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念力に限界は無いらしい  作者: BNiTwj8cRA3j
二章 命の定義
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17 「パチンコ玉と首だけロボットと最恐ドラゴン」

 モトユキがミヤビの意識に入り込んだ直後の話。

 ここに残ったのは、ジョンとディアという不思議な組み合わせだった。



「……!?」



 ディアに衝撃が走る。

 目の前でモトユキとルルンタースがキスをしたからだ。結構長々と。唐突で意味不明なその行為に、流石の混沌邪神龍と言えど狼狽える。



「おい、パチンコ玉」


「……へい。なんすかディアのお嬢」


「こいつら接吻したぞ……!」


「接吻って……子供にしては難しい言葉知ってんな」


「つがいなのか!?」


「つ、つがい……じゃ、ねぇとは思うがな」


「……」



 意識を失い、その場に倒れるルルとモトユキを、すかさずディアが支える。



「つがいなのか!?」



 ディアが再び問う。



「いや多分ちげぇから安心しろよ」


「……」



 もう一つの空のベッドに二人を寝かせる。ジョンは鼻血を出しているルルを見て、それをふき取った後、包帯をちぎって鼻に突っ込んだ。ただでさえ雪細工のように脆そうなのに、鼻血まで出されると本当に心配になる。

 古代文明の産物、やはり普通の女の子とは何かが違う。ジョンはそれについて少しだけ考えたが、面倒になって止めた。考えたところで何に使うわけでもないし。



「……そういえば、お前、左腕食われたんだな」


「ん、ああそうだな。めっちゃ痛ぇけど、だいぶマシにはなった」


「血の臭いがしたからな」


「そ、そんな臭うか? しっかり止血したはずなんだがな。つーか今はどこもかしこもそうじゃねぇか?」


「普通の人間には分からんだろうな」


「それ、自分自身が普通の人間じゃないって言ってるのと同じだぞ」


「だからなんだ? 吾輩がドラゴンなことはもう、全員知ってるはずだ」


「わ、吾輩って……まぁいいか。深いことは聞かねぇから安心しな」


「……髪の毛も食われたのか?」


「剃ってんだよ!! 何度ツッコめばいいんだ!?」



 ジョンはその禿げ頭を掻き、溜息をついた。同時、こいつ(ディア)が敵じゃなくて本当に良かったと改めて思う。初めて見た時は終わったかと思った。あの禍々しいモンスターは、きっとミヤビでも倒せなかっただろうから。

 持ってきた果物を渡そうかと思ったが、目覚めるまでに時間がかかる。だから、冷蔵室(冷たい部屋。氷の魔石が使われているため、食料を長く保存することが可能)に入れておくことにした。家の間取りは大体同じだから、迷うことは無い。





「――――ジョンサン、コンニチハ」


「うわああっ!!??」





 リビングのテーブルに置かれた首だけのビルギットにビビり散らす。腰を抜かしてしまった。

 その声を聞いて、初めてその存在を認知した上に、見れば打ち首になっているのだから、そりゃ誰でも驚く。それにこんな状況なのだから、幽霊が出てもおかしくは無い。



「い、こ、壊れてなかったのか」


「ナントカ」



 口の動いていない不気味な話し方に恐怖を感じながらも、少しだけ面白く思った。



「どうした?」



 ジョンの声を聞いて、ディアもリビングへやってきた。ビルギットを見るや否や、少しだけ驚いた表情をしたが、声を上げたり腰を抜かしたりすることは無かった。圧倒的強さを持っているということは、圧倒的な肝の据わり方をしていてもおかしくはない。ジョンは、何故だか情けない感覚を覚えた。



「ディアサン、ドーモ」


「え、あ、うん。うん……? 吾輩名前言ったっけ?」


「モトユキサント、ハナシテイタノヲ、キイテイタノデ」


「そうか」


「ソウデス」


「口動かしてないのにどうやって喋ってるんだ?」


「ゴウセイオンセイヲ、ソノママタレナガシテイマス」


「……??」



 合成音声とやらに関してはジョンも良く分からなかったが、ビルギットが打ち首にされた恨みで襲ってきたという訳ではないと分かって、少し安心した。同時に、左腕だけを無くした自分がちっぽけに思えてくる。



