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念力に限界は無いらしい  作者: BNiTwj8cRA3j
二章 命の定義
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19-1 「三回目の夜会議」

今回の話は、非常に不快に感じる方もいらっしゃるかもしれません。

いじめ・難病について取り扱います。苦手という方は、19すべてを飛ばしてください。

 あと数時間で夜明けと言う頃。俺とミヤビはもう一度夜会議を始めようとしていた。ま、適当に何か飲みながらだべるだけだが。


 ルルを寝かしつけた後、アビーの所へもう一度行ってきた。酷い顔をしていた。泣きじゃくったのか目は赤く充血して、寝ていないせいでクマもあった。「バート」が死んだらしい。アビーの弟子で、ドナートの父親。彼女にとって、弟のような存在が死んだのだ。その悲しみが、労働を終えたことにより、一気に押し寄せてきたようだった。


 で、仕事を押し付けすぎたことを謝って、進捗の聞き取り、裁判の日程を聞いた。


 裁判は「今日の正午」らしい。

 あまりに急すぎるんじゃないかと言ったが、「遅すぎるくらい」とアビーは返した。住民の不満が相当溜まっている上に、やるべきことをやらねば墓づくりすらもできない。ここから脱出するためにも、早急な対応が必要なんだとか。

 ……そして、「形式」について。法律らしいものはダラムクスに残っているが、裁判のための明確なルールは失われてしまった。田舎だから、そもそも悪い奴があんまり居ないってのも大きい。だから、今回は「俺に任せる」ってことになった。


 そう、俺。全て俺に。

 一応、多数決もとるし、それぞれの弁論もするらしい。ただ、最終的な決定は俺に任せる。たとえゼロ対全員だったとしても、俺はゼロの方を選ぶことができるのだ。

 なぜかと聞けば、「責任を取りたくない」んだと。建前は、ダラムクスを守った俺を信用しているからというものだが、アビーの見解では、いくら悪人とはいえ殺すように仕向けるのは心が痛く、「英雄」の最終決定にすることにより、「これで正しかった」と思いたいだけなんだろう、と。



 そのことをミヤビに話したら、苦い顔をした。だが、それに対して「おかしい」と言うことは無かった。

 俺の最終的な判断はもう、決めた。皆の話を聞けば、揺らぐかもしれないけど。



 ……クソッ。



「まぁまぁまぁ、もっきゅん。こんな暗い話題してたって、気分が沈むだけだよ」


「あと数時間後に人を殺すんだ。沈んでおかないと、人間じゃなくなるみたいだ」


「……? なんだか言い方が変だよ?」


「『殺す』という感覚に慣れてきたんだ。レンを殺した時も、生理的な気持ち悪さが無かった。寧ろ、爽快感があったくらいだ」


「ま、しょうがないことだよ。私だって、同じかもしれないし」


「……」


「ええと、その、楽しい話をしようよ!」


「例えば?」


「……た、例えば……恋バナ、とか?」


「一切無いね」


「なんとなく予想出来てました。さーせん」


「いやまて、一つ、思い出した」



 俺の記憶の中で、ふと、火を灯したものがあった。

 今回の出来事、特にルベルのいじめに関連した思い出だ。



「……え!?」


「……いや、あれは『恋』なのか? ちょっと違うかも。ごめん、忘れて」


「えええ、気になるじゃん!!」


「あんまり楽しくないどころか、バッドエンドの思い出だ」


「……う、で、でも気になる」


「じゃ、話すけど、後悔するなよ」



 ☆



 いじめ。


 とある集団が、異物を排除しようとする行為。異物となる条件には、喋らない、性格が悪い、不潔、何もしない、やる気が無い……その他諸々あるが、最も理不尽なものは「不細工」だ。

 ただ不細工だけならいいが、他の条件と重なれば一気に「異物」の対象となる。


 映画やドラマ、アニメ、小説なんかでは、いじめられている人物は「悲劇のヒロイン」として描かれることがしばしばあり、顔もよく頭もよく性格もよい美人だが、異物を排除するという性質上、実際は「変な奴」が多いのである。まぁもちろん、それがいじめる理由になって良いわけがないんだけど。



