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あんたこの異世界のイカ男どう思う?  作者: 土堂連
第二部:一筆啓上故郷が見えた!
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三十七話:突然私は異世界でチート武器を手に入れました


◆◆◆



 天輪兵器、通称天使の輪。

 見た目だけならただの腕輪にしか見えない。

 しかし適合者が望めばその形態を持ち主に合わせて変え、魔人をも圧倒する力となる。


 その開発歴史は比較的古く、『魔人を殺す魔人』を作り出す前から行われていた。

 魔人を調べ明らかになった技術も投与されるようになり、当初の想定とは違うがようやく形になりだしたのだ。

 誰でも扱える、デメリットの少ない魔人に対抗する兵器を目指していた。

 今でもギフトを持つものかつ、使用者を選ぶ道具であることに不満がある。

 ゆくゆくは量産体制に入り、誰でも使える武器になることが目標だった。

 ただ、逢魔がほぼ壊滅状態であるため、研究もいつまで続くかわからなかったが。

 部屋の中央に座する天使の輪『エンジェルType4』を見つめながらため息をつく。

 五つ目に完成し、いまだ適合者を見つけられていない兵器だった。

 お蔵入りするのはもったいない。

 そんなことを考えながらガーデンの開発部の一室で仕事を続けていると、同僚が話しかけてきた。


「保安部が魔人を捕まえてきたらしいぞ」

「残党か。逢魔がどこぞに逃げたという噂もあったな」

「そこを吐かせようとしているんじゃないか? 逢魔対策本部に対抗心を燃やして必死だろうな」


 部署間の内輪もめなど勝手にすればいいと内心吐き捨てる。

 目の前の兵器をどうにか稼働させられないか。自分の興味はそこに尽きた。


 その願いが通じたのかはわからない。

 突如天使の輪『エンジェルType4』が赤く光り、防弾ケースを内側から割って浮く。

 唐突な反応に同僚は悲鳴をあげて逃げ出した。


「適合者が現れたのか!?」


 彼は喜びに思わず叫ぶ。この反応からするとよほど適合率の高い相手らしい。

 壁を破壊して飛び去る姿を見届け、期待に胸を膨らませる。

 自らの愛情を注いだ兵器がようやく主を見つけたことに。



◆◆◆



 フィリシアはガーデンの一室に通され、園長とともに長官達が戻ってくるのを待っていた。

 施設の応接間以上に豪華なソファーに座りながらも、一向に落ち着かずにそわそわしてしまう。

 同じ建物のどこかにサブローが捕らわれているかもしれない。

 すぐに飛び出して助けに行きたい想いが溢れそうだった。

 そんなフィリシアの目の前に温かい飲み物が置かれた。


「フィリシアさん、飲むと落ち着きますよ」

「……園長先生、ありがとうございます」


 素直に受け取り両手でカップを包むが、口につける気にはならなかった。

 園長の優しい力で落ち着きを取り戻したはずなのに、また不安になっている。


「サブローは絶対助かります。あの子をあれ以上不幸になどさせません」

「はい、園長先生や長官さんは信頼できます。ですが、サブローさんは無茶をする人なんです。……一度、死にかけました。しかも私たち一族の花畑を守るために、全身にやけどを負ってまで。もう誰も手入れすることなんてできないのに、荒れ果てていくだけなのに、マリーがお気に入りだって知ったからって……」


