で見られる保証はないじゃない」

「それならそれでいいんだよ、自分が求めて相手がいてくれれば俺の自尊心は保たれる」


 付き合いたいとかじゃなくて興味を持ってもらいたいのだ。

 蓮を引き合いに出さず純粋に友達としていてくれる人間を求めている。

 そういう点で島村、茜、葉も駄目、それがなくても凛も駄目。

 全滅だ、浅見との関係も消えたし実質友達0みたいなものでしかなかった。


「なるほどね、中々面倒くさい生き方をしているのね」

「仕方ないだろ、常に格好良いを引き合いに出されちゃ多少歪むさ」


 同じ高橋じゃなかったらまだマシだったというのに。

 それでも俺が一緒にいた理由は彼が優しかったからだろう。

 悪いのは自由に言う周りと俺なんだと決めつけて生活を続けていた。

 不安、不満、寂しさ、悲しみ、妬み、怒り、全部を抱えて生きてきたんだ。

 今更急には変えられないし変えるつもりもない。

 文句を言わせるつもりもない。

 俺は上から彼女に下りるよう言ってソファに座った。


「言、失恋中って聞こえたから来たよ」

「ご足労どうも」

「責める凛は許せない」

「こいつだって何も間違ってないから、いつも心配してくれてありがとな」

「あ……ふみゅ」


 頭撫でるとか手を握るとかしたわけじゃなかったんだけどあ。


「茜みたいに分かりやすい子だったら楽だったな」

「浅見のこと?」

「まあな、ボールあるから外にバスケしに行かないか?」

「じゃあ行こう」

「寒いから温かい格好してな」


 ゴールに向き合ってシュートを放る。


「お、入ったな」

「中学生の時は言も上手かった」

「見てもないくせによく言うよ」


 ずっと同じ部活をやっていた蓮を見ていたじゃないか。

 あの時だって彼ばかり注目されて嫉妬からミスして足引っ張んだったよな確か。

 ボールを拾って放ると今の気分とは裏腹に今日は何故だか絶好調だった。

 入る、意識してないからかもしれない、全部沈めて俺の複雑な気持ちも一緒に放り投げる。


「……中学の時は全然喋らなかった、後悔してる」

「後悔したって過去は変わらないだろ」

「でも、いつも言がイライラしてたから」

「悪かったよ、とてもじゃないけど平静でいられなかったからさ」


 彼がきゃーきゃー言われて自分がミスしたら平気で悪口を言われる環境で普通でいろというのは酷としか言いようがない。


「あ、お母さんが帰ってこいって」

「ま、暇だったら家に来いよ、いつでもいいから」

「うん、ばいばい言」


 俺は家に帰る気になれなくて近くのベンチに寝転び時間潰しをすることにした。

 そんなことしたって浅見はやってこないというのに。

 18時50分、動いていないこともあって体が冷えすぎてしまっていた。

 あと10分と少し待ったら帰ろうと目を閉じると、腹に温かさを感じて目を開ける。


「た、高橋」

「あ、よお、これは別にお前を待っていたわけじゃないからな」

「……ベンチ座ってもいい?」

「まあ、公共の物だからな」


 体を起こして座り直す。

 そしたら彼女は横に静かに座った。

 運動した後なのかは分からないが、触れているわけじゃないのに温かい感じがする。


「まだ19時超えてないぞ」

「……七瀬さんが体育館に来て公園で待っているからって」

「余計なことしてくれやがって」


 他人を使って誘うのがどれだけ印象最悪になるか分かってないな茜は。


「シュートしてたんだよ、やっぱりお前みたいに綺麗にはできなかった」


 ボールの表面を撫でながらゴールを見つめる。

 どうせなら見せてやろうと目の前で放ってみせた。

 ミスるかと思ったんだがどうでもいいからなのか入ってしまう。

 まぐれだと呟いて次、次と放っていくが、何故か全て入ってしまった。

 このどうでもよさを出しつつ彼女と接すれば少なくとも嫌われることはなかったのかもしれない。

 過去は変わらないんだ、後悔したって仕方ないの話。


「何で来たんだ? 例え茜が頼んでいたとしても嫌いなんだから来る必要はないだろ」

「……だって、行かなかったらそのままずっといそうだったから……」

「よく分からない女だな、信用できなくて嫌いな男の心配するとかおかしいだろうがそんなの。まあいい、早く帰れよ、俺はお前のために残っていたわけじゃなくて今みたいにシュート練習したかっただけだから」


 あーだっせえ、何度も嫌いって言われたことアピールして構ってほしいだけじゃねえかよこれじゃ。

 ベンチに座ったままの彼女を放置して歩きだす。

 終わったことだ、これ以上一緒にいる必要はどこにもない。

嫌いって言われたら傷つくよね。

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