エドワード王子、主席を逃して婚約者を得る
エドワード王子視点です。
「入学試験の結果は次席か。エドワード!第1王子として相応しい成績を取れと言ったわたしの言葉を忘れたか!」
俺はエドワード・ゲッペルゼア。
現在、父上のフランシス国王陛下に怒られているところだ。
理由はムーンリバー学園の入学試験で主席を逃したからだ。
母上のジュリア王妃は次席でも褒めて下さったのだが、完璧主義の父上は息子の俺にも完璧を求めて来る。
正直腹違いの弟の方が賢く、王の器に向いているとは思うのだが、これも第1王子の務めと諦めて俺はひたすら頭を下げた。
しばらく怒鳴ると満足したのか怒りを収め、ゆったりとした口調で話し始めた。
「しかし、主席がグランデンベルグ公爵家のご令嬢で良かった。お前とマリア嬢で婚約を結ぶ代わりに主席を譲ってくれと頼んだら快諾してくださった。」
「え?」
「良いか?これは家同士の取り決めでしかもこちらは向こうに融通して貰っている側だ。王族とはいえ取り決めは大事にしなければならない。お前はこれから学園でもしっかりマリア嬢を婚約者としてエスコートしなければならないぞ。」
「は、はい!」
「うむ、話は以上だ。下がって良いぞ。」
俺は混乱したまま頭を下げてその場を後にした。
婚約は良いが急過ぎるし、そもそもグランデンベルグ公爵の娘ってどんな奴だったか?
俺は自室に戻り、そういう事に詳しい使用人を呼びつけてグランデンベルグ公爵の娘について聞き出す事にした。
「それで、マリア嬢とはどんな人なのだ。」
「ゴリラです。」
よし、この使用人はクビだ。
いや、しかし、そういう人となりという比喩的な表現の可能性もある。
将来上に立つ者としてそう簡単に人材を切り捨ててはいけないだろう。
俺は改めて丁寧に訊ねる。
「それは、ゴリラのようなゴツい女性だとか暴力的な女性ということか?」
「いえ、暴力的ではありませんね。お淑やかで貴族の振る舞いがキチンと身についているご令嬢だと聞いております。」
「ほう?ではゴツいだけか。」
「いえ、ゴリラなんです。」
「は?」
何を言ってるんだ、コイツは?頭でも打ったのか?過労?過労なのでは?時折働かせ過ぎると倒れる者も居ると聞いた気もする。
「いいか、ケリー?お前は疲れているんだ。俺からもメイド長に言っておいてやるからしばらく休め、な?」
「いえ、本当なんです!秘匿されてましたが本当にゴリラなんです!」
「あの?動物の?」
「あの動物のです。」
「なんで?」
なんでとしか言えない。貴族家からゴリラが生まれるって前代未聞だろ。いや、もう貴族家じゃなくても前代未聞だ。
「両親が青い瞳なのに緑の瞳で生まれる子が時折居ますよね?調べてみると祖父母が緑の瞳だったとか、聞いた事ありませんか?」
「あぁ、先祖返りと言うやつだろ?それがどうした。」
「医師と学者が言うにはマリア様はその先祖返りなんじゃないかと。」
「ん?ちょっと待て。いま唐突に話飛んだだろ。」
「いえ、学者たちの間では、人はサルやゴリラから進化した生物なのではという説があるらしいんです。」
「つまり、進化の大元まで戻ったと?」
「えぇ、まぁ、そうなりますかね。」
「なるほどな。なるほど……。いや、おかしいだろ!ゴリラから進化したとしてもおかしいだろ!戻り過ぎだよ!」
「そう言われましても。実際ゴリラなわけですから。」
「そうだな。考えるのはやめよう。下がって良いぞ。」
俺は思考を放棄した。何を言ってもゴリラなのだ仕方がないではないか。
というか、ゴリラに学力で負けたのか俺は。
いや、俺だけじゃない。今年の入学生は全員ゴリラに負けたのだ。大丈夫なのか人類。
俺は一抹どころではない不安を胸に抱きながら早速グランデンベルグ公爵家に手紙を出す事にした。
兎にも角にも会ってみなければなるまい、ゴリラ嬢、否、マリア嬢に。
進化論はまだ確定してません。何となくそうかも。とかそういう事にしておこうとか。色んな思惑によってそんな感じです。