表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あんたこの異世界のイカ男どう思う?  作者: 土堂連
最終部:お終いは魔王城でどうぞ
157/188

一五二話:『ただいま』を言いに


「ぬぅ、わからぬ。わからぬ!」


 家族と合流したサブローたちの前に、自称遊び人のパルミロが現れて唐突に疑問をぶつけてきた。いったいどうしたのだろうかと見守っていると、がっしりとサブローの両肩を掴んでくる。


「なぜ今回の精霊王の祝祭がこんなに盛り上がっているというのだ? 水の国でも今頃開催しているだろうが、おそらくここまでの祝福は引き出せていないだろう。えぇい、どうなっている!?」

「カイジン・サブローくんを掴んでいるあたり、本当勘が良いね。お察しの通り、彼とフィリシアくんが精霊王のお気に入りだから、色を付けてくれたみたいだよ」

「やはりか! 勇者カイジン・サブロー、そしてフィリシア! 来年は水の国で精霊王の祝祭に参加せよ! 地の里ばかりずるいぞ」


 あまりにも必死な姿に呑まれ、サブローとフィリシアは頷くしかなかった。答えをくれた古代竜は「なら来年は水の国に行くかな」と機嫌よさそうにひとりごちている。


「無論、ハヤシや子どもたちも招こうぞ。今度は我が国を満喫すると良い」

「お誘いありがとうございます。来年、あなた様の心変りがなければ承りたく存じます」


 園長が社交辞令なのか、本気なのかわからない返事をする。ただパルミロは満足そうにしていた。妙に素直な王様である。


「ほほう。創星の勇者が居れば精霊王の祝祭は盛り上がるのか。良いことを聞いた。水の国の後、うちでも頼む」


 火の族長であるヴォルガが娘のソウラを伴い、男くさい笑みを浮かべて近寄ってくる。施設の家族が怯えて背中に隠れるが、人はいいのだとフォローをしておいた。


「そうだよ。ヴォルガのおじさんはおにいちゃんの言う通り、顔は怖いけどやさしいんだよ!」


 悲しいことにマリーの発言は逆に傷つけるだけだった。うなだれるヴォルガになんて声をかけていいのか、サブローにはわからない。

 身内であるはずのソウラはお腹を抱えて笑っている始末だ。


「ま、まあ顔の怖いおじさんは引っ込んでおこうよ。お(とう)はどう見たって悪人面なんだし」

「容赦……ないなぁ」


 イチジローが憐れみを込めて呟いた。ゾルガはともかく、兄であるヴォルガの印象は悪くないようである。

 しかし相手側は違うようで、イチジローを見る目が厳しい。ゾルガの件では納得しているので、サブローは原因の娘へと視線を移動させた。


「それでイチジローはどうするの?」

「ん~ここで別れてゾルガたちの様子を見てくるよ。……サボっていたら容赦はしない」

「ならあたいもついていくよ。身内の不始末だし」


 そういってソウラはしなをつくってイチジローと距離を縮めた。今の彼女は着飾っており、先日見かけたときよりもグッと女性らしい。

 格好といい態度といい、鈍さに定評のあるサブローでも意図が読めた。だというのに、イチジローはわかっていない様子である。


「あんまり見ていて気持ちのいいものではないんだがな。まあ別にいいか。夜道は危ないし、帰りも送るよ」

「あら? ちゃんと女扱いしてくれるんだ。ふふふ……」

「扱いもなにも女の子だろう。それではヴォルガさん。ソウラをお預かりしま……」

「い、いかーん!!」


 ヴォルガが絶叫し、イチジローはびっくりして目を丸くした。ソウラが鬱陶しそうにするが、彼は構わず兄と顔を突き合わせる。


「あの、弟さんのことは同意だと聞いていたのですが……」

「んなことはどうでもいい。あのバカにはいい薬だ。ソウラのことだ!」

「ソウラのこと……? 連れていくことがダメと言うのなら、従いま……」

「ちょ~~~~っとバカお父! なに余計なことを言ってんのさ!」

