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あんたこの異世界のイカ男どう思う?  作者: 土堂連
最終部:お終いは魔王城でどうぞ
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一六○話:王都包囲戦の準備



◆◆◆



 一通りの事後処理を終え、兵を休ませるために出発は二日後に決まった。サブローも砦の修繕に駆り出されたが、体力が有り余っている。

 ミコと共に切り出した木材を運んでいるとき、


「サブ、あの子たちがまたみているよ」


 と嬉しそうに知らされる。彼女の視線の先には、隠れているつもりの子どもたちが居た。

 防衛戦を終えてから警戒はされているものの、怯えられることは少なくなっていた。同じ難民の大人たちは相変わらずであったのだが。


「ねえ、こっちきてよ。金平糖あるよ」


 ミコが誘うと、子どもたちは顔を見合わせてからワッと寄ってきた。ミコが持っている金平糖は支給された乾パンのおまけについているものである。彼女たちは食事のたびに集めて、子どもたちに振舞っていた。

 甘いものはとても好評で、喜んでいるのなら自分の分も渡している甲斐があったという物だ。

 子どもたちの相手はミコに任せ、自分が木材を運んで離れようとすると、呼び止められた。


「サブ、勝手に持って行こうとしないで。それはあたしの担当分」

「しかしその子たちもいますし……」

「大丈夫だよ。君たちももうサブのことが怖くないよね?」


 ミコが左肩に浮かんでいるサブアームで木材を奪い、子どもたちに確認する。こんなことにバージョン2を解放し、両肩の機械腕だけを使うのは大丈夫なのだろうかと思ったが、便利なので本人の判断に任せていた。

 それはさておき、サブローは三人の子どもの様子をうかがう。リクとカイは眉根を寄せて、判断を決めかねているのが見て取れた。一方、女の子のソラはなぜかワクワクした顔をしている。いったいどうしたのだろうか。


「ねえねえ、聞いていい?」

「はい、どうぞ」


 さっそくソラが話しかけたので、なるべく穏やかに答えた。怖がらせないようにだが、上手くいったか不安である。

 しかし、サブローの気遣いにお構いなしにソラは自らの好奇心のまま動いた。


「魔人のお兄ちゃんは、聖乙女様を愛したから邪悪な心が消えたの?」

「……じゃあくな、こころ?」


 質問の内容に面喰い、思わず口にしてしまった。聖乙女となると対象はフィリシアかミコ、あるいは両方だろう。彼女たちを愛しているというのは理解ができる。

 邪悪な心というのも、本当はわかりたくないのだが、どういう意味で尋ねたかは察することができた。

 おかげで思わず、両腕を組んで悩んでしまった。聖乙女の伝説はさわりだけを教えてもらっていた。魔人と戦う彼女たちが存在を重ねられても仕方ないほど、素敵な女性の話だと感動をしたものだ。

 だからこそソラの中での自分の立ち位置が分からず、肯定していいのかどうか判断がつかない。夢は壊したくなかった。

 真剣に悩むサブローを見て、耐えられずミコが笑い出す。


「あ~はっはっは。はぁ~、おかしー」

「聖乙女様……?」

「ごめん、ソラ。困っているサブの顔がおかしくて、ついね」


 ミコは可愛らしく小首をかしげてから、ソラの頭を撫でる。


「サブは最初から邪悪な心はもっていないよ」

「じゃあなんで魔人になったの?」

「うん。それはあたしのせいなんだ」


 ソラだけでなく、男の子二人も驚きの表情に変わる。ミコは昔を懐かしみながら、少しだけ悲しさを声に滲ませていた。


「昔にね、魔人にあたしが狙われたとき、まだ人間だったサブが囮になって助けてくれたんだよ。けどサブは連れ去られて、魔人にされていた。だからサブは悪くないし、邪悪な心なんて最初からなかったんだ」


 子どもたちは感心した声を上げた。見る目が変わっているが、サブローは首筋の辺りがかゆくて仕方ない。


「別にそんなに感謝されるようなことではありません。結局、僕に力がないからこうなったわけでして」

「サブ、それもっかい言ったら殴るよ」


 本気でミコが怒っているのが分かったので、サブローは慌てて口をつぐんだ。その様子を見て、今度は子どもたちが吹きだす。


「魔人のお兄ちゃん、聖乙女様たちによわいの? かわいい~」

「まあ黒い魔人と比べたら、怖くないよな」


 ソラの発言をリクが半ば肯定する。カイも特に異論がない様子だ。どうにもサブローは子ども相手だと威厳が保てないようである。

 威圧感を与えないことはいいことだ、と自身を慰めた。




 その日の夜、ガーデンの戦力の振り分けが話し合われた。敵を壊滅状態に追い込んだとはいえ、また砦が襲われないとも限らない。綺堂小隊を残すべきかどうかの判断を迫られていた。

