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念力に限界は無いらしい  作者: BNiTwj8cRA3j
二章 命の定義
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2-3

 クエストスタートから早三十分くらいだろうか。

 しかし、彼らは飽きることなく歌を歌ったり、枝で木を叩いたりして遊んでいる。


 ディアは相変わらず静かで、特に話さない。いろんな所をきょろきょろと眺めているだけだ。


 葉っぱの仮面が気持ち悪いのか、痒いのか、彼女の眉に少しだけしわが寄っているのに、ファンヌは気が付いた。彼女はディアが何を考えているか分からなかった。一体どこから来たのか分からないし、言語も違う。人種も違う。ここが、彼女にとって珍しいのは分かるのだが、時折彼女が空を見ながらぼうっと歩くのが気になっていた。


 でも、妹が出来たみたいで嬉しかった。いつも三人から子ども扱いされる自分にとって、姉というものは憧れの存在であり、妹はずっと前から欲しかった。しかし、姉という生き物が普通どう接しているのかが分からなかった。ミヤビは「アネゴ」と呼ばれているが、どちらかと言うと母親に近いし。


 考えた先に出した結論は、手をつなぐことだった。幼い頃に、アウジリオと一緒にこうやって歩いていた。今はなんだか恥ずかしいので、もうしなくなってしまったが。


 ちなみに、肉体の年齢的にはディアの方が上である。

 しかし、ファンヌの方が背が高いので、彼女は、ディアのことを年下だと勘違いしている状況だ。



『……ん?』


「えへへ……?」



 そっと手を握り、「このままでもいい?」と首をかしげる。抵抗はされなかった。

 私って、お姉さん! という優越感よりかは、純粋に可愛いという気持ちの方が強かった。



「狼さん、見つからないね」


『……?』



 ディアは言葉の意味を理解していないようだった。だが、それでもファンヌは話を続けた。



「大丈夫だよ。お兄ちゃんたちは強いし。この辺には冒険者の人もよくいるんだ。だから、危なくなっても助けてくれるよ」


『……さっぱり分からん』



 二人の間に疑問符が多くなるのは当然のことだった。

 だがしかし、ディアが手を振り払うことはなかったから、ファンヌは嬉しくなっていろんなことを話した。仮面の冒険団が今までどんなことをしてきたのか。自分の着けている仮面の素晴らしさ、この町の素晴らしさ……ディアは理解できていないと分かっていても。



 ところが、二人で夢中になって話し込んだために、他の三人とはぐれてしまった。三人は三人で、歌に夢中になってしまったのだろう。ファンヌが気付いたときには、どこを見渡しても同じ景色があり、獣道すらも分からないような場所に来てしまっていた。もう三人の歌声は聞こえない。


 じわじわと冷や汗が滲んでくるのを感じた。ここから家に帰れるイメージが湧かず、真っ暗。それが異様に怖くて怖くて仕方がない。クマのぬいぐるみを抱く力を強めたところで、状況は変わってくれなかった。



『ふぁぁあ……ってどうしたんだ?』


「ディ、ディアちゃん……ごめんね。大丈夫だからね」



 彼女は、呑気に欠伸をしているディアを見て、少しだけ落ち着いた。


 そうだ、私が守らなきゃ。私がお姉さんなんだ。必ずディアちゃんと一緒に帰らなきゃ。

 そう自分に言い聞かせ、次に自分がすることを明確にイメージする。他の三人を見つけるか、冒険者に助けを求めるか。この時間帯だから、ここに人がいる可能性は高い。母親にバレて怒られるのが目に見えるが、やはり命が大事だ。ともかく人を見つけることが先だ。


 すぅぅ、と息を吸って、



「おにいちゃあぁぁん!!」


『!? ……びっくりしたぁ』



 甲高い声が森の中に木霊した。

 しかし、辺りは静まり返るばかりで、期待していた人間の声は聞こえてこない。


 つまりそれは、この近くに人間はおらず、魔物に場所を知らせてしまったということだ。どうか、魔物も近くに居ませんようにと願うが、どうしてもそのイメージが明確にできてしまう。

 薄ピンク色に塗られた紙の仮面を地面に投げ捨て、もう一度辺りを見回した。何か、何かここから逃げることのできるカギはないか……食い入るように眺めた。


 ない、ない……どこにもない。



「おにいちゃーん! おにいちゃーん!!」


『どうしたんだ……?』



 心を包み込むようなどす黒い恐怖と戦いながら、考え、声を張り上げる。

 だが、彼女の心は、もう、枝のように折れてしまいそうだった。



 バウッ!!



 不意に、思考が止まった。

 パズルのピースがばらばらと散らばっていくような感じがする。

 それをかき集めるように、再び考える、が、



 バウッ、バウッ!!



 いやだ、いやだ、いやだいやだいやだ……。

 考えたくない。全てが夢であったと信じたい。


 けれどもその音、もとい声は、何度も何度もこちらに向かって発せられる。

 それが何なのか、彼女にはすぐ理解することが出来た。彼女には鳴き声だけで魔物を選別する知識は無かったから、詳しいことは分からないけれど。だが、それがフラギリス・ウルフだったとしても、数が多ければやられてしまうことだってあるかもしれない。明確なのは、今から魔物の襲撃を受けるということ。

 相手の強さをはかることができないこの状況下で、ファンヌの頭は最悪のイメージをつくりだしてしまう。貪られる自分の体を想像すると、胸が苦しくなる。


 ついには、泣き出してしまった。

 全ての思考を放棄し、真っ暗な思考の中でただ、熱い涙を零した。



『……ど、どうしたんだ? え、吾輩何もしてないよな?』


「ごめん……ごめん、ねっ……」



 バウバウッ! バウッ!



 鳴き声が、近づいてくる……。

受験期なので、更新ペース落ちます。

すみません。

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