騒動進展:追跡開始
本日二話目です。
……さて、問題は如何にして俺のスキルを隠しつつ奴を安全に捕らえるかだな。
『……特に、怒ったりはしないのですか?』
いやぁまぁもう一回ぶん殴ったからある程度スッキリしてるし。だからって許す気もないし、また知り合いに化けるとかしやがったらもっかい『武装術』込みでぶん殴るけど。
『マスターが冷静のようで、なによりです』
それ最近感情爆発して強化入ったお前が言える?
『ふふ、マスターの声真似でもしましょうか。慢心……』
やめろバカ!!
とかなんとか脳内漫才をやっていると、スピーカーから声がまた聞こえてきた。まだ続きがあったらしい。
『脱走者はコードネーム『ドッペル』、本名は澤西洸!判明していた能力は、他者への擬態だ、騙されないよう気をつけろ!』
あ、説明どうも。澤西って言うのねアイツ。
んで、どうやって捕まえるか考えないとなんだけど……銃は貸してもらう許可貰ってないし、索敵で裏とって、スキル使って不意打ち位しか思いつかんのだが。
「大葉。脱走したの、確かアンタが捕まえた奴よね?」
「ん?そうだが……」
とか思ってたら雨宮から話しかけられた。
「アンタならその能力で見分けられるんじゃないかしら。で、見つけたら私がワンパンすれば……」
……その手があったか!ナイス雨宮!!雨宮ナイスゥ!!
『……と、言うよりは、マスターが自分の能力だけで解決しようとするから思いつかなかったのでは?』
……おおう、言われてみればその通りだな。うーん、なまじ俺のスキルが多いから何とか出来ると思いがちになっちまうか。気をつけねぇと。
折角こういう組織に所属してるんだから、ちゃんと力を借りて何とかする事を考える必要がありそうだ。いやまぁ能力を隠さなきゃ必要無いのは確かなんだが……
それより今は雨宮の申し出を有難く受ける事にしよう。
「ナイス雨宮、珍しく冴えてんな!」
「普段は冴えてないって言いたい訳?……とにかく、それでいいわね?」
「任せろ、丁度索敵に引っかかったから案内する!」
「分かったわ!」
そう言い合って食堂の出口へ向かおうとした所で、
「待ってくれ、俺達も行く!」
「流石にこんな時にじっとしてられないっすよ」
と上田が呼び止めてきた。いやまあ申し出はありがたいけど多分奇襲かけるから人多いとバレると思う。
「そうだ、数いたほうがいいに決まってる!」
「新人さんが居ればすぐに見つけられそうだしな!」
ついでに丁度食堂にいたよく知らない人々まで付いてこようとしてる。てか新人さんってなんだよ、まだ俺は新人扱いなのかこれ。
「いや、ちょっと待っ……」
雨宮が少し気圧された様子で落ち着かせようとしているが……なんかもうみんなやる気満々で逆に困る状態になってる。どうすんのこれ。
『マスターにリーダーシップがあれば簡単に収集を付けられるのですが、望み薄ですしね』
おうこらサラッと俺をディスるな、確かに俺は指示するのもされるのもあまり得意じゃないけどさ。
と、近くで隣で立ち上がる気配。見ると、和也さんが立ち上がって大きく息を吸って……あ、耳塞いどこ。
「落ち着け、お前達!!!!」
うおっ、うるさっ!塞いだのに耳がキーンってした!
他の面々も和也さんの声にビビったようで、騒いでいたのが落ち着いている。
「他者に変身できる能力を持つ者相手に大人数で行った所で混乱するだけだ!お前達は余計な事をせずここにいろ!もし入室してくる者がいたなら、複数人で監視下におけ!いいな!!」
「「「は、はい!!」」」
そこにすかさず指示を飛ばす和也さん。この人、やっぱり班長としては相当優秀そうだよなぁ……
「では、雨宮、大葉。お前達は合同で澤西を探し出し、確保してきてくれ。もし取り逃がすことがあれば、即座に私に端末から連絡を……ちなみに、端末を忘れてる、という事は無いだろうな?」
「流石に叱られた直後で忘れたりはしないって……」
「勿論私は持ってるわ」
「……どうせお前も一回忘れてこっぴどく叱られた癖に」
「な、なんで知ってるの!?」
適当言っただけなのに当たっちゃう辺りよ。
「……忘れてないなら良い。あぁ、無理に捕まえる必要は無い。奴に出口の方向等は分からないだろうから、すぐに逃げ出される事はないだろう。新たな能力がどのようなものか未確定な以上、無茶せずにな」
すげぇ、先んじてめっちゃフォローしてくれてる。いやまぁ、能力はぶっちゃけ割れてるから安心なんだけども……
「私はここで他の皆を纏めつつ、得られた情報をそちらへと送らせてもらう。支部長にも連絡を取り、対応を指示するから、端末は余裕がある時に逐一確認するように。質問が無ければ、行ってきてくれ」
「了解!行くわよ、大葉!」
「いや、ちょい待って……そいつが他の誰かも脱走させりとかはしてないのか?」
ライマが索敵した範囲内にはいないし、多分大丈夫とは思うんだが……
「少なくとも私の端末に来た情報では澤西のみだ。それに、複数人脱走しているならば先程の放送で言っているだろう」
「ですよねー」
んじゃあ澤西だけだな。
「じゃあ、行ってきます!行くぞ雨宮!」
「いやアンタ待ちよ?」
知ってるわ。気分だよ気分。
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反応があったのは下で、地下4階―――食堂は地下2階である―――だったので、階段を駆け下りていく。エレベーター使ってもいいけど、まぁ流石に階段の方が近くて早かったからな。
そういえばこの建物に拘置所的な場所があるって聞いた覚えが無いな。ライマは聞いた覚えある?
