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あんたこの異世界のイカ男どう思う?  作者: 土堂連
第三部:魔人無用!
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五十六話:再会再会また再会



「フィリシアちゃんだー!」


 インナに熱烈な歓迎を受けて、フィリシアは焦る。彼女は先にサブローと合流していたらしく、一緒に迎えてくれたのだ。伝令の人はガーデンの制服を目印にサブローを見つけたらしく、イルンと合流して後を任せていた。


「地の精霊術一族の族長の息子、イルンです。君がフィリシアたちを助けてくれた恩人か」

「恩人だなんて大袈裟ですよ。僕は海神三郎と申します。名前の方のサブローとお呼びください」


 二人はがっちりと握手を交わし、にこやかに自己紹介を終える。ミコのことを軽く紹介し終えたインナに対し、今までのいきさつは族長の家で行うことを伝えた。

 フィリシアは従兄と一緒になって地の族長家に案内する。地の里の大通りを歩くと、何度も訪れた懐かしい光景が広がった。

 地の里は精霊術一族に伝わる伝統の木造の建物と、魔法大国でメジャーであるレンガの家が半々の割合で並んでいる。温泉が存在することもあり、観光客だけでなく訪れる商人や職人が多く、魔法大国クトニアの文化や技術が入ってきたためである。定住している一族以外の住民も年々増えている、と去年聞かされていた。

 住宅街を通り過ぎ、温泉旅館が並ぶ通りを超え、里の奥にあるひときわ大きな建物へと到着した。地の一族に伝わる伝統的な建築方法をもちいた族長屋敷である。相変わらずフィリシアたちの家とは比べ物にならないほど大きくて豪華な家であった。

 イルンが使用人にフィリシアたちの案内を命じる。家族を呼んでくるから客間で待つように言われ、イルンとは一時的に別れることになった。使用人に客間に案内されてそれぞれ席に着く。


「さすが里の責任者。大きな屋敷に住んでいる」

「……フィリシアさんたちのところも似たような感じでしょうか。するとけっこうなお嬢様ですね」

「な、なにを言うんですかサブローさん! 地の一族が恵まれているだけで、風の一族は普通でしたよ。私の家には使用人さんもいませんでしたし」

「けどフィリシアちゃんけっこう教養あるのよね。育ちの良さを感じるというか」


 インナの言葉にサブローも同意の頷きを返していた。フィリシアは気恥ずかしくなる。必死になってそんなことはないと連呼していると、インナが興味深そうに服を見ていた。


「それにしても三人とも、おそろいの服を着ているわね」

「ああ、ガーデンの制服です。逢魔を追っている組織で、僕らはそこに所属しました」


 詳しいことは後で、とサブローが続けてインナは納得した。それからたいして待つこともなく、使用人から準備が整ったことを教えられた。




 案内された大部屋に入ると、すでに部屋で待っていた叔母であるルシアが涙ぐんだ。フィリシアが笑いかけると、彼女は一目散に抱き着いてきた。


「フィリシア……ああ、よかった。あなたが無事で……」

「叔母さま、マリーも無事です。今は安全なところで待ってもらっています」


 詳しいことは後で、とフィリシアが告げるとルシアは涙をぬぐって笑顔でうなずいた。叔父であるメダルドも穏やかな顔でフィリシアの無事を喜んでいた。

 叔母は一安心したのか、身体を離して席に着いた。家族で過ごす精霊術一族伝統の部屋とは違い、他国の客人も招く部屋のためか座席が用意されていた。

 上座に叔父のメダルド、次に叔母のルシア、その息子のイルンという席順で待っている。イルンの妻や叔父の側室たちは別の用事で空けているらしい。

 フィリシアたちが着席すると、メダルドが挨拶を始める。


「姪から話を聞いているかもしれませんが、私が地の一族族長、メダルドと申します。こちらは妻のルシア。姪を助けていただいただけではなく、ゴブリンの襲撃にも手を貸していただき、感謝いたしております」

「いえ、当然のことをしたまでです。僕は海神三郎、こちらは同僚の明光寺光子と申します」


 互いに紹介を終えてから、長官に渡された品物をサブローは取り出した。


「上司からこちらを渡すよう仰せつかっています。お近づきの印だそうです」

「これはご丁寧にありがとうございます。……ずいぶんと高価な生地ですね。しかも三種類も……本当によろしいのですか?」

「はい。上司はぜひフィリシアさんの親族であるあなた方にもらってほしいと仰っていました。それとこちらはマリーたちを預かっている園長先生からのお菓子です。お口に合えばよろしいのですが」

