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念力に限界は無いらしい  作者: BNiTwj8cRA3j
三章 誰かの為に
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9-3

 ビルギットたちは特に問題なく進んでいた。いくつか集団になっている騎士たちに出会うものの、牽制をぶちかませば数の利でごり押して拘束ができる。殺さない程度の魔力消費なので、ビルギットもローレルも特に疲弊はしていなかった。寧ろ、後ろについてきているヴァンクール兵の方が疲れているくらいだ。


 しかし、大通りに出たところで事態は急変する。道が一気に開けているので、相手にとって迎え撃つには絶好のチャンスだった。



「ハッハハハ!! 反逆者ども!! かかってきやがれ!!!」



 案の定、威勢のいい女の声が先の方から聞こえてきた。彼女はいつも大声を出しているせいか、その声はかすれたノイズも含んでいる。よく見れば、中央で一人だけ仁王立ちをした彼女がいた。二本の両手剣を背中に持ち、外界にさらされている上腕は枝豆のような筋肉をしている。



「246の人間を確認。この先100メートル、両脇の屋根に登って待機しています。真ん中に仁王立ちしている一人を除き、全員軽装歩兵。数の利では負けています。ローレルさん、若干強めに牽制してください。軽傷者を複数出すつもりで」


「了解です」



 ローレルは光の槍ライトニングジャベリンを千本ほど頭上に出現させた。ある人間にはそれが幻想的な流星群に見えたが、ある人間にはただの殺戮の道具にしか見えなかった。これで「若干強め」なのだから恐ろしい。今までさんざん彼女の劣等感を語ってきたが、彼女とて鍛錬を怠っていたわけではない。寧ろ逆であり、彼女の努力は、ヴァンクールの一員となってから激しさを増していた。故に、魔法学校に居たときとは比べ物にならないほど強くなっている。


 しかし、彼女は今、乱心状態にある。だからこそ手加減が上手くできない。本来「牽制」をしたければ、建物を打ち壊して地の利を奪ってしまえばいい。住民が居ようが居まいが足を止められるのは確実なのだ。ただ、彼女は優しいから、極力無関係な人間に傷をつけることはしないだろう。しかし、彼女が建物を攻撃しなかったのはもっと別の理由。そう、「焦っていて分からなかった」からだ。



「ぐあああ!!」


「くっそ! なんだあのでたらめな魔法は!!」


「防ぎきれねぇ!!」



 金色に輝く光の雨が、敵へと降り注ぐ。先にも述べたようにこちらに「絶対に殺さない」という決まりがあるわけではない。どうしても不可能なら殺す。しかしその裁量は個人に任せられるのだ。

 幾本かの槍が敵の体を貫いてしまい、彼女にとってこれは失態であったが、誰も咎めなかった。何故なら客観的にはこれもルールの範疇なのだから。

 いやそもそも、ここにはルールもくそも無いのだが。



「ハッハハハ!! いいぞ!! それでこそ戦争のしがいがあるぜぇ!!」



 だが、中央に居た女だけは光の雨を全て弾いて見せたのだ。馬鹿みたいに大きな両手剣を()()として扱い、風車のように回転して魔法を使わずに防ぎ切った化け物。流石のローレルでも戦慄した。



「とても強い生命反応を確認……総員戦闘準備!!」



 ビルギットのレーダーは、女の強さを瞬時に読み取った。彼女は魔力の他に、相手の身長や体重、体脂肪率、筋肉量など別のパラメーターも目算することができる。彼女は身長180センチメートル体重200キログラム……Fehler、異常値。あり得ない、あの体形で、身長センチメートルを体重キログラムの値が上回るなど。普通、身長180センチメートルの人間の平均体重は74キログラム、つまり体積は大体74リットルだ。彼女の体は確かに骨太ではあるが、別段何かが肥大化しているわけではないし、この値は装備重量を差し引いて算出したものだ。詰まるところ、体積は大体74リットルで正しいはずだ。だが、これで彼女の体の密度を計った場合、2.7グラム毎立方センチメートルと出る。



 この値は、大体大理石と同じくらいだ。



「あり得ない……」


「どうしました!?」


「あの女性の方……岩と同じくらいの密度です」


「……は」



 人間の密度は限りなく1に近い。にもかかわらずここまで外れた値が出る。これはトレーニングでどうとかいう問題ではないのだ。体の構造そのものが違う。骨や筋肉が異常なほど詰まっているのかどうかは分からないが、はっきりと断定できるのは正真正銘の「化け物」であること。



「総員、戦闘準備改め防御準備。戦闘は我々二人だけで行います」


「おぅ、なんだあ? もう終わりか? だったらこっちから行かせてもらうぜ!!」



 ビルギットの準備を待たず、彼女は攻撃を仕掛けてきた。間一髪で避けたものの、剣がたたきつけられた地面は薄氷の如く砕けた。彼女の装備である双剣は、どうやら切り裂くよりも叩く目的の物らしい。



「皆さん下がってください! 聖なる光線ライトニング・アクティナ!!!」


「おおおお!? ハッハハハ!! やべぇ!」



 ローレルが咄嗟に放った光魔法。その光はとてもあたたかな感覚であるが、その太さと魔力量を見れば一気に悪寒が走るレベルの出力。聖なるという名前とは裏腹に、殺意に満ちた一撃だった。


 しかし、女は陽気に笑いながら、それを易々と受け止めて見せた。剣の白刃には傷一つついていない。



「んなっ」


「お返しだ! 稲妻ソード!!」





 ――――バチバチバチィ!!

 そんな禍々しい音を立てて、剣に雷がまとった。





「ハッハハハ!!」


「いや、ちょっとまってくださ……」



 剣に体と杖がぶつかる音と、「ぎゃふ」という声とともに、ローレルが後方へ吹っ飛ばされた。一同は確かに見たのだ。先程まで圧倒的な強さを誇った魔導士が、蹴られた子猫のような声を上げてしまったところを。何よりも、その美しくか細い声に、戦慄を超えて恐怖が襲ってきた。容赦がない。慈悲もなく内臓もろとも潰されるのを確信した。



「ハッハハハ!! さあ、もっと暴れようぜ!!」



 その異常な力を誇る女の、少しかすれた声が、激戦の合図となった。

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