決着の論舞曲
QPうめぇ!!(でも周回辛い)
これで箱より効率悪いって本当ですか⋯⋯?
それはそれとしてようやく私もこのオンボロスマホから解放されそうです。愛着はあるけどそれはそれ。
ライマ、これの発動条件は視認か?
『はい、対象を視認していれば使えます。封印するスキルの名称も指定する必要があるのでご注意を』
OK。
俺は今まさに逃げようとしている、樹とかいう奴をしかと見据えて、『封印』を発動させる。
「そんじゃ親父、逃げるぞー⋯⋯あれ?」
「ん?どうかしたか?」
「力が⋯⋯発動しねぇ」
「何!?こんな時にふざけているのか!?」
どうやら無事に『閃雷』を封印出来たようだ。スキルが発動出来ずに混乱し始めた。
「こんな時にふざけねぇっての!なんでか知らねぇけど使えねぇんだって!」
「何を馬鹿な⋯⋯!」
⋯⋯おっと、美佳子から注意を逸らしたな?
俺は『閃雷』を発動、樹が担いでいた美佳子を『武装術』を駆使し、丁寧に、それでいて素早く奪い返す。
「なっ!?」
「いつの間に⋯⋯!?」
二人が俺に気づき、反射的に攻撃しようとする。が、翼を強く煽る事で二人の体勢を崩し、再び『閃雷』で遠くに離れた。
「い、今のは、俺の⋯⋯!?」
「まさか⋯⋯力を奪ったとでもいうのか!!」
俺が『閃雷』で移動したのを見て、騒いでいる。
今の光景を見てたらそう思われても仕方ないが、あらぬ誤解をしているようだから事実を教えてやろう。
「違うな。お前が力を使えなくなったのは俺が封印しただけだ。俺は元からそれを使えるし、お前より遥かに強い」
「ふ、封印⋯⋯?そんなことまで出来るのか!?」
「ああ⋯⋯残念だったな?」
まあ出来るようになったのたった今だけど。
さて、とりあえず樹には超強化された『閃雷』の威力でも味わって貰うか。流石に殺すのはあれだから⋯⋯ライマ、ギリギリで調整出来る?
『お任せを』
よし。じゃあ、強化された『閃雷』の威力、味わってもらうか。
俺は左腕で美佳子を抱き、右腕に意識を集中して樹へ向けて突き出す。
瞬時に、右腕に緑色の雷が迸り、一瞬で樹へと到達する。
「あがががががばばばばばっ!?」
樹は面白い悲鳴を上げ、黒焦げになって倒れ込んだ。ビクビク痙攣しているから死んではいないな。うん。
「さて⋯⋯」
俺は樹から視線を外し、東堂へと向ける。
「ひっ⋯⋯」
東堂はそれだけで小さく悲鳴を上げた。
そんなに怖いか?搦手も、精鋭の力押しも、自分の隠し球までもが、全部正面から打ち破られたんだもんな。そりゃ怖いだろうよ。
だからなんだって話だが。
「なぁ、お前さ、仮にもお前から仕掛けてきたんだろ?それでビビってんじゃねぇよ⋯⋯なぁ?」
そう言って、俺は『分体』を呼び出し、そいつに美佳子を預けると、東堂へと近づいていく。最初っから『分体』使えば良かったな⋯⋯全く。
「ひっ、や、やめろ、来るな!!」
東堂は、俺が増えるという光景を見たからか、俺が近づいたからなのか。いっそう恐怖した様子で俺から離れようとする。
