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あんたこの異世界のイカ男どう思う?  作者: 土堂連
最終部:お終いは魔王城でどうぞ
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一四○話:嫉妬の話



「そうですね。今結ばれるのは早すぎると私も思います」

「そんな!」


 話を聞き、結論を出した園長に対してフィリシアは抗議しようとする。サブローはさすがにこの件は園長らしい結論を出したのでほっとした。

 しかし、話はまだ続きがあった。


「とはいえ、五年も待たないといけないのはかわいそうです。生殺しは酷いと思いますよ、サブロー」

「え、園長先生?」

「フィリシアさん。私からの提案がありますが、聞きますか?」


 いいことを考えたという顔の園長に、フィリシアは頷いた。園長は両手を目の前で軽くたたき、笑顔で話を切り出してくる。


「まず前提の話をさせてもらいます。上井長官と相談していることなのですが、逢魔の首領が根城にしている王国の首都を奪還した後、フィリシアさんは長い休業をしてもらいたいです」

「……なぜですか?」

「それはですね、タマコと同じように学校に通ってもらうためです」


 それはいい考えだと素直にサブローは思った。ミコやイチジローも同意見のようで、顔を明るくしている。

 フィリシアの反応も悪くないようで、学校に行く話をじっくり噛みしめていた。


「学校、ですか。タマちゃんと同じところでしょうか?」

「いくつか候補がありまして、その中にタマコが通う高校もあります。転入テストが必要ですが、フィリシアさんの学力なら問題ないでしょう」


 風の里の人間で、一人学校に行けずにいたフィリシアは施設で同年代の勉強を受けていた。非常に優秀な成績を残していることは、サブローも聞かされている。

 園長は嬉しそうに話を続けた。


「それでまあ、学生である以上、不純異性交遊は褒められたものではありません。ですので、サブローの条件は学校を卒業するまでに変えさせます」

「……それって具体的には何年かかりますか?」

「高校生活は三年になります。下の子たちのお手本になるため、フィリシアさんなら我慢が出来ると思いますが、どうしますか?」


 フィリシアは少し頭を悩ませたものの、やがては園長の提案を飲んだ。もともと日本の学校に興味があったことが功を奏した。

 おかげでがっついた雰囲気は鳴りを潜め、まだくすぶっている気配はあるが、ひとまずは解決となる。


「さて、サブロー、ミコ。あなたたちもこの条件で構いませんね?」

「あたしも早くなってくれたほうが嬉しいし、問題はないよ。園長先生」

「十八は少し早い気がしま……」


 ギロリ、とフィリシアに睨まれたため、サブローは慌てて撤回する。これでは男女で求めるものが逆ではないだろうか。

 いくつか疑問は残るものの、サブローは事態を収拾してくれた園長に心から感謝をした。


「学校って面倒くさいところによく行く気になれるな。真面目ちゃんの集まりか」


 すっかり存在を忘れられていた海老澤が台無しなことを言い出した。深くため息をつき、彼を連れだしてサブローは逃げ出すことに成功した。




 屋敷の外を歩きながら、サブローは海老澤に注意をする。


「せっかくフィリシアが嬉しそうにしていますのに、水を差すようなことを言わないでください」

「んなことをいわれてもなー。俺は学校にろくな思い出がないし」


 海老澤は後頭部で手を組んで、背筋を伸ばしてからあくびをする。昼まで寝ていたのにまだ眠そうだ。


「まあ、俺の言ったとおり重かったろ?」

「と、言いますかあんなに聞き分けのないフィリシアは久しぶりです。僕がやらかしたときくらいだと思っていたのですが」

「そいつは甘い認識だな。これからどんどん要求がきつくなってくるぜ。なぜかミコは対象になっていないけど、俺にまで嫉妬の感情を向けてくるくらいだし」


 そんなはずはありません、と返すと、海老澤はチッチッチと指を振った。


「時々、俺とお前のやり取りを羨ましそうに見ていたぜ。おかげであんまり好かれていない」

「えー……海老澤さんとの関係を疑われるなんて、正直きついのですが……」

「俺に言うな。てか俺もだ。もー抱いて黙らせろ。あんな条件じゃ俺に対しての印象が悪いままだぞ」

「ふざけないでください」


 サブローは先ほどの園長の取り成しを台無しにする発言を一蹴し、当てもなく歩き続ける。

 やがて馬を世話している牧場にタマコをはじめとして、施設の家族が集まっているのが見えた。前回は慌ただしくて来ることはなかったが、確か地の里の軍馬を面倒見ている場所のはずだ。