「余計なこととはなんだぁ!? だいたい色気づきやがって! お前には十年早い!!」

「バッ……バカ~! 本人の前で言うことはないじゃん! あったまきたぁー!!」


 ソウラとヴォルガが取っ組み合いを始める。さすがに精霊術を使わない理性は残っているが、かなり本気の組手である。

 一方、話題の中心でありながら、置いてけぼりを食らった兄は宥めようとおろおろしている。なぜこうなったかわかっていないのだ。

 もどかしいながら、以前の自分もああだったのだろうかとサブローは自省し、思わずため息が漏れた。


「まったく。風の族長に娘にかまいすぎだと忠告しておきながらこれだ。人のことを言えん奴だ」


 パルミロが呆れて言い捨てたが、クルエへの態度を覚えているサブローは心の中で、あなたもですよ、とツッコんだ。

 もちろん、口にすることはない。そんなサブローに、園長が楽しそうに話しかけた。


「賑やかでいいですね。こちらでもサブローはいい人たちに囲まれています」

「……はい。みなさん、親切にしてくれてとても助かっています」


 素直に胸の内を明かす。この世界で出会った人たちは、自分にもったいないくらい良い人ばかりであった。

 そのことを園長に伝えられて、サブローは嬉しかった。




 翌朝、園長を始め、施設の人間が日本に戻る日がやってきた。

 ただサブローたちガーデンに所属している人間は、そのまま国境の砦で待機しているガーデンの部隊と合流することになっている。

 都合がいいので、イルンたちと一緒に向かうつもりだ。


「これでしばらくは会えませんね」

「大丈夫ですよ、園長先生。逢魔の首領を倒して、日本に戻ります」

「信じています。決して無理をしてはいけませんよ。よろしいですね?」


 別れを惜しむ園長に、サブローは穏やかに確約した。自分たちが戦いに赴く際はいつもこの調子で、彼女に心配をかけていることをすまなく思う。


「イルンさん、サブローのことをよろしくお願いします」

「むしろオレたちがお世話になる方です。ですが、なるべく力になるように努力します」


 誠実なイルンの態度に園長は感謝を伝えた。彼女にとってはいつまでも子どもなのだろう、とサブローは少しだけ恥ずかしいながら、悪い気分ではない。


「またうちに来てください。いつでも歓迎します」

「そうですね。ペルペトゥアさんに案内していただいた遺跡は、サブローが一番喜びそうですし」


 ペルペトゥアはアルバロやクラウディオの母親で、地の族長の第三夫人だったと思い返す。

 会議の日に家族を相手してもらっていた。園長の言う通り、遺跡を見て回るということで羨ましいと思った。

 そんなイルンと園長の話を耳にしたフィリシアが、サブローへと顔を向ける。


「そういえばサブローさん、城跡とか大好きですよね。遺跡もそうなんですか?」

「はい。歴史のロマンを感じます」

「けどサブが行きたがる城跡って……なにもないよね? 山の中で城跡についたと喜んだときは、ちょっと驚いた」

「師匠さんもですか?」

「……あたしは子どものときの話だけど、フィリシアはついていったの?」

「誘われたので。私も城跡なんて判別できなかったので、ピクニックみたいな形になりましたけど」


 フィリシアの感想にサブローは愕然となった。てっきり楽しんでくれていると思ったのだが、今の反応は芳しくない。

 隣の海老澤が話を聞いて、呆れた態度を隠さなかった。


「お前……女をそういうのに誘うか? 歴女ならともかく、普通の女が整備もされていない山の中や、なんの変哲もない公園に連れてこられて喜ぶわけないだろう」


 珍しく正論なので、サブローは肩を大きく落とすだけだった。あれは失敗だったと認めざるを得ない。

 しかし会話の中に疑問があったのか、フィリシアが口を出す。


「公園? エビサワさん、それはどういうことですか?」

