逆鱗の狂想曲
ノって来ましたよォ⋯⋯やっと書きたい所まで漕ぎ着けましたよ、へへっ⋯⋯
ラスベガスで荒稼ぎしたいけどもそっちに行くとこのノリがどっか行きそうなので我慢します。周回は後でも出来るんですよ!
真正面から近づく俺に気づいた吸血鬼達は、一斉に訝しげにこちらを見た。
が、俺はその視線を無視し、建物の入口へと向かっていく。
「おいおい待てよガキ」
流石に見逃せないと判断したのか、周囲にいた吸血鬼の一人が俺の肩をがしりと掴んで引き止めてきた。
「お前ここがどこか分かってんのか?今は忙しいんだ、ガキは帰ってママのおっぱいでもしゃぶってな!」
⋯⋯予想はしてたが、苛つくな。
「⋯⋯黙ってろ下っ端が」
俺は『気功法』を割合10%で一秒間発動させ、腕を後ろに振り抜いた。
「はげっ⋯⋯!?」
身長が無駄に高かったがために、俺の腕はその吸血鬼の腹部に直撃し、大きく吹き飛ばす。
「なっ!?」
「テメェ!」
周囲の吸血鬼達が、その光景を見て臨戦態勢をとる。
⋯⋯こいつらを全員黙らせてもいいが⋯⋯
『⋯⋯マスター、目的を忘れてはいませんよね?』
当たり前だ。ただ殴り込みに来ただけになったらアウトだ。
「⋯⋯俺は『竜』だ。お前らが呼んだんだろ?邪魔するんじゃねぇ」
俺がそう言っても、吸血鬼達は殺気立ったままだった。うーん⋯⋯ぶちのめしたのは失敗だったか?いやでも勘違いされっぱなしってのもあれだったし。
『他の方法もあったでしょうに⋯⋯マスターが一番殺気立ってますよ。一度落ち着いてください』
むぅ⋯⋯そうは言われてもなぁ⋯⋯
俺がどうしたものか、もう全員畳んでから進んでしまおうか等と考え始めた辺りで⋯⋯
「君たち。道を開けなさい」
ビルの入口から、何者かの声がした。そちらを見ると、いつの間にか眼鏡をかけ、高そうなスーツを来た目つきの鋭い青年がいた。
「若!?」
「何故!?こいつは冴木を⋯⋯!」
あー、ファミリーの頭領の息子的な人かな?マフィアについてよく知ってるわけじゃないしなぁ。
ともかく、そいつの言うことに、下っ端吸血鬼達は文句を言っていたが⋯⋯
「彼は確かに父が呼んだ人間⋯⋯いや、竜か。それを拒むのは、父の意志に反することになると思わないか?」
「グッ⋯⋯」
「チクショウ!」
その言葉に、吸血鬼達は入口までの道を開けた。
あ、そういやさっきぶっ飛ばしちゃった吸血鬼は大丈夫かな?
『腹部を抑えて悶絶していますが、命に別状はありませんね』
それなら大丈夫か。なんか嫌な手応えしてたからちょっと不安だったんだよなー。
『はい。アバラが何本か逝きましたけど』
全然大丈夫じゃなかった!?あーうん⋯⋯強く生きろ。
今更気遣いする訳にもいかず、俺は若と呼ばれた男に声をかけることにした。
「アンタが案内してくれるのか?」
「その前に、自己紹介させてもらおう。僕はウチのファミリーのボス、東堂武蔵の息子、東堂淳だ」
眼鏡のブリッジをくいっと上げながら、そいつは自己紹介をした。うーんそこはなとなく感じる強者オーラ。ライマ、そういやスキルはどうなってる?
『はい。⋯⋯かなり意外なスキルを持ってますね。こちらになります』
――――――――――――
東堂淳
『吸血鬼7』
『自爆Lv2』
――――――――――――
「は?」
な・ん・で・だ・よ!!
『自爆Lv2』ぃ!?予想外過ぎんだろ!?よりにもよってここで!?しかもなんか丁度俺が持ってないスキルだし!いやね?可能性的にはありうるだろうさ?だってどんなスキルでも誰だって手に入れる可能性自体はあるらしいからね?
でも、ちょっとこれはなんか運命を感じずには居られないんだが!
『これは驚きですね』
その程度で済むもんなのこれ?
