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あんたこの異世界のイカ男どう思う?  作者: 土堂連
第二部:一筆啓上故郷が見えた!
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三十八話:頼れる?二人の仲間


◆◆◆



「とま……れ!」


 フィリシアは背中に張り付く巨大な翼に振り回されていた。

 材質は施設の前で見たイチジローの魔人姿の外装に似ている。

 展開した瞬間暴風を巻き起こし、ガーデンの外に出てしまった。

 今は月が一つしかない夜空を無軌道に飛び回っている。

 いつかサブローにつかまって跳び回っていた時を思い出した。

 景色が移り変わり、視界が赤と黒に点滅する。羽は風の精霊まで従え、もはやフィリシアの制御を離れてしまった。


「ま……だ……」


 ガーデンから離れるわけにいかず、その軌道を修正しようと踏ん張る。

 サブローを助けなければこの力を受け入れた意味がない。

 またも風が吹き荒れる。近づくものを拒むかのような風を散らそうと精霊に頼むが、全く効果がない。

 歯を食いしばり、より魔力を送り込もうと考えたときだ。


 炎が風を食い尽くした。


 衝撃にチカチカ瞬いていた視界の中に、巨大な手のひらが映る。

 身体をつかみ上げ、もう片方の巨大な手は羽の方を押さえていた。


「力を送り込んでも天使の輪は止まらない。落ち着いて、力をみぞうちに送るようにイメージして」


 茶色の瞳が安心させるように見ていた。

 フィリシアは深呼吸を一つし、ゆっくりと魔力を指示された通りに移動させる。

 羽は途中小刻みに震えて、光とともに腕輪に戻る。ようやく力の暴走から逃れられて一息ついた。


「よしよし、上手いわね」


 巨大な鋼鉄の籠手から左腕を抜き、見知らぬ女性は頭を撫で始めた。

 どこかサブローを思い出させる撫で方だった。


「さて、園長先生のところに戻るか」


 宙に浮いていた籠手に左手を戻しながらつぶやいたので、フィリシアは思わず反応する。


「園長先生をご存じですか?」

「うん、あたしは明光寺光子。ミツコって書いてミコと読む。これからよろしくね。新しい妹は外国の子かー。かわいいなー」


 その苗字には覚えがあった。今日ようやく出会い、サブローが常々大切だと言っていた兄と同じ姓だ。そして炎のギフトである。


「私はフィリシアと申します。あ、あの、もしかしてサブローさんが言っていた幼馴染はあなたでは……」

「サブを知っている? ……よく見たらギフトと微妙に違う。ん?」

「精霊術と私たちの世界では言います」


 これで通じるだろうかと不安に思ったが、ミコと名乗った女性はみるみる理解の色を顔に見せた。


「あんた、もしかしてサブと一緒にこの世界に来たっていう――」

「はい。長官さんは異世界の少女と私を呼んでいました」

「……ギフトだけじゃなくて魔法でもよかったんだ、天使の輪。そういう剣と魔法の世界っぽいのは観測されたデータから知っていたけど、実物を見るなんて……あーうっさい! あ、ごめん。あなたに言ったわけじゃなくて、これ」