「ジョンサン。ケガヲシテイラッシャイマスネ。ホウタイガチデシメリスギテイルノデ、マキカエルコトヲ、オススメシマス」


「……おうよ。でも、お前よっかはだいぶマシだぞ」


「ワタシハ……マ、イタクナイノデ」


「どうするんだ、お前、これから?」


「ホルガーサンガナクナッテシマッタノデ、コレカラハ、モトユキサンニツカエマス」


「え、首だけのままか? アビー姉さんなら直してくれっかなぁ……まぁ、今はマジで働きすぎて死にそうだし、頼むなら後からだな。どうする?」


「アビーサンデスカ。タシカニカノジョナラ、ホルガーサンノノコシタメモヲ、ヨミトイテクレルキガシマス」



 奇妙な空間だった。禿げ頭の冒険者と、紫髪の美少女、首だけロボット……誰が見ても変な雰囲気のこの場所。妖怪の集会と言われてもギリギリ理解できそうだった。ディアは早々に飽きてしまったのか、再びモトユキたちの元へと戻っていったが。



「なぁ、ビルギット。お前、ルベルについてどう思う?」



 ジョンはストレートに聞いてみた。ロボット側の意見を聞くなんて今までになかったわけだし、どうせなら聞いておこうと思ったのだ。自分のことを嫌い続けた少女について。普通の人間ならば、「クソガキ」と感じるところだろうか。



「ルベルサンデスカ? カノジョハ……ツヨイ。トテモジュウサンサイトハオモエナイ、ツヨサ」



 帰ってきた返答は、思ったものとは全く違うものだった。



「……? 何があったんだ?」


「アレ、キイテナインデスカ? コンカイ、モトユキサンタチガ、モドッテキテクレタノハ、アノコガガンバッタカラデス」


「……」


「カノジョハ、チガコワイハズデシタ。ワタシガコワイハズデシタ。ケレドモ、スゴク、ツヨクナッタ」


「流石アネゴの子だな」



 ジョンは改めて罪悪感を感じる。ルベルが命を賭していた中、彼はすでに助かっている子供たちの命を守ることに徹した。そう言えば聞こえは良いが、実際は怖くて逃げていただけだ。十歳以上離れた子供の方が勇気があった。なんだか情けなくなる。



「――――おい、モトユキが!!」



 ディアに呼ばれて行ってみれば、モトユキの熱が出始めたようだった。少しだけ息が荒くなり、顔も赤くなっている。額に触れば、火傷をしそうなくらい熱くなっている。それ以外の異常は特に見当たらない。毒か何かで死にかけているわけではなさそうだ。徹夜の防衛戦が体に響いたんだろうという彼の予想は、ピタリと当たっていた。



「風邪か。毛布かけて、何か冷やすものを……」


「冷やす!? そうか、熱いから冷やすんだな!? 凍らせればいいんだな!?」


「死ぬだろ。凍って」



 ディアは思い付きで、手のひらに吹雪を発生させる。その魔力の鋭さに、ジョンは少しだけ怖くなるが、彼女が少しアホの子だということも理解し可笑しくも思った。


 いや全然可笑しくねぇや。俺が居なけりゃモトユキサンが殺されてるわ。



「耐水袋に、氷水を入れて額に当てるんだ。そして、毛布をかけて暖かくする」


「なんで、冷やしてるのに温めるんだよ?」


「……さぁ?」


「カラダノキンヲコロストキニ、クルシクナイヨウニスルタメデスヨ!!」



 ビルギットの声が遠くから聞こえてくる。



「……だってさ」


「良く分からんが、とりあえずやればいいんだな!?」


「なんか、お前、必死だな」


「……?」


「モトユキサンが好きなのか?」


「……好き? まぁ、確かに、そうかもしれない」


「……」



 ジョンは、彼女に恋心のようなものが無いことを悟った。それもそうだ。彼女はまだ、年齢が二桁もいってないはず……でも「つがい」って言葉は知っていたから、不思議に思う。


 すぐに考えるのを止めたが。

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