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あんたこの異世界のイカ男どう思う?  作者: 土堂連
最終部:お終いは魔王城でどうぞ
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一四四話:精霊術一族の会議



「サブ、あたしにしたいことをしていいよ!」


 ミコは幼なじみに対し、両腕を広げて宣言した。

 時は朝食を終えた、精霊術一族の会議の参加者を迎える日である。昨晩、フィリシアに連れられて、ミコはイヴェタにいろんなことを話された。

 正直に言って刺激の強すぎる話ばかりだった。一方、真剣に話を聞いて、わからないところはその都度質問しているフィリシアに戦慄をしていた。

 とはいえ、ミコだって慄いているばかりではいられない。どうにかミコの部屋で二人きりになれたため、精いっぱいの誘いをかけてみた。


「ミコ、悪いものでも食べましたか?」

「違う! き、昨日はフィリシアに甘えたでしょう? だったら、あ、あたしにだって色々……していいんだよ」


 精一杯の勇気を出して伝えたのだが、サブローはまじまじとこちらを観察するだけだ。不公平だと思う。

 フィリシアには自分から求めといて、付き合いの長いミコには迷いを見せているのだ。だんだん腹が立って抗議しようかと口を開けかけた瞬間、サブローがつかつかと近寄ってくる。


「まったく。そんなことを言って、後悔しても知りませんよ」


 サブローはどこか厳めしい顔で告げて、ミコの細顎を掴まえた。え、と戸惑っている間に、彼は無理やり引き寄せて唇を重ねて塞ぐ。

 驚いたため半開きだった口に情熱的な舌が滑り込み、口内を蹂躙された。舌を吸われたり、甘噛みされたり、それ以外にも様々なことを好き放題された。

 やっとサブローの顔が離れて一段落ついたかと思った瞬間、息継ぎをしてまたも繰り返す。やたら手慣れている相手に、ミコはただなすがままであった。

 それから永遠にも、一瞬にも感じる時間が過ぎ去り、サブローはゆっくりと離れた。


「……やはり恥ずかしいですね」


 そういうサブローは顔を赤くして目を伏せた。口づけの感触を堪能しているのか、自らの唇をやたら気にしている。

 一方、ミコはへなへなと床に座り込み、ゆだった頭で思考がまとまらなかった。


「な、なん、なななん、で……」

「したいことをしていいと仰ったではありませんか。これ以上長くやっていると、キス以上もやりたくなるので自重します」

「キ、キス以上!?」


 ミコが愕然していると、サブローが呆れてため息を吐く。


「そりゃ僕も男ですからね。ミコにいろいろしたいことがありますよ。なにせ、なんでもしていいと宣言してくれましたし」


 そこまで言っていない、という言葉を口に出すことは叶わなかった。動揺しすぎて上手く口が回らない。

 サブローがしゃがみ込み、視線を合わせてにっこり笑う。ミコには恐ろしすぎる笑顔だった。


「ほら、ミコ。シャキッとしてください。みんなのところに行きますよ」


 ミコの口の周りをハンカチで拭いたサブローが立たせる。気分がふわふわしたまま、引っ張られるままにみなのところへと向かった。



◆◆◆



 明日に行う精霊術一族の会議のために、各国から地の里に集まる流れになっていた。

 護衛としてガーデンからの職員も何人か派遣されているため、サブローたちも向かった方がいいか聞いたのだが、長官からは休みを満喫していろと言われた。

 せっかくの厚意をありがたく受け取り、マリーたちを連れて水の国王たちのパレードへと向かう。

 今回の旅行で最初に訪れた場所に転移してくるらしく、見覚えのある道を歩いた。客人を迎えるため道はしっかりと整備されている。

 むしろ幅の広さと、硬く固められた様子から日本の道路を思い出した。なんでも水の国からの指示でもあったそうだ。

 王族の馬車が通るために中央の道はあけられ、両端に人が行き通う歩道が作られている。子どもたちが離れないように広い視野を活かし、そして創星の力も借りる。


「ケンジ、マナがよそ見している。手を握ってやれ」

「おっと、あぶねえ。ありがとな創星っち」

「なんのなんの」


 創星はサブローの腰から離れ、ケンジと柄と手で叩き合い、周囲の人間を戸惑わせる。

 それもそうだろう。聖剣として有名である創星が子守を手伝っているのだ。サブローもどうかと思うが、かなり役に立つ上に積極的に手伝うため、頼りにしている部分も多い。

 ひとまず、案内を引き受けたクラウディオの元へとみんなを連れていく。先に一部の職員と子どもたちが、園長に連れられて待っていた。

 今、サブローが連れているのは風の一族の子たちと、彼らと親しいメンツだ。やがて待ち合わせ場所が見え、気づいたクラウディオが手を振っている。彼は子どもが好きなのか、施設の兄弟にもよくしてくれて、懐かれていた。

