逆襲の強行偵察
白雪帝。
彼はなぜ、陽のお墨付きをもらいながら陰に加担しているのだろうか。
陽の認定を受ければ、学園生活は薔薇色そのもの。
国家よりコミュニケーション能力や勉学、スポーツなどの能力が、総合的に優と判断された結果である。
加えて、勉学やスポーツのみの一芸に秀でている場合にも、相応に評価される。
したがって、陰とされたものはコミュニケーション能力、スポーツ、勉学全てがダメだと判断された訳である。
また、進学や就職においても圧倒的に有利とされ、レールから外れなければ、何かしらの恩恵に預かることができる。
そう、日本という国は出来ない者や、ニート予備軍を見放して出来るものを優遇することで二分し、格差を拡大させる方針をとったのである。
この国はもはや来るところまで来てしまったのだ……
そして、所謂オタク文化であるアニメなどは、陽が関わってはいけないものとされている。
現に声豚であることが、バレてしまった者は認定を取り消され、陰の烙印を押されてしまった前列があるのだ。
そんな白雪も例外ではない!
彼は重度のアニメオタクであり、ゲーマー。更に最悪なことはロリコンであることだ。
守備範囲は2歳~14歳。
社会不適合者、クズ、犯罪者…… 罵倒しようと思えばいくらでも出来る。
白雪帝はそういう男なのである!
自宅は両親に趣味がバレないよう「俺、自立したいんだわ」とか何とか言って、趣味全開な一人暮らしをしている。
彼は憎んでいるのだ。忌々しい陽キャを…… 日本を……
最大の趣味を許されない悲しみ。それが彼の行動理由なのである。
本性は紛れもなく"陰"。
ただ顔が良いだけで、その実は自分の趣味を守る為だけに、血の滲む努力を惜しまない男なのだ。
陰陽法などがなければ、彼は何の気兼ねもなく、文学研究部に入部し、仲間達と快適な学生生活を満喫していたに違いないだろう。
そして、放課後…… 戦いの刻来たれり!
既に部室にはほぼ全ての部員が集まっている。
当然だ。他に行くところがある者など、存在しないからだ。
「諸君。昨日は良くやってくれた。そこで今日の議題は昨日の作戦についてだ」
白雪は昨日の参謀長とやらに目をやる。
その男は昨日白雪を部室へ出迎えた男だった。
昨日の様子を見ても、アンダーテイカーの重鎮。白雪の側近と言っても差し支えはないだろう。
ちなみに頭は悪い。
「は、昨日の炎上により、田原氏所属の野球部は活動を自粛するに至ったかと。また少しやり過ぎたのではないかとの意見も部内で出ておりますが……」
その言葉を聞いてすぐに声があがる。
「自業自得だ! あいつは、常習喫煙や"陽"の立場を利用して俺たちも恐喝されたんだ! し、しかもあみちゃんのラバーストラップを…… うゥ(涙)」
多分、あみちゃんとやらのストラップが一番の原因だろう。
その者、コードネーム『ウォクスピッグ』。
ウォクス=ラテン語の『声』
ピッグ=英語の『豚』
声 豚 。
いわゆる声優オタクである。
ラテン語などと、いざ格好をつけたものの、誰も読める筈もなく、結局は『豚』だとか『ぶう』などと呼ばれている。
ちなみに彼はかなり太っていて頭も悪い。
そんな彼らは、何故陽の者達の、常習喫煙などの情報を仕入れることが可能なのだろうか。
それは簡単なことだったのである……
―翌日 放課後―
「おーい白雪。今日なんか用事あるか?」
サッカー部の陽キャが白雪へ話しかける。
クラス内では日常茶飯事だ。
男は白雪と一緒に遊びたい。女は彼に選ばれたい…… そんな欲望渦巻く教室は、私欲と私欲のぶつかり合いで犇めきあっている。
「うーん、今日は大丈夫だよ?」
白雪応答…… ここに来て裏切り?
「お、良かった! それにしても白雪はあんなゴミの集まりの部活なんて辞めたらいいのにさ。サッカーやろうぜ!」
陽の者、隙のない二段構え!
白雪を自分の陣営に引き込もうという算段。
対して白雪の回答。
「いや、僕は俳句を詠むのが好きでさ! いつか神の俳句……
完成させようと思ってるんだ。だから、わりい!」
初耳である。
この男、部室内はおろか、家でも俳句など詠んだことも、書いたことは一度たりともない。
なんという清々しさだろうか。
「そ、そっか。まあお前なら俳句、似合いそうだしな……」
陽キャ撤退。これ以上の部活への勧誘は、白雪の機嫌を損ねると判断。引き下がる……
「じゃあ今日帰りにマスバーガー寄って帰らね?」
白雪はその言葉に、にこやかに頷いた。
白雪の本当の目的はこれなのである!
彼はレジスタンスの頭領にして、陽キャなのだ。
本来ならトップ自らが、敵の本丸へ赴くなどあってはならない。
だが悲しいかな、その強行偵察任務を問題なく遂行出来るのは、組織でただの一人の白雪のみ。
彼らの"希望"であるというのは、強ち間違ったことではないのだ。
そして、白雪は陽キャの振りをしながら、様々な情報を瞬時にインプット。
組織随一の記憶力をフル回転させ、次回作戦に有益な情報を勝ち取るのである!
本日の成果。
『明日20時より、バトルフィールズという、プレイヤー人数が最大32対32のFPSゲームで女の子たちと分隊を組んで遊ぶ』
ちなみにゲームの中でも、パーティーゲームや比較的陽キャが多いFPSゲームなどは、特例として認められている。
現在の価値観においては、FPSゲームが強いことは、女子には『格好いい』と写るのであった。
また、男子に姫プレイをされ、女子も満更でもない。
だが、それを聞いて、アンダーテイカーが邪魔をせずにいられるだろうか? いやそんな筈はない。
当然ながら、どのサーバーでプレイするかや、プレイヤーIDなども全てを聞き出している。
白雪は、彼らと別れ、すぐさまSNSアプリの会議通話をかける。
「皆、遅くなってすまない! 明日の作戦を伝える!」
白雪は深呼吸したのち、作戦の詳細プランを話し始めた。
作戦はシンプル。
その陽キャがいるサーバーに、アンダーテイカーのメンバーや、他校のゲーマーを助っ人として呼びつけ、ボコボコにしてやる。
彼らにとっては容易いことなのだ。
作戦を聞いた部員は、一様に不気味な笑い声を発する。
「部長殿。拙者バトルフィールズのK/Dは5.7なのです。デュフフ」
そう話すのはコードネーム『ゴッドハンド』。通称ゴッド。
ことFPSゲームにおいては、右に出るものがいない。
ちなみに頭は悪い。
CS版にも関わらず、マウサーを自負するクズであるが、その神の如きエイミング力から、敵の頭蓋を確実に撃ち抜くのだ。
捕捉すると、アンダーテイカーは皆が、バトルフィールズはやり込んでおり、クランとしても活動している。
「部長殿! メンバー集めは拙者にお任せを。なーに、猛者の20人程度すぐ見つかりましょうぞ」
ゴッドの言葉に白雪が答える。
「心配などしていないさ。では明日放課後にミーティングの上、決行だ! 作戦名などは追って通達する。out」
こうして、彼らの終わらない戦いの日々は続いていくのであった。
馬鹿らしい物語ですが楽しんでもらえると幸いです。