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あんたこの異世界のイカ男どう思う?  作者: 土堂連
最終部:お終いは魔王城でどうぞ
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一四一話:精霊術会議 準備編1



 サブローが告白をしての翌日、地の里は慌ただしかった。

 フィリシアとミコとともにイルンに話を聞くと、どうやら前々から他の精霊術一族の長を迎える準備をしているようだ。

 すぐに手伝いを申し出たが、「お客さんにそんなことをさせるわけにはいかないだろ」と断られた。フィリシアの方はそうもいかないのでは?と疑問をぶつけても、全部任せろの一点張りだ。

 結果、ちょうどいいとアレスを連れて、フィリシアとミコと共に彼の叔父と会いにいくことにした。

 しかし、マリーがついてくるのはいいのだが、なぜか海老澤までついてくる。なんでも暇だとか。夜は夜でアルバロと一緒に夜の街に繰り出すくせに、元気な奴である。

 サブローはマリーの手を引き、アレスの叔父が務めている鍛冶工房へと向かった。


「エビサワのにーちゃんって、サブローにーちゃんと同じ魔人なんだろ? やっぱつえーの?」

「僕よりも強いですよ。なにせ兄さんと同じくA級魔人ですし」

「いやー……今はどうなんだ? お前が変化してからは、魔人化して訓練していないからな。強くなったんだろう?」


 海老澤は首をひねっている。サブローは目を瞬かせて相棒を見つめた。

 こと、基本的に自信家である彼は、戦闘の強弱についてだけ真剣に分析する。サブローと共に鍛えていた鰐頭が言うには、負けず嫌いがクレバーな分析につながっているらしい。

 私生活の態度もこれくらい真面目なら助かるというのに。


「あーやっぱサブローにーちゃん、混ざってからつよいの?」

「右手がよりやばくなっているとは聞く。元々こいつの両腕に捕まったらお終いって感じだったのに、おっかないわ。敵さんに同情する」

「さすがおにいちゃん! おねえちゃんたちはその状態で訓練をしたりしないの?」

「そういえば許可が降りていませんでしたね」

「あたしたちも変化した天使の輪の実験をしていたし、仕事だとすれ違いが多かったね」


 うーんとマリーに声をかけられた二人が悩む。サブローは変化後の姿での仕事はいくらかこなしてある。

 だいたい、あちらの世界に残っている逢魔の残党との戦いで。

 厄介なことに、逢魔で研究をしていた人間が何人か逃げ出したせいで、魔人の技術が流出していた。C級魔人(最低ランク)にすら届かないが、魔人に似た生物兵器を生みだしている。

 人を元にしていないことが不幸中の幸いだが、その分数を用意できるらしい。見つけた端からガーデンは叩き潰しているが、きりがない。


「おにいちゃん、なにか考えごと?」


 マリーが心配そうに見上げてきたので、サブローは頭を振って切り替える。今はオフだ。仕事のことは忘れて楽しみたい。

 大丈夫だと答え、アレスの叔父が待っている目的の場所とたどり着いた。


「おーい、おじさーん」

「ん……? アレス! 来るとは聞いていたけど、元気そうだな!」


 駆け寄ってきたアレスの頭を、彼はわしゃわしゃと撫でまわした。かつて、甥の動いている映像を見たときのように喜んでいる。

 微笑ましい光景に、心が温かくなった。アレスの叔父はこちらを向き、頭を下げる。


「アレスを連れてきて、ありがとうございます。まさか生きて会えるとは……」

「けっこうやばかったけど、サブローにーちゃんのおかげで助かったんだ。感謝している」


 アレスが頬をかきながら、あの旅の礼を言っていた。今更水臭いと思いつつ、サブローも頭を撫でる。

 さすがに恥ずかしくなったのか、アレスは叔父とサブローの手を乱暴に払った。男の子らしい姿になごみ、中は暑いからと風通りのいい外の休憩所へと案内される。

 お茶を出され、すすりながら日本での生活をアレスは話していた。


「園長先生がおれを連れて、刀を作るところを見学させたんだ。あれは感動した。あ、刀ってこういう刃物ね」


 興奮して話すアレスに手渡された写真を、彼の叔父はじっくり見て感心する。


「片刃の剣か。綺麗なつくりをしている」

「武器っていうより、芸術品として飾るために作っているんだってさ。けど、よく切れるって作ってた爺ちゃんは言っていた」

「……実物が見たいな」

「まあさすがにおれに日本刀はまずいけど、同じ作り方をしたナイフならいいよってもらった。園長先生の許可がないと持ち歩けないし、大人に預けないといけないけど……」


 不満そうに唇をとがらせるアレスに苦笑し、サブローは預かっていたナイフをアレスの叔父に渡した。どうにも見学先の職人にアレスは気にられたらしく、いろいろよくしてもらったそうだ。