「いえ、先ほどから立派な贈り物ばかりいただき、感謝しております。贈っていただいた方々にもそうお伝えください。フィリシア、良い人たちに囲まれたのね。私はとてもうれしいわ」


 叔母の感謝の言葉にフィリシアは頷いた。上井長官も、園長もフィリシアにとっては大恩人である。二人が信頼されて、心が浮き立った。反物の出来に感心していた叔父はひとまず叔母に預けてから、姿勢を正す。


「それでは今までどこでなにをしていたのか、話をしてもらえますか?」


 フィリシアはサブローたちと一緒になって頷き、話を進める。最初にインナがどこまで話したのか確認をする。

 彼女はサブローが魔人という情報は伏せたうえで、フィリシアたちから聞いた風の里の襲撃からサブローの護衛、合流してから転移の祭壇近くで別れるところまで教えていた。

 叔父たちは聞かれた当初、風の里の惨状を知らされていたため半信半疑だったようだ。フィリシアたちもサブローに出会うという幸運がなければ、最悪の事態に陥っていたので仕方がない話ではあった。


「そしてオコー様の話では、そのあと地の里に向かったと聞いたんだ、フィリシア」

「はい。その予定でしたが、予想外の事態が起きました。……偶然サブローさんが転移の行き先に干渉してしまって、彼の国にたどり着いてしまったんです」


 サブローの故郷は違う世界だと教えられていたインナが目を瞠るが、サブローが耳打ちすると頷いた。おそらく後でより詳しく説明することを伝えたのだろう。彼はそのあと、困ったような顔を見せて説明を継いだ。


「どうにも僕は『魔道具使い』とか言われる体質のようで、よけい心配をかける結果になってしまいました。申し訳ありません」

「いえ、お気になさらないでください。フィリシアを守りぬいてもらっただけで充分です」


 叔父が深々と頭を下げた。いつものように謙遜を始めようとするサブローを置いておき、フィリシアは続ける。


「そのあとは先ほどサブローさんがおっしゃったように、施設でマリーを始め、生き残った一族の子の面倒を見てもらっています。責任者の園長先生はとてもいい人で、良くしてくれました」

「そう、生き残った子はみんな元気なのね……。よかった」


 安堵する叔母にすぐに写真を見せてやりたい気持ちを、フィリシアはどうにか抑える。伝えるべきことはまだ残っていた。


「それで、ついてすぐサブローさんの能力でトラブルが起きまして、ガーデンという組織に向かうことになったんです。天使の輪にはその際に選ばれて、師匠さんの指示を仰ぎながら使っています」

