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念力に限界は無いらしい  作者: BNiTwj8cRA3j
三章 誰かの為に
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8-1 「レイスの覚悟」

 作戦決行の三日前、モトユキたちと別れてから七日後の夜。ユーガの酒場。

 ディアは自分の暇が増えると踏んでいたが、色んな人間に振り回されたせいで忙しくしていた。例えば今は、腕相撲大会が開かれている。彼女がチャンピオンで、屈強な野郎どもが悉く手の甲を地に伏せられる。客観的に見れば何が楽しいのか分からないような状況だったが、酒のはいった人間に楽しくないものなど無いのである。



「うわああああ!! 勝てねぇええ!!!」


「アハハハハハ! バケモンだなあこりゃ!!!」


「よっわ! よっわ! お前!!!」


「よーし、次は俺だ!!」



 ドンッと、一瞬で腕を倒していく。同時に、どっと笑い声が湧き上がる。その華奢な腕のどこからそんな力が出ているのか、ヴァンクールの皆には分からなかったが、そんなものは最早どうでもいいこと。次から次に彼女に挑まんと、手を握っていく。

 昼には、女の騎士に絡まれる。髪の毛やら服やらをいじられて、まるで人形のような気分だった。今も、どこへ行くわけでもないのに、きれいな身なりをしている。ふわふわツインテールに、ちょっと格好良い作りのコート。ホットパンツは落ち着いた紺色で、寒くないように黒ハイソックス。靴はコートと同じく雪の色。キャラに合わせた、スタイリッシュと可愛さ、そして暖かさを合わせた服装……らしい。ディアは正直この服が嫌いだった。動きづらいから。


 こう何日か過ごしていると、ある程度の人間の名前は憶えてくる。特に「特殊魔力」を持った、レイスの直属部下は。さらにその中でも目立っていたのが、ジェラルドという竜人である。体表が濃い緑色の蜥蜴のうろこに覆われた人間で、ずっと腕を組んだまま大人しい。とにかくでかいのだ。身長的にも、魔力的にも。「金剛」と呼ばれる特殊魔力で、堅い壁を作り出す。勿論、ディアの前にはないのと同じだった。一度戦闘訓練に参加してくれと頼まれたのでやってみたが、圧倒的すぎて詰まらなかった。

 他にも様々だ。ジョーズという毒犬、マークという火狐、パティストという水狸……色んな人間がここにはいる。うざったいとは思っていたが、そこまで苦ではなかった。



「ディアちゃん、人気者ですね」


「そうですね」



 そんな彼女を離れた場所から見守る二人。ローレルとビルギットだ。ビルギットは基本的に勉強をしているため、この酒場に顔を出したのはこれが初めての事だった。ローレルは、そんな彼女を見かけて追いかけてきたのである。彼女は彼女で、恋人のギルバードが騒がしいところが苦手なため、酒場に現れることは滅多にない。それでもビルギットを追いかけてここにきたのは、単に彼女に興味を持ったからだ。



「良かったら、貴女のことをもっと聞かせてくれませんか?」


「……私、ですか?」


「はい。例えば、モトユキ君に協力する理由、とか」


「理由、それは私には分かりかねます。ただ単に、命令されたので、やっているだけです」


「め、命令!?」


「……あ、この場合は『お願い』と称した方が、適切ですね」


「あぁ、なるほど。びっくりしちゃいました。モトユキ君が『命令』とかする子には思えなかったので」


「随分モトユキさんを信用されているみたいですが、どうしてですか?」


「んー、しばらく前に、私たちには宿敵が居たんです。百年くらい故郷の国を苦しめていた悪い奴です。そいつを倒したんですけど、大ダメージを負っちゃって。で、助けてくれたのがモトユキ君たちだったんです」


「宿敵とは誰ですか?」


「サングイスっていう、吸血鬼です。でも、何だか、モトユキ君とサングイスは仲が良かったようにも思えたんですよ。吸血鬼のことを悪く言ったら、ちょっと怒られちゃって。そもそも、子供が来れるはずのない場所に突然現れるのはおかしな話で、友達だったと考える方が、自然なのかもしれません」


「……? 尚更分からない話ですよ。宿敵の友なら、あなたにとってモトユキさんは敵じゃないんですか?」


「私たちは間違った歴史を教わっていたんです。吸血鬼は悪い奴だと。でも、実際は違いました。彼らは私たちと仲良くしたかっただけだと、そういう文献が、あとからサングイスの御屋敷で見つかったんです。それを知っていたから、モトユキ君は辛かったんでしょう」


「では、モトユキさんの目線では、あなた方は友を殺した敵ということに……」


「そう、そこが不思議なところなんです。何故かモトユキ君たちは私たちを受け入れてくれました。そりゃあもちろん、私も初めは怖かったです。宿敵の仲間かもしれない可能性がありましたから。でも、モトユキ君とディアちゃんの態度は落ち着いていて、優しくて、とても大きな感じがしたんです」


「大きな、感じ?」


「はい。とても、大きな人間に思えました」


「モトユキさんたちは平均よりもかなり小さな体をしていると思いますが」


「……? いや、実際に大きいわけではなくてですね、その、感覚です。感覚的に、大きいなあって。私には想像のできない何かを、考えている気がして」


「大きい……なるほど、そういう感覚もあるんですね。これは新しい発見です」


「そ、そうですか?」


「そうです」


「……私たちは悪いことをしてしまったのでしょうか?」


「何がですが?」


「モトユキ君たちの友達を、殺してしまったんですから。『大きな人間』と表現しましたけど、怒りをこらえていただけな気もするんです。もしかしたら無理をしていたんじゃないかって。嫌われているんじゃないかって」


「それはないと思います」


「え?」


「サングイスという吸血鬼には然るべき理由があった。だから殺した。一方で、あなた方は助けて然るべきだった。モトユキさんはそういう人です」


「……そう、ですか」


「はい」

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