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念力に限界は無いらしい  作者: BNiTwj8cRA3j
二章 命の定義
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10-1 「最低な奴」

 「雷」の日。

 もう二日、何も食べず、眠らずの状態のルベルは、心身ともに疲弊しきっていた。特に今日は体が重くて、ベッドから動き出せず、ただただ天井だけを眺めているだけ。特に何も考えていない。世界が、時間が、止まったような感覚だった。


 ルルンタースという少女は、何やら部屋を動き回っている。たまにルベルのことを覗きに来るが、じっと眺めた後で、戻っていく。


 ただそれだけだった。ただそれだけで、時間が過ぎていく。





「――――!! ――――ん!!」





 誰かが、外で呼んでいるようだった。

 すごく遠くから聞こえてくるような感覚だ。



「――――ちゃん!!」



 ……ガチャ、ドタドタドタ。

 鍵は閉めておいたはずなのに、扉が開き、誰かがこちらへ歩いてくる音がする。いや、歩いてはいない。いそいそと、走っている。かなり心を乱しているような、そんな音。



「ルベルちゃん!!」



 不意に、暖かい感覚がした。目線を動かすと、なぜだかそこにはファンヌがいた。涙目になりながら、抱き着かれている。体温がかなり上がっているようで、顔がとても紅潮していた。



「……どうしたの?」


「み、皆が――――いないの!!!」



 どうやら玄関のドアを開けたのはルルンタースだったようだ。たった今、ゆっくりとこの部屋に入ってきて、この光景を眺めている。妙に落ち着いているように見えた。自分自身が沈み込んだ気分だったからだろうか。

 皆が、いない……? どういうこと?



「ど、どどど、どうしよう!? なな、なにがお、起こって、起こってる……え、え、えええ!????」



 ファンヌはパニック状態になり、過呼吸を起こしていた。自分の胸に顔をうずめ、良く分からないまま泣き始める。初めて会うはずの、真っ白な女の子のことを気にする暇もないあたり、かなり焦っているようだ。



「お、落ち着いて、ね? 何があったの?」


「昨日から風邪で寝込んでたんだけど……朝起きて、気が付いたら、周りに人が全然いなくて……」


「……?」


「に、に、逃げた方が、い、良いと思う……! そ、そそ、その子も!」


「……」



 ルベルは、ミヤビが帰ってきていないことに気が付いた。「何があったのか」と考は考えずに、「自分が嫌いになってしまったんだろう」と彼女は推測した。心が沈んでいく感覚がする。音が遠ざかっていく感覚がする。でも、今はファンヌを安心させなければ、と思って、彼女の背中をさすりつつ、言う。



「アタシが探しに行ってみるよ。ファンヌちゃん、あの子と一緒に、ここで待っててね」


「あ、危ないんじゃ、ない……?」


「ダイジョーブ。アタシこう見えて強いから……!」



 死を覚悟していると、変にポジティブになるものだ。


 こうして、ルベルは外に出た。死ぬためではなく、アウジリオを探すため、もとい、誰かを助けるために。外に一歩踏み出したとき、感じたのは「静寂」。何一つ、音が聞こえない。街の外れだから、いつもそれなりに静かなのだが、今日は異様なくらい静かだった。


 何かあったんだろうかと、一考してみる。頭の回転が遅いけど、一つの仮説を立てる。「紅い月が近いから、皆で非難したんじゃないか」と。確か、昨日もそれは来なかった。だから、恐らく皆はギルドの近くにいるのではないか、そう考えて、ルベルはギルドに向かうことにした。


 誰もいない。何もない。

 静かだった。まるで皆が消えてしまったかのように。


 でも、不思議と怖くなかった。









 ――――ガスが、いた。



 ルベルは慌てて隠れる。

 でも、よく見ると、「黒い人」に引きずられている。彼らしく、何か文句を言っているようだったが、その人は何も反応を示さない。ただ無心で、彼を運んでいるようだった。

 ずるずる、ずるずる……子供がもがいたところで、大人の力には敵わない。どうやら運ばれている先は、「ギルド」のようだ。ルベルは隠れつつ、それについていく。


 そうすると、本当にギルドについた。その前では、何十人かの人がいる。誰もかれも、「冒険者」で、強そうだったけど、その全員が魔法で拘束されていた。

 ミヤビもいた。もがいている声が、聞こえてくる。だけど、彼女でさえ、その拘束からは抜け出せない。


  ……血の臭いがする。でも、不思議と怖くない。


 それから、「黒い人」の他に、「赤い人」がいた。どうやら彼がリーダー格なようで、「これで全員か」と聞き、ガスを連れて行った人が、静かに頷いた。

 でも、あそこにいるのは、町の全員ではない。ということは、「こういう場所」がほかにもいくつかあることが推測できた。



「やい、君っち。これはどういうことですか!? 今すぐ僕ちんを解放してください! 気持ち悪い顔面をしてるくせして、無礼な!」



 ガスはこの状況でも叫んでいる。怖い人たちに恐れることなく。



 殺された。



「悲鳴を聞く価値もない、クソガキね」


「よくできました」



 気を抜いた一瞬の隙に、ガスの首がボトリと落ちた。彼の首を切ったのは、近くにいた金髪の女の人で、「その他大勢」と同じように、黒いフードマントを身に着けている。何故か、彼女だけはっきりと顔をさらしている。

 どこか、見覚えがあった。



 ……ってかあれ? ガス、殺された?