 双子の片割れであるアルバロは子どもに怖がれる、と近寄ろうともしない。クラウディオなら問題はないだろうと太鼓判を押していた。

 日差し避け用のテントの中では、子どもたちが用意された座席に座って待機していた。ちょうど運動会などで見る集会用のテントに似ている。ひとまず、サブローたちも中に入り、連れてきた子たちを座らせた。


「それにしてもお祭り騒ぎだねー、フィリちゃん」

「実際、明後日からお祭りが行われます。みんなと一緒に回りましょう」


 フィリシアがタマコと約束し、祭りという単語に反応して、小さい子がそわそわし始めた。


「そういえばうちの夏祭りももうすぐだね。サブお兄ちゃんは久しぶりになるのかな?」

「……懐かしいですね。フィリシアたちは初めてになりますか」

「夏祭り?」


 フィリシアが首を傾げたので、タマコが説明を始める。世話になっている施設は地域交流ということで、夏祭りを開催している。

 園長のツテでいくつかの病院とも合同で行っており、けっこうな規模の祭りになる。観光客もこの祭りを楽しみに訪れるくらいだ。

 話を聞いたフィリシアは興味深そうに思いを馳せた。


「フィリちゃん、一緒に回ろう。そして浴衣も着ようよ。きっと似合うって」

「浴衣? たしか正月に着た着物みたいなものですよね? 本当に似合いますか?」

「似合う似合う。フィリちゃんは美少女だからなんでも似合う! だから今度コスプレにも付き合ってね」


 サラッと己の要望を通したタマコに、サブローは戦慄する。フィリシアはよくわかっていない様子だが、親友の頼みと見て安請け合いをした。

 後悔をするか、そっちの趣味に目覚めて一緒に楽しむかは神のみぞ知る。


「ところでフィリちゃん。さっきからミコお姉ちゃんの様子がおかしくない?」

「はい。なにを聞いても上の空ですし、ときどきニコニコしたり赤くなったり……どうなんですかサブローさん?」


 話題の矛先が向けられた瞬間、サブローも思わず赤くなってうつむく。正直あの時の自分はどうかしていた。

 ミコに「したいことをしていい」と言われた瞬間、頭が真っ白になった。フィリシアに自重するように言ってはいるものの、サブローだって男だ。

 子どもに悪影響を与えたくないため、その前でなら辛うじて取り繕えるのだが、二人きりになると歯止めが効かないのではないか、と不安は常にあった。実際、あんなキスをしてしまったわけだ。

 反省しつつ、サブローはいつまでも自己嫌悪をしているわけにはいかないと動いた。フィリシアの顔が不満を見せ始めているためだ。


「聞いてますか? サブローさん、説明を……」

「説明しますし、お望みなら同じことをします。ですので、細かいことは後にしましょう」


 耳元でささやいて離れると、満足した笑みをフィリシアが浮かべる。「しかたないですね」とウキウキした様子ですらあった。

 一方、ミコの方はいまだ浮かれた様子で気づいていない。ただのキスだけでここまでなることに不安を感じた。

 ちなみに、フィリシアにはもっと軽い口づけにしようと考えている。年齢的に刺激が強すぎるし、この件で竜妃との行為を掘り下げて欲しくなかったからだ。

 誤魔化すことばかり考えて、浮気しているみたいだと自分に呆れてしまう。この関係に慣れる日が来るかどうか、サブロー自身は疑問に思った。


「ふむ。水の国王陛下が転移を終えたらしい。これから馬車で姿が見えるぞ」


 クラウディオの言葉で、サブローは正気を取り戻した。パルミロと顔を合わせるのは数ヶ月ぶりである。姿勢を正し、失礼のないように待ち受けた。


「おっ、来た……ぞ?」


 クラウディオが戸惑いの声を上げた。いや、彼だけでなく、地の里の住民全員がざわめている。困惑は広がるばかりだ。

 そしてサブローはその理由を発見し、あんぐりと口を開けた。


「おにいちゃん、あれ車だよね? だよね!?」


 マリーが嬉しそうに話しかけてくる。彼女の言う通り、赤いオープンカーからパルミロが手を振っていた。しかも座席に立った上でだ。よく見ると、後ろの座席にはクルエとノアが大人しく座っている。

 流線型のボディが格好いい、と少しの間現実逃避をサブローはおこなった。よく耳を澄ませるとエンジン音ではなく、かすかにモーターの駆動する音が聞こえてくる。ガソリンの匂いもなかったため、電気自動車だと推測した。

