騒動開始:罪人脱獄
お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。
2話同時投稿です。こちら、一話目になります。
「ん〜っ!」
支部長室を出てすぐ、俺は大きく伸びをした。
あー疲れた!なんというか久しぶりに娑婆に出る囚人みたいな気分だわ。
「ふぅ、娑婆の空気は美味いぜ⋯⋯」
とか言ってみたり。
『そういった類の独り言は聞かれると大変恥ずかしいので控えた方がよろしいかと思われます』
あ、そうだな⋯⋯え?周囲に人いる?
『運のいい事に今はいませんでした。ただ、こちらに近寄ってきてる反応がありますので、もう余計な事は言わない方がいいでしょう』
おー、サンクス。ちなみにその反応に覚えは?
『あります。こちらです』
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山崎梨沙
『再現』
『年齢操作』
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ああ、なんだ梨沙か。会う度にイタズラしてくるんだよなぁ⋯⋯まあ大概「甘いっ!」とか言いつつ回避してるんだが。気配察知の設定が便利。
さて、今度は何をしてくるのだろうと思ってそちらを向くと。
白衣を来た大人のお姉さんがいた。
⋯⋯誰?あ、いやそうか。『年齢操作』か!スキル解放したのを自覚したのか。
感心して思わずボケッと突っ立っていると、梨沙の方に寄ってくると、
「あら、初めましてね、ボウヤ」
と、それっぽく声をかけてきた。
「はぁ⋯⋯」
俺はとりあえず反応に困ったので生返事を返す。
「⋯⋯よく見ると、入ってすぐに雨宮に模擬戦で勝ったって子ね?凄いわ、お姉さん感心しちゃう」
いや、うん。客観的に見れば大人の女性が俺に興味を持って話しかけてる図で、もし相手の正体を知らなかったなら⋯⋯まあ、多少は気分が良くなってたかもしれない。
⋯⋯ん?今一瞬背筋がヒヤッとしたような⋯⋯
とにかく、中身が分かってたらどう考えても『年齢操作』を悪用した悪ふざけにしか見えない訳だ。
それに⋯⋯
「山崎、ぶっちゃけあんまり年上っぽさ出てないぞ」
「⋯⋯な、なんの事かな〜?」
「そういうとこだぞ」
「しまった!」
ガーンと、大袈裟にショックを受けたようなリアクションをした。その姿でそのリアクションは違和感凄いな。
「何で分かったのさー」
「気配」
「バトル漫画にお帰り⋯⋯」
軽くむくれた様子でそう聞く梨沙に対し、俺は適当に答えるとそんな風に突っ込まれた。やっぱ気配察知の設定が便利。
「むしろ俺こそ聞きたいんだけどな、なんだよその姿」
「コレはー、年齢操作能力なのだー。ドヤァ」
「いつの間にそんな能力に覚醒したんだよ」
そんな風に話していると、すぐ近くの支部長室から和也さんが出てきた。
「⋯⋯む?大葉、まだ此処にいたのか?」
「あ、和也さん。いや、出た直後に大人になってる山崎と出くわしたから話してた所なんだ」
「秒でバレた。悲しみ」
そう説明すると、和也さんは呆れた表情で、
「山崎、悪戯は程々にしておけ。それに、こんな所で立ち話をするんじゃない。別のところに行け」
まあ確かにずっと廊下で立ってるのも迷惑だな。
「⋯⋯腹減ってきたし、飯食いに行かないか?」
「いいねー、あ、また料理作ってくれない?」
「まあ、許可が出たらな⋯⋯」
「む、それなら私も同行していいか?」
「和也さんまで⋯⋯」
ライマの料理の腕を披露してから、それを知る人はTFSPの食堂に来る度にこのようにせがんでくる。
ただなぁ⋯⋯一つ問題があるんだよ。
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「ダメです!」
「⋯⋯だってよ」
「えぇー⋯⋯」
食堂の従業員の遠藤さんが許可してくれないのである。彼女は俺が初めてここに来た時に、
『む?今日は遠藤はいないのか?』
『あー、遠藤さんはインフルかかっちゃったみたいで⋯⋯』