『いえ、ありません。恐らくは意図して隠してあるのでしょう』
まぁ今回みたいな『擬態』とかあの吸血鬼の『憑依』とかで潜入されて、犯罪者解放!とかされたらたまったもんじゃないしな……
それはさておき、地下4階へ到達して直ぐに、俺たちは奴と出くわした。出くわしたのだが……
「―――だから!俺が本物だって言ってるじゃねぇか!」
「なんだとこの野郎!お前が偽物だろ!!」
「なんだとこの野郎!お前こそ偽物だろ!!」
そこには、言い合いをしている瓜二つの男がいた。
……俺これ見たことあるよ。擬態系能力持ちが出たら必ず起きる、「本物はどっち?」って奴。凄いなTFSP、こんなん現実でお目にかかれる日が来るとは思わんかったぞ。
ていうかさっき放送で『惑わされないように』って言われてたのにまんまと騙されてるの大丈夫かな……
「……大葉、わかる?」
っと、そういや判定するのが俺の役目だったな。どっちなのライマさん。
『右が偽物ですね。ちなみに左はこの通りです』
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本物の男
『剣術2』
剣の扱いが上手くなる。
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うわすっげシンプル。これこそラノベで本来よく見るスキルだよなぁ……
っと、それより今はどっちが本物か言わねぇと。
「俺らから見て右側の奴が偽物だ……けど、困ったな」
「そうね……まさか、こんなに人がいるなんて」
そう、こんな言い合いをしているせいなのか、周囲に人が集まっているのだ。そのせいで、初手ドロップキックによる制圧、という選択肢が取れなくなってしまった。
「面倒ね……全員ぶちのめして捕まえた方が楽じゃないかしら?」
「いやお前それは脳筋すぎ……」
いや……それもありか……?
『確かに、下手に付け入る隙を与えずに確実に捕まえられるでしょうね』
雨宮の『雷神』は身体強化+雷によるドロップキックが強そうに思えるが、単純な雷撃による遠距離範囲攻撃の方が分かりやすく強い。
手加減もしっかりできる為、全員を行動不能にする程度なら簡単に出来るだろう。
『ですが、一度和也様に連絡をした方が良いでしょう。幸いな事にまだ口論は続きそうですし』
ああ、現場だけで判断するなって奴ね。
「……やっちゃっていいか和也さんに連絡するぞ」
「え、真面目に検討するの……?」
おめーが言い出したんだろうが。
ともかく、端末で通話をかけると、すぐに繋がった。
『どうした?』
「10人以上人がいる所で、本物だ偽物だって口論やってるんだけども、雨宮に纏めて行動不能にしてもらっていいですかね?」
『……個人を狙い撃ちにする事は出来ないのか?』
「狙い撃ちは……」
首を横に振る雨宮。
「無理そうです」
『……なら、構わない。相手は未知の能力も得たようだし、リスクを無視して捕えられるのならその方がいいだろう』
という訳で許可が貰えたので。
「よし雨宮やっちまっていいぞ」
「任せときなさい!」
心無しか楽しそうだなお前。後に引かない程度にしとけよ……?
とりあえず俺は、今から感電させられるであろう哀れな人達の方を見て……あれ?あの『擬態』野郎こっち見てない?
……あ、顔を引き攣らせた、確定ですね。
「恨みはないけど、全員痺れなさいっ!!」
「「「え?」」」
直後、止める間もなく雨宮のスキルが炸裂し、その場の全員が感電した。
「「「あばばばばばばっ!?」」」
おーおー、見事に全員痺れて……あれ?アイツいなくね?
『どうやら、すんでのところで逃げられてしまったようです。床をご覧下さい』
言われて見ると、奴がいた床の部分に、人一人が抜けれそうな程度の円形の穴が空いている。ここから下に逃げたのだろう。
これが『消失』の効果か……俺達の話を聞いてたとは思えないから、俺を見て『擬態』は無意味だって思って逃げたんだろうな。うーん、連絡せずにぶっぱなして貰えば良かったかなぁ?
「さて、とっとと拘束しちゃいましょ」
「あー雨宮。アイツ逃げたぞ」
「……はぁ!?あ、ホントね、穴が空いてる!もう、ぬか喜びしたじゃない!」
一番の被害者は巻き込まれたこの人たちだと思う。
「大葉!さっさと追うわよ!」
「いや待てお前その穴通ろうとするなよ?」
「なんでよ?」
「だってこれス……能力によって開けられた穴だろ?なんか変な効果あるかもしれねぇじゃん」
雨宮を言いくるめつつ、ライマに確認をとる。
確かこの穴30秒で戻るんだよな?
『そうですね。恐らくマスターが危惧しているのはその時に間に物があるとどうなるのかだと思いますが……まぁ、酷いことになりますね』
やっぱりかよ……端的に言えば?
『この場合は……『石の中にいる』でしょうかね』
生き埋めじゃんこっわ。と、そうこうしているうちに30秒経ったらしく、穴が閉じてしまった。
「あ、閉じちゃったじゃない」
「ほら、閉じるのに巻き込まれる可能性があっただろ?」
「ああ、そういう……仕方ない、階段で降りましょ」
そんな訳でまた奴を追うことになった。次はあっさり捕まってくれるといいんだけどなぁ……
Q:どういう経緯で言い合いになったの?
A:『消失』使おうと思って触ったら五つまでしか消せない制限を知らなかったのでそれにひっかかり消せなかったので慌てて『擬態』を使用して逃げてその後てんやわんや