 十三年前、俺が十五歳の中学三年生の二月。ひねくれ真っ盛りの時期。

 既に一部の私立や国立なんかは推薦が終わり、合格者がちらほら出始める頃、三年生のほとんどは勉強のラストスパートに差し掛かっていた。

 そんな中、俺は一切自主的な勉強をしなかった。なぜなら、受験を早々に諦め、就職することを決めていたから。確かに、俺は「異物」だったかもしれない。だが、いじめられることは無かった。いじめられない方法なんて簡単なんだ。クラスのグループに片足を突っ込めばいい。必要最低限の受け答えはする。一匹狼なんかを気取ったり、傍若無人に振る舞わなければ排除はされない。


 して、俺は暇を持て余していた。友達は皆受験のために頑張ってるから邪魔したくない。不良なんかとつるむタチじゃなかったし、かといってスポーツに打ち込むような熱意は無かった。

 家に行けば親戚の人にぐちぐち言われるから、俺はどこか良い場所を探してゲームをする日々を送っていた。今となって、親戚の人の親切を突っぱねていたって分かったから、後悔してる。

 当時のお気に入りは、町はずれに捨てられた廃病院。「立ち入り禁止」の札はあったが、誰もいなかったし、どこかが施錠されているわけでもなかったから、俺は好んで立ち寄った。不良たちも流石にここは怖いのか、壁に落書きはあれど、内側は綺麗なまま残っていた。


 ある日、その屋上で人影が見えた。

 幽霊かと思ってちょっとビビったが、すぐに人間であることに気が付いた。



 ――――飛び降りたのはもっと怖かった。



 親を殺してしまったあの時から、念力は人に使わないと決めていたが、このときは反射的に使ってしまった。力加減を間違えていれば俺が殺していたかもしれないから、今思い返してもヒヤリとする。


 屋上に戻して、動けないように張り付け、急いで屋上へ駆けあがった。

 そこに居たのは、上下灰色のスエットの、かろうじて女子と分かる奴だった。



「な、んだよ、お前!!」



 今までに見たことが無いくらい、不細工だった。ニキビだらけの面で、太っていて、それでいて風呂に何日も入っていないのか臭いし、髪の毛がベタついていた。

 正直引いた。人を見た目で判断しないようにと心に決めていたが、流石に清潔感が無いのは気持ち悪かった。



「邪魔すんな!! バーカ!!」



 よだれを良く垂らすのも、嫌いだった。



「な、何をしようとしてたんだよ」


「……何!? 幽霊!? 何がしたいの!?」


「……『念力』、俺、超能力者なの」


「はぁ!? ハハハハハッ、中二病ってやつ? マジウケる―」



 何気、超能力者だとバラしたのは、弟以外に初めてだった。俺はどうしようもない嫌悪感を抱きながらも、そいつを離した。周りにあった小石を浮かばせて、超能力者であることを手っ取り早く教えたら、とても驚いた表情をしていた。数秒後には「だから何?」と煽られたが。本当に興味が無い様で、詳しく聞いてくることは無かった。



 彼女の名は、広岡シズネ。

 名前だけは聞いたことがあった。中学二年生の頃に同じクラスで、二学期の中盤辺りで急に学校に来なくなった奴だ。話したことも無ければ、顔も見たことなかったし、実質初対面。

 予想通りいじめを受けていたらしく、それで引き篭もったは良いものの、辛くなって死にに来たんだとか。重っ苦しい話を妙に飄々と話すのが気に食わなかった。



「お前は?」


「上原基之」


「……ウエハラ? え、まさか、伝説の上原?」


「伝説?」


「え、知らないの? お前、いっつも数学だけは百点の人だよね?」


「……まぁ」


「えええ、初めて見た―。思ってた通り地味な顔だね」


「……」



 恐らく、容姿に加えて、この煽り好きな性格もいじめの原因だったんだろう。

 確かに俺は、数学だけはいつも百点だった。それと理科以外は壊滅的。受験なしの普通の公立中だから自慢できるほどのモノではなかったし、学科をまとめて平均してしまえば偏差値は五十ちょいだ。

