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あんたこの異世界のイカ男どう思う?  作者: 土堂連
最終部:お終いは魔王城でどうぞ
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一六五話:七難ふたたび



◆◆◆



 時間は少し遡る。

 サブローたち見張りの集まりに、一人新たな人物が加わった。トラブルメーカー・ナギである。


「ふむ。君がドンモたちと同行していたスズキか。なるほど、いい“灯り”だな。ちょっと訓練でもしないか? わたしを殺す気でかかっても構わないぞ」

「えっ? いきなり殺し合いを提案されたであります。海神殿、怖いでござる!」


 ドン引きする鈴木に疲れた笑顔をサブローは向けた。ホイットも呆れ顔になる。


「彼女が『困らせる方の勇者』なのか」

「酷いあだ名ですね」


 おそらくカスペルがつけたのだろう。サブローは窘め、納得もしていた。


「なにせサブローとエビサワがヤリあっているところを混ぜてもらったのに、中途半端なところで中止されてな。身体を持て余してしょうがないんだ」

「嫌な誤解をされそうな言い方はやめてください」


 ん?とナギは小首をかしげる。可愛らしい姿だが、これで戦闘狂だからたまったものではない。

 スズキはこちらの発言の意味を察して腹を抱えているし、ホイットも吹きだしたため顔を背けていた。なんとも切ない。

 サブローが水筒に入れたお茶を口に含んで飲み込む。なんとも平和である。

 と、思ったのもつかの間。急いで振り返り、森の一点を見つめた。魔人の気配は感じないが、ピリピリした戦場の空気がある。その姿を見てホイットが疑問を持った。


「どうした? 創世の?」

「君も戦闘準備に入りたまえ。だいぶ緊迫した空気が伝わってくる」


 ナギの言葉にホイットは驚いたが、鈴木がハーネスを呼び出して纏った。頭に装着されたメットは骸骨を半分に切ったようなデザインであり、少々弱そうに見える。

 もっともそれは見た目だけであり、Cランクの魔人にも匹敵する運動能力を得ることができる。


「拙者のダブルワンより先に敵を発見するなど、やりますなー海神殿、ナギ殿。ちょうどこちらも魔人を発見したところであります」


 鈴木のメットは犬型デバイスや鳥型デバイスの視界を映すことができる。それだけでなく、ガーデンのドローンと一時接続し、監視映像を取り込むこともできるという便利なものだった。

 状況を正確に確認し続けている鈴木は、露わになった口元を歪めた。


「こっちに気づいて手を振っている奴がいるでござる。海神殿、話しかけてきているので、スピーカーを起動させるであります」


 ザッ、というノイズとともに、鈴木のメットから彼の者でない声が鳴り響く。ホイットもナギも便利そうに成り行きを見守った。


『あーあーあー。聞こえとるかの? ならばこんな風に木を打って応えて欲しい』


 一方的に相手が言い終えると、打撃音と木の倒れる音が響く。サブローは誰だかわかってしまった。

 鈴木に応じて欲しいと頼むと、彼は戸惑いながらも言う。


「了解であります。でも、それをやったらダブルワンをすぐにその場から離すでござる。もちろん、敵からはさほど離れないようにするでそうろう」


 それで構わなかった。彼はすぐに実行させる。


『なかなか話が分かりおるわ。王都に来られる前にいい加減迎撃しろと魔王様に怒られてのう。我ら七難全員と、正面切って戦おうぞ』


 聞いた瞬間ホイットが伝令として走り、サブローは迎撃の意思を正面に向ける。

 ラセツが宣言したのは、近づけば魔人の気配で察知されるためだろう。本人の趣味もあるだろうが、両軍に魔人がいる以上仕方がない。


「鈴木さん、ナギ。準備はよろしいですか?」

「もちろんであります」

「ドンモたちに先駆けて、我々が最前線を請け負うということだな。腕が鳴る」


 勇ましい言葉とは裏腹に、ナギは冷徹な目を敵へと向ける。“灯り”が乏しい相手にはとことん非情になれるのが、彼女という勇者だった。


「鈴木さん、七難は誰も彼も強敵ですが、ラセツだけは避けてください。あいつは複数で相手した方が安全です」

「了解であります。綺堂と互角以上という話であるので、拙者ではどうしても分が悪いでござる」


 なにしろ鈴木は片手落ちの状態だ。動物デバイスは一匹で雑魚の魔人とならやり合えるとはいえ、七難クラスとなるとお手上げである。一体をシュゼットの護衛につける以上、魔物や雑魚魔人の相手を頼むしかない。

 やがてタブレットに指示が送られてくる。イルンや水の国の将軍が迎撃を決めたことがメールに映っていた。

 内容を確認し、最前線へと躍り出た。




 途中で追いついたミコとフィリシアの二人とともに、サブローは魔物との戦端を開いた。小鬼(ゴブリン)の集団をあっさりと蹴散らし、魔人姿のサブローは気になることを走りながら尋ねた。


