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念力に限界は無いらしい  作者: BNiTwj8cRA3j
三章 誰かの為に
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2-6

 レイスという男が何をしたのか。

 ディアは「先読み」と「残像魔法」の組み合わせが今の現象を起こしたのだろうと考えた。この予想が外れていたとしても、結局彼のやっていることは彼女にとって煩わしい小細工にしか過ぎず、出した答えは「ごり押し」だ。



 ――――ッバーン!!!!



 ソニックブーム。音速を超えた物体(ディア)から発せられる、爆音だった。

 耳を劈くこの音に各々は一種の恐怖を覚える……暇は無かった。ただ一瞬の、物理と精神に働きかけるその衝撃を理解するので精一杯。


 その轟音は、彼女が加減速を繰り返すたびに鳴る。圧倒的なスピードはまるで彼女が複数人に分かれて見えるような、そんな錯覚を生み出していた。手練れであるギルバードが、やっと目で追える程度。

 だが、レイスもそんな彼女の攻撃を避け続ける。音も光も無かったが、ディアが殴った先には必ずいなかった。どういう仕組みなのか、一同には一切分からなかった。


 故に、その光景はこの世のモノとは思えなかった。



「……な、何が起こっているんだ?」



 ギルバードが思わず声を漏らした。辛うじて聞き取ったビルギットが答える。



「……真実(ウェルス)という、特殊魔力でしょう。その魔力は、能力を一つにまとめることはできません。おそらくあの超人的な『先読み』は、それによるものかと」


「エクスダイアの血か……でも、あの瞬間移動はどう説明すんだよ」



 ローレルが答えた。



「一つ考えられるのは、水魔法(ウォルレア)による、屈折原理を利用した錯覚魔法です。ただ、いくら歴戦の騎士長と言えど、ディアさんの予備動作を見ずに予測できるとは思えませんから、やはり真実(ウェルス)との複合技術だと思います」


「チートだろ、あんなん」


「ギルが言える立場ではありませんが……確かにあれは少しズルいですね」



 ここの轟音を聞きつけて、さっきよりも何人かギャラリーが増えたようだった。そうしてやってきた彼らは決まって、感嘆の声を漏らしている。



「ディアさんはまだ、全然本気ではないようですが」



 ビルギットが言った。



「ッヘ……これ以上激しくやられたら、俺たちが無事じゃすまないからな」



 土が抉れ、旋風が砂を持って吹き、音が体を震わせる。これで彼らは本気じゃないというのだから、ギルバードは笑いが込み上げてきた。


 二人が本気で戦える環境じゃないなら、これ以上の戦闘は不毛だった。それはディア自身も感じていることだったが、レイスはまだ続けるつもりらしい。彼はまだ、「目的」を達成していないようだ。





「――――あの、すみません……」





 今、ビルギットたちに向かって声をかけた者がいた。

 しかし、蚊の鳴くような声だったので、三人は気付くことができなかった。その人物は、目の前の凄まじい状況と、それに夢中になって自分の話を聞いてくれないことに、オロオロとするばかりだった。



「こらー! レイスー!!」


「ったくあの野郎、急にいなくなったかと思ったらこれだから……」


「つうか、あの女の子誰? ……やばくね?」


「え、ほんとだ! 戦ってるの女の子だよ! マジ!!? そんなことある!???」



 今度は三人にもはっきり聞こえた。ビルギットがちらりと見れば、他の騎士と同様な格好をしているが、魔力が数段大きい人間がいた。加えて、所謂面構えが違う。口調は軽かったが、その瞳は勝負を真剣に見ている。

 これらが意味するのは、彼らが「レイスの直接の部下」ということだ。


 一際大きな存在感があるのは、「竜人」だ。蜥蜴がそのまま二足歩行をしたような、緑色でごつごつした肌をしているが、腕を組む仕草や装備は人間そのもの。静かにレイスたちの勝負を見守っている。あの人からも何かを得られないかとビルギットは一考したが、今は勝負を見ておくことを優先した。



「あの、すみませーん……」



 また小さな声で三人に声をかけた者がいたが、やはり誰も気が付くことは無かった。



 そして、勝負の終わりが訪れる。

 防戦一方のレイスに見えたが、今度は完璧に「姿が消えた」。ディアがそのことを瞬時に察知し、止まる。直後訪れる、灰色の沈黙。

 一同はざわめく。明らかに空気が変わった。寂れた町、ユーガでは珍しく、空気が感情の熱を帯び始めている。


 ディアは拳をすぐに下ろし、楽な姿勢で立った。強者の余裕というやつだろう。

 しかし、勝負を放棄したわけではない。まるで油断しきったように見えるが、魔力の僅かな流れを感じ取ろうと、精神を集中させているのだ。



 ……だが、そのセキュリティを潜り抜け、レイスがディアのこめかみに銃を突き付けた。平均的な身長の男とは言え、一桁の年齢の女子に銃を突きつける光景は異様だった。



 硬直。二人はそのまま動きを止めた。

 ビルギットは一瞬の間に勝負がつくだろうと目を凝らしていたが、彼らに常識が通用しないことを改めて思い知る。さっきまでとはまた異質の緊張感。強者の間に何のルールがあるのかは分からなかった。勝負が終わる直前に、引導を渡すような時間をわざわざ作っている。ディアはなぜか抵抗しない。





「チェックメイトだ」





 ――――――ダダダダダン、と寂れた訓練場に銃声が響き渡った。

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