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念力に限界は無いらしい  作者: BNiTwj8cRA3j
二章 命の定義
115/185

21-3



 ――――ホムンクルス。

 ルルンタースの正体を手っ取り早く説明するなら、それが一番だろう。


 どうやらこの研究所は、神霊種(オールドデウス)の身体を使って、生物兵器を造る所だったらしい。戦争に関する詳しい記述は見つからなかった。だが、基本的に研究員とホムンクルスが一対三になるような形をとっていたようだから、一つ一つの研究内容は個人的な話が混ざっていることが多く、その中で「狂った奴ら」「神などいないのに」という敵を蔑むような言葉がちらほら見えた。


 ルルンタースを担当していたのは比較的真面目な研究員で、良い感じにまとめられている。ただ、真面目というのはあくまで「研究」に対してであり、道徳や倫理などに対しては冷めた印象だ。ルルンタースを殺すことを推奨していて、その綴られている言葉には一切の愛情は無かった。


 俺には、彼らの方が狂っているように思える。


 ただ、完全に合理的な考えを持つ集団では無い様で、ほとんどの研究員はその報告書に「殺したくない」「可愛そうだ」「未来に幸あれ」など、慈しむ言葉を残している。



 ……ぞくり。

 事を理解すると同時に、寒気が走った。神の理なんぞ、簡単に破れる。命を改造することは、人間にもできてしまう。元の世界でもあったこと。しかし、改造の対象が「人間」になってしまうと、どこから来たのか分からない嫌悪感が襲ってくる。



「カオイロガ、スグレナイヨウデスガ」


「……大丈夫だ」


「コノコンピュータニアッタデータハ、スベテホゾンイタシマシタ。カエッテカラデモ、フクゲンスルコトガカノウデス」


「……」



 そもそも神霊種(オールドデウス)に生身の身体があったのが驚きだし、実際に、ルルンタースに意識神の細胞が混じっていることも驚きだ。だから、意識神はあんな曖昧な言い方をしたのか。


 ここは、主に非戦闘生物を造っていたようだ。神霊種(オールドデウス)を捕まえておく部屋、培養する部屋、手術室、生活に必要な部屋、知能テストをする用の玩具部屋、ロボットたちの待機室……予測できないものはなかった。


 ロボットは全員もれなく壊れていた。そりゃ、二千年前から動き続けているのだから、錆びるだろうし、バグも出る。ルルのコンピュータが壊れていなかっただけ奇跡なのかもしれない。

 壊れたのはスクラップにされていて、辛うじてロボットであったことが分かるような鉄くずになっていた。待機部屋にきれいにまとめられている。

 最後に生き残り、そして不自然な場所で倒れていたそれは、ビルギットと同じような人型のモノ。ただ、ビルギットほど人間に似ているわけではない。人工皮膚は無く、白いプラスチックのカバーがそのまま。彼が、最後まで仲間を鉄くずにして片付けていたのだと考えると、なんだか怖くなった。


 ……最もの謎は、「消えた研究員」だ。

 エルピスという存在に壊された場所はあったが、それ以外は比較的綺麗に残っている。研究者たちの、ここを離れるような記述も残っていない。死体も。ホムンクルスたちの死体はたくさんあるのに。



 ディアケイレスはデータになかった。だが、ある程度の予測はできる。



 まず第一に、二千年前大規模な戦争があったと考えられる。その時に、勢力がどんな分裂をしていたのかは分からないが、ひとまずAとBに分ける。


 Aは、ここの研究所を始めとした集団で、ディアケイレスもこちら側についていたと考えられる。機械などが多く歩き回っていたというのは、こっちの文明の話だろう。そして、「親がいない」と言うのも、造られたからだと推測することができる。神霊種(オールドデウス)をモノのように扱い、自分たちの勝利を導こうとする、「合理的」な考えを持った集団だ。


 Bは、Aの敵。今の所ある情報は、研究員たちの主観的な印象「狂った」「神を崇拝している」というものがある。恐らく、BがAに宗教戦争的なものを吹っ掛けていたのだろう。そして、彼らが「消えた研究員」の謎を紐解く重要なきっかけだ。


 十中八九、ここの研究所は襲撃された。綺麗に研究員たちだけを、一人残らず消し去った。どのような方法を使ったのか分からないが、ギルバードやアビーのような「特殊魔力」を持った人間か「転生者」を利用した可能性が高い。


 しかし、ここの機械やホムンクルスたちには興味が無かった。理想を求めるうえで、彼らが必要なかったからなのかもしれないが、今の所それは分からない。


 そして、ディアケイレスについて。彼女はA側の人間。何の神霊種(オールドデウス)が宿っているのかは知らないが、意図的に強化された人間だとすれば、あの滅茶苦茶な力も納得がいく。ここではない、もっと別の研究所で作られたはずだ。

 だが、アルトナダンジョン地下は違うだろう。ディアケイレスを封印したのは「大賢者」で「転生者」であった。しかしA側は、ひとまずこの研究所において転生者に関する話題は一つも無かったから、転生者については「知らなかった」。

 つまり、「大賢者」はB側の人間だ。


 事の全容としては、Aで完成されたディアケイレスが強すぎて世界滅亡の危機→Bで召喚された「大賢者」がなんとか食い止めた、といった具合のはず。

 その際に、わざわざ敵拠点で封印する必要は無かっただろう。それに、傷をつけるだけでも命を懸けなければいけないドラゴンを、何があるか分からない百階層に運ぶ理由が無い。


 まとめると、「大賢者」はアルトナダンジョンについて事前に知っていて攻略済み、ディアは別の研究所(ダンジョン地下)で生まれた、と考えられる。

 故に、アルトナダンジョンには「研究所」はない。



 残る謎は、Bの目的、行方だ。

 恐らく「幻魔教」が、Bの勢力。もしもBが、「大賢者」の他にも転生者を起用していたならば、ほぼ間違いない。ここの研究員が皆居なくなっているのは「魔物に食わせる為」、ホムンクルスが残ったままなのは「理に反した者を食わせる訳にはいかない為」と考えることもできる。

 それと、ディアが「幻魔教」をある程度知っていたことも、それを裏付ける。



 ……?

 ますます分からなくなってきた。


 狂った宗教団体が居たとして、どうしてそんな滅茶苦茶な思想に人が群がる? 圧倒的科学技術を持った、Aを圧倒できるくらいの勢力を持てる? 日本の新興宗教の方がまだマシな考えを持っていて、それでも規模は小さいのに。



 考え直すか……。

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