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念力に限界は無いらしい  作者: BNiTwj8cRA3j
一章 偽善者
13/185

3-2

 白いタイル張りの闘技場で、ミスリル製の剣が空中を舞った。

 それは、挑戦者の敗北と同義である。



「そんな、馬鹿な……!? 嘘だ、ありえない、こんなこと……!」



 肩で息をする青年の目の前にあるのは、巨大な両手剣の切っ先。それを握るのは、ディオックスの最高騎士、イングリッドだった。白い甲冑に身を包み込み、その素顔を知る者はこの場に誰一人としていない。

 会場に歓声が沸き上がった。校内戦二位のパーティメンバーが、彼一人に成すすべもなくやられてしまったからだった。重そうな鎧に身を包みながらも、すべての攻撃を軽く躱し、的確に相手を追い詰めていったその姿。流石最高騎士と言えるだろう。



「こっちは四人がかりだってのに……!!」



 彼は額から血を流し、肩で息をしていた。にもかかわらず、痛みを忘れて、目の前の騎士の強さに圧巻されている。「勇者」への道のりの遠さを、彼は思い知ったのだ。


 残るは校内戦一位、ギルバードとローレルのパーティ。

 誰もが、イングリッドに勝るものはいないだろうと確信していた。



「……さ、行くか」


「はい」



 パーティは普通、四人で組むのが一般的である。しかし、彼らは「二人」。にもかかわらず、この学校で一位の成績を残している。故に、彼らは周囲に別格の天才として認められていた。

 最強と最強のぶつかり合い。白張りの闘技場には、未だかつてない緊張感があった。


 そして、ギルバードは足を踏み入れた。





 ――――勝負開始。

 その合図の直後に攻撃を仕掛けたのはギルバード。リーチの短い武器だから、相手の意表を突かなければ攻撃を当てられない。短剣を使う上で最も大切なのは、敵を恐れないことだ。

 彼にはその度胸があった。そして、それに見合う技量も。一瞬で間合いを詰めて、その鎧の隙間に剣を差し込もうとする。


 が、剣が切ったのは「無」だった。あの一瞬の間にイングリッドは移動し、間合いを保っている。



攻撃強化(アタックブースト)!」



 背後でローレルの声が聞こえ、一瞬だけ、彼の体が淡い赤色の光で包まれた。同時に体の内側から力が湧いてくるような感覚になる。この魔法は、体内の筋力魔力を共に強化する魔法だ。彼女の発動したそれは、常人の何倍もの効果がある。

 流石のイングリッドも驚いたようだ。



「……あの威力で当たり前のように無詠唱か」



 白い鎧の奥から、痺れるような低い声が聞こえた。最後に聞いたのはいつだったか、ギルバードには思い出せない。ただ、その声質は何も変わっていない。あのときのままだ。



火魔法(ファルレア)……」



 そうギルバードは呟いて、直後に「ドン」という音が闘技場に響いた。

 彼の体は、足元の爆発により強力な推進力を得た。さっきの倍は速く、客観的には彼が銃弾のように打ち出されたように見えただろう。


 キンッ、という金属音が響く。短剣と両手剣がぶつかり合った音だ。


 彼の連撃は続く。上下右左切り上げ切り下げ回し切り……踊るように短剣の切っ先が光で弧を描いていく。だが、短剣の高速攻撃もすべて受け流される。

 このままじゃ間合いが詰められないと判断し、一旦退いた。



光槍ライトニングジャベリン!」



 ローレルが叫ぶ。

 ギルバードに追撃を行おうとしたイングリッドのこめかみめがけて、光り輝く槍が飛んでくる。ひゅう、と風を切る音が響く程度には早かったが、彼はそれを容易につかみ取った。それどころか、それをローレルに投げ返す。その速度は、さっきよりもはるかに速い。



「……くっ」



 彼女は軽く声を漏らしながら、魔法の板を展開した。不思議なことに、槍がそれに触れた瞬間、反射をするように再びイングリッドの方へ飛ぶ。「反射板」、魔法を跳ね返す魔法だ。

 埒が明かないと判断したイングリッドによって、光の槍は両手剣で割かれた。二本に分かれた槍は背後に飛び、観客を守る結界にぶつかって、煌びやかな残骸となって散る。


 ギルバードは、白騎士に休ませる暇もなく攻撃を開始する。ローレルが作った一瞬の隙を突き、鎧の隙間に短剣を差し込んだ。



 そして、先ほど使った魔法と同じように、内側から炎魔法で爆発させた。

 ……だが、ダメージは無いようだった。



 煙幕が晴れて観客がそれを視認すると、どっと沸きあがった。未だかつてない、高威力魔法の「無詠唱」連発。目で追うのがやっとな激しい攻防。何より、校内戦一位の実力者二人に、一人で互角の戦いを展開する「白騎士」の強さに。



「使ってよ、『カミナリ』」


「……いいのか?」


「どうせ今のは準備運動だ」



 ギルバードには彼の表情は見えなかった。だが、その兜の下で笑っているのが分かった。


 ――――バリバリッ。

 空気を割くような雷の音が響き渡ると、再び闘技場は静寂に包まれる。先の三戦では見せなかった魔法だ。眩いくらいの光を放つ電気が、彼の鎧の周りで放電している。触れたら一瞬で焦げてしまいそうだ。


 こうなってしまえば接近戦が通用しない。つまり、短剣での、いやほとんど全ての剣での攻撃は不可能なのだ。そんなこと、ギルバードにははっきり分かっている。だが、彼は何も接近戦だけしか行えないというわけではない。しっかりと、こっちには優秀な支援者(サポーター)がいるのだ。



「……炎の精霊よ、我が魔力を差し出そう。故に契約。あの人間に、灼熱の力を授けたまへ!」



 ローレルの詠唱。直後、ギルバードの体はさっきよりも赤い色の光を放つ。相当な熱が出ているようで、彼の周りには陽炎が起こっていた。さらに上昇気流が発生し、その赤い髪の毛を撫でている。

 そして、その目は真っ直ぐに白騎士を見つめた。


 父親として。師匠として。

 越えなければならない存在……。





「――――太陽の魔力(ソール・ウィース)……」





 特殊魔力、それは基本魔法とは違う性質を持つ魔力。ディオックスの魔法学では例外魔力ともいわれ、古くから研究され続けていたが、その多くが解明されていない不思議なものだ。基本的には親から子へと遺伝するのだが、ギルバードのそれは所謂「突然変異」であり、彼の両親はそんなものは持っていなかったのである。


 彼の持つ「太陽の魔力」は、基本的には炎魔法と酷似している。

 だが、大きく違うのが一つ。


 炎魔法では再現できない、()()()()()だ。

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