「ほう、凄腕のようだな」

「やっぱおじさんはナイフだけでもわかるか。職人のじいちゃんの仕事場を見てきたけど、びっくりすることばかりだったぜ」


 楽しそうに身内と話し込むアレスに、サブローは嬉しくなった。連れてこれてよかったという充足感に満ちる。園長にも見せてあげたい光景であった。


「あれ? エビサワのおにいちゃんは?」


 サブローの手をつかんでいたマリーが不思議そうに周りを見渡す。言われてみれば、いつの間にか姿を消していた。

 そして、遠く離れていないことを魔人の聴覚が教えてくれる。


「レナちゃん。今夜暇なら一緒に飲もうよー。ここの娘だって聞いてわざわざ会いに来たんだからさー。一回だけ、一回だけだから!」


 サブローの頬が引きつり、マリーをミコに預けてずんずんと工房の中に入る。案の定、周りの職人からにらまれながら、平然と女性を口説く海老澤が見えた。

 一番の年長と思わしき人の見る目が特に厳しい。彼の娘かなにかだろう。

 女性の方も多少困った様子なので、助け舟が必要である。


「あ、あちこちで女性と見れば声をかけていると聞いています。その方たちと飲めばよろしいのでは?」

「そうつれないことを言わないでさー。俺、本気になったら一人に絞っちゃうよ? だから一回だ……あいたっ!?」


 音もなく忍び寄り、後頭部に拳固を落とす。恨めし気な目を無視して、女性に離れるよう手振りを送った。


「おまっ! 鰐頭みたいなことをするなよ!」

「ああ、懐かしいですね。あなたはいつもやらかしては叱られている情けない人でした。……子どもを連れてきているんですよ? 少しは自重をしてください」

「うっせーそういうのはお前に任せる。俺は愛に生きるぜ!」

「愛というより欲望でしょうに。ちょうどいい機会です。魔人の状態でやり合いますか?」

「ハッハー! 創星を置いてきたお前が、俺に勝てると思うよ!」


 お互いに挑発的な笑みを浮かべたままにらみ合い、やがて海老澤は外に出始める。サブローは工房の人たちに頭を下げ、「ご迷惑をおかけしました」と謝罪してから後を追った。

 途中、出口で衛兵に止められている海老澤を見かける。


「おいおい、迷惑な客が来ているって聞いてみたら、案の定お前かよ……」

「お、童貞のダーンくん。意中のあの娘は射止めたかな?」

「うっせー。知ってて口説いたお前にはいいたかねー」


 聞き覚えのある声に、サブローは目を丸くする。海老澤の顔を乱暴にどかし、声の主と顔を合わせた。


「やはりダーンさんでしたか。お久しぶりです」

「おおっ、カイジンか。元気そうだな」


 治療師の息子にして、以前サブローの監視についていたダーンは握手を求めてきた。サブローは手を握って応え、再会を喜ぶ。


「海老澤さんの監視もしていたのですか?」

「いや。カイジンと仲良くしていたってアルバロ様に紹介されたら、妙に絡まれるようになった。この馬鹿に」

「あーそれはご愁傷様です」


 サブローは心の底からダーンに同情する。一人海老澤はふて腐れて石を蹴った。


「けどまあ、魔人って言っても様々だな。お前の兄って名乗っていた人は、とてもいい人だったけど、エビサワはご覧の通りだ。初めはカイジンの相棒だって聞かされても、信じられなかった」

「…………こんなんですが、本当のことです。不本意ですが」

「本当にエビサワ相手だと遠慮ないな、お前……」


 相棒によく言われることを、肩をすくめて肯定の意を示す。海老澤には頭を悩まされてばかりなのだから、雑に扱っても許されるはずだ。


「そういや勇者になったって聞いたけど、聖剣はどうしたんだ?」


 ダーンの発言に、鍛冶工房の職人たちが聞き耳を立てる。先ほど、海老澤が創星の名を出したときも似たような反応をしていた。鍛冶師として聖剣に興味があるのだろう。

 後でまた寄るだろうから、その時に同行させることを決める。


「創星でしたら下の子たちと仲がよろしいので、クラウディオさんの魔法見学に付き合っています」

「で、伝説の聖剣に子守を任すのか……?」

「そう言われると変な光景ですね。まあ創星も楽しそうですし、一度叱ってからは子どもの前で抜き身にならないので信頼しています」


 ダーンがますます複雑そうな顔をした。鍛冶職人たちも同様の反応である。

 サブロー自身、かなり変なことを任せている自覚はある。創星も弟たちの前では兄貴分と慕われていると機嫌がよさそうだったが、あれはどちらかと言われるとペットに近い扱いだ。本人にはおろか、身内以外の現地人には教えられないことである。


「叱るか……本当にすげーよ、おまえ。……っと、こんなにのんびりしている場合じゃなかった。サブロー、エビサワを見張っておけよ。後でまた飲もうな」

「そんなに急いでどうしたのですか?」

「精霊術会議の準備におれらてんてこ舞いなんだよ。本当はこんなことをしている暇はないのに、エビサワがさ……」


 じと、とダーンが海老澤を睨むが、どこ吹く風である。サブローは再度彼の世話を請け負い、仕事に戻らせた。

 離れる彼を見届け、海老澤の首根っこをひっつかんでフィリシアたちの元へ戻る。より一層監視を強めることを決意したものの、心労が増える一方だった。



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