「⋯⋯どうかしたか?」
「あ、いや⋯⋯お前から変な気配を感じてな。多分気の所為だ、忘れてくれ」
「⋯⋯そうか」
しまった、思わず固まったせいで訝しがられた。とりあえずこいつのスキルは置いといて⋯⋯
「自己紹介されたなら一応返しておくか。俺は⋯⋯」
「大葉隆二。その正体は『竜』⋯⋯知ってるとも」
「⋯⋯」
いや、そりゃ知られてるだろうよ。わざわざ言わんでも。
「それでは、ついて来てもらおう。父が待っている」
そう言って淳は踵を返すと建物の中へと戻ろうとする。が、その前に聞かなきゃならんことがある。
「待て」
「⋯⋯なんだ?」
「美佳子に、手を出したりはしてないだろうな⋯⋯?」
「⋯⋯ああ。危害は一切加えていない。そこは安心してくれたまえ」
⋯⋯そうか。
「分かった。じゃあ、案内してもらおうか」
ライマ、サポートは頼むぞ。スキルも危険な奴は先に教えといてくれ。
『了解しました』
さて⋯⋯どうなる事かね⋯⋯出来ることなら、穏便に済むといいのだが。
――――――――――――――――――
建物の中には、多くの吸血鬼がいた。そいつらは、俺を見て、敵対的な視線を浴びせかけるが、淳と共に移動してるからか、攻撃はしてこない。
「⋯⋯上下関係はしっかりしてそうだな」
「ああ。反抗的な者は、すぐに父の手によって葬られるからな。それが誰であろうと、ね」
暗に「お前も逆らうんじゃねぇぞ?」って聞こえたぞ今。
「そうか、お前の父さんはそれなりに強いんだな」
「⋯⋯少なくとも、僕よりは遥かに」
俺の「それなり」発言が気に入らなかったようで、元から鋭い目付きを更に鋭くしてそう言う。
そこからは会話も無く建物の中を進む。するとすぐにエレベーターが見えてきた。
当然、そこに乗り込むと、即座に最上階のボタンを押した。おおう、八階か、それなりに高いな。
『⋯⋯八階に最も危険度の高いスキル保持者が集合しています。どうかお気を付けて』
ライマがそう言い、その危険なスキル一覧を見せてくる。
⋯⋯ああ成程、これは確かに⋯⋯危険だな。
俺が全てのスキルを確認し終わったと同時に、エレベーターが停止した。
――――――――――――――――――
八階は、映画やドラマで見る「マフィアの首領の部屋」みたいな感じで、色々豪華だった。
十人ほどの吸血鬼が左右に控え、その内の一人に美佳子が腕を後ろ手に掴まれている。
そして最奥には、淳と似て鋭い目付きをした威厳のある男が座っていた。
「お、大葉君⋯⋯」
意識はあるようで、美佳子はこちらを見て不安げに俺の名前を呼ぶ。
俺はその体を観察し、目立った傷がないことを確認すると、安堵し、溜め息をついた。
「ははは、そんなにガールフレンドが心配かい?」
威厳のある男⋯⋯恐らく、こいつこそが東堂武蔵なのだろう。そいつが、微笑を浮かべつつ俺にそう話しかけてきた。
「ああ。今すぐ返して欲しいくらいだね」
俺は敵意を込めた視線で東堂を睨む。が、東堂は意に介した様子は無い。それどころか⋯⋯
「ああ、いいだろう。おい、お前!その子を離してやりなさい」
人質の解放宣言まで行った。
「ボス!?⋯⋯いいのですか?」
「ああ。構わないとも」
そう言われて、吸血鬼が渋々といった様子でその手を話す。すると、美佳子はダッ、とこちらに駆け出して来る。
「大葉君!」
そう言って飛び込んでくる美佳子を、俺はしっかりと両手で抱き留める。
「⋯⋯良かった、怪我は無いみたいだな」
「大葉君⋯⋯私、怖かった⋯⋯!」
俺は、傷一つ無く美佳子が帰ってきたことに安心し、思わず笑みを浮かべる。
「人質は確かに返した。当然、話は聞いてもらえるな?」
と、そこで無粋にも東堂から声がかかった。が、まあそれは正論だろう。確かに美佳子は返してもらったんだから。
⋯⋯本来、なら。
「その前に、聞かせて欲しいことがあるんだ」
「ん?なんだい?」
俺は、抱き留めていた美佳子を軽く引き剥がすと、その頭に手を乗せる。
「なぁ⋯⋯これはどういうことなんだ?」
「⋯⋯?何を⋯⋯」
おや?俺が何を言ってるのか分からないのか?そんな筈はないと思うんだが。
俺は美佳子の頭に乗せた手。そこに緩く、力を込め始める。
「お、大葉君⋯⋯?」
「なんだ?すっとぼけるつもりか?」
まさかとは思うが。気づかないと思ってたのか?
