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念力に限界は無いらしい  作者: BNiTwj8cRA3j
二章 命の定義
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7-1 「最悪の予感」

 ダラムクスでいうところの、雷の日。雷が来る様子はないが、快晴とも言い難い雲の量。だが、曇天というにはほんの少しだけ雲が足りない、なんとも微妙な日だった。あともう少しで雨が降るかもしれないような気怠さもある。


 そんな朝、アビーが訪ねてきた。エミーの魔導書の解析が終わったらしく、どうやらあの翻訳されていなかった言葉は、大陸「スクルー」で使われていた「フロズ語」らしい。スクルーはここから北にあり、なんだか特徴のない形の大陸だった。


 そんなこんなで出発の準備をしようかと考えている最中、彼女はミヤビに何かを伝えていた。耳を傾けてみれば、ミヤビにダラムクスの「新しい」ダンジョンの調査依頼が来ているらしい。



「新しいダンジョン?」


「そう、よ。結構近くで、土の中に埋もれていたのが見つかった、らしい、わ」


「ふーん」


「それ、で? ブラはちゃんと、つけ、てるの?」


「うんにゃ?」


「あらあら、たれ……」

「はいはーい」



 どうやらその調査は、金級冒険者と銀級冒険者合わせて十数人と、結構大掛かりなものになるらしい。次の火の日(つまり三日後)に出発するんだとか。かかる時間は深さによって変わるだろうとのこと。


 俺は行くかどうか迷ったが、行かないことにした。というのも、その周辺ではさらなる調査と、子供たちが立ち入らないように警戒がされているらしい。つまり、俺みたいな子供が行くと十中八九怪しまれる。ミヤビたちの後に行ってみてもいいが、おそらく昔「最下層の下」まで調査されていることを見ると、今回もまたそこまで調査するだろうと予測できる。そこでめぼしいものが見つからなければ、俺たちが行ったとしても無駄足になるだろう。


 ということで、先にスクルーで「魔導士エミー」を探すことにしたが……。



「――――ゆっくり進みたい」



 昼。ルベルはいつも通り学校で、ミヤビは休みで俺たち同様家にいる。俺がもう一度「エミーの魔導書」に目を通しながら、ディアに例の話をしていたところ、ぼそっとそう呟いた。



「……どういうことだ?」


「いや、なんだ、吾輩にとっては、二千年ぶりなんだ、この世界。昔は暴れ回っていて、よく世界を見てなかったから、見てみたかっただけなんだが……」



 ディアらしくない言葉。理由に大きな根拠はなく、ただの気まぐれのようにも思える。混沌邪神龍に「景色を楽しむ」という概念があったことに驚きだが、これを否定するのはおかしい気もする。俺にはそう急ぐ必要もないのだし、ここはひとつ、ディアの言うように「世界」を楽しんでみようか。



「……分かった」


「良いのか?」


「急ぐ理由はないからな。それに、あんまり急ぎすぎるのも疲れるし」


「……ありがと」


「だったら、先に『マイアミル』を目指したい」


「マイアミル?」


「マイアミル王国、もともとはここ(ダラムクス)を支配していたところだ。今は王国ではなく、ダラムクスと同じような感じになっているらしい。そこなら、もしかしたら『転生』に関するヒントを得られるかもしれないしな」



 そもそも、魔導士エミーが転生の仕方を知っているとは限らないのだ。マイアミルに行こうがスクルーに行こうが、結局やることは変わらない。



「……ところで、ゆっくり進むって、歩きか?」


「そうだ」


「……まぁいいか」


「え、もっきゅんたちもう出発するの?」



 本を読んでいたミヤビが会話に入ってくる。



「さぁ、どうしようか」


「なんならもっと居ても良いけど?」


「あんまり長居するのは迷惑だろ?」


「全然? むしろ居てくれた方が、ルベルが楽しそうだし」


「なら、もう少しだけ、お邪魔させてもらおうかな」


「うんうん」



 そんな感じで今後の話をしているとき、突然ドアが何度も叩かれた。音はそこまで激しいわけではなかったが、なぜか怒りがこもっているように感じた。ミヤビが慌てて扉を開くと、そこに居たのは、ルベルの学校の先生のようだった。自分の中で女性教師がよく来ているイメージのある、カーディガン(というのかどうかは知らないが)を着ており、黒に近い緑の髪色をしたロングヘアーの女性だ。



「こんにちは……何かありました?」



 ミヤビがそういうと、教師の後ろに隠れていたルベルが出てくる、というより半ば強制的に前に出された。ルベルが不貞腐れている様子からピリッとした雰囲気を感じた俺は、ディアと隠れながら事を見守ることにした。見つかったらそれはそれで面倒なことになりそうだし。



「ミヤビさん、今お時間よろしいですか?」


「……は、はぁ」



 彼女らは家に上がり込む。ルベルはミヤビの隣に座り、テーブルを挟んで教師が座る。ルベルはずっとうつむき、何も話そうとはしなかった。



「ミヤビさん、ルベルちゃんに昨日、何かありました?」


「え、えーと……ルベル、何かあったの?」


「……まぁ、今までの授業態度は大目に見るとして。しかし、今日はいつにも増して態度が酷かったです。特に多かったのが、()()()()()()。やれ死ねだの殺すだのブスだの、ともかく、多くの子供たちが私にルベルちゃんのことを言いに来ました。しかし、ルベルちゃんにそのことを聞いても何も言わないのです。お母様と何かあったのではないかと思い、今日ここに私自ら訪問したというわけです。先日の紅い月で冒険者の皆さんは休暇中であり、ミヤビさんもまた家にいるだろうという自分勝手な推測の下、突然お邪魔してしまったことをお詫び申し上げます。ですが、中には、暴力を振るわれかけたという子もいます。このまま彼女を放っておくのは危険であると判断しました」


「……そ、そんなことがあったんですか」



 俺とディアは何度も顔を見合わせたが、結局首を傾げあうだけだった。

 かくして、この真昼間の、奇妙な家庭訪問が始まったのだった。

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