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念力に限界は無いらしい  作者: BNiTwj8cRA3j
三章 誰かの為に
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10 「オレ」

 くそっ!! またかよ!?



 視界の暗転からの、全身に力が入らなくなるこの感覚。

 意識の世界。真っ暗なこの場所は、俺の意識が反映される場所。



「ルル!! 一体何のために!!?」



 彼女に聞こえているのかどうかは分からなかった。ただ、ここから出してくれるつもりは無いようだった。


 なぜこんなことをするのか……何となく想像がついてしまう。彼女はエミーに同調したのだ。エミーの優生思想に近い、邪魔を排除するあの思想に。俺はエミーの表面しか知らないが、彼女は内側まで知れる。エミーのどんなことを知り、どんなことを思ったのかまでは分からない。ただ、ルルが「敵」になったのは間違いないだろう。

 そして、先手必勝、致命の一撃をこちら側に与えた。俺を無力化したのだ。恐怖と迷いの中、直観的な何かしらの力で判断したのだろう。エミーは俺を殺そうとするだろうか? だとすれば、今この瞬間にも死んでもおかしくない状況に居る。


 妙な冷や汗が出る。既にチェックをかけられているようなもの。俺は、二代目と打ったチェスで、クイーンを取ってしまった時のことも思い出した。ビショップやナイトたちの「小さな力」に負ける。ディアケイレスだけが頼みの綱だが、そう上手くいくとは思えない。この世界を理解し、俺は今すぐにここから脱出する必要があった。


 果たしてこれは正しい選択だろうか……分からない。でも、止めなければならない。この感情の源は、利己的なものだ。ルルに人を殺させてはいけない。協力をさせてもいけない。もう戻れなくなってしまう。そして、俺はもう人が死ぬところを見たくはない。そうして進んだ先に得る未来が、今よりも多くの人間が死ぬ未来だったとしても。でもこれは間違いだ。やはりエミーの思想が正しい。けれどこれも間違いだ。間違いだと信じたいだけなのかもしれないけど。


 動け。動かなきゃ、始まらない。


 まずは、念力のゲートを試してみよう。もしかしたら開くかもしれないから。



 殴られた。



 その衝撃とともに俺は転がった。冷たい床は意外とざらざらしていて、体にいくつかの擦り傷ができる。咄嗟に念力でそいつを捕まえようとしたが、何故か念力が使えなくなっていることに気が付いた。

 それだけではない。俺が()()()()になっている。仕事でよく着ていた、灰色の汚れた作業着と安全靴を身に着けて。明らかに二十八歳時点の物だった。



「ったく、やっと来やがったなァ、俺」


「……!?」



 俺を殴ったそいつは、正真正銘の上原基之だった。学ランを身に着けた、さっきまでの俺と同い年の、俺……!? 意味が分からない!! 誰だこいつ!?



()()はあの骸骨に邪魔されちまうしよォ、待ち遠しかったんだぜ?」


「前、回……ってなんだよ!? てか、誰だお前!?」


「誰って、オレだよ。上原基之だよ。前回ってのは、ホルガ―と会ったときのやつな」


「……??」


「何が何だか分かんねぇって顔してんなァ……ま、自分で考えやがれ。分かんだろ、『俺』なら」



 ニタニタと笑うそいつは、確かに俺だった。口角の挙げ方、態度、口調……俺が抑圧してきたそれだということが、分かりたくはないが分かってしまう。


 また殴られた。手加減など一切ない、本気の一撃。みぞおちに入ってきたそれに、俺は悶えることしかできなかった。なまじ筋肉のある十五歳のその体は、大人に攻撃するには十分すぎるほどの威力を持っていた。

 追撃は続く。今度は蹴りで。床に倒れ込もうとした俺を、そいつは思い切り蹴とばした。どこを蹴るとかはあまり考えていないのだろう。わき腹や腿、顔、肩なんかを滅茶苦茶に蹴られる。



「ぐあっ……」



 痛ってぇ……。


 思考なんてできるわけがなかった。意識の世界のはずなのに、その痛みはどこまでもリアリティがあって、一撃一撃が俺の頭を真っ白にしてくるからだ。

 体から変な音がする。ボキボキと低く鈍く籠った音。それから、そこから今までに感じたことのない種類の痛みが湧き上がってくる。まるで内側で氷が潰されたかのような、しかし沸騰した油を垂らされているかのような、妙な痛み。きっと骨が折れている。骨が折れているっていうのに、そいつは攻撃を一切やめなかった。



「なんだァ? もうくたばったのか?」


「ゲホッ、ゲホッ……な、んなんだよ、お前ぇ゛……」


「だからオレはお前だ。上原基之」



 くたばる体を、髪の毛を掴まれ無理やり起こされる。変声直後のノイズ交じりの低声が、痛みを何度も反芻する俺の頭の中で木霊した。どうやら俺は血も吐いているらしく、口の中では鉄の味がした。





 ――――ゴンッッ!!





 どうやら何度も頭を地面に打ち付けられたということが分かったのは、これからしばらく後の事だった。やっと起きていられるくらいの意識になったとき、俺の頭は尋常じゃないほどの痛みを放っていた。頭の裏側を、誰かが石でガリガリ削っているかのような、そんな痛み。

 同時に、どうしようもないほどの恐怖がやってくる。これは、子供と同じものだ。痛いのが怖かった。道路で転べば、まるで世界が滅びてしまうかのような恐怖が襲ってくるのと同じように。


 怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。

 ミヤビの時とは全く違う、果てしない悪との遭遇。死なないという保証は一切ない。



「や、やめ……っ」


「えー、どうしよっかなァ」


「ご、ごめんなさい……ごめんなさっ」



 俺の体は、いつの間にか()()()()()()()()

 さっきの懺悔の声は、甲高いあの声。そのまま、女の悲鳴のような声を上げて、俺は再び地面に叩きつけられる。ギャッ、という声は、どうやら俺から発されたようだった。


 そして、俺をいたぶるそいつは、()()()()()()()()

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