この程度で俺が騙されるとでも?
俺を、謀るつもりだったのか?
「これがお前達の答えと?そういうことでいいんだな?」
「っ⋯⋯!」
返事がない?答えられないってか?なら直接的に言わせてもらおうじゃないか⋯⋯なぁ?
俺は美佳子⋯⋯いや、美佳子の姿をした何者かに顔を近づける。
「お前自身が一番分かってるだろ?おい、早くしてくれないか?」
「お、大葉君?な、何を言ってるの⋯⋯?」
まだしらばっくれるのか⋯⋯もう無駄だって言うのに。
⋯⋯そもそも、美佳子は俺の事を「大葉君」って呼ばない。彼女から言い出したんだ、「隆二君」って。
例えライマがいなかったとしてもおかしいと分かるだろう。
だからもう無駄だ。無駄だから⋯⋯
「さっさと美佳子の体から出てけって!!そう言ってるんだよこのボケがっ!!!」
「なっ⋯⋯!?」
俺は叫ぶと同時に『聖光』を美佳子に発動させる。
すると、美佳子の体から弾き出されるように女性の吸血鬼が現れた。
「うっ⋯⋯」
吸血鬼が抜けた美佳子は、軽い呻き声を上げ、倒れ込もうとする。
俺はそれをそっと腕で支える。
「⋯⋯⋯⋯」
意識は無いようだが⋯⋯これで、完全に美佳子が帰ってきた。
今のは何だったのか?簡単だ。この女吸血鬼のスキルによるものだ。
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女吸血鬼
『吸血鬼5』
『憑依』
生物に憑依し、その体を操ることが出来る。一日一回まで使用でき、憑依出来る時間は一時間まで。
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なんとも便利なスキルだよ。まあ、ライマがいるから演技されても分かるし、状態異常みたいな扱いらしいから『聖光』を使えば排除出来るから俺には意味が無いんだが。
まあ、そんなことはもうどうでもいいな。
「さて⋯⋯お前らは、俺を騙して話を聞かせようとしてたって訳だな?」
「⋯⋯まさか見破られるとは思ってなかったよ⋯⋯いやはや、計算違いだった」
俺は美佳子を優しく地面に降ろし、先ほどより強い敵意の視線で東堂を射貫くが、そいつはそれでも取り乱す様子はなく、飄々とそう言った。
「だが、まだ予想の範囲内だとも。お前達!!」
東堂が声を貼りあげると⋯⋯ガシャアン!!というけたたましい音を立て、周囲の窓を割り、人影が飛び込んでくる。周囲の建物にでも潜んでたみたいだな。
その数、ざっと、二十名。
「私の精鋭達だ。いくら君が竜だったとしても、彼等に勝てるかな?」
東堂は勝ち誇った顔でそう言う。
そうかそうか。反省もしないし、まだ勝てると思われてんのか。いや全くこいつはどこまで⋯⋯
俺 を バ カ に す る 気 だ ?
俺は『竜腕』を両腕に発動、『武装術』『気功法』更に『覇王』まで多重発動させると、
強く地面を蹴り飛ばし、右側の集団に突っ込んだ。
「はや⋯⋯」
そいつらが何かリアクションを起こすその前に。
「飛べ」
俺は全力で、両腕を荒々しく降り抜いた。
「え?」
「は?」
腕は一人たりとも当てていない。だが、俺の腕が起こした風圧、それだけで。
「う、うわああああ!?」
「お、落ちるうううぅぅぅぅ⋯⋯!」
先ほど自分達で割った窓から外へと吹き飛んで行った。
吸血鬼なら死にゃしねぇだろ。いや、死んだとしても、もう気にしないかもしれない。
「で?」
俺は残った吸血鬼共の方を向き、『竜腕』を解除、『竜人化』を発動させる。
『覇王』との相乗効果により、俺の体は白銀の鱗に覆われ、背中には翼が現れる。
「精鋭が、何だって?」
そう言って、俺は、俺が殲滅すべき吸血鬼共を、睨みつけた。
おまけ
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ビルの外にて
「⋯⋯は?なんだと?」
「え、仁美さんどうしました?」
「成程な。それが奴らの選択か⋯⋯」
「あの、仁美さん?」
「ああ、陽菜。少し待っていろ、今からここの吸血鬼共を片っ端から蹂躙するからな」
「よく分かりませんけど落ち着いてください!?」
ライマの報告で仁美もブチ切れていた。
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スキル
変化無し
スキル解放条件
「自分の持つスキルと同じスキルを持つ人間を五人確認する(現在カウント4)」