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念力に限界は無いらしい  作者: BNiTwj8cRA3j
二章 命の定義
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23 「二つ目の約束」

 四日後、光の日。

 疫病を防止するために、先に火葬は済ませてあったため、大量の花が供えられる葬式となった。町のいたるところに、赤、青、黄、紫、白……様々な色の花があり、その匂いに包まれた一日だった。


 このころになると、ダラムクスの機能がほとんど回復し、子供たちの学校もあともう少しで再開するらしい。だがその一方で、家族や友が死んだという事実をはっきりと認識し始めるため、皆の顔つきが変わった。笑っているのに、覚悟を語るのに、どこか虚無を見つめるような、深い悲しみに溢れていた。


 ただ、悪いことばかりではなかった。

 ルベルはまた社交的な性格に戻り、同級生ともよく遊ぶようになったらしい。学校が休みだから、毎日いろんなところで遊んでいる。だけど、帰ってくるたびに目が赤い。

 ルルは、時と場合を考えて俺に甘えてくるようになった。それから、俺自身の意識をコントロールして、眠っている間に暴走させないようにしてくれるから、最近はよく眠れている。ミヤビは反対に眠れていないようだが。

 ビルギットは、アビーに直してもらえることになった。仕事が早い彼女だから、一ヶ月で終わらせそうだったが、「無理しないでくださいね」と言っておいた。


 ディアは……そういえば、ここ最近全然話していない。話す内容がないわけではないが、あちらが意図的に避けているような印象も受ける。ただ、俺自身も上手く言葉にできないところもあるから、俺もまた無意識のうちに避けていたのかもしれない。



 葬式は、特に形式のあるものではなかった。だから、明確に終わったのかどうかは分からないが、人々が家に帰った頃で、しんとした砂浜で、俺は趣味であった筋トレを再開することにした。

 これに特に意味は無いが。筋肉を少し付けたところで、魔物と渡り合えるほど強くはなれない。ただ、何かをしていないと満たされない。積極的休息という言葉もあるくらいだし、悪いことではないだろう。



「……モトユキ」



 俺をか細く読んだその声は、ディアのものだった。腕立てをやめて彼女のほうを見ると、やはり美しかった。ミヤビは服のセンスがいい。フリフリピンクのワンピースでなくて、クールなイメージを強くする淡い水色で、無駄な飾り付けがないワンピース。



「何をしているんだ? こんなところで」


「筋トレ」


「……? 鍛えられるのか、それで?」



 そう言って彼女は、軽々と腕立てをし始めた。筋トレをなめている奴にありがちなフォームの乱れは一切なく、それどころか息も乱れない。



「ディアにとっちゃ、簡単すぎるかもな」


「そもそも、モトユキは鍛える必要なんてないだろ」


「そうだな」


「……」


「……どうしたんだ? 何を言いに来た?」


「ミヤビが、もうすぐ飯だって」


「もうそんな時間か」



 空を見れば、銀の月が美しく輝いていた。さっきまで赤く焼けていたのに。

 上弦のほうが若干欠けているから、十六夜だろうか。



「それだけじゃないだろ?」


「……ああ、そうだな」



 ディアは口ごもった。銀の光に照らされ、悩める表情の彼女。どんな芸術家にも、この美しさを再現できないだろう。それくらい、きめ細やかで、鮮やかで……。



「――――『旅』は、どうなる?」



「……おあずけだ」


「いつ……まで?」


「全てが終わったとき」


「何が終わったときだ?」


「幻魔を潰すこと」


「……どれくらいの時間がかかる?」


「さあな。ビルギットの修理を待つから、早けりゃ三か月。長けりゃ永遠に」


「あのロボットを連れていくのか?」


「情報収集に優れているうえに、戦闘や料理もできる。足手まといにはならない」



 変な気分だった。俺がそこにいないかのような感覚。こんな幻想的な空間に、なんで俺というちっぽけな人間がいるのだろう。居ていいのだろうか?



