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念力に限界は無いらしい  作者: BNiTwj8cRA3j
二章 命の定義
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16-6

 ――――そして、ルベルの登場。



 ミヤビは数人の冒険者たちと、ダラムクスから離れた地を探索中だった。その際に偶然エルフの里を見つけ、そして虐げられているルベルを見つける。虐げているエルフたちを自分の親と重ねたようで、彼らの顔もまた黒く塗りつぶされていた。

 ミヤビの仲間たちは、基本能力の高いエルフとの戦闘を避ける方針を取ろうとする。当たり前の策だ。しかしそんな彼らの話を遮り、ミヤビはエルフの中に突撃。そして容赦なくナイフを振り回す。


 ……ひたすら暴れまわり、大部分を殺した。生き残ったエルフたちは、罵詈雑言を散らしながら逃げて行く。だが、そんな中でたった一人だけ、逃げなかった女がいた。



 ――ヴァン。後にレンの仲間となる人物。

 顔が黒塗りになってはいたが、ミヤビが注目して鮮明になり、確信できた。エルフの典型的な整った顔立ちをしていて、麗しい金髪をしている。


 エルフが惨殺される中、彼女だけが狂ったように笑っていた。喉からひり出すようなその笑い声がミヤビも印象的だったようで、映像の中にあるにもかかわらず、どこまでも鮮明に気味悪く聞こえてきた。黒板を耳の奥で引っ掛かれているような不快感だ。



「……何笑ってんの?」



 ミヤビのドスの利いた声が飛ぶ。



「アハハハハハッ、アハハハハッ……あーあ、テメェらの所為で台無しだわ。ワタクシの人生」



 ヴァンはゴミを見るような目で、冒険者たちを見る。その碧眼の奥に、何かとてつもない憎悪が詰まっているのは明らかだった。



()()、ワタクシの物なの。どう扱おうが勝手でしょ? 仲間を殺したのは許してあげるから、さっさと消え失せなさいよ」


「『それ』? 『物』? もしかしてこの子、あんたの子なの?」


「ええそうよ。子と認めたくはないけど」


「……ざけんなよ。子供は親の『物』じゃない」


「ふざけてるのはあなたたちよ。エルフにはエルフの正義がある。あなたたちの正義を押し付けないでくれない?」


「『正義』? マジで言ってんの?」


「そーよ? 人間の血が半分も混じったそれを、『エルフ』にするための儀式。あともう少しで、その子は正式にエルフになって、ワタクシたちと幸せに暮らすはずだったの」


「……顔に大火傷を負わせることが? 皮膚を剥ぐことが? 足の指を削ぐことが?」


「ええ」


「……ッ」



 ミヤビは不意打ち気味にナイフを突き出すが、ヴァンはいとも容易く躱す。他の冒険者も加勢するが、風の魔法を使って地の利を生かし、縦横無尽にその場を跳び回る。一同はそれに動揺し、次に来る攻撃に慎重に備える。



「どう? ワタクシ他の仲間(馬鹿共)とは違うの。今の一瞬で分かったわ。あなたたち全員殺せる」


「上等だよ。ぶっ殺してやる」


「まぁ、それは楽しみね☆ 豪風刃テューポーン・グラディウス!!!」





 ――そしてこの時、ミヤビは初めて「絶望」の能力を有用に使った。

 ヴァンの魔法が飛んでいく刹那の間に、ミヤビは「紋章」を浮かび上がらせ、そのまま背後に回ってナイフを振った。それが切ったのは虚空だったが。

 しかしミヤビの変化に気が付いたヴァンは、流石に動揺しているようだった。映像を見ているだけに過ぎない俺にもビリビリ伝わってくるような覇気がある。おそらくこれが、ミヤビ自身の感じていた「魔力」の感覚なのだろう。



「……チッ」


「避けんなよ。バーカ」


「あなた、お名前は? 冥土の土産に持っていきたいの」


「へぇ、やっと諦めたの? なら、教えてあげる。ミヤビ、桜文雅」


「ワタクシはヴェンデルガルド。あなたみたいな人間に殺されるのなら本望だわ」


「あっそ」



 ミヤビは興味なさげにナイフを振る。その軌跡に、莫大な闇が発生し、まるで空間ごと割かれたかのような光景が広がった。

 だが、ヴァン、もといヴェンデルガルドは、空高く舞い上がり、そして笑った。



「アハハハハハー☆ んなわけねーじゃん!!」


「……」



 どこかに逃げていくヴァンを、ミヤビが追うことは無かった。「絶望」の魔力を解くと、他の仲間たちから質問攻めにされたが、それを無視してルベルの手当てにあたった。


 ルベルは、聞いていた通り酷い状態だった。そして、今の明るい性格とは正反対に、ミヤビたちに怯え、逃げようとした。ミヤビが無理やり手当てをしてからは大人しくなったが。



 ――――世界は一気に鮮明な姿を取り戻した。

 まるで本当に外にいるかのような感覚だったが、未だミヤビの意識の中であることは変わりない。ミヤビは未だルベルを邪険に扱い、ルベルはミヤビを怖がっていたが、この記憶もまた「宝物」だとはっきり分かるくらい、暖かい。


 それからしばらく、ミヤビとルベルの奇妙な生活が続いた。ずっと何もしないルベルに、ミヤビが半ギレで対応する。だが、次第にご飯を食べるようになり、お風呂にも入るようになり、一言二言だが話すようになった。

 それでも外に出ようとはしなかった。外に行こうと声をかければ、たちまち喚き散らし「顔が化け物みたいだから殺される!」の一点張り。普段は静かだったのに、この時だけは耳を塞ぎたくなるくらいうるさかった。


 ……ある時、ミヤビが仮面を持ってきた。

 あの仮面だ。ルベルがいつも付けているやつ。



「これつければ大丈夫でしょ?」


「……変なの」


「私もつけるから。アビーの提案だよ。私がつけていれば、ルベルが真似をしているだけのように見られるから、恥ずかしくないって言ってた」


「……?」


「ルベルのためにつけてあげるって言ってんの」


「……」



 この時から、ルベルはだんだん活発に、ミヤビは少しずつ優しくなっていった。この仮面が、二人の距離をぐっと近づける橋になったのは間違いない。今度は自立の邪魔になっているわけだが。

 ……飛び飛びだが、幸せな記憶を見せられる。もう何時間見たか。もしかしたら、日をまたぐくらいの時間が経っているかもしれない。だが、確実に「現在」に近づいて行っている。



 ――――もうすぐだ。

 そう思った瞬間、忘れていた重圧がかかった。「悪魔」が動き出すのは、いつも絶望的な状況。「現在」に近づく、「ミヤビ本体」に近づくということは、ミヤビが壊れた直接の原因である「ルベルの死」に近づくということ。

 そして……奴がまた動き出すということ。


 何が起こるか分からない。

 いよいよ、「決着」となるだろう。



 ルベルの死が原因で、壊れた。

 つまりそれは、「親に愛されないこと」よりも、「ゴブリンの慰み者になること」よりも、「絶望の激痛に襲われること」よりも、()()()()ということだ。

 親とは、そういうものなのだろうか。

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