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あんたこの異世界のイカ男どう思う?  作者: 土堂連
第二部:一筆啓上故郷が見えた!
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二十九話:現状確認しばし休憩



 カガミの職場である交番に案内され、フィリシアたちは珍しそうに奥の休憩室で腰を下ろしていた。目の前にせんべいと飴、そしてお茶が置かれており、遠慮なくマリーたちはかじりつく。ニコニコとご機嫌なカガミはそんな子どもたちの様子を見届けてから、サブローに話しかけてくる。


「いやー、この子たちがお前の新しい家族か。そうならそうと早く言えよ」

「一応施設には連れていきますが、そうなるかどうかは本人たちしだいですよ」

「マリー、ちゃんとおにいちゃんの妹になる!」

「ははは、本人は乗り気っぽいぞ」


 飴玉をマリーに勧めながら、カガミは懐かしそうにサブロー達を見つめていた。

 一応、サブローが魔人であることを彼が知らないのは隙を見てエリックたちに伝えている。

 施設の家族たちが知っているかは不明だが、知人であり一般人であるカガミが知っている可能性は限りなく低い。

 なので、マリーたちにも魔人であることは口外しないように頼んであった。


「施設のお前の弟たちも喜ぶだろうな。三郎が行方不明になってから、今まで何度も目撃情報がないか尋ねに来ていたんだぞ」

「……迷惑をかけっぱなしで申し訳ありませんでした」

「バーカ、お前は本当に気にしなくていいことを気にする。……逢魔に誘拐されたんだ。生きて戻ってくれただけ、ありがたいさ」


 カガミが感慨深げにつぶやいて、温かいコーヒーを炒れてくれた。

 甘党なのを覚えていたようで、シュガースティックもちゃんと添えている。

 四年も経ったというのにだ。


「そういやお前がよくここに来た原因、覚えているか?」

「……あいつですね。そういやもう大学生ですか。……浪人していなければいいのですが」

「就職したぞ。お前を救うんだって、ガーデンに」


 サブローは目を丸くした。ガーデンは世界に根付いた防衛組織であるだけ、就職のハードルは高い。

 高卒で入れるような甘いものではないはずだ。


「なんか才能を認められたんだってさ。兄貴も兄貴だから納得ではあるけどな」

「大丈夫でしょうか? あいつの才能なんて、殴る蹴る燃やすしか思い当たらないのですけども……」

「……それって前にサブローさんがおっしゃっていた幼馴染さんですか?」


 フィリシアに尋ねられ、サブローは頷いた。なんだか彼女は複雑そうな表情をしていた。

 いつまでたっても名前を教えないことが悪いのだろうか。単に機会を失っていただけなのだが。

 幼馴染の名前を教えようとした時、交番に誰か入ってきた。


「おぉう、多分道を聞きに来たばーちゃんだ。ここんところ毎日なんだよな。対応してくるからゆっくりしておきなよ。それにしてもお嬢ちゃんたち日本語上手いな」


 カガミが仕事のために離れて、サブローは最初のころの疑問が再び浮かぶ。

 そのことを聞こうと思ってフィリシアたちに向いたが、先を越された。


「サブローさん、ニホンゴってなんですか?」

「翻訳されない? えーと、僕の母国語です」

「ボコクゴ?」


 通じていない様子に謎が深まる。なので追加で説明をすることにした。


「僕の国の言葉と言う意味です。前から思っていたのですが、みなさん何語で喋っているのですか?」

「何語って……言葉ってどの国でも通じるものではありませんか? 文字なら国ごとに違っていますけど」


 言葉の壁という発想自体がなかったらしい。サブローはますます困惑する。


「この世界だと国ごとに言葉が違います」

「えぇっ!? それではどうやって会話すればいいのですか?」


 信じられないといった様子でフィリシアに言われて、あの世界への謎が深まった。サブローの言葉の翻訳は異世界が行っていると勝手に思っていたのだが、違うのかもしれない。こうなると頼りになるエリックでも駄目だろうかと視線を向ける。


「ぼくらの世界も昔はそうだったみたいですよ」

「え? 本当ですかエリックくん」

「と言っても伝承の類ですが。五百年前、魔王軍に対抗するために神が言葉の通じる加護を与えたと聞いています。実際言葉が違っていた痕跡はあったようですし」


 さすがエリック。心の中で褒め称える。疑問を抱いて即解決だ。


「まあ各宗派によって解釈が分かれますけど。真実を知っている創星の聖剣はあまり過去を語りませんし」

「創星の聖剣? 過去を語る?」


 サブローが訳が分からず頭をひねっていると、アイが反応した。


「創星の聖剣はしゃべれるの。そして神託もうけとれるから、今までなんども世界の危機をおしえてくれたよ」

「へー、しゃべる剣ですか。王道ですね」

「けど、創星の聖剣に選ばれた人は、五百年前の勇者以外いないんだって」

「なんともロマンの塊の聖剣ですね」


 感心しながらサブローはアイの頭を優しく撫でる。

 愛らしい銀髪の少女が気持ちよさそうに目を細めたころ合いに、カガミが戻ってきた。


「お、撫でる上手さは相変わらずか、お前」

「僕のお兄ちゃん歴は長いですからね!」


 カガミと笑い合い、サブローは昔を懐かしむ。兄弟たちと一緒に幼馴染を迎えにくることが多かった。本当、フィリシアたちには感謝しかない。また故郷に戻ってこれたのだから。




「それで今後どうするんだ? 施設に行くなら送っていこうか?」

「いえ、施設には向かいますが、その前に買い物に行きたいです。この格好だと目立ちますし」

「えらい旅人チックだな」

「実際旅をしていましたからね。昨日まで海外にいましたし」


 そういう設定にしてある。サブローの来歴が来歴なので、カガミはあっさりと納得した。


「金は大丈夫か? 少しなら貸すけど」

「いえ、問題はありません。カードも口座も無事でしたし」

「相変わらず抜けているわりにたくましいな」

「え、抜けているって……昔からこうなんですか?」


 エリックの無意識の問いにカガミは微妙な顔をする。

 目が『こいつ変っていない』となによりも雄弁に語っていた。


「え、エリックさんの中で僕の株が暴落していく予感がします」

「そんなことはありませんけど……もう少し落ち着いてくれたらなって思うだけですし」

「だいじょうぶ。おにいちゃんの株はマリーの中ではゆらがないよ!」


 マリーがサブローの膝に座りながら宣言してくれた。嬉しいのだが色々と足りない気がする。主に信頼度とか。


 ひとまずカガミに礼を言い、交番を後にする。いつものことだが、なんとも締まらないものであった。



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