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念力に限界は無いらしい  作者: BNiTwj8cRA3j
二章 命の定義
35/185

1-3

 俺たちが目指していたのは「ダラムクス」というところらしい。小さな港町だそうだ。

 港町と言っても、今では月に数回ほどしか出航していない。例の「百年前の大厄災」の影響で、色々なところが潰れてしまったからだそうだ。


 仮面の女は、ミヤビ・オウブミと名乗った。

 仮説というより、間違いなくそうだろうと思えることがある。



 こいつ、転生者だ。



 オウブミ、という苗字は聞いたことがないが、雅、という名前は聞いたことがある。こいつが転生者だと仮定すれば、上着についても説明ができる。俺のパジャマみたいに、「思い入れの強いもの」が一緒についてきたのではないか、と。

 言い回しもそうだ。何か引っかかると思ったら、転生者である俺にしか分からないネタを盛り込んできているからだ。



「君たちはどこから来たの?」


「シューテルだ」


「シューテル? 結構遠いところから来たねぇ。太平洋横断、とまでは行かないけどかなり距離があったはずだよ。そこの、ディアちゃんはそんなに早く飛べるんだね」



 ……ほら、また。

 「太平洋」というワードは、俺しか知らないはずだ。屋敷から拝借した世界地図には別の海の名前が書かれていたし、たまたま同じであるとは考え難い。

 それに、「ディアがドラゴンである」という事実を、ディアの変身を見ていないにも関わらず、見破っている点。ディアの魔力を見たのだろうが、ディアは「隠していた」はずだ。ということは、かなり魔法の扱いに長けていることも予想できる。ここは俺と違うな。



「……」



 ディアがさっきから無口だ。

 何があったんだ? さっきも名前を聞かれて答えないから、代わりに俺が答えたし。



「君は何者なんだ?」


「冒険者」


「冒険者? 旅でもしてるの?」


「うんにゃ。君の『冒険者』は少しニュアンスが違うかな。元々、ダラムクスは港町として栄えていたんだけど……ただ、さっきも言ったように百年前に色々あったそうでね。今では冒険者ギルドが街の政治の中心だよ」


「冒険者ギルド?」


「そう、ゲームみたいでしょ? 基本的には魔物退治とかそういうのをやってるんだけど、建物の修理とか、どぶさらい、それから悪い奴をとっ捕まえる警察みたいなこともやってるよ。ほとんど公務員みたいな感じさ。採集とか護衛とかの個人的な仕事でなければ、無償でするんだ。その代わり、税を皆から貰ってる」


「……警察とか、もともとそういう機能は厄災前になかったのか?」


「小さな騎士団が王国から派遣されてたんだけど、ギルドと併合したんだ。大元である王国がオワコンになったからねぇ。んでもって色々と治安がまずいことになったら、ギルドが取り仕切ることになった、らしい。その辺は、私、あんまり詳しくないや」


「建物の修理とか、そういうのって、技術の無い素人がするのか?」


「いや、しないよ。冒険者ギルドってのは色んな人が登録していてね。そういう仕事専門の人もいるんだよ。一般にゃその人らも『冒険者』って言うんだけど、それは昔の名残だね。もともと『冒険者ギルド』っていうのは町を移動しながら営業する便利屋さんみたいなものだったんだ。だけど、今はダラムクスに定着したから、冒険らしいものはしていないかな」


「……へぇ」



 悔しいけどすっげぇ分かりやすい。元世界の知識を持ちながら説明してくれるのはありがたいな。さっきまでこちらを殺そうとしていたとは思えないくらい軽々しく話してくるし、若干それに飲まれている俺がいる。

 そして、「転生」についての話をしてこない辺り、様子を伺っているんだろう。俺が話を理解している時点で、彼女も気づいているだろうし。



「私も冒険者ギルドの一員だよ。しかも金級」



 ネックレスになっている金のプレートをこちらに見せてきた。何やら文字が彫られていたが、よく見えなかった。恐らく名前だろう。



「一番上なのか?」


「うん。銅級、銀級、金級の三段階だよ」


「そんな人が、なぜわざわざここに? 人間の足じゃ、ここからダラムクスまで結構離れているはずだ」


「この辺で薬草採取をしていたんだよ。結構珍しいやつだから、高く売れるんだ」


「それで、たまたまディアが降り立った、ということか」


「そゆこと」



 ということは、ディアはダラムクスの住人全員にはバレていない、と結論付けていいか?



「ダラムクスに行っても、ディアの正体は話すなよ?」


「忠告されなくても話さないよ。私、その辺のことは分かってるの。ま、あっちについてからゆっくり話そうじゃないか」


「……」



 ダラムクスについたらまずは情報交換、ということになりそうだな。でも、多分俺のほうが転生してからの日が浅いから、教えてもらうばかりになりそうだけど。いや待て、警戒なしにホイホイとついていってしまっていいものなのだろうか。だが、もうこちらを敵対している様子はない。純粋に興味があるように見える、気がするだけかもしれないが。


 彼女はくるくると手元でナイフを回していた。いやらしく笑うその仮面が、こうもキャラクターに似合うものなのか。



「そういえば、ディアちゃん全然話さないけど、どうしたの?」


「ディア、どうしたんだ?」



「……分からんのだ」



 ディアらしくない言葉だ。

 そっと呟かれたその言葉に、俺は思わず息を呑む。大きく美しい黄金の瞳は、ゆっくりとミヤビのほうを向いた。



「何故お前は、吾輩の魔力が分かった? お前にそれほどの魔法の才があるとは思えない」



 え、そうなの? この人あんまり魔法得意じゃないの?

 それはさておき、その口からは、いつも通り姿に似合わない言葉が紡がれる。声のトーンは脅すときのそれだった。



「んー? あぁ、それは私の能力(スキル)だね」



 半笑いで、だがどこか緊張した声でミヤビは答える。



「そんな能力(スキル)、一つしか聞いたことがないぞ。……確か、『レベラー』って名前だったはずだ。転生者が持っているっていう」



 ディアの方が核心を突いた。ここでミヤビも隠し通す必要はないだろう。俺たち三人しかいないんだし。

 ディアが賢く見えるのが不思議だ。……そして、何故それを知っているのかも不思議に感じる。



「正解だよ。私は転生者、桜文雅(おうぶみみやび)。でもなんでそんなに驚いているの? 隣にいるモトユキ君も同じはずなんだけど」


「転生者って言えば、世界が危機に陥った時に神霊種(オールドデウス)が選び出す存在だったはずだ。それがなぜ、二人も……?」


「へぇ、そうなんだ。それは知らなかった。ま、知っていることは話してもいいかな。私は『絶望神セウス=ベラ』によって転生したんだよ。能力は『絶望』。負の感情を魔力に変えることが出来るんだ」


「一柱の転生者、か。……モトユキは?」


「え?」


「今まで聞かなかったが、誰に転生させられたんだ?」


「……え、えっと」



 どうやら俺だけが話についていけてないようだ。

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