 ミコは胸ポケットからなにかを取り出して、フィリシアの耳に装着した。


『あーあー、きーこえるッスかー魔法使いちゃん』

「え? どこから声が……」

「インカムっていう通信用の機械。そのバカがあんたに用があるんだってさ」


 離れた場所と会話ができる道具だと理解して、フィリシアは一度頷く。

 遠くの人間に声を伝える魔法はあったし、風の精霊術でも存在していた。

 その効果を宿した魔道具のようなものなのだろう。


「魔法ではありません。精霊術です」

『細かいッスねー。君に頼みたいことがあるんスよー』

「申し訳ありません。私にはやることがあります」

『えー。うちの元隊長……海神三郎を助ける手伝いをお願いしたいんスけど、ダメッスか?』


 フィリシアは目を見開く。ミコの胸元に縋りついて声を荒げた。


「サブローさんを助けに向かうのですか! 行きます、私も連れて行ってください!!」

『あれ、めっちゃ必死なんスけどこの子……』

「サブ、なにをしたの。妹がライバルか……やだなー」


 ぼやくミコを見上たまま頷くのを待つ。

 いや、フィリシアは了承を得なくても勝手についていく心構えだ


「とりあえず園長先生に挨拶してから向かう。それでいい?」

「はい。よろしくお願いします、ミコさん」

「んーんー、なんだか微妙。小娘、そいつの使い方を教えるからあたしは師匠って呼んで」


 ミコがフィリシアの天使の輪を顎で指さして言い出した。フィリシアは不満に眉根を寄せる。


「名乗ったはずですが……」

「天使の輪を使いこなせるようになったら呼んであげる。それまで小娘で充分よ」


 カチンときた胸元の少女が睨んでも、ミコは涼しい顔で流すだけだった。

 心配する園長が見える距離まで近づいて、フィリシアは観念する。


「わかりました、師匠さん。……これでよろしいですか?」

「よしよし、素直なのはいいことよ、小娘」


 不満のある呼び方をされながら、フィリシアは降り立った廊下で園長に抱き着かれた。


「フィリシアさん、怪我がなくてよかった……。ミコ、ありがとうございます」

「園長先生の頼みだしね。けどさっそくこの子を借りるよ」


 ミコがフィリシアの腕をとると、園長は顔を険しくさせる。


「サブローのところですね。長官とイチジローを待ちなさい」

「ごめん、待てない。保安部の連中が長官と兄貴が動いているのを知って魔人に強い薬を使うとか言ってた。帰ってきたらサブが廃人とか勘弁して」

「園長先生すみません。私はミコさ……師匠さんと同意見です。迷惑をかけることになって本当に申し訳ありません」


 一度深々と頭を下げて、フィリシアは園長に背を向ける。

 それでも彼女は逃がさないようにミコと一緒につかまえてきた。


「園長先生、だから……」

「いいえ、ミコ。止めるのではありません。後は私が責任を取ります。存分にサブローを助けてきなさい。それとフィリシアさんを頼みます。彼女はまだ子どもで、あなたの妹ですからね」

「……かなわないな。うん、この子もサブも任せて。あと兄貴がこれ知ったら暴れると思うから、やめさせてね。……シャレにならないくらい被害が出る」


 ミコは冗談めかしてからその場を離れた。

 フィリシアも隣に並び、歩調を合わせる。


『おっし話ついたところで自己紹介ッスよー。自分はガーデン情報部所属の毛利賢吾ッス。ちなみに元逢魔ッスよー』

「元オーマ……私は――」

『おっと名前はさっき聞いたから大丈夫ッス。自分は海神隊長の部隊の生き残りッス。隊長がいなければ死んでいたッス。そういうわけで今無性に腹立ってガーデンともケンカするつもりッス。しくよろ!』

「真面目に聞いていると耳が腐るからほどほどにしときなよ」

『ミコっちがいじめるッスよーフィリたん』

「フィ、フィリたん……?」


 フィリシアは斬新な呼び方をされて戸惑う。


「おい、いい加減しろよケンゴ」

『いやんいやん、気安くケンちゃんってよ・ん・で……おぉっとこちら側に拳を向けないでミコっち』

「いいからサブのところまで案内」

『へいへー』


 ケンゴという男はどこからこちらの状況を把握しているのか気になった。

 とはいえ聞き出すタイミングもなく、肩をいからせて進むミコに続く。


「あの、サブローさんの部隊というのは?」

『あー最初の一年は部隊持ちだったんッスよ隊長。魔人だからッスねー。……まあやっかいなのに絡まれて解散せざるを得なかったけど、それからもちょくちょく仲良くしてもらっていたんスよ。人間の工作員がいじめられていると自分がサンドバックになりに行った人ッスからねー。お世話になったッス』

「いつ聞いても胸糞悪い」

『ま、本当にそうッスよ。でもまーおかげで隊長が捕らわれているってんで、自分をはじめとした元逢魔の工作員はだいたい協力してくれているッスよ。保安部にいるやつが今ちょくちょく情報を送ってくれるッス。薬使うのを知れたのもこいつのおかげッスね』


 フィリシアはようやく希望が見えた気がした。サブローの善性さが本人を助ける形になったのが本当にうれしかった。自然と笑顔になる。


『いやー、本当いい感じに笑うッスね、フィリたん』

「まったく、監視カメラから覗き見は趣味が悪いと言っているのに。小娘も笑うのはまだ早い」

「わ、わかっています。案内をお願いします、モーリさん」

『かたいッスねー。もっと気安くケンちゃんって呼んでくれッスー』


 フィリシアの笑顔が今度は引きつる。ミコがため息をついているのが見え、こんな調子に付き合わないといけないのかと不安になった。



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