表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
念力に限界は無いらしい  作者: BNiTwj8cRA3j
二章 命の定義
54/185

6-2

 ホルガーの日記。

 何冊かあるうちの、いちばん古いもの。紙は黄ばんでいるが、しっかり保存されているので読むことはできる。そのすべてがダラムクス特有の言語ではなく、アルファベットで綴られている。ところが、これは英語ではないようで、どうやらドイツ語のようだ。俺はドイツ語も読めるようになったらしい。


 こう書いてある。



 僕がダラムクスに転移してから二十五日。

 今日は、十月の第三氷の日と表すらしい。

 正直面倒。


 スタンリーが僕のために家を貸してくれた。

 少々不便な場所にあるけど、僕が選んだ。

 ここなら、研究に没頭できそうだし。

 好きなだけ大声で歌えるし。


 スタンリーはギルドマスターっていうすごい人らしい。

 なんで三十後半のおじさんは髭を伸ばしたがるんだろう。



 ビルギット制作までの事細かな道のりの手記かと思えば、そうでもない。何の変哲もないただの日記のようだった。だが、ページをめくっていると、疑惑が確信に変わった。


 それは、ホルガーが転生者であるということだ。


 彼の手によって書かれたモノが、ドイツ語で執筆してあるところから疑ってはいたが、この日記を見る限り転生者とみてまず間違いない。簡単な人物像としては、「ドイツの機械オタク」と言ったところか。第一次世界大戦やヒトラーの話題が、元居た世界の情報として書かれていることから、ホルガーが転移したのは、俺らの西暦で1940年あたりだろう。


 俺が転生した時期と一緒に考えると、元居た世界の方がわずかに時間の流れが速いように感じる。が、それはあくまでこれだけを踏まえた話であり、絶対ではない。

 彼は、消極的な人物だったようだ。祭りに参加せず、宴に参加せず、友達と言える人物は、ギルドマスターなる「スタンリー」だけ。ホルガーは、心臓病により前の世界を去っている。「いつ死ぬか分からない」から、こんな態度をとっているような印象がある。

 自分が死んでも誰も悲しまないように。


 そしてもう一つ、気になる日があった。

 こう書いてある。



 ダラムクスに転移してから三度目の十月第三氷の日。

 もう三年も経つ。


 神様は『なにがしたい?』と聞いてきた。

 僕は『機械に命を与えたい』と言ったが、返事はなかった。

 その返事を待って、もう三年。



 唐突に出てきた、「神様」という言葉。

 これまで彼の日記の中で神様という言葉は出てきたが、どれもこれも否定するようなものばかりだった。「神に人格があるとは限らない」というのが、彼の立ち位置であったが、明らかにこの日だけ変だと思った。


 一通り日記に目を通した俺は、「地下室」に行ってみることにした。

 ホルガーが死んでいた部屋は確かにホルガーの部屋であったが、研究室ではなかったようで、地下で研究していたらしい。日記にはそうあった。ビルギットに関する内容は、この中に詳しいものはなかった。精々「~~ができるようになった」ぐらいのもので、制作に関する苦悩や、仕組みの話は何もない。おそらく、地下室にそれを書いたものがあるのではないだろうか。

 庭の花壇の奥に、入り口が隠れているらしい。ホルガーと言い、サングイスと言い、地下で研究するのが好きな奴らだな。


 思い立ってディアを呼ぼうとすると、昼食を勝手に頂いていた。



「なにしてんだよ?」


「なんか良く分からんが、こいつが……」



 サンドイッチを口いっぱいに頬張りながら、ディアはビルギットを指さした。ディアの正面に座り、胸をぴんと張っている。つくられた微笑みが、逆に不気味だ。



「ビルギット? 別に俺らの昼食は用意してくれなくても……」


「用事は済みましたか?」


「……いえ、まだ」


「今日の昼食はサンドイッチです。よろしければあなたもご一緒にどうぞ」


「……」



 この場合、どうするのが正解だろう。

 ま、とりあえず頂くのもアリ、か?



 ☆



「なぁ、モトユキ」



 ディアがこそこそと話しかけてきた。



「どうした?」


「さっきあいつ、あの骨の部屋に飯を持って行ったけど、何するつもりなんだ?」


「ホルガーに渡してきたんじゃないか?」


「え……でも……あいつ、骨だぞ?」


「おそらく、死んだことが分かってないんだ。ビルギットは」


「馬鹿な奴だな」


「……ここに来たとき、見ただろ? 一人前だけ用意された朝飯」


「……あぁ、そういえば」



 ビルギットがどんな命令で動いているのか分からない。だが、ホルガーは、自分が死んでしまった時の命令を考えていなかったのだろう。普通考えるものではないが。



「誰も食べないなら、吾輩が食べていいかな?」


「さっきあんなに食べてたのにか?」


「……悪いか?」


「人様の家ではもう少しおとなしくしてくれ」


「……しょうがない、そう言うなら」


「案外あっさり諦めるんだな」



 ディアはほんの少しだけ口をとがらせていた。

 本当は、何も意味はないのかもしれない。ビルギットが飯を作っては、ホルガーの亡骸に渡しに行く行為が。



「それで? 何か分かったか?」


「研究用の地下室があるらしい。次はそれを見に行く」


「ふぅん。んじゃ、あの部屋には何があったんだ?」


「ホルガーの日記だ。多分こいつは、転生者だぞ」


「……!」


「ただ、神霊種(オールドデウス)の名前は書いてなかったし、祝福についても書かれていなかった。ほとんど俺と同じだ」


「……」


「転生者ってどんな風に能力が分かるんだろうな」


「……普通なら、神霊種(オールドデウス)を判断できる魔導士が近くにいて、それで分かる」


「……え?」


「ミヤビもそれだと思う。ただ、モトユキとホルガーに関しては分からない」


「……ディアは何を知ってるんだ?」


「何も」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