 砦の会議室はミコラーシュ、イルン、水の国の将軍を伴い、綺堂小隊全員とイチジローが話し合っていた。サブローも加わるように言われている。


「魔人の脅威があるので、何人か残って頂けると助かります。はい」


 砦の責任者であるミコラーシュが腰を低くしながら頼んできた。彼は魔人との戦いを何回か経験しているため、そう願い出るのは仕方がない。

 一方、綺堂は顔を険しくした。


「そうは言うが、王都にはまだ厄介な魔人が多数存在する。私が向かわないというわけにはいかないだろう」

「そこをなんとかなりませんか? 誰か一人でも残ってくだされば、私どもも安心が出来ます」


 食い下がられると、綺堂は悩ましげに唸った。この砦を守る戦力を残したいという意思があったためだ。


「ひとまず、こちらにガーデンが戦力を追加するかどうか確認をしませんか?」


 イチジローが提案し、サブローに目配せをした。促されるままドローンを起動させる。

 一通りドローンの向こうにいる毛利に伝えると、すぐに返事がきた。


『了解ッス。長官に伝えるのでそのままお待ちくださいッス』


 久々に聞いた気がする毛利の指示通り、サブローたちはしばらく待つことにした。すると暗がりにドローンが移動し、魔法陣を展開する。

 この場で転移するのか、と戸惑っていると、光とともに長官が姿を見せた。


「こういうことは直接顔を合わせて伝えようと思ってな」


 長官という立場の割に気軽に動きすぎではないだろうか。呆れるものの、サブローたちは頭を下げて迎い入れる。


「まずこちらに新戦力を送り込めるかどうかだが、難しい。量産タイプの天使の輪に適合している三十人の内訳は、十人が訓練中及び予備戦力扱い。五人が日本での純粋な戦力。十人をこちらと別の砦に配置している。国境付近の三つの砦の占領は、王都を包囲するために必要だからな」


 一気に説明して間を置き、一同が納得したことを確認して続きを話しだした。


「それでこちらには綺堂小隊を置こうと思っている」


 ミコラーシュが目に見えて安心していた。北杜たちも予想はしていたようだが、綺堂は複雑な思いを抱えている。


「……最大戦力を王都に投入する必要があると私は聞きましたが?」

「うむ。そのためすまないが、綺堂小隊は北杜を一時的に隊長として動かし、綺堂はイチジローたちと合流してほしい。組み慣れた部下と離すようですまないが、そちらの本部長とも相談した結果の配分だ」


 綺堂は少し考え込む。北杜も話をさせて欲しいと許可を求め、二人で相談をした。二、三分してから長官へと向き直し、結論を告げる。


「かしこまりました。私どももその判断が一番いいと思います」

「それでは北斗は綺堂小隊をまとめ上げ、この砦の防衛。綺堂は王都へ攻めてくれ」


 長官が話をまとめ、サブローたちガーデンのメンバーは了解を示した。ミコラーシュも魔人と渡り合える戦力が残ってくれて満足そうである。


「それでは長官。話はまとまりましたし、お戻りになられますか?」

「いや。一緒に行こうかと思う」


 この発言には全員が驚いた。彼はまじめな顔でドローンを叩く。


「私だけではない。戦力を補充することはできないが、綺堂小隊を補佐するためのオペレーターたちと、ドローンや物資も転送させようと思っている。明日にはバギーと毛利たちを呼ぶ予定だ」


 サブローはドローンが改良されて車くらいの大きさなら転送できると聞いていたが、ここで活用するとは思ってもみなかった。

 そこではじめてイルンが質問をする。


「それは今後、あなたも指揮に加わるということでしょうか?」

「いいや、それはない。私はあくまでもこれからガーデンから呼び寄せる物資、および人員の管理だ。イチジローたち戦力は今まで通り、そちらの指示に従わせてほしい」


 なるほど、とイルンが納得する。どこか安心して見えるのは、現状の指揮系統に混乱を起こさない意思を確認できたためだろう。


「護衛も必要ないぞ、イチジロー。こちらから自前で呼び出す」

「……了解しました。では、調整に入らせてもらいます」


 イチジローは答え、イルンや水の国の将軍たちとそれぞれのすり合わせを行った。




 出発の日、サブローは門前に集まる途中、空を飛び回るドローンを見上げる。その隣でイルンが視線をたどり、声をかけた。


「あれ、便利だな。上空から周りの様子を、タブレットという板に映し出せるし」

「こちらや同行にオペレーターを追加した意図が分かりました」

「ミコラーシュ・ヴルク殿も喜んでいたし、そちらの技術には驚かされてばかりだ」


 イルンは嬉しそうにサブローの肩を叩いた。旅の安全が増すのは、彼としても願ったりかなったりだろう。

 サブローはアルバロのいる前線に、イルンは後方へと分かれてそれぞれの位置に向かう。

 途中、サブローは自らの名前を呼ばれた。


「サブローさん、少し待ってください」


 フィリシアがすっかり顔なじみになった三人の子どもたちを連れていた。彼らの背を軽く叩き、なにかを促す。


「どうしましたか?」

「あの……魔人のお兄ちゃんに、あやまりたくて」


 初めに口を開いたのはソラであった。彼女の大きな瞳は限界まで見開かれており、今にも泣きだしそうだ。本当に申し訳ない気持ちが伝わってくる。

 サブローは穏やかに微笑み、頭を撫でた。


「気にしないでください。仕方のないことですから」

「で、でも、おれなんて最初酷いことを言ったし」

「それに大人たちはまだ魔人の兄ちゃんに会うなっていうし」


 リクが暗い顔を見せ、カイが続いた。難民の大人たちは、子どもたちがサブローに近づくのに難色を示していた。

 フィリシアやミコが間に立っているものの、それでも不満は募っている。子どもたちと親の関係を思うと、会うのは賢い判断ではなかったため、これまでと変わらず距離を置いていた。


「みんな君たちのことが心配だから、そう仰ってくださるのです。ちゃんということを聞いて、大事にしてあげてください」

「……なんだか神父様みたいなことをいうな。ありがとう」


 彼らの安心する笑顔を見て、サブローは嬉しくなる。彼らはまだしばらく砦の厄介になることになっていた。

 大人たちは修繕に手を貸す他、炊事や怪我人の手当てなどに精を出している。彼が安心して村に戻れるようにするためにも、戦わなければならない。

 サブローは一層、王都に居座る逢魔を排除する決意を固めた。



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