『成程な⋯⋯ではしばらく彼女の料理は食べれないのか、残念だ』
という会話が交わされていた通り、インフルエンザで休んでたのだが、彼女はその間に俺が料理を作った事を知って、かなり怒っているのである。理由としては⋯⋯
「厨房は私の城です!他の誰にも触らせる気はありません!!」
との事だ。
「別にいーじゃーん減るもんじゃ無いんだからさー」
「私の正気度が減るんです!」
梨沙の説得(?)にも耳を貸す様子は無い。
ちなみに彼女もTFSP所属の為スキルを持っている。
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遠藤朱里
『撥水』
体表に触れた液体を完全に弾く。一定レベルを超える粘度の場合不可能。
『効率化:料理4』
食事を作る工程を短縮できる。また、料理の製作中は身体能力に大幅な補正がかかる。
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こういうスキルを持つ人が非戦闘員になるんだろうな、という分かりやすい例である。ていうか『効率化:料理』ってことは他の『効率化』もあるのだろうか……あるんだろうな……
『『装甲:腕』等と同様でしょうね。『武装術』のような統合版も存在するのかもしれませんが……私とて、スキル全てを網羅しているという訳ではありませんので』
見た事あるスキルしか分からないってのも中々不思議だよな。それはさておき、許可を出してくれなかったのでなおも引き下がる梨沙に声をかける。
「山崎、ダメって言われてるし引こうぜ。食堂の責任者は遠藤さんなんだし」
「むー、頑固⋯⋯まるで水垢の如し」
「例えが酷くないですかっ!」
煽るような事を言わんでくれ。
「それより腹が減ったからさっさと飯を食いたい。遠藤さん、注文いいか?」
「大葉さんには食べさせるご飯はありません!」
「えぇ⋯⋯そのセリフ三回目だぞ⋯⋯」
まあ、こんな事を言っているが、厨房を使うことは許可してくれないものの、料理を頼む事に関しては割とすぐに折れてくれる。なので少し粘ってさっさと注文をしようと思ったその瞬間。
食堂に新たな客が現れた。
「腹減ったー!飯ー!」
「もうちょっと小声で喋れないのアンタは」
「今日は何を食べようかな⋯⋯あれ?」
おっ、元太に雨宮に⋯⋯東山兄か、久しぶりだなー。
「大葉君じゃないか、久しぶりだね!」
「おーう、東山兄、久しぶり。妹はどうした?」
「能力の定期検査があって⋯⋯離れるのをかなり渋られたよ」
「まああいつお前にベッタリだもんなぁ」
俺が東山兄とそんな会話をしていると、雨宮がこちらに話しかけてきた。
「大葉、アンタらそんな所で突っ立ってどうしたの?」
「厨房使えないか聞いてみた」
「ああ⋯⋯なるほどね」
とりあえず一言だけで状況は理解してくれたようである。
「えー、隆二の飯食えねぇのか?」
同じく状況を理解した元太が残念そうにそう言う。期待してくれるのは嬉しいけども出来ないものは仕方ない。
「?どういう事なのかな?」
唯一東山兄だけが分かっていない。そういえば東山兄と一緒に飯食ったの最初だけか。
なので軽く状況を説明すると⋯⋯
「そうか⋯⋯大葉君の料理は食べれないのか⋯⋯」
そう言って凄く⋯⋯物凄くしょんぼりした顔になった。そういえばこいつライマの飯を食べた時泣いてたな⋯⋯
⋯⋯気づくと、何だか『許可してくれない遠藤が悪い』みたいな雰囲気になっている。
「⋯⋯な、なんですかこの空気は⋯⋯」
それを感じ取った遠藤さんがやや及び腰になっていると、東山兄は、
「お願いします⋯⋯大葉君に厨房を使わせて貰えませんか?この通りです!」
そう言ってバッ!と勢い良く頭を下げた。
「ううっ⋯⋯わ、分かりました!分かりましたよもう!!」
これには流石に遠藤さんもたまらず折れ、俺が料理を作ることになった。
⋯⋯ライマの料理が原因でこんな事になってるあたり、お前賢神って言うより食神なんじゃねぇの?