⋯⋯こんな小物が、よくもまぁ俺の美佳子に手を出してくれたもんだ。
怒りが収まらない。
こいつを生かしておく価値が見い出せない。
「⋯⋯⋯⋯」
俺は無言で、スキルを更に発動させていく。
右腕を『竜腕』にし、『錬成』『錬金』を発動、右腕の鱗を凶悪な形に、金属質に変化させていく。
そしてそこに『閃雷』を最大出力で発動、かつてない程のエネルギーを右腕に纏う。
更にダメ押しで『極ノ旗』を発動する。
「あ⋯⋯あぁ⋯⋯⋯⋯」
東堂はもはやまともに言葉すら出せずに、呆然と俺の右腕を見つめている。
『いけませんマスター!!それは⋯⋯』
ライマの制止の声が聞こえるが、今の俺は聞く耳を持たなかった。
それはいつしか、ふざけて『轟雷放つ金剛の竜腕』などと名付けた技だった。本来ならあまりにも危険だと、使うつもりなどなかった。
だが、今は、その時以上の威力をもって、人間へと振るわれようとしていた。
「⋯⋯来世で悔い改めるんだな」
「⋯⋯⋯⋯」
もう、何も言うことすら無い東堂へ向けてその腕を振りかぶり⋯⋯
「隆二⋯⋯君⋯⋯?」
そんな声が、聞こえた。
「っ⋯⋯!?」
俺は思わずバッ、と後ろを振り返る。
しかし、『分体』の腕の中にいる美佳子は気絶したままだ。
「⋯⋯⋯⋯」
気の所為だったのかもしれない。だが⋯⋯それでも俺の理性は、戻ってきた。
⋯⋯一線を超える訳には、いかんよな。
「⋯⋯これで勘弁しといてやる」
「え⋯⋯?」
俺は『閃雷』の出力を大幅に弱めると、巨大な右手でデコピンした。
「うがっ!?」
とはいえそれなりの威力はあり、『吸血鬼12』を持ち頑丈な筈の東堂の意識を一撃で刈り取った。
「はぁ〜⋯⋯」
なんだか色々と疲れた俺は、腕を元に戻し、深いため息をついた。
この部屋に静寂が戻り、同時に先程まで気づかなかった騒音が下からすることに気づいた。
あー⋯⋯仁美よ、まだ終わんないのか?
『⋯⋯む、そちらは終わったのか?』
ああ、美佳子はしっかり取り返した。吸血鬼も全員無力化済みだ。
『⋯⋯⋯⋯そうか、それは良かった。ならば、もうコイツらは放置していいだろう』
ああ⋯⋯もう、充分だろうさ。これ以上コイツらを攻撃する必要は無い。
「しかし⋯⋯」
全員ぶちのめしといてなんだが、東堂達の目的は一体なんだったんだろうな?
高野家の時もそうだったが、人質をとってまで俺をどうしたかったんだ?普通に精鋭で襲って来たし、排除が目的か?もしくは、高野家への協力の停止が目的で、その手段はどうでも良かったのかもしれない。
「⋯⋯ま、今はどうでもいいか」
俺の目的は達成したんだ。その他のことは今はもうどうでもいい。
とりあえず東堂と樹に目隠しと拘束しといて、高野家に引き渡せばいいだろう。そっから情報くらいは引き出せるだろう。
⋯⋯っと、気絶しても『衰弱』は効果が継続すんのか。まだ俺の生命力を削ってやがる。なんで名持ちじゃねぇんだよこれ、強力すぎるだろ。
あ、そうだこれ、『封印』出来ない?