 ちなみにマリーを始め、下の子は真っ赤で派手なオープンカーの登場に目を輝かせていた。

 しかし、アリアやケンジなどある程度年齢が高い組は片頬を引きつらせている。エリックは一人、予想がついていた様子だった。


「マリー。あれがなんなのか知っているのか?」

「うん。クラウディオおにいちゃん、あれはね、車っていうんだよ。おにいちゃんたちの世界の乗り物!」

「乗り物? 馬車のようなものか? けど引いている馬もなくどうやって動いているんだ? 魔法大国の物のように魔力も感じないし……」


 知的好奇心を刺激されたのか、クラウディオはつぶさに観察をし始めた。サブローたちが唖然としているうちに、水の国の車が一旦目の前で停止した。


「勇者カイジン・サブロー、久しぶりだな。元気にしていたか?」

「声をかけてくださり、光栄の至りに存じます。……いつの間に車を買ったのですか?」

「うむ。ガーデンと交渉してようやくだ。最初は普通の車が欲しかったのだが、ガソリンがネックでな。あちらの現物を錬金術師に見せたが、再現が難しいらしい。それでどうしたものかと考えていたら、あちらで車の免許を取ったうちの魔導士がEV車なる存在を知らせてくれた! 電気であるのなら魔力を変換して……まあこの話は長くなるからあとでゆっくりと話そう。クルエもお前にたちに会いたがっている。後で構わんから顔を見せよ」


 そう言い残し、パルミロは大笑いをしてから車を発進させた。隣で運転手をしている魔導士が、先ほどの話題に出た人物だろう。適応能力高さに舌を巻く。

 それにしても長官がよく許したものだった。どんな強引な手口を使ったのか、気になるところだ。


「あ、相変わらず陛下はすごいね、サブ……」


 あまりの衝撃で正気に戻ったミコがつぶやいた。全面的に同意するしかない。後から豪華ではあるが普通の馬車が続いたため、違和感はより強かった。

 なんでも、後方の馬車には水の国の王子やお付きの侍女が乗っているらしい。どういう流れで車と馬車で来たのか、非常に気になった。


「これが魔力を変換する充電器が作られた理由です。いつの間にか独自にガーデンの上層部とも交渉をして、特殊な充電スタンドを水の国に設置させたり、車だけでなく色々仕入れたり、長官さんの頭を悩ませています」


 長官が振り回されている、というエリックの説明に一番驚いたのは園長であった。基本的に長官に困らされてばかりだったため、仕方がない。


「いやはや。車をこちらに持ち込むとは大胆な真似をしますね。私も真似してみましょうか」

「あれ? この声は……イ・マッチさん?」


 タマコが視線を彷徨わせ、声の主を見つける。銃士隊のそれに似た軍服に、帽子をかぶったおしゃれな猫の半獣族の王子、イ・マッチがこちらに笑みを向けていた。

 相変わらずの急な登場にサブローは驚かされてばかりだ。挨拶を交わし、再会を喜ぶ。


「イ・マッチ……? 護暁の聖剣……イ、イ・マッチ殿下であらせられますか!?」

「ハッハッハ。そう堅くならないでください。今回はただの温泉客として訪れただけですので」


 またも気安い態度で応じられたため、クラウディオが脱力して肩を落とす。彼を振り回してばかりで、サブローはすまなく思った。


「猫さんだー」「しゃべるー」「もふもふしていい?」


 下の方の子どもたちが初めて見る半獣という存在に興味を示し、近寄っていく。イ・マッチが王子という立場のため、クラウディオは顔を真っ青にしていた。

 しかし、それ以上にイ・マッチの顔が険しい。どうしたのだろうかと心配になる。


「あの、うちの子たちが失礼をしましたでしょうか?」

「違います、サブローさん。この子たちはなにも悪くありません。むしろこちらがやらかしました……」


 イ・マッチは額に手を当て、大きくため息を吐く。それから顔を上げ、一刻を争うと言いかねない態度で協力を求めてきた。


「エンシェントドラゴン様も来ています。しかも人間形態で……」


 それだけでなにを問題視しているのか、サブローたちには理解できた。素早く彼女を知るメンツに眼で合図をし、サブローと創星が視界を駆使し、標的を発見する。古代竜はマントを羽織り、前で閉じているため一見どんな衣装を着ているかわかりづらい。

 だが、風に捲れて一瞬見えた彼女の服は、ダンジョンで見た衣装に負けず劣らず肌が見えている。子どもの教育に悪い。


「やあやあ、カイジン・サブローくん。これでようやくこのマントを脱ぎ捨てられ……」


 家族を創星に託し、フィリシアたちと共に古代竜の両腕を掴まえて離れさせる。彼女を遠ざけねばならない。

 確かな使命感を持って、サブローたちは行動をした。



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