「能力?」


 イルンに聞き返され、フィリシアはどうするかサブローたちと顔を合わせた。


「話しても問題ないと思うわ。私がフォローするし」


 インナに強く後押しされて、サブローが制御装置の腕輪を外した。怪訝な顔をする叔父たちに、魔人の彼はまっすぐな瞳を向ける。


「驚くとは思いますが、こちらに危害を加えるつもりはありません。……僕は魔人です」


 言い終えると同時にサブローは身体を変化させる。叔父一家が腰を浮かせたが、急いでフィリシアが落ち着かせに入った。


「叔父さま、サブローさんは大丈夫です。私が召喚してからずっと守ってくれましたし、望んで魔人になった人ではありません」

「そのことは私も責任を持ちます。彼は私たちが退治した邪悪な魔人たちとは違う、善良な魔人です。我が主神マナーに誓います」

「オコー様がそうおっしゃられるほどですか……。申し訳ありません、カイジン殿。私どもは魔人を見るのは初めてでして、取り乱してしまいました」

「気にしないでください。それが普通の反応です」


 人の姿に戻ったサブローは寂しそうに微笑んでいた。数か月ぶりに見たその表情に、フィリシアの胸がチクリと痛む。

 なるべくならそんな顔をさせたくなかった。説明のためとはいえ、彼が傷ついてしまう状況にせざるを得ない自分の非力さが、フィリシアは嫌だった。


「まあサブはだいたいの魔人と敵対していますし、ガーデンに所属してからすでに一体倒しました。こちらでも魔人を倒したと聞いていますが……」

「その通りです。カイジンさんは勇者ラムカナとともに、魔人に立ち向かっています。その時に一体の相手を引き受け、倒しました」

「となると、サブローは魔王と敵対しているのか。勇者の力になってくれるなら頼もしいな」


 イルンの言葉に、フィリシアたちは首をかしげた。魔王は五百年前に滅んだはずである。どうしてここで出てくるのか見当もつかなかった。


「カイジンさん、オーマの首領はめでたく魔王と認められたわよ」

「え、あのしょぼいのが?」


 インナの説明に、サブローが信じられないという顔をする。フィリシアも逢魔の資料を見せられており、中には首領の姿もあった。

 その姿は確かに魔王というには力不足の物を感じる。というか最弱のアンデッドと言われているスケルトンそのものだ。サブローの話からすると魔法が使えるのでリッチということになる。それでも迫力不足は否めない。


「創星の剣による神託がくだったの。王国を支配するのは復活した魔王だって、今じゃあちこち大騒ぎよ」

「正直に言って過大評価だと思いますが……」


 仕方ない、とサブローは渋々と事実を受け入れた。見た目が弱そうでも実は強い、ということもないらしい。彼はいまだ信じられないと頭を悩ませていた。


「今回のゴブリンの大部隊も、魔王の仕業じゃないかって噂が立っているんだ。魔人であるサブローとしてはどう考えている?」

「可能性はあります。僕を操っていた心操の魔法は魔物にも有効なようですし」

「ずいぶんと古臭い魔法を使うな。後で部下に呪印が死体にないか調べさせておくよ」


 イルンは特に魔人に思うところがないようで、自然な対応をしていた。古い付き合いのフィリシアから見ても、他意を含んでいる様子は見受けられない。対して叔父は少し緊張した面持ちで、サブローに向き直した。


「カイジン殿は魔王に対してどうするおつもりですか?」

「倒します。僕は逢魔を滅ぼすために、ここへ戻ってきましたから」


 確固たる意志をサブローは見せる。彼の大切な人たちを苦しめたことに対する怒りと、逢魔による被害を抑えたいという使命を、覚悟を決めた瞳に孕ませていた。


「あたしたちの国で逢魔は十年も暴れていました。そのためガーデンはあなた方が魔王と呼ぶ存在と敵対しています。数少ない味方である魔人のサブと、天使の輪を使えるあたしたちが送られたのも、連中を倒すためです」