『やめてください。アイデンティティに関わります』
あ、お前その辺にアイデンティティ見出してんのな……
――――――――――――――――――
「出来たぞー」
そんな訳で料理完成である。コロッケ作ってやろうかと思ったが、雨宮のスキル解放条件的に肉はNGだったので、海鮮丼にしてみた。
え、魚も肉では?って思ってライマに聞いたらOK貰えた。相変わらずその辺の線引きが分からん⋯⋯ライマも判断が勘のようなものだし。本当に賢神かお前……?
「美味い!もう一杯!」
「うーまーいーぞー!」
「⋯⋯⋯⋯(無言のかきこみ)」
ところどころなんかおかしい台詞が聞こえてくるけど気にしない。食堂にたまたま来た人達が何事かとこっち見てるが気にしない。
「⋯⋯(ジト目)」
「なんだよ雨宮その顔は」
「⋯⋯ちょっと量が多いと思っただけよ」
「ああ、つまりカロリーが気になると」
「フンッ!!」
「グフッ!?」
しまった、ついノリで言ってしまった!殴られるのは明白だったのに!!
『芸人でも目指しているんですか?』
目指してねぇよ。
あ、そうだ、時間的にそろそろ雨宮のスキル解放されたりしない?
『はい、丁度報告しようとしていた所でした。雨宮様のスキルが解放されました。並びに、マスターのスキル『武装術』も強化されました』
よし!『武装術』はどうせ純粋な強化だろうし、雨宮の解放したスキルを教えてくれ!
『了解しました、こちらです』
――――――――――――
雨宮涼子
『雷神』
『無法』
支配、封印、拘束といった効果のスキルを全て受け付けなくなる。ただしスキルの強化段階に差がある場合はその限りでは無い。
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⋯⋯またなーんかカッコイイ名前のスキル解放してる⋯⋯で、効果は束縛系統のスキルを無効、と⋯⋯
うーん、日常においては役に立たないけど、雨宮は他のスキル保持者と戦う機会が多いし有用そうだな。これ、つまり俺の『封印』はまんま効かないんだろ?
『そうですね。他には、『命令』や『催眠』、『憑依』すらも受け付けません』
そう聞くとめちゃくちゃ強そうに思える不思議。まあ、便利そうでよかったよ。
『それから、『武装術』に関してはマスターの言う通り純粋な強化です。更に武器の扱いが向上しました。それと⋯⋯』
それと?
『確認するのを忘れていらっしゃるようなので『聖光』の強化内容もお伝えしますね。強化内容は、回復の程度を調整可能になりました』
⋯⋯そういえば忘れてた!あれ、なんで聞いてなかったんだっけ俺。
『昨日、眠る前に『聖光』を強化して、「眠いから強化内容の説明は明日聞くわ」とマスターは仰っていました』
あー⋯⋯そういえばそうだったな⋯⋯俺のせいか、すまん。
で、強化内容だが、これ強化なのか⋯⋯?
『自由度があって困ることは無いでしょう。殺したくはないけど暴れられても困る相手等を死なない程度に回復させる時には便利ですよ』
分かりやすいけど例えが怖いなおい!
