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念力に限界は無いらしい  作者: BNiTwj8cRA3j
三章 誰かの為に
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1-3

 また、妙な夢を見た。

 前と同じもの、「名前を呼ばれる」夢だった。


 眠りが浅くて目が覚めるという感覚を味わったのは、実に何年ぶりだろうか。しかしながら、あまり良い気分ではない。

 温い感覚に目を移せば、雪の妖精、ルルがピッタリとくっついて寝ている。眠りが浅かったのはこいつのせいかと頭を搔きながらも、どうにも離そうという気持ちにはならない。「寒いから」という理由は、きっと二番目だろう。


 俺と彼女は、件の街へ向かっていた。ここはその途中の宿。

 ディアたちと別れてから二日目だった。



 何だろう、するりと時間が過ぎていくような感覚だ。



 アンラサル――人口五百万人の(この世界においては)超大国。

 緯度が高いため気温は非常に低いが、それ故に文明力は高く、産業革命目前の状況。既に石油が発見され、俺の知る現代レベルとはいかないまでも、ストーブが開発されている。火をくべる暖炉も設置してあるので、「お好きな方をお使いください」と言われた。


 道のりでちょっとした情報を拾った。


 まずここは寒い土地ではあるが、雪は滅多に降らないらしい。幻魔の本拠地「エーギルン」との間に大きな山脈があり、そこから冬のモンスーンが乾きながらやってくるため、冬は乾燥するそうだ。

 少し特殊な立憲君主制……天皇の権力が強い日本って感じか? 王が政治家の代表の一人として活動している。力は強いが、完全に頂点かと言えばそうでもない。悪法という悪法は「生命税」以外見当たらないし、大半の憲法は国民の代表等が決めたみたいだ。そして今は、生命税が憲法違反かどうかを争ってる真っ最中。


 それと、例の百年前の「紅い満月(ブラッドフルムーン)」の影響で、国の規模が四分の一程になったらしい。文明が衰退するまでには至らなかったが、こっちでも甚大なる被害が出たようだった。紅い満月……また出てきたな。どの大陸でも、人間を苦しめる厄災であることは変わりない。

 今現在は、ダラムクスと同様に、すっぽりと結界を貼ることで対処しているらしいが……それが魔素枯渇の直接の原因であると考えられている。ダラムクスの何倍も大きいから、消費する魔力の量がえげつないのだろう。



 俺はふと、リュックの中の魔道具を見た。白い真珠みたいなやつで、紐が通され、ストラップになっている。これは簡易的な「通信機」であり、アビーが作ってくれた。ダラムクスに何か異常があった場合、これが光るらしい。かなりの遠距離だから通話をすることは難しいが、単純な合図を決めておけばここでも使えるそうだ。

 今はとても静かだ。何も起こってない良いのだが。


 慎重に行動することが重要だ。下手に大きなアクションを起こして、相手の逆鱗に触れてしまってはいけない。分からないことだらけの相手だ。まずは知ること、それが一番だ。



 ……ただ、無性に悔しくなる時がある。

 今がその時だ。



 頭で理解をしていても、心がちょっとずつ壊れ始めている。大きく息を吸っても、穴の開いた風船のように、どこかへ逃げて行ってしまう気がする。ふらふらと水を飲みに行こうとしたが、壁にもたれかかってしまい、ずるずるとその場へ座った。


 息が荒くなる。


 鼓動が早くなる。


 冷汗が出始める。



「……あぁ、ごめん。ルル」



 すっ、と落ち着いたと思ってみれば、眠そうに眼をこするルルが俺の頭に触れていた。自分が張り裂けそうな気分は、拭われることはなかったが。



「……」



 ルルが俺に甘えてきた。

 悪い気分ではないが、ふと心配になる。


 彼女の中には、幼児と思春期の少女が同時に存在していると言っても過言ではない。無理やり体を成長させられ、幼児期に重要な、親とのスキンシップを得られなかったから、今こうして求めている。スキンシップは悪いことではないが、あまり過度にさせるべきではない。

 ……特に彼女の場合は。


 自慰行為、いや、これが確かかどうかは分からないが、ダラムクスで過ごした一ヶ月の中で、起きたときに俺の手が妙に湿っていたことがあった。唾液じゃない、妙に甘ったるいにおいがする液体。

 これが彼女の膣分泌液かどうかは分からないが、仮にそうであった場合……否、そうでなかった場合でも、前にあったことを踏まえれば、彼女は俺を「性的な対象」としてみている。


 正直、グレーだ。

 子が親に対して性的なものを抱くのは不健全であるが、ルルの場合は特殊だから何とも言えず、性的倒錯であるかどうかが判断できないのだ。


 ただ、彼女は直接的なアプローチはしてこない。

 何故なら、「俺が断る」ことを理解しているからだ。


 仮に彼女の口からはっきり「好き」と伝えられても、俺はきっと世間でいうような「恋人」にはならないつもりだ。井の中の蛙大海を知らず。きっと、たまたま傍に居たのが俺であっただけで、好かれたのも偶然だ。


 ……でなけりゃ、俺なんかを好きになるはずがない。


 彼女にはもっと多くのことを経験させるべきだろう。そして彼女自身の生き方を、より健全な方へ、尚且つ彼女自身の主体性が保たれる方へ、向けていく責任と義務が俺にはある。彼女の力を利用する対価だ。



 ――――なぁ、聞こえているんだろう? ルル。

 俺は決して、君が嫌いなわけじゃない。

 そこは分かってほしい。

 寧ろ、本当にありがたいと思っている。

 君が居るから、俺は安心して眠れる。



 俺の胸の中にいるルルは、何を考えているのか分からない。

 彼女にとっての俺が、何なのかが分からない。

 俺にとっての彼女も、何なのかが分からない。


 早く寝よう。

 眠い頭じゃ、楽しいことを考えられない。

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