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念力に限界は無いらしい  作者: BNiTwj8cRA3j
一章 偽善者
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9-2

 子供用のメイド服があるのだから、当然執事服もある。平民生まれの俺には、執事服なんて着る機会も見る機会もないから、見た目の雰囲気だけで執事服だと決めつけているだけだが、間違いはないだろう。

 ジャケットやらネクタイやらウエストコートやら……埃被ったチェストを探せばいくらでも出てきた。流石に全部綺麗に身に着けるのはなんだか落ち着かないので、カッターシャツとパンツ(と呼ぶのかは知らんが)だけを身に着けた。もちろんシャツは出す。


 こんな格好をしたのは久しぶりだ。中学以来か?

 スーツも冠婚葬祭くらいしか着なかったし、その時はばっちりジャケットとネクタイつけてたから、こんなにラフなのは実に十三年ぶりだな。


 子供用の物はこれ以外に見つからない。昔ここにいた子供たちは、私服が無かったのだろうか。それとも、日帰りだったのだろうか。

 今となっては分からない。


 俺は朝食を食べた後、再び書斎に戻ってきた。そして羽ペンとメモ用紙を少し拝借し、これまでをじっくり考えてみることにした。ローレルとイングリッドはギルバードが起きるまで待つらしい。それまではゆっくりしてて良いとのことだった。


 とはいえ、まずは何から書き始めようか。

 この世界が夢という説が、一番信じやすいのだけど。


 俺がここに来た理由と方法について、考えてみるか。

 仮に、俺をここに転生させた存在を「神」としてみよう。


 俺がこの世界の言語を理解できる時点で、「神」が俺の脳味噌をいじったことは確かなはずだ。しかし、転生させるにあたって明確な理由は提示されてないし、あの中間地点も良く分からない。ただ、俺が子供の姿になって、俺でなければ、もしくは俺以上の力がなければ解けない結界前に転生させられているのは、何かしらの「意思」があったと解釈すべきだろう。百歩譲ってディアケイレスが神に愛されているから送り込まれたとして、子供の姿になっているのは何の意味があった? 分からない。ディアと仲良くなるためだろうか? 別にあいつは人の見てくれなど気にしないような気もするが。


 他にやったことと言えば、シューテルの雪を止めたことだが、それは俺でなくともできた。一番のカギになるのはやはり「ディアケイレス」なはずだ。しかし、彼女を地上に復活させるだけでは、「神」からのアクションは何もない。


 何か他のことを、俺はしなければならないのだろうか……?


 「神」が人格を持っている、と決めつけるのもあまり良い推理ではない。もしかしたら面白半分なのか、それとも人格自体何もなくただの「現象」なのか。仮に本当に神に理由があったとしても、従うか否かは俺によると思うのだが、いや、既に脳味噌をいじられているのだから、もしかしたら命令に従って進んでいるのだろうか。


 やはり、転生させられた理由は未だはっきりとは分からない。

 ……羽ペンは進まなかった。


 次はこの世界について、だ。

 重力があって、太陽があって、月があって、星がある。俺が元居た世界との「構造」自体は同じだと考えられる。いや、そもそも「月」や「太陽」がある時点で、ここは「地球」と言ってもいいのかもしれない。似た何か、ではなくそのものだ。他にも、空の高さ、深さ、色、その他諸々……空気成分も同じような感じだ。ここまで環境が同じものは普通に考えて偶然とは考えにくい。

 この世界は、俺が元居た世界をコピーしたものなのだろうか。逆も考えられるな。それとも兄弟みたいなものか?


 だが、世界地図を見ている限り、大陸の形がすべて同じなわけではない。外を見れば、完全に元居た世界と同じ植物もあれば、全く見たことのない植物もある。


 また、「物理法則」がこの世界でも成り立つのかは謎だ。ディアの身体からは、明らかにおかしい量のエネルギーが出ている。あの三人もな。

 しかも、この世界にはどうやら「魔素」というものがある。ここにあった本をめくっていると、その定義はバラバラだ。色々な国の物を集めたものだから、当たり前なのかもしれないがな。エネルギーの源、原子の一種、神が与えし力、この世界を構築している物……。大体が「神が与えし力」のような感じだったから、魔法とは一種の宗教なのかもしれない。


 とはいえ、魔導士エミーは「原子の一種、だけど特殊」と定義している。そして、他の魔導書がイメージを大切にしているのに対し、エミーは「仕組み」を解明しようとしている。科学者精神が人一倍強い人間だ。


 そして、俺には認識できず、彼らに認識できるところもヒントかもしれない。

 この世界の住民特有の能力なのだ。元の世界の人間とは、また少しだけ違う。(俺が魔法音痴なだけかもしれないが)


 メモに何と書いたらよいだろう。未だ羽ペンは点をいくつか打ったまま、動いていない。



「元の世界と共通なもの→地球・月・太陽・その他の星々、脊椎動物の基本的な骨格や人間の人格、基本的な言語の構造

前の世界とは違うもの→魔素・魔法、魔物・動植物(同じものもある)」



 結局これだけしか書くことが出来なかった。クソみたいなメモだ。

 元の世界とこの世界がどう関わっているのか、まだまだヒントが無い。

 その上、俺みたいなちっぽけな人間がするべきことではないのかもしれない。俺の世界でもまだ「真理」というやつは見つかっていなかったし。


 ま、時間はたくさんあるんだ。

 最悪……帰れなかったとしても、それでいいや。



「モトユキ君、そろそろ……って、何してるの?」



 入ってきたのはイングリッド。

 確かに出かける準備はしているが、昨日みたいにごつい白鎧は身に着けていない。至って軽い装備だ。正確な名称は俺には分からないが、レザーアーマーみたいなやつで、なんかカッコいい。

 光の無い白い左目と宝石のような綺麗な青い右目で、彼は、俺のメモを覗き込んだ。



「これは、文字? それとも絵?」


「文字」


「どこの国の物なの?」


「日本っていうところなんだけど……」


「……あぁ、君が居たところか。面白い形をしているんだね」



 彼は顎に手を当て、首を傾げた。

 自分の記憶の中を探っているのか、それとも俺の思惑を探っているのだろうか。

 それとも、どっちもなんだろうか。

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