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念力に限界は無いらしい  作者: BNiTwj8cRA3j
二章 命の定義
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2-2

「仮面の冒険団! 番号いち!」



 ダラムクス近郊の広場、ミヤビの家から徒歩五分くらい。

 この場所に響く、調子の良く明るい声。その声の主は、一人だけ特別製の仮面をつけ、赤いフードを被った少女、ルベルだ。



「に!」



 次は、少しだけ変声期に差し掛かった少年の声だった。

 明るめの茶髪に、半袖半ズボンの典型的なやんちゃ少年、アウジリオ。歳はルベルの一つ下、十二歳。紙で作った簡素な仮面をつけていた。ルベルと同じように、その仮面はにこりと笑っている。



「さん!」



 今度はルベルよりも高い声だった。彼は、ドナートという男の子だ。艶やかな黒髪をしていて、アウジリオよりかは少しばかり落ち着いた印象がある。血はつながっていないが、彼にとってアウジリオは兄のような存在であり、慕っている。彼は、無意識にアクセントをアウジリオに寄せていた。

 彼もアウジリオと同じように、紙の仮面をつけていた。シンプルなものではなく、ド派手に色を付けたもの。虹を模していたが、色の並びはバラバラだ。



「よん」



 これまた高い声だったが、他の三人よりかはるかに落ち着いていた。

 彼女の名はファンヌ。アウジリオと同じ明るい茶髪で、彼の実の妹である。年齢はドナートよりも二つ下、八歳。ぎゅっとクマのぬいぐるみを持っている。彼女も三人と同じように仮面をつけているが、女の子とだけあって作りはしっかり丁寧だ。穴あけも気味の悪い半月型ではなく、まんまるだ。



「……」



 そして最後。

 四人が何をしているのかが分かっていない、()()()()()、もといディアである。彼女は長い紫髪をしている。これはドラゴン化したときの鱗の色と同じ。また、瞳は金色で、蜥蜴(とかげ)のような縦長スリット状の瞳孔がある。彼女は、他の四人と話せない。言語が分からないのだ。故に、四人のように仮面もつけていない。



「ディアちゃん、『ご』って言うんだよ」



 ドナートが彼女にこっそり話しかけるが、本人はさっぱり理解していない。



『……何をすればいいんだ?』



 勿論、一同はディアの言葉を理解することが出来ない。

 だから、ディアの問いかけも意味を成していない。



「多分、ディアちゃんは言葉が分からないんだ」


「え? そうなの?」



 アウジリオは驚いたようにディアの顔を見た。首をかしげて困ったような表情をしている。とてもきれいな顔をしているなと、彼は少しだけ見惚れた。まるでペンで描いたかのような、美しくしなやかな造形だった。



「うん。どこか別のところから来たって、アネゴが言ってた」


「へぇー。でも、仮面が無いよ?」



 言語の壁というのは、彼らにとってそこまで大きな問題ではなかった。アウジリオが一番問題視していたのは、ディア用の「仮面」がないということだ。

 彼らの所属するグループ、もといごっこ遊びである「仮面の冒険団」。金級冒険者ミヤビに憧れて、仮面を自作し、日々クエスト(遊び)をこなしている。これに所属するためには「仮面」が欠かせない。団員のトレードマークであり、勲章なのだ。

 勲章という意味をあまり理解していないが。



「葉っぱで作ればいいんじゃない?」



 そう言うと、ドナートは大きめの葉っぱとツル植物を適当に持ってきた。



「ドナートくん、貸して?」



 ファンヌがそれを手に取ると、器用に組み合わせ始めた。

 ディアがつけていても落ちないように、仮面に葉を外したツル植物を通す。目の穴を破り、あっという間に即席仮面が出来上がった。



「はい、あげる」


『……え?』



 ディアは何となく察した。が、それを信じたくは無かった。

 つまり「つけろ」と言っているのは確かだったが、何故自分が付けないといけないのかが理解できなかった。宗教じみたものを感じて、ほんの少しだけ警戒する。だが、仮面の上からでも分かるくらいにこにこしたファンヌに押し負けて、遂に受け取ってしまった。


 しょうがないので渋々つける。葉毛が肌を撫でてきて気持ちが悪かった。



「……んふっ」



 ディアは今、ルベルがこちらを見て笑ったのを聞き逃さなかった。

 それもそのはず、はっきり言って滑稽だからだ。それはディアにも分かっていたが、どうすることもしなかった。



「よし! それじゃ今回のクエストを発表する!」



 彼女は笑ってしまったのをごまかすように、声の調子を変えて、人差し指を天に突き上げる。その人差し指に一同の意識が集中するのを見計らってこう言った。



「フラギリス・ウルフを討伐せよ!」


「えぇ!? 危ないよ!」


「へーきへーき」



 すぐさま自分を止めようとしたドナートをいなし、彼女はとあるものを取り出した。



「ほら、これ!」



 彼女の手にはナイフがあった。小さなもので、武器というよりかは調理道具のような感じだったが、それでも子供の手にとっては大きいし危ない。元々これは、ミヤビが以前使っていた採集ナイフである。彼女好みのシンプルな黒の柄。しっかり研がれており、太陽の光で白く輝いている。



「フラギリス・ウルフくらいなら、これで十分だよ!」


「えぇ、でも父さんが街の外に出ちゃダメって……」


「いーじゃんドナート。行こうぜ」



 悪ノリするアウジリオ。彼はどこからか大きめの枝を持ってきて、やる気満々である。



「お兄ちゃんが行くなら、私も」


「ファンヌまで?」



 フラギリス・ウルフ、その意味は「弱い狼」である。

 普通の犬と同じくらいの大きさで、魔法攻撃も何もしてこない。群れは三、四体くらいの小さなもので、子供でも倒すことが出来ることから、その名がついている。数が多く、農作物に被害が出るため、討伐依頼がギルドの下級クエストになることもしばしば。報酬金は少ないので、あまり人気のあるクエストではない。



「さんせいたすう、ということでしゅっぱーつ!」


「大丈夫だってドナート。危なくなったらすぐ帰ればいいんだし」


「本当に大丈夫なのかなぁ」


『……どこかに行くのか?』



 大きなあくびをしていたディアは、彼らが動き出したことに気が付いた。

 仮面の冒険団、クエストスタートである。

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