「フィリシア。泣いていました?」

「うん。泣いていたから慰めた。もう大丈夫」


 なぜかミコが答えた。一方、フィリシアはバツが悪そうに顔を覆っていた。


「サブローさんに会う前に、顔を洗いたかったです」

「ふふーん。甘えてくるフィリシアは可愛かったよ。サブ、見れなくて残念」


 軽く目を見開いて驚いていると、フィリシアは耳まで真っ赤になっていた。本当、二人は仲がいい。

 しかし腰の創星はそうなごむわけにもいかなかったようである。


「でもフィリアネゴ。泣いていたってまたどうして?」

「き、気にしないで……」

「サブ、フィリシアの里を滅ぼした奴が、王国軍に居るみたい」


 思わずサブローの顔が暗くなる。王国軍と一緒に戦うのは予定通りなのだが、フィリシアが傷つくのは望んでいなかった。

 創星などあからさまに不機嫌になっている。


「んだよ。ショーグンは手でも抜いたのか?」

「いえ。アドーニン将軍はこの件に関しては謝罪をしてくれました」


 言いながらも、フィリシアは無表情だった。どうしても彼女は故郷を焼いた責任者を受け入れられないのだろう。

 サブローは頭を優しく一回だけ叩いた。


「これが終わったら、存分に相手をします。早く終わらせましょう」

「……はい。よろしくお願いします」


 少し照れながら、フィリシアが了承する。敵の最大戦力が迫っているわりに気楽な空気だが、ケアは早い方がいい。

 次の魔物の群れを探して戦いに備えていると、サブローは足を止める。


「サブ?」

「師匠さん。あいつらです」


 同時に敵を見つけただろうフィリシアが警告する。事実、森の奥からゆっくりと歩いてくる三体の魔人が現れた。

 クラゲの魔人にして、サブローをたった一体で苦しめたラセツ。

 先代創星の勇者に執着し、フィリシアで代用しようと節操がないが、接近戦のスペシャリストであるカマキリの魔人であるカセ。

 魔導士であり、炎の魔法を得意とする、ホタルの魔人。その名はヒ。

 いずれも一筋縄ではいかない相手だった。まだ魔人の姿には変わっていない。余裕が見える。

 ラセツが錫杖を突きながら歩み、口の端を歪める。


「ホホッ、久しいのう」

「僕も会いたかったです。あなたの相手は、他の方にはさせられません」

「今度は逃がさねーぜ」


 サブローと創星が標的を睨みつける。サブローと同じく、しかし用途の違う触手を使うラセツは、『魔人を殺す魔人』でさえ取り逃がす可能性があった。

 痺れさせ、相手の運動能力を低下させることもできる触手に、本人の身体能力の高さが合わさり、非常に厄介になった結果のためだ。

 本来なら相性がいいはずの綺堂でさえ、単純な技量で上回られて危なかったそうだ。


「いいのう。こちらを殺す気がひしひしと伝わってくる。それでいて、死にたがりが消えた」


 ニィ、と好々爺然とした顔が邪悪な笑みに染まり、クラゲの魔人へと姿を変える。頭部の笠の端をつまみ、ラセツは歓喜に身体を震わせていた。


「水の国でのおぬしも悪くはなかったが、やはりそちらの……守るために戦う方針が向いておるか。クク、楽しみで仕方ない」

「フィリシア、ミコ。あとの二人の相手をお願いします。あいつは片手間で戦えそうにありません」


 どうやら水の国で戦ったときから、ラセツは強くなっているようだ。サブローの戦闘勘が危機を強く訴えている。

 ピートに迫る威圧感と、鰐頭に似た質のなにかが全身にのしかかってくるようだ。


「安心するがいい。わしもおぬしだけが目的ぞ。カセ、ヒ、隣の二人を頼む」

「構いやしないが……カセが興奮して暴走しないか心配だよ」


 せせら笑うヒの隣で、カセがブツブツ呟いていた。あんなのをフィリシアたちに任せないといけないのは不安であったが、負けないと信じている。

 ゆっくりとラセツと共に場所を移すことを目配せで示した。


「信頼しとるのう。全く不安を感じない、迷いなき動きだ。そうなるとそやつらもつまみ食いしたくはなるが……まあ無理か」


 言いながら、ラセツも付き合ってゆっくり距離を取っていく。二人だけの戦場へと動くのを同意したようだ。


「愛しい……愛しい人!」


 にぃ、とカセが不気味な笑みを浮かべて、魔人へと変わりながらフィリシアにとびかかった。

 だが彼女がつかんだのは、白い金属の塊だった。苛立たしげな魔人に引き裂かれるが、中に人はもういなかった。


「こちらです」


 上空から風の弾丸が落ちていき、カセの身体を弾き飛ばす。フィリシアは冷たい目を向けながら、手甲に光の刃を発生させた。


「今の私は機嫌が悪いので、早く決着をつけさせてもらいます。相手をしますよ」

「あはぁ……独占だぁ」


 不快そうに眉をひそめながらも、フィリシアに侮る気配も、恐れも感じない。

 挑発したのはサブローの意を汲んで引きつけるためだ。感謝しかない。


「まったく、それぞれ自分の相手を決めちゃって。ま、あんたに炎の使い手として、格の違いを見せたかったからいいか」

「……あたしもあんたに用がある」


 ミコが不愉快そうに眉をしかめる。ヒを見る顔には、誰かに対する憐憫の情が混じっていた。


「あんたは個人的に許せない。だからフィリシア。そっちは任せる!」

「はい。任されました」


 バージョン2に変った鉄の拳を四つ携え、ミコはヒに殴りかかる。互いの炎が混ざり合いながら、ホタルの魔人はあっさりと受け止めた。


「盛り上がっとるのう。わしらも行くとするか!」


 走り去るラセツに合わせ、サブローも足を速める。彼らを倒せば、警戒すべき相手はもうピートしかいない。

 逃がすわけにはいかないと、より気合を入れた。



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