「お、サブ兄貴! こっちだー!」


 ケンジの声が上方向から聞こえる。不思議に思って顔を上げると、水の国に向かう船でも見たペガサスに、ケンジとアルバロが相乗りして降りてきた。


「地の里もペガサスを飼っていたのですか?」

「お前たちが離れた後に、何頭か購入したんだ。フィリシアのおかげで、上空から状況を把握する重要さを認識できたからな。少し値が張ったが、なかなかいい買い物だったぞ」


 アルバロがケンジを降ろし、次の子どもを連れてくるように指示をする。ケンジは興奮した様子で、目を輝かせている家族の元に戻っていった。


「はーんペガサス。たまにノアさんがガキを乗せて移動していたな」

「僕はクルエ様との初対面がそれでした。懐かしいです」


 サブローが穏やかな気分でペガサスを撫でる。もちろん、魔人の力は封印をしているため恐れられない。

 海老澤も同じだったが、興味がないのか近寄る様子を見せない。


「水の国の姫さんにもあったのか。大変だったろ?」

「いえ。少し気難しいだけで、とても良い子でしたよ」

「そうか? あの姫さん、ノアさんに近づくのに邪魔なコブガキだったわ」

「相変わらず失礼ですね。だいたい原因はあなたでしょう。もう少しだけ態度を改められませんか?」


 はあ、と呆れていると、リンコが近寄ってくる。次の順番はこの子なのだろうが、興味深そうな視線をこちらに向けて動かない。


「リンコ、どうしましたか? 次の順番はあなたなのでは?」

「そうだけど、その前にサブにーさんの友達に声をかけようかなって」


 リンコは海老澤に自己紹介を始めた。続けて自分たちもするべきかと、残りの家族も見守っている。

 サブローとしてはなるべく近づけたくなかったので、無意識に眉をしかめた。


「おう、ありがとなリンコちゃん。もうちょい胸とお尻が大きくなってから、あらためて声をかけてく……痛っ!?」


 サブローは思いっきり海老澤の足を踏む。やはり彼は教育に悪すぎる。すぐに家族から離さねばならない。


「てめっ、サブロー、なにをする!?」

「それはこちらのセリフですよ。アホみたいなことを下の子が真似をしたらどうしますか? ただでさえあなたは存在するだけで、教育に悪いというのに」

「存在自体全否定!?」


 サブローはリンコを引き離し、海老澤と距離をとるように忠告した。なぜだか驚いた顔をリンコから向けられたが、当然の処置だ。

 海老澤が飛び退いてゆらりと構えをとる。どうやらカチンときたらしい。


「ふふふ、さすがにこの雑な扱いは腹が立ったぜ。サブロー、やるか?」

「そうですね。いい加減言いたいこともたまってきましたし、相手をしますよ」


 コキコキと右手の骨を鳴らし、対峙する。互いにブレスレットを取るつもりはない。

 逢魔時代から意見が対立したときはこうして決めている。人のままなら魔人としての差異はなく平等だ。

 にらみ合っていると、リンコの笑い声が聞こえてきた。おかしくてたまらないといった様子で腹を抱えていた。


「サ、サブにーさんが、ここまでけ、喧嘩腰になる相手なんて、初めて見た!」


 ケタケタ笑い続け、少し心配になった。海老澤の方も気が抜けたようで、すっかり臨戦態勢を解いている。

 ぞろぞろと寄ってきた家族や施設の職員も、困惑している様子だった。


「サブ兄貴でも子どもみたいになるときってあるんだなー」

「ケンジ、僕は歳相応です」

「そうか? ジジ臭い趣味をしているくせに」


 さっきまでの剣呑な雰囲気はどこにやら。海老澤はからかいながら頭を叩く。

 鬱陶しいため乱暴に手を払い、視線で咎めた。やがて成り行きを見守っていたアルバロが豪快に笑いだす。


「ハッハッハ! 本当に仲がいいな、お前ら」

「……相棒ではありますが、特別に仲が良いわけではありません。当時の同僚はみんな、こんな感じで付き合っていました」

「そうかな? フィリちゃんが言っていたけど、同じように逢魔からの付き合いがある毛利さんって人には普通で、海老澤さんって人が特別に見えるって。あと羨ましいとも」


 サブローが目を剥いてタマコを凝視する。海老澤のフィリシア評に半信半疑だったため、真実である裏付けを持ってこられ、衝撃を受けてしまった。

 アルバロが顎を撫で、真面目な顔になる。


「男同士の関係をうらやむとか、あいつもこじらせてきているな。でも可愛い従妹だ。サブローも嫌わずにいてやってくれ」

「当たり前ですよ、アルバロさん。むしろ僕が惚れている方ですから、お願いする立場です」


 相手が二人いるという状況では格好がつかないかもしれないが、言ったとおりだ。

 どちらが先とか後とか関係ない。竜妃に追いつめられたあの日、サブローを戦ってでも守ると宣言してくれたのはフィリシアだ。

 手放したくない。心の底からそう願える。アルバロはそんなサブローを見て、感心のため息を吐く。


「……言うなあ」

「うわー、当事者じゃないのにこっちの顔が赤くなった。フィリちゃんに伝えねば!」


 タマコがスマホをポチポチやろうとして、今は使えないことに気づいて悔しそうにする。リンコたち他の家族はヒューヒューとサブローをはやしたてるが、今更動揺するほどうぶではない。


「さすがストーカー女に惚れていただけはあるな」

「海老澤さん。殴っていいですか?」


 バッと二人同時に構えをとって、戦いの準備に入る。訓練を口実にした喧嘩は、必死に家族が止めてお流れになった。



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