脳内でそんな会話をしてる間に、雨宮のパンチから立ち直り自分も海鮮丼に手を付け始める。うん、今日も美味い。
醤油をもう少しかけるかと思ったところで、雨宮が声をかけてきた。
「それで、支部長には許して貰えたの?アンタの様子を見る限り大丈夫そうだけど」
「ああ、和也さんに散々絞られたのを察したみたいで、軽い注意で済んだ」
「へぇ、それは良かったわね。呼ばれた用事の方は?」
気になっていたのか、やや身を乗り出して聞いてくる。
「あぁ、吸血鬼からウロボロスのアジトについての情報が出たって話は聞いてるか?」
「ああ、そんな事も言ってたわね」
「そこに攻め込むメンバーに選ばれた」
「え?今回は第五班は誰も呼ばれてなかった筈じゃなかった?」
「いや、理恵と海斗が出るから俺も出させてくれるって話だ」
「ああ、なるほどね。頑張りなさいよ?」
「言われずともそのつもりだ」
その後も色々話していると。
「くっ⋯⋯大葉さんに負けたっ⋯⋯!」
「うおっ、いつの間に!?」
気づけば割と近くで遠藤さんが海鮮丼片手に悔しそうな顔をしていた。
「私、ここで3年間料理番やってきたんですよ⋯⋯それなのに、ぽっと出の高校生に料理の腕で負けるなんて⋯⋯屈辱です⋯⋯!」
「いや、そこまで悔しがることでも⋯⋯調理速度は遠く及ばないし……」
「能力があるから当然ですよ!あなたには分からないでしょうねぇ!他の超能力も『水を弾く』程度で取り柄が料理しかなかった私の気持ちなんてぇ!!」
「……えっと、なんかごめんなさい」
勢いに圧倒され、思わず謝る俺。確かに折角超能力が使えるのにそれが「水を弾く」だけとか「調理が早くなる」とかだとくっそ萎えるだろうけど。
「くっ⋯⋯このままでは私のアイデンティティが奪われてしまいます、これはもう修行するしか⋯⋯」
お前もアイデンティティの話するのかよ。
その後もなんか一人でブツブツ言い始めたので、とりあえず放っておく事にした。下手に声かけたら噛みつかれそうだし⋯⋯
そう考えて海鮮丼の最後のひと口をかきこもうとした時だった。
ビーーーーッ!!という耳障りな音が部屋全体に鳴り響いた。
今のは……警告音か?あ、待って嫌な予感がしてきた。
「なぁ雨宮、今の何か分かるか?」
「いや、私もこの音は初めて聞いたけど……まあ、いい事ではないでしょうね」
デスヨネー。
何となく異変を感じ取った食堂の面々がざわつき始め、その直後、部屋のスピーカーから焦燥を感じさせる声が発された。
『すまん皆、緊急事態だ!以前捕らえていたウロボロスの構成員が一人逃走した!以前まで使用していなかった、未知の能力を使う!』
知らない男の声だな。捕らえてた奴らを監視してた人だったりするのかな?んで、脱走しちゃったから全体放送とかそんな感じだろうか。
てか未知の能力を使うって……もしかして、牢屋的な所で新しいスキルが解放されたとかかな?
『……そのようですね。逃走していると思しき人物が索敵範囲内に入りました。こちらをご覧下さい』
どれどれ……
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海斗に擬態していた少年
『擬態2』
生物に触れている時にその生物と同じ姿へと変化することが出来る。変化した後は触れていなくても問題無い。また、自分以外にも一体だけ生物を擬態させられる。
『消失』
触れた物体を一時的に消失させる。生物以外に対しては触れた部分から半径10メートルまで、生物の場合全体を消失させる。
効果時間は30秒。効果が切れると元の場所に再度出現する。
また、一度に消せる対象は5つまで。
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……今更お前が出てくるのかよ!しかも新しく名付きスキルなんて解放するとかなんなんだよ!!めんどくせぇなぁ!!
てか、名前も知らなかったなこいつ……
『知りたいと思いますか?』
いや思わないけどさ。しゃあない、逃がす気にもならないし、捕らえに行くか。
実は『擬態』少年のスキルについては伏線が『キャラ紹介 一章まで』に置いてあったりします。あ、おまけはありません。
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武装術2→3 up!