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念力に限界は無いらしい  作者: BNiTwj8cRA3j
三章 誰かの為に
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9-7

「気持ち悪い奴だなとは思っていたが、まさか人間ですらねぇとは思わなかったぜ。つか、生き物なのか、テメェ」


「……」



 ビルギットの右腕が無くなったところで、チェチーリアの連撃は止んだ。彼女は、先程のローレルと同様に剣を喉元に突き付けられていた。加えて、元々備わっていた自爆機能はアビーに取り除かれてしまったため、一発逆転を狙うことはできなかった。



「電気流したら壊れちまうかな?」


「……」


「おい、何とか言えよ」


「ナントカ」


「……面白くねぇぞ」



 毛頭、ビルギットに彼女を笑わせるつもりは無かった。なぜ今ふざけたのか、彼女にはよくわからなかった。単純な命令だったからなのか、それともあるはずのない反抗心があったからなのか。



「あっれれ、もう終わっちった?」


「私たちが駆けつける必要はありませんでしたね」



 二人の男が、新たに現れた。チェチーリアが呼んだ応援だ。



「おせぇぞ、テメェら」


「だってぇ、結構強いんだもん。姫様の軍」



 へらへらとした調子で話す、橙色の頭をした猫人。彼はパウル・ヘルムドソン。チェチーリアと並ぶと体格は見劣りしてしまうが、それでも成人男性と比べればかなり大きな体をしている。

 彼は、さっきまでの戦いを思い出しながら、「しゅ」という言葉とともに槍を空に突いた。



「やられるかもしれないから来いって、三銃士をそろえるんですから何事かと思ったじゃないですか」



 一方、彼とは対照的な落ち着いた声で話すのは、ディートリント・アーラース。虎の耳や牙、爪を携えた虎人で、その髪は明るい金色をしている。魔術本を片手に、ローブ系の装備を付けていることから、魔法を主体で戦うようだった。



「おそらくこいつらは向こうの主砲だ。とりあえずガチガチに抑えて、ここから制圧していくぞ。各々適当に部下を置け」


「りょー」


「了解」



 ビルギットは考えた。

 どうやらあちら側には、単純包囲で攻めてくる我々を跳ね返すくらいの力はある。しかし、今のチェチーリアの言葉の「主砲」、それは自分とローレルが最強であると認識しているということだ。実際はそうではない。こちらのカードはまだ二枚残っている。

 ディアケイレスとギルバードだ。しかし、ディアケイレスという人物をあちらが知らないのには納得できるのだが、ギルバードを知らないとは思えない。別段彼は隠密な行動をしていたわけでもないし、最近来たばかりでもない。あちらに情報が洩れているのはほぼ確実であった。にもかかわらず、「終わった」かのような前提で話を進めている……。


 ただ単に彼を知らないだけなのか、それとも「来ても問題がない」のか。



 ザザッ。



 彼女のマイクで拾えるぐらいの僅かな音が、彼女の右にあった路地の方から聞こえてきた。そっと目線を送れば、銀色のアホ毛が僅かに見えた。その他さまざまな情報を取得した結果、その人物はイブだった。連絡部隊の一員だ。こちらの敗北を確認し、連絡を行ったようだ。

 ということは、あともう少しでギルバードかディアケイレスが来る。こちらの作戦は、二人の出鱈目な力によってごり押されることだろう。


 ……しかし何かが引っかかる。ビルギットはこの状況に関して、計算をやめずにはいられなかった。

 もし仮に、ギルバードが来ても「問題がない」の場合、それは彼の対策があるということ。単純な火力型の彼を対策する方法があるのだろうか。自分のように彼の動きを細かく分析して技を避けることは不可能であるし、水魔法などで防げる程度の威力ではない。あるとするならば、ローレルを盾にする方法か、それ以上の火力で押してくるか。



「おい」



 チェチーリアの呼び声は、刺々しい敵意を放っていて、暫時の沈黙をもたらした。イブの居る方向だった。パウルとディートリントは、まるでそうすることが分かっていたかのように黙り込み、同じ方向を見た。二人の顔が、僅かに緊張したのが分かった。

 イブは分かりやすく動揺した。アホ毛がいくらか振動し、脈拍が20%早くなった。



()()()、早く」



 それが誰を指すのかを、一同は理解した。

 得体のしれない緊張感が、冷たく乾いた風と共に駆け抜ける。





「――――太陽の牙突(ソール・ティーロ)!」





 異常な魔力の量を本能的に感じ取り、三人は別々の方向に飛んだ。直後、恐ろしいほど凝縮された熱がその場に降り注ぐ。ジュウゥゥ、と低く不快な音が響いた。金属を削ったような音も混じっていた。ビルギットにはぎりぎり当たらないように調整されていたらしく、彼女の足の直前で、地面は溶けるのをやめた。



「ええええ、くんのはっやくね!?」


「驚いてる暇は無いですよ!」



 ギルバード・エーメリー、太陽の勇者。

 圧倒的な火力で敵を消し去る、ヴァンクール一枚目の切り札。



「……すまねぇな。雑なやり方で」


「いえ、とんでもないです。ただ……」


「ただ?」


「ローレルさんがどうなったのかが分かりません。それに、なんだか嫌な予感がします」


「……ローレルを連れてここから逃げてくれ」


「了解です。健闘を祈ります」



 ビルギットはすぐにギルバードの居る上空へ移動していた。右腕は失ってしまったが、機動能力自体は健在のまま。そのまま彼の指示通り、ローレルの捜索を開始した。


 残ったのは五人。いや、戦い自体は一対三の四人だけで、イブは傍観者だった。

 イブは思った。ギルバードが来たからには勝ち確だと。国一つを平気で消し飛ばせる実力者の彼が、あの三人に負けるとは思えなかったし、そもそも考えなかった。あとは逃げるだけ。それだけが彼女の頭にあった。


 そうして、彼女が背を向けた瞬間だった。


 さっきとは比べ物にならない爆音が聞こえてきた。山を消すような落雷、海をひっくり返すような地震、神が怒ったような轟音……思わずイブは立ち眩みを起こし、周囲の窓が全て割れた。



「……!?」



 振り向いた先に彼女が見て、そして感じたのは、ギルバードと()()()()()の凶悪な魔力を放つ三人だった。



「使いたくなかったけどな、テメェには使わざるを得ねぇんだ」


「えーそう? 俺はずっとうずうずしてたよ?」


「どうでもいいことです。さっさとやりましょう」

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