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念力に限界は無いらしい  作者: BNiTwj8cRA3j
二章 命の定義
55/185

6-3

 ホルガーの研究室。


 照明があったのでつけてみる。

 白いコンクリートでできた部屋に、様々な機械が置いてあった。アンドロイドの部品と思えるものも。どれも起動はしていないようで、「ただ冷たくなった鉄たち」とも形容できる。


  近未来的な空間、とギリギリ言えるかもしれない。もう一言付け加えるなら、「使われなくなった」だろう。



「ここで、あいつがつくられたのか」



 ディアがぼそりと呟いた。



「……」



 扉を開けて、正面の壁に設置されているのは、一際大きな機械。

 アーチ状の骨組みがいくらかあって、複数のコードが垂れている。そしてそのコードは、すぐ隣にあるコンピュータにつながれている。


 PCのようだが、俺の知っているモノとは少し違う。入力パネルは、QWERTY配列ではなく、そもそもアルファベットでもない。ダラムクスの文字でもない。ディスプレイはなく、入力パネルの奥に置かれたコンピュータらしき箱があるだけだった。



「おお、よくできてるな」



 ディアは、腕の部品と握手をしている。装甲は何もなく、機械そのままの状態だ。おそらくビルギットの手はこうなっているのだろう。


 コンピュータのような白い箱には、たった一つだけスイッチがあった。それが電源なんだろう。俺はそう推測すると、何も考えずにそれを押していた。

 空中に画面が現れる。英語でも、ドイツ語でも、ダラムクスの言語でもない文字で、「キーを入力」という言葉も一緒に。


 ……パスワード、日記の中にそういう記述はなかった。

 何か部屋の中に、そういうメモ書きはないだろうか?



「なにこれ……『キーを入力』……?」


「!? 読めるのか、ディア」


「……あぁ」



 今の一瞬のやり取りで、何かが分かった気がした。

 彼女は、ダラムクスの言葉を理解することはできない。シューテルの言葉は、()()()()()()()()。だが、「この文字」を読むことはできる。


 つまり……これは「古代の文字」。二千年前、ディアケイレスが文章を読めるような教育を受けていた、もしくは独学で学んだのか……どちらにせよ、彼女を知る手掛かりになるのは間違いなさそうだ。

 シューテルの言葉は、音だけ古代の名残があり、文字の形が変わっている、ということになる。となれば、古代文明が大きく残っているのはここではなくシューテル大陸だと考えられる。

 どうするか。もう一度あそこに戻ってくまなく探してみるのもいいかもしれないが、アビーがエミーの魔導書を解析してくれているからな……。

 

 順番は後から考えるか。

 ともかく今は「キー」が知りたい。



「モトユキ、何かキーになるものは日記の中で見つけなかったのか?」


「……なかった。そもそもホルガーの日記に、ロボット研究に関することはほとんど書いていなかった。研究資料は、ほとんどこの中にあるはずだ」



 俺は、古代文字で「1234」と打ってみたが、どうやら違うようだ。

 研究室の中で別の資料を探してみるが、なんて書いてあるかさっぱりだ。文字が汚すぎる。


 かろうじて読めたとしても、それが「キー」に関係する内容であることは稀だろう。ホルガーは他人と関わることを避けてきた人物だ。もしかしたら、そもそも「メモ書き」をしていないのかもしれない。


 ……待てよ、「他人と関わることを避けてきた」ってことは、パスワードいらなくないか? ダラムクスにはそもそもロボットに関心のある人間がいないようだし、技術を盗んで悪さをしようという人間もいない。

 ホルガー以外でここに立ち寄ったのは、俺たちくらいなんじゃないか?


 そう考えた俺は、何も入力せずに、ENTERキーを押してみた。(実際にENTERと書かれているわけではないが)

 

 すると、「ようこそ」と表示され、そのままデスクトップ画面が表示される。

 どうやら使い勝手は、俺の知っているPCとほとんど同じようだ。



「奴は設定していなかった……ということか?」


「まさかとは思ったが、本当に開けらるとはな」



 青一色の背景に並ぶのは、たくさんのファイル。

 どうやらビルギット含め、様々な機械の資料をまとめているようだった。


 「ビルギット」というファイルを開いてみる。


 ……。

 …………。

 ………………。


 なるほど、研究者らしい手記が残されている。

 日記とは人が変わったかのように、生き生きとしている。



 No.125ビルギット


 最後の作品に相応しいものにしたい。

 どんなものがよいだろうか。

 

 ……そうだ、今まで作ったものをすべて合わせよう。

 そしてすべての機能を盛り込もう。


 いいぞ、それでこそ最後に相応しい。



 初めの方にはこう書かれていた。

 なるほど、ビルギット以外の作品が見当たらないのは、すべてがあいつに組み込まれているからなのか。


 ……そんなことが可能なのだろうか? 

 直感では、できっこないような気がするが……だが、確かにビルギット以外に独立した機械は見当たらない。


 そして、「この機械」は、ダラムクスの近くにあったダンジョン最下層の、さらに下にあったものを改造したものらしい。ギルドマスターに頼んで、攻略に一緒について行ったそうだ。

 つまり……?



「……顎を置くな」



 いつの間にか、俺たちは画面を食い入るように見ていた。その中で、ディアは俺の肩に顎を置いてきた。痛ぇ。美少女特有のシャープな顎が突き刺さっている。



「えぇ、疲れた」


「今いい感じに考えてるから」



 ディアはしぶしぶ顎をどけた。

 

 さて、気を取り直して。

 「ダンジョン最下層の下」とわざわざ記してあるのは、「最下層に階段はなく」、何らかの方法で下に辿り着いた、ということだろう。そしてそこに、古代文明があった。


 ダンジョンは、古代文明を隠すための、建物……?

 もしくは研究施設。それなら、無尽蔵に湧いて出る魔物と何か関係がある、か?

 魔物は侵入を難儀なものにするための、兵器とか。


 もしかしたら、ディアの居たアルトナダンジョンもさらに下があるかもしれない。今度ダンジョンを見つける機会があったら、探してみるのもいいだろう。


 だが、ホルガーのファイルを物色している限り、「異世界転生」に関する記述はほとんどない。「テレポート」的なものについても、書いてない。

 ホルガー本人が興味がなかったか、それとも彼の調べたダンジョンにそれがなかったか。


 そもそも彼の調べたダンジョンは二十階層が最下層で、二十一階層にこれが隠されていたらしいから、アルトナダンジョンと比べたら、「重要じゃないダンジョン」だったのかもしれない。


 いずれにせよ、「ダンジョン」も良いヒントになるかもしれないな。

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