 後半の言葉は涙とともにあふれ出た。園長が優しく背中を撫でてくる。


「本当、無茶をする子です。今度叱らないといけませんね」

「サブローさんは嘘つきです。最初は死にたくなかったと言っていたのに、全然恐れていないじゃないですか……」


 初めて会った日を思い出す。魔人であることを恐れるフィリシアにも、彼はいつもと変わらない笑顔で恩人だと告げた。

 本当に感謝していたのは心を救った方だと後で理解した。

 けれども自分が意図していない、一族の利己的な術式の副産物による偶然の出来事だ。

 そのために命を張り、死に近づいていくのがフィリシアはとても苦しい。

 せめて力が欲しい。魔人である彼と並べるだけの力が。

 そう願ったとき、ドアが乱暴に開かれた。


「ここは危ない、避難をするんだ!」

「どうしました?」

「天使の輪が暴走をして――!」


 問い返していた園長の顔色が変わる。フィリシアは天使の輪という謎の単語に頭を混乱させた。

 尋ねようとした瞬間、壁が粉砕される。


「フィリシアさん!」


 園長が抱いて庇ったため、フィリシアは急いで風の壁を園長と連絡に来た職員の前に作って守る。

 あまり大きな瓦礫は飛ばなかったため、簡単に防げた。

 それにしても風の精霊たちがやけに落ち着かない。

 恐怖しているのでも、喜んでいるのでもない。彼ら自身も判断がつかないのか戸惑いが伝わってくる。


「……守るつもりが、逆に助けられたようですね。フィリシアさん、ありがとうございます」

「いえ。それにしてもこれは……」


 フィリシアは崩れた壁の先にある原因を見つめた。宙に浮いているのは小さい輪っかであった。

 ちょうどフィリシアの手首に収まるほど小さい、しかしなにか不思議な力を宿しているように感じる。

 精霊たちが戸惑っている原因は明らかに謎の輪っかであった。


「ハハ、適合者は君か!」


 白衣の男が現れて唐突に叫ぶ。


「てきごうしゃ?」

「おめでとう、四人目の適合者。これで君は魔人と渡り合える力を得た」


 魔人と渡り合えるという言葉に、胸が高鳴った。ゆっくりと視線を向け直す。


「勝手なことを言わないでください。ミコでさえあれを使いこなすのに苦労したのですよ。それにフィリシアさんはまだ子どもです。そんな危険なもの、触れさせるものですか」


 フィリシアの身を案じる園長の身体をそっと離す。

 脇を通り過ぎようとしたとき、肩をつかまれた。


「フィリシアさん、まさか――」

「園長先生、危険なんですよね? 少し離れていてください」

「早まってはいけません。あなたはあの力を背負うには早すぎます!」


 肩に置かれた手に自分の手のひらを重ねて、フィリシアはぎこちなく笑う。


「でも欲しいんです。いつも無茶をするサブローさんを助けられる力があるというのなら。お父さんやお母さんのように居なくなるなんて、嫌なんです」


 いつかのマリーと同じことを口にする。魔人と戦う彼をただただ見ているだけなのはとても怖かった。

 これからサブローは逢魔と戦う。彼の立場からしても、性格からしてもほぼ確実に。

 魔法陣を起動できる自分はついていけるだろうが、戦いには足手まといになると思うと気が重かった。

 あれを手にすればそんな苦しい想いもしなくて済む。助けてくれたサブローに恩を返せるのかもしれない。


「園長先生、すみません」


 彼女の手を振り切り、宙に浮く存在へと手を伸ばす。光に包まれて頭の中が真っ白になる。煮えたぎるような力の奔流が身体の中に起こった。



◆◆◆



『えらい大騒ぎッスねー』

「まったく、サブを助けに行かないといけないっていうのに」


 気の強そうな眉をひそめ、彼女は吐き捨てた。

 ショートカットの茶髪を揺らし、スリムな身体をガーデンの制服で包んでいる。

 耳に装着した通信機から再度軽い調子の男の声があがった。


『まあちょうどいいんじゃないッスかねー。隊長を……いや元隊長ッスか。助けに向かう囮になってもらいましょう』

「それもそ……ちょっと待って。園長先生から」


 彼女の親代わりからの連絡はさすがに無視できなかった。それに今はガーデン内にいるはずである。この騒ぎに巻き込まれたら大変だ。


「もしもし――」

『ミコ、手を貸してください。あなたの妹となる娘が天使の輪に選ばれて大変なことになっています!』


 ギリッ、と歯を噛みしめる。さすがに彼女としても放置しておけない案件となってしまった。居場所を聞き出しすぐに駆けつけることを伝え、スマホの通話を切る。


『え、行っちゃうんスか!?』

「さすがに妹のことなら放置できない。開発部のアホども、危ないんだから管理くらいちゃんとしろ」


 開発部は天使の輪を一つ実験で失っている。危機管理は相変わらずらしい。

 通信相手に愚痴りながら、右手首の天使の輪を起動する。

 光があふれ、両腕に巨大な機械の腕が装着される。背中に大きなリングが現れ、身体を宙に浮かせた。

 正直いつか修学旅行で見た仏像のようで、自分の展開姿は気に入っていない。

 けれども魔人をも倒した力だ。好き嫌いを言っている場合ではない。


『英雄といい兄妹そろって家族大好きッスねー』

「茶化していると殴る」


 暴力反対、とふざけている通信相手に舌打ちをする。

 炎のギフトから火の粉が漏れ、一気に夜空に浮かび上がった。


『じゃあとっととすませて元隊長を助けにむかいましょ、ミコっち』

「その呼び方やめて」

『名字で呼んだらおにーさんと紛らわしいって怒るから、可愛い呼び方にしたのにー』


 明光寺光子(みょうこうじ みこ)

 それが現状最強の天使の輪『パワーズ』に適合した彼女の名だった。



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