「そうでしたか。しかし、姪であるフィリシアは正直そこまでお役に立てるとは思えませんが……」

「いや、父さ……失礼。族長、フィリシアがその天使の輪とかいう武器を使ったところを見たけど、すごかったよ。あのゴブリンの大部隊を一人で倒しきったからね」

「あれを、フィリシア一人で!?」

「私も目撃しました。……たった数ヶ月で大魔術に匹敵する精霊術を使いこなしていましたよ。正直見違えました。」


 大げさに褒められて、フィリシアは照れてしまう。叔父夫妻は疑わしそうにフィリシアを凝視していたが、咳払いを一つして気を持ち直す。


「そうですか。事情はおおむね理解しました。我々はあなたたちを歓迎したいと思います」

「ありがとうございます。とても助かります」

「ですが……カイジン殿が魔人である事実は、しばらく伏せてもらえませんか? こちらで秘密にしておくか、伝えるべきか、まだ判断がつきません」

「もちろんです。こちらからみだりに明かすつもりはありませんので、お任せします」


 叔父のメダルドは大きく笑い、サブローと握手を交わした。フィリシアは話し合いが穏やかについて安心する。


「それにしてもあのフィリシアが魔人を呼びだすとは……いや、風の族長の指示か?」

「はい。里に伝わる禁忌の魔法陣を使うように言われました。……それがオーマの、いえ魔王の目的だなんて思いもしませんでしたが」

「禁忌の魔法陣が目的であったことはオコー様に教えてもらった。……災難だったな」

「ですが、サブローさんのおかげで最悪は免れました。彼にはどれだけ感謝してもし足りません」

「そうか。カイジン殿、あらためて姪を救ったことに、礼を尽くさせてください」

「い、いえ。フィリシアさんたちの頑張りので結果ですよ。僕は多少の手助けを……」

「いつもこうです」


 サブローの言葉をさえぎってフィリシアがむくれると、彼は毎度のごとく焦りだした。いい加減学習して素直に褒め言葉を受け入れるべきだ。

 その様子に叔父夫妻は最初驚いていたが、やがて優しい顔つきになって仲裁に入る。


「まあまあ、フィリシアもカイジン殿を困らせるのはそこまでにしなさい」

「は~い……」

「フィリシアがここまで信頼するなんて……カイジンさん、姪にとてもよくしてくれたようで、重ね重ね感謝せてください」


 サブローが先ほどフィリシアに拗ねられたため、どう対応するべきか困っていると、なにかを思い出したような顔をした。荷物の中から慌てて紙袋を取り出す。


「そういえばあちらでのマリーたちの様子を写真に撮ってきたんですよ。みんなの元気な姿を見てください」

「写真……?」


 疑問符を浮かべる叔父一家に、フィリシアは魔法大国の写し絵のようなものだと説明する。魔法による情景をそのまま写した絵はある程度の大きさが必要であるため、彼らはサブローの取り出した写真の小ささに最初は疑いをもっていた。しかし袋を開けて中身を確認すると、感嘆の息を吐き出した。


「すごいな、これ。魔法大国並に魔法が発展した国なのか? 魔人が居るだけはあるな」

「まあ、マリーがとても楽しそうに笑っている。あ、この子は鍛冶師の親戚の子だわ。こんなにも風の一族が生き残っていたのね」


 叔母が感極まって写真を抱いた。フィリシアはより喜ばせたくて、スマホを取り出す。


「マリーからの伝言を預かっています。待っていてください!」


 張り切って動画を漁るが、だんだん勢いを失っていった。フィリシアは困り果てて、隣のサブローに頼る。


「サブローさん、動画ってどこにあるんですか?」

「フィリシア……女子としてそれはどうなの」

「師匠さんに言われたくありません」


 ミコはいまいち機械の類に弱かった。スマホをうまく扱えず、フィリシアと一緒にマリーの世話になったことも一度や二度ではない。このメンバーの中ではサブローが一番機械の扱いに長けることになる。施設だと同年代の娘たちがスマホを軽快に扱っていたため、情けなく思う時はあった。

 サブローはフィリシアが苦戦した動画の居場所にありつき、再生して叔母に渡した。


『えーと、おばさま、おじさま。マリーだけど、元気にしているよー』


 フィリシアのスマホから動画が流れた。インナも興味津々なため、サブローが同じ動画を自身のスマホで見せていた。いつの間に動画をコピーしていたのだろうか。不思議で仕方ない。


「遠見の水晶……いや、過去の出来事を映しているみたいだから、時見の鏡みたいな魔道具か?」

「エリックさんが居てくれれば説明できたかもしれませんが、まあそういった魔道具に似たものだとお考えください」


 イルンがサブローの説明に感心し、再び覗きこんだ。叔母はもう涙が止まらなくなったようである。明るいマリーの様子に何度もうなずいていた。

 ただ、マリーが動画で姉の撮影やスマホの扱いが下手だの、小言がうるさいだの、余計なことを言っているのがフィリシアは気になった。撮影当時はスマホをうまく扱えず落ち込んで気づかなかった。帰ったらとっちめてやらないといけない。

 アレスの親戚にも写真と動画を見せたい旨を伝えると、叔父も同意して後日向かうことになる。

 写真やマリーの動画を一同で楽しんでいると、やがて入室を求めるノックがして、叔父が使用人に入る許可を出した。結構時間がたったことを伝えられ、族長としての仕事があるらしく、いくつか指示を出してからこちらに向き直す。


「カイジン殿、ミョウコウジ殿、これから一族の宴の用意をいたします。その前にみなさんで温泉でもいかがですか? 私どもが所有する露天風呂へと、イルンに案内させますよ」


 叔父の提案にサブローとミコが目を輝かせた。温泉を楽しみしていた二人なので、魅力的な話だろう。フィリシアは従兄と一緒に案内を買って出る。

 インナも付き合うことになり、地の里で温泉を満喫することとなった。



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