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念力に限界は無いらしい  作者: BNiTwj8cRA3j
二章 命の定義
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2-1 「ごっこ遊び」

 そろそろ夜が明ける頃。

 シューテルと同じように、ここにも太陽が昇る。


 目を覚ますと、相変わらず俺はミヤビに抱きしめられていた。

 嫌ではないから、してもらう分には別にいいんだけれど、その、何か虚しくなるものがある。俺は果たして、「子供である」という点以外に魅力が無いのだろうか。


 珍しくディアが早起きをしていた。いつもは俺が起きる頃にはまだ爆睡中なのに。

 代わりに髪の毛を爆発させ、一人考え込む彼女の姿があった。彼女自身は真剣な面をしているのに、なんだかその光景が新鮮で面白く感じられる。



「起きたのか、ディア」


「……うん」


「どうした? 何かあったのか」


「いや、少しな」



 少し目線を逸らし、どこかよそよそしい感じだ。ディアらしくない。

 そういえば、ここに来てからずっとこんな感じだ。彼女はやはり何かを知っているのだろうか。



「言葉が通じないんだ」



 重々しく言ったかと思ったら、考えてみれば意外とそうでもない問題だった。

 いや、彼女にとっては大きいのかもしれないけれども。



「……ルベルと話せないんだな」


「あぁ。恐らくモトユキたちと話せるのは『祝福』が関係しているんだろう」


「どうにかして解決できないのか?」


「分からん」


「どうにもできないのか」


「そうだな」



 分からん、と簡単に断言してしまうのに、一体こいつはさっきまで何を考えていたんだろうか。それがディアか。


 ベッドの上で眠っているルベルは、未だに仮面をつけている。すうすうと寝息を立てているが、彼女がどんな表情をしているのかは分からない。仮面を外せば、ディアと同じくらいの美少女が寝ていそうな感じなのだが……それはよろしくないな。わきまえよう。

 また今日の朝食も、彼女は一人別のところで食べるのだろう。彼女がどんな生い立ちでここにいるのか、ミヤビから聞いた話だけだが、それでも悲惨だ。


 結局昨日はミヤビが酔いつぶれてしまって、肝心な「エミーの魔導書」の話は聞くことが出来なかった。途中からどんどん酒のペースが速くなって、下ネタがとにかく多くなっていったからな。

 俺よりミヤビの方がオッサンかもしれない。最初に聞かなかった俺が悪いんだけどさ。



 ☆



 朝食と身支度を済ませ、俺とディア、それからミヤビは冒険者ギルドに向かってみることにした。

 ディアの言語についての相談をしてみると、冒険者ギルドに言語解析について詳しい人物がいるらしい。だから、エミーの魔導書とディアの言語を何とかするために、今日はそこへ向かうことにする。彼女はまた別に仕事があるから、俺たちは多分すぐ暇になる。仕事についていってみるか?


 そう思っていた矢先、ルベルが、



「ディアちゃん、モトユキくん! 一緒に遊ぼうよ!」



 と言ってきた。

 恐らく仮面の下の目は輝いている。純粋に、子供の遊びのお誘いだ。

 ミヤビとは色違いの赤い上着を着て、フードも被り準備万端。


 このケースは全く考えていなかった。このくらいの歳の子って、ホント誰とでも仲良くなろうとするからなぁ。俺とディアは新しい遊び相手なのだろう。朝食に参加していなかったということもあって、一連の流れを知らないのだ。

 しかしどうしたものか。俺たちは用事があるんだけど……まあミヤビの仕事についていかなければ良いか?



「あーごめんねルベル。もっきゅんたちは用事があるんだ」


「もっきゅんってお前……」



 妙なあだ名に詳しくツッコんでやりたいところだが、まぁいい。

 しばらくの沈黙の後、聞こえたのは涙声だった。



「……そんなぁ。せっかくみんなで遊べると思って楽しみだったのに」


「あーえっと、その……」



 ミヤビが慌て始める。

 こいつ実はものすごくチョロいんじゃないだろうか。



「そうだ、ディアちゃん行ってきてよ」


「え!? 吾輩言葉が分からないんだぞ?」


「言語解析、というか、そういう魔法具ってのはもうあるんだ。言葉を話せるようになるだけの魔法具ならすぐに作ってもらえると思うから……お願い!」


「え、えぇ……」


「俺からも頼む、ディア。こっちはこっちでやっておくから」


「……分かった」



 素直な奴だ。

 俺が行ってもいいんだが、単純に面倒だから押し付けちゃえ。それに、同じ女の子同士、仲良くなるのは早いだろうしな。



「んじゃ、早速行こ?」



 ディアの返事を待たずして、ルベルはディアの手を引いて出ていった。

 元気いっぱいだな。


 バタン、とドアが閉まった。

 一気に静かになったこの空間、先に話し出したのはミヤビだった。



「こうしてみると、普通の女の子なんだけどなぁ」


「……そうだな」



 ミヤビは仮面をそっとつけた。ニヤニヤ笑う、少し気味の悪い仮面。黒と白で右半分と左半分が分かれている。次に彼女はナイフを手に取った。腰に専用の装具をつけ、シンプルなナイフをくるりと回して輝きを確かめる。そのあとで、ゆっくりとしまった。


 彼女の動きは一つのルーティンなのだろう。

 「ルベルの保護者」から、「金級冒険者」に仮面を付け替える。

 彼女の雰囲気が変わったのを感じた。



「ナイフが一番好きなのか?」


「いろいろと便利だし、安いしね。攻撃はもろちん、素材を剥ぐにも、植物を採取するのにも使える。私が転生したての頃に、ずっと使っていたら、もうこれしかしっくりこなくなったんだよねぇ」


「……? その言い方じゃ、始めは金が無かったみたいな感じだな。『絶望』って強い能力じゃなかったのか?」


「ぜーんぜんっ」



 それ以上は彼女は何も話さなかったし、俺も何も聞かなかった。

 神様から貰えるくらいのものなのだから、さぞかし強くて、それこそ「チート」みたいなものだと思っていたのだが……そういえば彼女は豪邸に住んでいないし、逆ハーレム状態でもない。


 いや、当たり前と言えば当たり前なんだけど。

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