「幻魔教本部は、北にある大陸スクルーの『エーギルン』って国らしい。それから、レンはその中でも桁違いの強さだったらしいが、油断はできない。アビーに聞けば、スクルーのアンラサルっていう国に行く船が、低頻度ではあるが出ているらしいから、それで行くつもりだ。ディアも着いてきてくれ」


「無論だが……」



 船で行くのは、バレないようにするためだ。それでもリスクは高いかもしれないが、ひとまず上陸を優先する。

 ただ、一重に潰すといえど、難しいものがある。現にアンラサルでも、幻魔への対応が均衡しているらしい。エーギルン全てを潰すという選択はあまりにも横暴すぎるから、やはりこれも情報が必要なのだ。少しでも、大衆の正義に近づける……いや、俺が納得できる正義にする。自分勝手だが。


 ディアの正体について、疑問をぶつけるべきか迷ったが、何も言わないことにした。



「そうだディア、腕相撲をしよう」


「……腕相撲?」


「こんな風に構えて、相手の手を地面につけたほうの勝ちだ」


「ふぅん……だが、あまりやりすぎると町が吹き飛ぶぞ」


「加減はしよう」


「何の意味がある?」


「いいから」



 ディアは渋々寝そべり、俺の手を握った。

 俺がこれをする意味……「見極めるため」だ。


 暴走した時の俺は、念力を際限なく発揮できるわけではないようだった。あの時の出力にディアが対抗できるのであれば……。









 超、高エネルギーが集中する。

 小さくて細い腕なのに、まるで山のようにびくともしない。化け物だ。出力を上げるのが怖くなってくるが、ディアは表情一つ変えなかった。









 ばたん、と俺の腕が地面についた。砂が衝撃で波うち、円形に模様ができる。



「ハハハ、俺の負けだ」


「……何をしたんだ? それと、全然本気じゃなかっただろ」


「俺が暴走した時の力をディアに試した。これなら、俺が暴走しても抑えられる」


「……」



「――――ディア、二つ目の約束をしよう。『ずっと一緒にいろ』」



「……!?」



 ディアは、その黄金の目を見開いた。月にも負けない輝きだった。

 彼女と行動を共にすれば、俺が暴走して被害を及ぼす可能性はぐっと低くなる。ちゃんと俺に従ってくれればの話なのだが、そこはもう、彼女を信用することにしよう。きっと、大丈夫。



「……分かった」


「あ、それから、聞きたいことがあったんだ」


「何だ?」


「人間をどう思ってる?」


「……蟻みたいに脆弱な生き物だ。ただ奴らには『心』がある。吾輩にも、ある。ここに来て、それがはっきりと分かった」


「へぇ、ディアらしくない」


「……」



 ディアが顔を逸らす。

 一つ目の約束をしたときにも同じ質問をしたが、随分答えが変わっていた。いや、「核」の部分はあまり変わっていないのかもな。



「……吾輩は、何だ?」



 ぼそりと、彼女がつぶやいた。

 その息は、とても細くて切なかった。



「……?」


「吾輩は一体何のために、生まれたのだ?」


「じゃ、俺は一体何のために生まれたんだ?」


「……」



 きっと、今回の事件は、ディアにとって不思議なものだったのだろう。今まで何も考えずに殺してきた人間たちの立場に、いざなってみれば、何もかもが分からなくなる。雑魚だと考えていた彼らは、思っていたよりもよく考え、悩み、嘆き、苦しむ生き物だった。

 ディアは何を思ったのだろうか? 何を考えたのだろうか?



「モトユキ。吾輩は人間を幾人も殺している。幻魔よりも、悪者だ。それなのに、傍にいていいのか?」


「……さぁな。神様のことまで俺には分からない」


「神じゃない。モトユキに聞いている」


「俺に、許可を出すほどの権限はない。自分で決めてくれ」


「……」



 美しい少女は、月明かりの下で考える。さざ波の音に合わせて夜風が紫髪を揺らし、ふと見える、体に似合わない大人びた表情。最悪の龍だったなんて、とても信じることができない。

 俺とて何が正しいか分からなくなっている。


 けれども今だけは、考えたくない。

二章終了です。

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