 そんなに影薄いのか俺って、ちょっと傷ついたな。


 ふと、地面に張り付けられた紙を見つけた。大学ノートを雑に切り取って、セロハンテープで張り付けてあった。「あ、駄目!」という声を無視して、俺はそれを拾い上げる。

 遺書だった。赤い文字でこう書いてある。



『みんなみんな死んじゃえばいい。さようなら』



 汚い字だった。仮に男子だとしてもなかなかの。



「なにこれ?」


「……遺書」


「もうちょっと文面考えたら?」


「そっちの方が呪いかかってそうで怖いじゃん」


「全然?」


「……」



 そのときの複雑な表情は、なぜかよく覚えている。

 今までの空元気な笑顔が急に曇って、怒り、悲しみ、嘆きとかの感情が伝わってきたからだ。どれだけ下手くそな呪いの遺書だとしても、彼女にとっては本気で作ったもの。少し悪いことを言ったような気持ちなったが、次の瞬間には心底どうでも良くなった。



「そもそも、何でわざわざウチを助けに来たわけ? 別に助けてほしいなんて一言も言ってないよ。そういうの、偽善者っていうんだ」


「俺が惨めだったからだよ」


「はぁ?」



 当時の俺はひねくれていて(今もそうかもしれないけど)、思い返してみれば恥ずかしいことだらけ。でも、自分を振り返って恥ずかしくなるのは、どの歳においても言えるのかもしれない。

 ともかく、俺は次にとんでもないことを口走ったのだ。



「惨めな俺より、さらに惨めなお前がいる。そんなお前を助ければ、『俺よりも惨めな奴が助けられた』という事実を得ることができる。だから、もしかしたら『俺も誰かが助けてくれるかもしれない』って思えるんだ」



 どこまでも自己中心的なその論理に、流石の広岡も引いたようだ。



「……変な奴」


「広岡には敵わない」



 俺は彼女の遺書を細かく破って、下へ放り投げた。ひらひら汚い紙吹雪が、乾いた地面へ落ちて行く。そのときに何か酷いことを言われたが、詳しい内容は忘れてしまった。ただ、ちょっとムカッときたのは憶えている。



「どうせ命かけるんなら、もっと呪い込めろよ」


「……」


「今日は帰る。気分悪いし。また明日もここに来るから、紙とペン持って来いよ。呪いの文一緒に考えようぜ」


「……上原って最新の国語のテスト何点?」


「四十一点」


「……バーカ」


「引き篭もって零点のお前よりはマシ」



 そして、この日から変な習慣が始まった。放課後に廃病院の屋上で、自殺未遂のブスと一緒に、遺書を書く奇妙な特訓。いかにいじめた奴らに大きな精神的苦痛を与えるか、二人で知恵を出し合った。広岡が書き終える度に、俺はそれを破り捨てたが。

 ゲームもした。基本的にポ〇モンかド〇クエだった。あいつはとにかくアクションゲームが下手で、俺のゲーム機を叩きつけるという暴挙をしたから、アクションはもう二度とやらせなかった。


 よく転んだり、ペンやゲーム機をちゃんと握れなかったり、よだれを垂らしたり……ドジな奴だった。

 それを見る度に、俺はどこか優越感を感じていたのかもしれない。俺はこんな酷い奴とも遊んであげているっていうね。自殺を食い止めているってのは、偽りの正義だったのかもしれない。

 ま、真の正義なんて今の俺にも分からないけど。



 ところが、一か月後の卒業式。俺はいつも通り廃病院の屋上へ向かったが、彼女の姿は無かった。手紙すらも無い。暗くなるまで待ったが、遂に彼女が現れることは無かった。


 そのあと、三日位あそこへ通ったが、誰も来ることは無かった。

 勝手に自殺をしたわけではなかったから、安心して俺は忘れたんだ。

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