「城跡の一部が公園にあるって、こいつがはしゃいだことがあった。そん時はじじくせー趣味だと思ったけど」

「じ、ジジ臭い……」


 サブローは追い打ちをかけてくる海老澤を恨みがましく見て、結局なにも言えずにいた。

 その姿を哀れに思ったのか、イルンが慰め始める。


「まあまあ。趣味ってのは長い時間をかけて理解してもらうものさ」

「……でもサブの趣味って俺もついていけなかったんだよな。なのに本人は無趣味だと思い込んでいたし」


 ぼそりとイチジローが悲しい事実を教えてくれる。後でこっそり泣こうと寂しく決意をした。

 そんなサブローにお構いなしに、タマコがフィリシアの手を握る。


「本当にフィリちゃん、気を付けてよ!」

「大丈夫……とは言いきれませんが、今の私は無敵です。信じてください」

「うん、信じる! せっかくサブお兄ちゃんといい仲になったんだから、怪我して夏祭りに参加できないなんて、許さないからね!」

「あ、そうでした。いつが夏祭りなのか教えてください。これにメモします」


 そういってフィリシアが取りだしたのはスマホだった。タマコに言われるままの日付に、スケジュールアプリで予定を入れる。

 ここ一ヶ月のフィリシアは急速にスマホの扱いを学習していった。もうかつての機械オンチの姿はない。置いてかれたミコは頼りっぱなしである。

 SNSも活用し、よくサブローに連絡を入れていた。タマコいわく、サブローがSNSを使い始めたため、真剣に取り組むようになったとのことだ。

 こちらは仕事に活用しているだけだというのに。


「あ、フィリちゃん。昨日のスティナさんの歌、撮っておいたからデータ送っておく?」

「お願いします」


 手際よくデータのやり取りをする二人を、イルンやミコは不思議そうに見ている。スマホに馴染みのないイルンはともかく、ミコの反応はどうだろうか。現代人とは思えない。

 それはともかく、データを受け取ったフィリシアはイルンに動画を見せた。


「おおっ!? 祭りの時の……いつの間に」

「タマちゃん、写真も動画も撮るのが上手いんですよね。私が撮るとブレブレなのに……」

「まあ趣味がこうじてって奴。あとでスティナさんにも見せなよ」


 祭りの件でいろんな人につかまっているスティナは、後でイルンに会いに来る予定だった。タマコはそのことも気遣っていたようだ。

 できた妹で本当に助かる。イルンに感謝を伝えられ、タマコは照れていた。


「おにいちゃん……」


 珍しく不安そうなマリーが、サブローにギュッと抱き着いてきた。その頭を優しく撫で、続きを待つ。


「絶対戻ってきてね。夏祭り、いっしょにまわるもん」

「はい。僕もマリーたちと一緒の夏祭りが楽しみです。無事で戻ります」

「ぼくも楽しみにしているんだな。でも、本当に無茶をしないかは怪しいんだな……」

「無鉄砲だしね。フィリシアさんやミコさんにちゃんと見張ってもらわないと」

「アリアは相変わらずサブローさんに厳しいですね。まあでも、ぼくも同じ意見ですけど」

「またサブローにいちゃんにはまた鍛えてもらわないといけないしなー。おれ、あのメニュー簡単になってきたよ」


 風の一族の子たちが各々声をかけてくる。いまいち己の威厳が感じられず、サブローはまたも落ち込み気味になった。

 とはいえ、心配してもらえることは素直にうれしい。気合を入れ、絶対生還することを心に誓う。


「ではサブロー。私たちは戻ります。御武運を」


 園長が締めの言葉を送る。名残惜しそうな相手に、瞳に力を入れて大きくなずく。


「僕は必ず『ただいま』を言いに帰ります。期待して待っていてください」


 曇りない笑顔で断言した。

 首領を倒す。その理由はもう変わっているのだと、家族の顔を見てサブローは気づいたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