 殺された。


 あぁ、殺されてるわ。


 首が落ちてる。

 

 体についてない。


 死んだ、ね。


 あれ、死んだ? 


 なんで死んだ?


 ……あれ? あれ?









「んふっ」









 笑ってしまった。変な笑い声だった。何も意識してなかったのに、腹の底から湧いてきた、どす黒い笑いが零れだしてしまった。一瞬だけ、彼らがこちらを見たが、間一髪で顔を引っ込めた。


 どうして、笑ってしまったのか。自分に問い詰めても分からなかった。

 でも、分かっていた。嬉しかったんだ、ガスが死んだこと。それを認めたくなかっただけ。認めてしまえば、悪者になってしまうから。でも、もう、悪者だった。


 同時に、この状況がとても危険だと理解した。どうしようか、分からなくなる。多分このままじゃ、ミヤビは殺されてしまう。でも、自分がここから出たとて、すぐに殺されるから、一緒だ。


 ……何もできないことに気が付いた。

 気が付いてしまった。


 気持ちが悪かった。何か良く分からないけど、気持ち悪かった。吐きそうだった。目が回る。もしかしたら、ガスの血を見たからかもしれない。だけど、何よりも気持ち悪かったのは「自分」だった。



 ルベルは途端に怖くなる。もしかしたら、自分は次の瞬間に殺されてしまうんじゃないかと思い始める。おぞましい恐怖の中、彼女は逃げ帰った。脅かされた子猫のように。

 ある程度、分かったことがある。あの「黒い人」たちが、ダラムクスの皆を集めて、何かをしようとしている。その「何か」は分からないけど、多分きっと、最悪なこと。自分たちの家は、街の外れ、ちょっと分かりにくいところにあるから、多分まだバレていない。だけどきっと、バレるのは時間の問題。


 どうする? どうする? どうする? どうする?



「る、ルベルちゃん、どうだった……?」



 息を切らしながら帰ってきたルベルに、ファンヌが恐る恐る問いかけた。



「に、逃げないと……!」


「な、何があったの?」


「とにかく逃げないと!!」


「でも、皆は……!?」


「…………」



 言葉が詰まってでなくなった。「諦めるしかない」と、言いたくなかった。



「……ディアちゃんは!?」



 突拍子に出たその名前が、ルベルには良く分からなかった。確かに、数日間ここに居た、紫髪の女の子だということは分かっていたが、今、彼女が口に出した理由が分からなかった。



「……?」


「ディアちゃんなら、何とかしてくれる……と、思う! あの時、ドラゴンを倒したのだって、ディアちゃんだった! きっと、皆を……!」


「いないよ」


「……分かってる、けど」



 冷たく突き放されたその言葉に、ファンヌは歯を食いしばった。光を潰したくなかったのだ。嫌なことを考えたくなかったのに、心の中で、何か黒いものが、どんどんどんどん大きくなっていく……。



「いない、いないけど――――まだ、間に合うかもしれない」


「え?」


「確か、西の海岸を歩いていくって言ってた。だから、アタシが全力で走れば……」


「……」


「……」



 ファンヌは自分から言い出したことだとはいえ、無謀なことだと分かり始めた。現に、彼らが出かけてから二日近い時間が流れていたから。歩きとはいえ、かなり遠くの所にいるはず。それに加えて、あの強さを誇るディアなのだから、「歩き」が自分たちのそれとは比にならないかもしれなかった。

 ルベルも同じことを考えていた。しかし、それ以外に、ミヤビを助ける手段がないと確信していたから、一か八か、行くことを心に決める。



「行ってみる」


「お願い……っ」


「隠れていて」


「……うん」



 ☆



 ギルド前。


 レンの前には、屈強な冒険者たちが跪いていた。もがけば殺すと教えているから、無駄な抵抗をしている奴らはいない。事実、もう何人か殺した。見せしめとして。抵抗を続けているのは、ミヤビだけ。レンは彼女を殺すつもりは無かったし、彼女にはそれが分かっているから、必死で動き続けている。

 だけどそれが滑稽で、滑稽で、仕方がない。



「うーん、その『レセルド』って子はどんな子なのかなぁ」


「そこまでは分からないわ、ダーリン。ごめんなさい。ただ、クソブスってことしか」


「でも、見回ってもいなかったんだろ?」


「ええ。十六箇所の拠点を全部まわったけど、いなかったわ」


「逃げた、のか?」


「ミヤビさん? その子を逃がしたの?」


「んー! んー!!!」


「逃がしてないようね」


「それもそうなんだよなぁ。昨日、俺は間髪入れずにこいつを縛り上げたし……連絡する暇は無かったはず。あるとしたら、こいつの他に俺たちのことを知ってるやつがいて……でもそれにしては間抜けすぎるよなぁ。住民が逃げてなさすぎる」


「んーどうしましょ?」


「とりあえず、始めてみるか。初めはレベル1の魔物たちを使って。それから、ここから出れないように結界を作って」


「なぁーるほど。確かに、『レセルド』なら、死ぬことは無く生き続けられるわね」


こいつら(冒険者)を解放するのは、まだ先だ」


「りょーかいよ。いよいよねぇ」


「ハハハ、楽しみだなぁ」

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