『可能ですが、『閃雷』の封印は解けてしまいます。現状では、『封印』は一つのスキルしか対象に出来ません』
む⋯⋯流石にそこまで強力では無かったか。だが、『閃雷』は目隠しさえしてれば多分陽菜で抑えられるだろう。『衰弱』の方が俺にとっても危険だ。
という訳で『封印』っと⋯⋯うん、手応えあり。これで安心だな。
さて、じゃあ目隠しと拘束具を作るか。仁美は周囲の警戒しといてくれ。
『了解した』
さて、『錬成』と『錬金』あれば布くらい作れるよな。そう思って俺が適当にそこら辺の物体にスキルを使おうとしたその瞬間。
「ごあっ⋯⋯!?」
「え?」
気絶していた筈の東堂が、急に目を覚まし、苦しみ始めた。
「ぐ⋯⋯が⋯⋯⋯⋯ぁ⋯⋯⋯⋯」
東堂は、胸を強く抑えるようにして、目を見開き荒く息をしている。
「お、おい!急にどうした!!」
「⋯⋯お、お⋯⋯⋯⋯りゅ、う⋯⋯」
俺が思わず呼びかけると、こちらに目線を移し、途切れ途切れながら喋り始めた。
「⋯⋯きを、つけろ⋯⋯⋯⋯あの、もの⋯⋯は、きさま、とて⋯⋯⋯⋯かなう、か⋯⋯」
「あの者?何の話だ!?」
まるで俺に忠告するように、東堂は話を続ける。
「わが、いちぞく、は⋯⋯⋯⋯ほろび、ぬ、ため⋯⋯⋯⋯あのもの、の、いいなり⋯⋯に、なって⋯⋯⋯⋯いた⋯⋯っ、グッ!ウググ⋯⋯⋯⋯」
「ちょ、おま、無理すんなおい!」
先程自分が殺したい程に怒りを向けていた相手だが、一度落ち着いたせいか、ここまで明らかに苦しんでいるのを見ると、思わず気遣ってしまった。
と、そこで思いつき、分体に指示を出す。
「そうだ、分体!『聖光』を!」
「っ、分かった⋯⋯何?」
すぐに了承し、分体は『聖光』を発動させようとしたが、何かあったのか、疑問の声をあげる。
「どうした!?」
「おかしい⋯⋯!『聖光』が⋯⋯発動しねぇ!」
「は⋯⋯!?」
一体なんだってんだよ!?
そうこうしてるうちに、東堂の動きが鈍くなって来ていた。もはや、力尽きる寸前のように見える。
「⋯⋯⋯⋯われら、は⋯⋯ずっ、と⋯⋯⋯⋯いいなり、だった⋯⋯⋯⋯ゴフッ⋯⋯⋯⋯さいご、くらい⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
もう東堂の目は焦点があっておらず、その命が残り僅かである事が察せられた。俺は、無言でその先の言葉に耳を澄ませる。
「いい、か、あの者、には⋯⋯⋯⋯今の、貴様でも⋯⋯⋯⋯手も足も出ない」
「なんだと⋯⋯?」
こいつも、俺の力は目の当たりにした筈だ。『自爆』を除いた俺の最高火力すら見せている。
だと言うのに、手も足も出ないと断言するのか⋯⋯?『あの者』という存在は、一体⋯⋯?
「⋯⋯⋯⋯じ、か、ん⋯⋯⋯⋯か⋯⋯⋯⋯」
「っ、おい!?待て、気をしっかり持て!!」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
⋯⋯それきり、東堂は黙って動かなくなった。
「⋯⋯⋯⋯ライマ」
『⋯⋯確かに、死亡しています。スキルの反応がありません』
俺の聞きたいことをライマは察したようで、そう答えを返した。
「くっそ⋯⋯胸糞悪いな⋯⋯」
目の前で突然苦しみ出して死んでいったが⋯⋯恐らくは、何者かの手によるものだろう。
多分、その何者かが、今回高野家が襲われる事となった原因に繋がっているように思える。
「⋯⋯⋯⋯」
そこまで関わる義理は無いだろうが⋯⋯もう、見て見ぬ振りは出来そうにないな⋯⋯
そう思い、ふと後ろを向くと俺の視界に美佳子の顔が入る。
「⋯⋯美佳子にも色々と言わないとなぁ⋯⋯」
今後のことを考え、俺は再びため息をついた。
おまけ
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東堂樹
東堂家次男。東堂家長男は淳。スキル的には淳より優秀だったが、次男だったので母親に甘やかされ、結果として調子に乗った。そのため武蔵からも奔放気味に育てられている。
「⋯⋯こいつはいつ思いついたキャラなんだ?」
〔四日前ですね!〕
「その前の予定は?」
〔敦は一人っ子でしたね!〕
「お前行き当たりばったりにも程が無いか?」
〔アドリブですよアドリブ。いつものです〕
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